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ロスト・ファンタジア  作者: ニセ神主
8/11

村からの出立


 翌日。


 村の入り口には村長が用意してくれた立派な馬車が待機していた。この村でも有数の屈強な栗毛馬が2頭繋がれたそれは、荷台に村で採れた野草や干し肉等の食料が入った大きな木箱が積み込まれている。

 ここから目的のバルザックの街までは馬車を走らせて二日程。途中に停留出来る村など無いことから荷台には幌が付けられ、僅かながら居住性も整えられている。


「短い間でしたが、お世話になりました」


 ぺこり、と頭を下げる薫。ジャージではなく村でも一般的に着られている麻の服を身に纏い、その上には『覇王の黒衣』が羽織られ、顔には『傾国の狐面』が付けられている。

 相変わらずの不審者スタイルではあったが、伊達でこの格好をしているわけではなく、低位の魔法や物理攻撃を防ぐ効果のあるそれらは薫にとって唯一信頼できる装備でもある。


「こっちこそ、頼み事ばっかですまんな」


 そう言って村長も軽く頭を下げる。つるりとした頭がちょうど日光を反射し、薫は眩しそうに目を細めるが、それに気付かれることはない。仮面をしていて良かったと思う。


「行ってしまうのか……くそぅ」


 村長の後ろに並ぶ村人達。その中でゼルだけが悔しそうに口を尖らせ、呻く。


「なんだ、お前もしかして怪我治してもらって惚れちまったのか?」

「惚れる? バカ言え。俺なんかがカオルさんに惚れるなど烏滸がましい!俺はカオルさんに敬意を抱いてるんだ!」


 他の村人達が彼を茶化すも、ゼルは真っ向からそれに反論してみせる。だが反論の内容が内容なだけに、女性陣からは冷めた目を向けられ、男達は苦笑いを浮かべて数歩後ずさる。

 ちなみに村長と薫は努めて聞こえないフリをしてしている。


「ゼルおじさん……気持ち悪い」


 そんな彼の様子を見ていた小さな子供がそう言い放てば、「うっ」と小さく呻いてゼルが大人しくなる。ようやく落ち着いたゼルの姿を見て、薫が苦笑しながら呟く。

 

「大丈夫ですか、彼……」

「昨日カオル殿に助けてもらったのがいたく感銘を受けたらしく、ずっとあの調子なんだよ。まぁ、直に治るだろうからゼルのことは放っておいて構わんさ。それより……」


 そう言って村長が後ろを振り返る。

 後ろにいる村人達のさらに後方には、薫が魔族の襲撃時に出した四体の『絡繰戦士』が整然と並んでいる。中身の無い、がらんどうな全身鎧が手にした巨大なタワーシールドと無骨なバスタードソードを軽く持ち上げながらただ黙って待機している。


「良いのか? あいつらを借りちまってて」


 その言葉を皮切りに、その場の全員の視線が『絡繰戦士』へと注がれる。重厚な全身鎧が鈍い輝きを反射してその視線を返すと、薫は小さく頷く。


「ええ。お世話になりっぱなしでしたから、好きに使って下さい」


 先日村を襲った魔族は中位魔法一発で倒すことが出来た。また魔族が村を襲いに来るか分からないがその程度であれば『絡繰戦士』が四体もいれば十分に対処可能であり、薫は最初に出していた四体をそのまま村の防衛のためと貸し出すことにした。勿論、『絡繰戦士』を悪用されない為にも薫の命令は『村の防衛』のみの状態で。

 『L・F』で何度もストーリーを周回していたお陰で『絡繰戦士』だけならそれこそ村の人口よりも多く在庫がある。その上の『絡繰将軍』になると一気に数は減るが、過剰な戦力を置きすぎて逆に魔族に目を付けられるようなことがあれば本末転倒……というわけで戦力的にもちょうど良い『絡繰戦士』を預けることにした。


 当然、『絡繰戦士』を防衛のために置いとくと言っても薫以外の人には『絡繰戦士』の強さが分からないでいるため、デモンストレーションのため村長に一度立ち会ってもらった。


 そして、その結果は圧倒的だった。


 村長が繰り出す剣技は、素人同然の薫の目で見ても凄いと言わしめる程のものだったが『絡繰戦士』は手に持つ大きなラウンドシールドで悉く防いだ。ならばと村長が素早く回り込もうと動けば『絡繰戦士』はそれを凌駕する動きで村長の攻撃を完璧に防ぎ、結局一打も与えることが出来ず、村長が疲労によって先に降参する結果となった。

