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2話  死神の鎌



静寂とした空間に、静けさを掻き乱す第三者が現れた。


青い満月に照らされたその女性は、プラチナブロンドの髪を鎖骨あたりまで伸ばしている。


月光で強調された白い肌と粒らな瞳は美しく、それでいて強さを感じる。


突然現れた介入者に、楓は困惑を隠せない。



「やぁ!シレーヌ!まさか君が相手になってくれるとは…光栄だね。」


「白々しい。光栄だなんてそんな事、一ミリも思っていないくせにね。」



突然現れた女性..シレーヌさん?と、先程まで楓を追っていた人物が言葉を交わし始める。


片方は尊敬を込めた言葉を、もう片方は軽蔑するような言葉を吐いて。


今だに楓を追いかけて人物の姿はわからないが…ようやく相手を観察する暇ができた楓は、その人の声から、追って来ていた人物はおそらく男性だとわかった。


男性の声は、少年のようなハスキーボイスにも、青年のような声にも聞こえた。


しかし、それとは別に、現在の状況は全くわからない。



「ふむ…今日はここら辺で引いたほうがいいみたいだ。それではご機嫌よう。次には仕留められる事を祈っておこうか。」


「2度と会いたくないものだわ。あなたにも……雇主にも、ね。」



コツコツ…と、足音を響かせて男性はその場から帰って行った。


ようやく、楓は緊迫した状況から解放され、大きく深呼吸をする。


しばらく、シレーヌさんは男性がいたであろう箇所をジッと見つめていたが…クルリと楓の方へ歩み寄って来て、声をかける。



「大丈夫?」


「…ぁ、ぇえ。」



声すら出せないほど緊張していただからだろうか?


シレーヌさんの言葉に反応するのに、少し時間がかかってしまった。


シレーヌさんはフワリと、楓を安心させるように笑みを浮かべ、楓に語りかけてくる。



「どうしてこんな場所に?」


「き、がついたら…ここにいて。」


「そう…転送魔法か何かで連れてこられたのかしら?」



魔法…その言葉が分からないほど、世間知らずなわけではない。意味くらいは誰でも知っているだろう。


しかし…現代日本には、科学こそあっても魔法なんて使われていない。‥いや、使えるわけがない。


だって、魔法はあくまでも御伽噺(おとぎばなし)の中にだけ出てくる産物で、現実で魔法を使う事は到底不可能だ。


だが、目の前のシレーヌさんは当たり前の様に、『魔法』と言う言葉を使っている。


(本当に…ここはどこなの?)



「この場所に残るのは危険ね……あなた。」


「は、はい。」



シレーヌさんはブツブツと独り言を呟いた後、楓に声をかけて来た。


どこに行けばいいいのか、そもそもここが何処なのかすら分からない楓は、目の前のシレーヌさんの言葉を待った。



「とりあえず、私について来なさい。」


「そうはさせない。」



とりあえず、安全な場所に行ける…と、楓が安心していると、また新たな人物の声と共に、目の前のシレーヌさんの首元に大きな鎌が掛けられる。



「っ?!」


「あら残念。」



危機一髪、シレーヌさんは敵の攻撃を避ける事に成功したが…彼女の首からは一筋の血が流れ出ていた。


本当に危なかったのだ。もしかしたら今頃…。


目の前にいるシレーヌさんが死んでしまっていたかもしれない…そんな最悪な未来が頭を過ぎる。


やっと現れた平穏から一変、また突如として恐怖に叩き落とされた楓は、今度こそ動けなくなってしまった。


もうすでに、限界だったのだ。


先ほど追って来た男性から逃げるために、足を酷使していたし…それに何より、もう体力がない。



「シルヴィオが何も仕留めず帰って来たと思ったら…まさか性悪女がいるとは。」


「っ……そこのあなた。」


「わ、私…ですか?」



暗闇から姿を現した人は、まるで死神の持つ鎌のようなものを持った女性だった。


黒いローブで体全体が隠され、さらにローブについているフードを目深までかぶる事によって、見た目だけでは相手の性別が分からないが…女性特有の高さを持った声をしていたため、なんとか相手が女性だという事がわかった。


プルプルと、まるで世間のことを何も知らない、生まれたての小鹿のように体を震わせていた楓に、シレーヌさんが語りかけてくる。



「今すぐ逃げなさい。」


「あら、自分の事より他人を優先するとは…笑える話。」


「で、でもわた…私、もう足が‥。」


「そう…なら。」



弱音を吐き、もう無理だと震える声で必死に訴える楓。


シレーヌさんは少し難しい顔を見せた後、いつの間にか手に持っていた杖を振るう。


すると…



「あれ…?急に力が湧いて来た?」


「気休めだけど、体力回復の魔法をかけておいたわ。」



突然、それまで鉛玉を抱えているかのように重かった足が、急に羽のように軽くなった。


シレーヌさんは尚も、死神の鎌のようなものを持った女性を睨みつけ、顔は一度たりともこちらに向けない。


何故、一度も楓の方を振り返らないか?それは…一度でも目の前の相手から目を離したら、その一瞬で命を刈り取られるからだ。


それほどまでに、シレーヌさんが対峙している女性は危険だった。



「お別れの挨拶はもう済んだ?それじゃあ行くよ。」


「走って!!」


「っ!」



シレーヌさんの叫ぶような声に動かされ、楓は無我夢中に走り出した。


楓が走り出した時、後ろからは金属同士が激しくぶつかる音が聞こえた。



「あんたが他人を庇うなんて、天変地異の前触れかしら?」


「っ……そうね…確かに。」



鎌を持った女性が、嘲るかのようにシレーヌさんに話しかける。


シレーヌさんは、鎌を持った女性の言葉に賛同しながらも、誰にも聞こえないくらい小声で、そっと呟いた。



「ようやく…ようやく『舞台の幕が上がるわ』。」




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