1話 古びた本
気がつけば、何故か見知らぬ場所にいた。
それまでいた日常とは全く違う……薄気味悪い、廃墟になった工場の様な場所。
(どうしてこんな所に…?なんで?どうして…?)
忙しなく足を動かし、追いかけてくる謎の影から逃げ回る。
逃げなければ、追ってくる影たちのての届かない所へ…早く!
何故自分はこんな目に合っているのか…。
理解できない。…出来るわけがなかった。
だって…
(どうして…どうして私は、殺されそうになっているの‥‥?)
こうなってしまった経緯は、今から数時間前に遡る。
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その日、自分の家の中にある本を全て読み終えてしまった楓は、図書館に行く事にしていた。
新しく本を買っても良かったが…最近は金欠気味だったため、出費を抑えたかったのだ。
家から歩いて10分ほどの場所、この地域で一番大きな図書館。
中に入ると…ほとんど人がいなかった。
休日だと言うのに、珍しいものだ。
(人がほとんどいない図書館って、なんだか不気味…。)
普段も静かだけれど、生活音と言えば良いのだろうか…とにかく、日常的に聞こえてくる音が少なからずある。
だからこそ、楓は図書館を好んでいたのだが‥‥。
(まあいっか。さて…新しく入った本は…。)
静かで不気味とはいえ、このご時世、幽霊やらなんやら…いわゆる霊的なものを信じている人なんて少ない。
かく言う楓も、霊的な現象なんて全く信じていなかった。
ラノベコーナーの所まで歩いて行き、気になる本が無いか、物色していく。
すると…
「?…『アイリーン冒険譚?』」
古びているのか、少し茶色がかった本を見つけた。
ここまで劣化している本なんて、あまり見る機会がなかったものだから、思わず気になり手にとってみる。
本の表紙には、赤いポンチョのフードを被り、何かの本を片手に抱えた少女が写っている。
(何だか、この女の子、童話の赤ずきんちゃんみたいだな〜。)
そう、呑気に考えていると…
「わぁ?!」
突然、本から眩い光が漏れ出す。
光はだんだん輝きを増して行き、ついには目すら開けていられないほどまでに強い光を放つ。
そして、楓の意識は途切れた。
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次の瞬間、目にしたのは、月明かりに照らされたひび割れた地面だった。
(いつの間に外に…?いや、それより…なんで、外にいるのかしら?)
冷たい風が、楓の頬を撫でる。ヒュウヒュウと、何処からか風が流れてくる音が聞こえてくる。
とりあえず今の状況を確認するため、視線を上に上げる。
朽ち果てた壁だったものからは、幻想的な、青い満月が見えた。
月明かりは楓の顔を照らし、何故か、ほのかな安心を与えてくれた。
だが…
ヒュッと、風邪を着る音と共に、楓の顔スレスレに何かが飛んできた。
「え……。」
驚いて後ろを振り返るも…視界の先には暗闇が広がっているばかりで、一体何がとんできたのか、それすらも確認する術がない。
ふと、楓は自分の頬から何か…液体のような物が流れている事に気づいた。
液体が流れている事を認識してから、急に頬に鈍い痛みが走る。
(痛い?なんで…?)
一体自分の体に何が起こっているのか、確認するためにも、自分の頬に触れ、その触れた手の指先を見て…楓は絶句した。
(血…?どうして血が…?)
「狙った獲物は逃さないさ。」
楓が形容し難い恐怖に襲われていると、不意に声が聞こえてきた。
その声は楽しそうな声色で、まるでかえでに語りかけてくるように、意味のわからない言葉を放つ。
(何が起こっているの…?)
「久しぶりの狩りだ、楽しんで行こうじゃないか。」
狂気を含んだ声色を聞いた瞬間、楓は弾かれたように体を持ち上げ、駆け出した。
本能が警告している、『逃げなくてはならない』と。
捕まってはならない、捕まったが最後…
『殺される』
相手が何をしようとしているのかわかって仕舞えば、逃げるより他はなかった。
(嫌だ…まだ死にたくない‥。)
後ろからは軽快な足音が聞こえてくる。
足音が鳴る感覚からして、軽く走っているのだろうが……楓には、そんな事を考えている暇などなかった。
震える足に鞭打って、なるべく遠くへ、遠くへ逃げようと、足をせわしなく動かし続ける。
どれだけ疲れても、後ろから迫ってくる相手から逃げるまで、足を動かし続けなければならない。
(いや!いや!まだ死にたくない…!)
愉快そうに笑う声が聞こる。じわじわと相手を追い詰めてくる謎の人物の声が。
「はぁ…!はぁ…!」
「アハハ!どこへ行くんだい?」
どれくらい走っていただろうか?
もう息も絶え絶えで、足はさっきから疲労を訴えてくる。
これ以上なんて、走れない。…もう、諦めてしまったほうが、いっそ楽になれるのではないか?
一生懸命小刻みに動かしていた足が、少しづつ、速度を落とし始める。
疲れてしまったのだ。
いくら走っても走っても、先の見えない暗闇の中をもがき続ける事に。
遂に、楓の足が動く事をやめてしまった。
「おや?もう逃げないのかい?……呆気ない物だ。」
楓を追いかけていた人物は、立ち止まってしまった楓を見て、とてもつまらなさそうな声を出した。
楓は追ってきている人物の方を向き、全てを諦めるように目を瞑った。
そして、楓を追いかけていた人物は弓を引き、楓の首目掛けて矢を放った。
鋭い矢先は楓の喉を…
キーン……と、金属同士が擦れる音が聞こえた。
楓の喉を突き抜ける壮絶な痛みはこなかった。
「…まさか、こんな所に一般人がいるだなんて‥。」
静寂な空間に、凛と通る声が聞こえてきた。
以前投稿していた「希望の書を巡る戦い」を再度作り直す事にしました。
前回投稿していたものとはストーリーや、登場キャラ等々、色々と変えていこうと思います。
もし面白いと思っていただけたら、評価の方やブックマーク、感想なんかをいただけたら嬉しいです。
ご視聴ありがとうございました。