 村において最強と言われている村長が軽くあしらわれている姿を目にし、村の誰もが『絡繰戦士』の強さを認め、村の防衛のために置いておきたいという薫の提案を歓迎した。


 

「私らとしてはこれ以上ないくらいに有り難いんだが……頼み事に加えカオル殿の旅の同行人がコイツらでは、釣り合わなすぎて申し訳ないやら情けないやら……」


 薫の両脇──いつもよりも整えられた茶毛に赤い瞳を爛々と輝かせているアレクとリリアが使い古された革の胸当てと腰に片手剣を差し、お互いに装備に異常がないか点検している。

 思いの外に慣れた動作で行うその姿に薫は感心するが村長はそう思っていないらしく、誰が見ても分かりやすいくらい表情を歪ませている。


 それに気付いた二人が眉を顰めながら村長に詰め寄る。


「何を言う。俺達だって十分強いし役に立つだろ」

「そうそう。ゼルおじさんよりも狩りの腕は上だしね」

「喧しい!んな底辺同士の競争に上も下もあるか!」

「……おい、自然と俺を貶すなよ」


 心外だと言いたげにアレクとリリアの二人がフンッと鼻息荒く言い放つ。村でのゼルの扱いはこれが普通なのか、彼の呟きに同情するような者はいなく、みんなが彼を無視する。

 唯一薫だけがそんなゼルに憐れみの視線を投げかけるが仮面を付けているが故にそれも彼には伝わらないが。


「でも本当に二人を私なんかのために同行させていいんですか? 私が言うのも変ですが、あてのない旅になるんですよ?」


 再びゼルが落ち込み、アレクとリリアを含めた周囲の村人達がようやく彼を慰め始めた時、薫がずっと考えていたことを村長に問う。



 薫は今回のバルザックの街での領主への報告を終えると、そのまま自身の記憶を探す──実際は帰る方法を探す──旅に出ることを村長に伝えていた。


 王都へも近いバルザックにさえ着けば、其処を拠点に様々な情報収集が出来ると思い、せめてバルザック迄の道案内が欲しいと告げたのだが、何故か村長は「ならばその記憶探しの旅に二人を同行させましょう」と的外れなこと言ってアレクとリリアを推してきたのだ。


 一人旅などしたこともなければ、言葉は通じても此処は異国のようなもので常識も知識もない。薫にとって旅に同行してくれるのは有難い申し出ではあったが、それは二人を縛り付けてしまうことに違いなかった。ましてや薫の旅には明確な終わりなど定められておらず、もしかしたら数ヶ月、数年といった長い期間二人を束縛してしまうことになる可能性もある。


 そのことを伝え、村長に断りを申し出たのだが村長は「なぁに。あてもなく旅が出来るのは若いうちだけだからな」と答えになっていない答えを返し、まさに取りつく島がなかった。

 ならばと、今度はアレクとリリアにそのことを話そうとしたところ、既に村長から話を聞いていたのか、

「私達がカオルさんの記憶を取り戻してみせます!」

と気合いたっぷりの返事が返ってきた。


 危険な旅になるかもしれない、暫く村には帰れないんだよと伝えても「爺さんからカオルさんの役に立つまで帰ってくるなと言われてるので大丈夫です」と真顔で返されるので、結局二人の説得もままならず、薫は急遽決まった二人の同行者という問題によって昨日の夜をモヤモヤとしながら過ごすことになっていた。



 どうして薫がここまで頭を悩ませていたのかというと、二人の存在がこの世界でどのような立ち位置になっているか不明だったからだ。


 薫はこの世界が『L・F』に類似した、或いは同じ世界だと仮定している。地名などが一致していたり、ゲームのイベントと同じ展開が発生したりしているのがその理由で、ならば『L・F』の主人公と同じ容姿のアレクとリリアが旅に出ることでゲームと同じ何かしらのイベントが発生してしまうんじゃないだろうか。


 ──例えば魔王討伐の旅に出る、とか。


 そんな一抹の不安が薫の中で小さく燻り、もしかしたら一人の方が……などを考え続けた結果、薫は悶々とした夜を過ごすこととなったのだが、最終的にはなんとか大丈夫だろうと自分に言い聞かせることで薫は不安を胸の奥へと隠すことにした。






「──何度も言ったが、これは二人も納得してることなんだからカオル殿は気にするな」


 問い掛ける薫へ、村長が気遣うように声を掛ける。そして荷積みの作業をしている二人に聞こえないように、さらに村長が耳打ちする。


「それに、これは二人にも良いきっかけなんだよ。こんな小さな村に閉じ込めておくより、二人には世界を見てもらいたいんだ」


 そう言って村長が薫から離れると、柄にも無いと自覚があるのか、その顔にはぎこちない笑みが浮かんでいた。


「私も昔はこの村ではなく色々なところを旅していた……王国内のみではあったが、時には冒険者として魔物の討伐を行い、時には傭兵として隣国との戦争を戦い抜いてきた。

 その時に得た知恵、経験、人脈がバルザックという地方都市の兵士長という階級まで私を後押ししてくれたんだよ。だから二人にもいつか世界を見て回って様々な経験をして欲しいと思っていた。

 しかしこんな小さな村では外に出るきっかけなど殆どなく、目的もなく二人を無理矢理旅に出させる訳にもいかず、やきもきしていたところだったんだよ」


 今まで見せたことがない、穏やかな表情で言い聞かせるかのように話す村長。そしてその視線は村人達と共に馬車に最後の荷物の積み込みをしている二人へと移る。

 二人の前では決して見せないその横顔を見て薫は納得し、和やかな気持ちで小さく笑みを浮かべる。


「雑用でも何でもこき使って構わないから……二人のこと宜しく頼むよ」

「……はい。そういうことなら大事なお孫さんは預からせてもらいます」


 薫の返事を受け、村長が安心したように笑みを浮かべる。



 そのまま村長と薫で雑談をしていると、積み込み作業を終えたアレクから声が掛かる。

 

「カオルさん、準備終わりました。いつでも出発出来ます」

「ありがとう。それじゃ遅くなる前に行こっか」


 アレクが御者台に座り、リリアと薫が馬車の幌を捲り上げ、荷台部分に乗り込む。それを見届けたアレクが馬へ軽く鞭を入れると、二頭が嘶いてゆっくり馬車が進み始める。


「気を付けて行ってこいよー!」

「身体に気を付けてなー!」

「カオル殿おぉぉ! お元気でえぇぇぇ‼︎」


 離れていく馬車に向け、村の人々からの声援が響く。若干一名、周りが引くくらいに大声を上げて手をブンブンと振っている。


「ったく、ゼルおじさん……恥ずかしいんだから」

「あはは……」


 苦笑いを浮かべながら荷台から声援に手を振っていた薫はふと、その動きを止める。


 ──そういえばこの村で素顔を見せたのは村長とアレク、リリアだけで村の人達には仮面を付けたまま会話をしていた。これは今更ながら失礼なことじゃないだろうか?


 そう思った薫は慌てて『傾国の狐面』を取ると、素顔を晒しながら再度見送りの人達へと手を振る。


「仮面付けっぱで失礼しましたー! 見送りありがとうございまーす! えっと……行ってきまーす!」


 何も考えずに声を上げた薫。普段からこんなに大きな声を出したことのなかった彼女は言い終わるや否や妙に恥ずかしさが込み上げてきて、パッと荷台の陰に隠れてしまう。


 一方村人達の方はと言うと、村長から話で聞いてはいたが実際に仮面の下から覗かせた素顔が大人しそうな少女であったことに言葉を失っていた。まさかあんな可憐な少女が魔族を倒し、村を救ってくれたなどと想像から離れ過ぎていて理解が追い付くことが出来なかった。


 ゼルが「彼女こそが女神様だー!」と興奮気味に叫んで馬車を追いかけようとしたところで、他の人達もハッと現実に戻り、彼を取り押さえる。

 その様子を見ていたリリアが、口元を引き攣らせながらアレクへと指示を出す。


「……アレク、もっと速度上げて。ゼルおじさんが暴走してついて来ようとしてる」

「……了解した」


 リリアの声色に何かを感じ取ったアレクが再び鞭を入れる。それに伴って馬車が速度を上げ、村への名残惜しさなど感じる間も無く村からどんどんと離れていく。


 薫の旅の始まりが、慌ただしくも賑やかに始まりを告げた瞬間だった。

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