表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・ファンタジア  作者: ニセ神主
10/11

街中散策


 バルザック外壁区画。

 整備された道の両端には様々な露店が建ち並び、道行く人々に向け威勢の良い声が投げ掛けられている。


 そんな活気に溢れた雰囲気の中を、簡易検問所を抜けてから未だに緊張の面持ちで薫が歩く。そしてある程度歩き進めたところで道の端に寄って立ち止まると後ろを振り返って追って来ている者がいないのを確認すると、ホッと胸を撫で下ろす。


「良かった……ちゃんと効果があったみたいで」


 付けていたネックレスを持ち上げ、眼前に掲げる。その深翠色の宝石が陽の光を反射し、鮮やかな光を反射する。


 『アルテミスの加護』と呼ばれるそれは、装備者をあらゆる探知系の魔法や罠から防ぐ効果がある。

 『L・F』では『探知魔法(ディテクト・マジック)』を使ってくる魔術系の敵も存在しており、その敵に察知されずに奇襲を仕掛ける時や戦闘を避けたい時に装備することで発見され難くする効果があり、狩人プレイや暗殺プレイを好むプレイヤーがよく使っていたりする。


 薫は魔力探知の魔法によって自身の魔力が検査で引っかからないよう、このアイテムを装備していたのだ。


 というのもこの世界にはステータスを確認する方法がなく、薫自身、自分が現在どの程度の能力を持っているのか分からずにいた。魔族を倒す時に『上位(ホーリー)聖結界(サンクチュアリ)』と『拡散爆裂魔法(グラウンド・ゼロ)』を連続で使えたことから魔力──所謂MPはそこそこあるはずだが、その最大値を知る術がない。


 まだ自分がゲーム時に使用していたキャラクターの外見でもしていれば能力も同じくらいと想像がつくのだが残念ながら薫の見た目は現実の姿と同じとなっている。


 旅の途中、アレクとリリアに気付かれないようにこっそりと様々な魔法(基本的にステータスアップ系)を使い続けた結果、ゲーム時に使えてた支援系魔法は全て使えることが判明したし、MP切れで魔法が使えなくなるということもなかった。

 なのである程度は魔法を使うのに問題はないことは判明したが、ならば攻撃系の魔法はどうだろうか。幸か不幸か、道中魔物や盗賊といった相手に遭遇することもなかったため魔法を行使する機会は訪れず、攻撃系の魔法に関して確実に使えると言えるのは『拡散爆裂魔法(グラウンド・ゼロ)』のみである。


 魔力の総量や使える魔法も自分自身で分かっていない中、万が一でもこの世界での規格外の魔力を探知されて余計なトラブルに巻き込まれることを避けるため、薫は一筋の希望を込めてアルテミスの加護を装備することにした。


 『探知魔法(ディテクト・マジック)』と魔力探知の魔法が同一であるとは思えなかったが『上位(ホーリー)聖結界(サンクチュアリ)』もゲームの時とは違う効果を及ぼしたこともあり、もしかしたら同様に探知を遮断してくれるのではないかと思っていたからだ。

 最悪、もし探知に引っかかってしまった場合は『聖樹の杖』を差し出すつもりだった。一応この杖の説明文に『所有者の魔力を高めてくれる』と書かれていたこともあって、魔力の込められた杖ですと言って差し出せばもしかしたらなんとかなるかもしれない──そう考えて。


 実際、そんな魔力の込められた杖を持ってる時点で色々と追及されることは間違いないが……兎にも角にも、薫はなんとか無事にバルザック入りを果たせたのだ。



「──さて、それじゃあ早速部屋を確保しなきゃ。そしてその後は……」


 とりあえず懸念していた街への入場を無事に済ませたことで気持ちに余裕の生まれた薫は、キョロキョロと改めて辺りを見回しながら徐々に口端を上げていく。


 露店には見たことのない食べ物や道具が並べられており、道行く人々は如何にもファンタジーというような変わった服装をしている。やはりファンタジーの定番なのか、薫のような黒髪黒目のアジア系の顔立ちの人は全く見当たらず、代わりに目鼻立ちがクッキリとした欧米系の顔立ちに金髪や青髪、赤髪などのド派手な頭をした人が其処彼処を歩いている。

 それと意外にも魔法使いは多いのか、薫のように杖を持ったローブ姿の者も何人か見かけられた。


 ユーグ村だけでも大きな森猪や幌付き馬車など十分ファンタジー要素溢れてはいたが、こういった街の雰囲気こそが薫の想像するファンタジー像と言えた。


「少し探検してみても……いいよね?」


 抑えられない好奇心に後押しされ、薫は早足になりながら街の中へと歩を進め始める。




 内壁区画をしばらく歩いていた薫は、ようやくお目当ての宿屋へ辿り着いた。ちなみに、内壁区画を仮面を付けたまま歩いていたら不審者として衛兵に止められたので、今の薫は仮面を外し、素顔を晒している。


 周囲の建物と比較しても抜きん出て大きな造りの金獅子亭は、その店名を表すように入り口の扉に金の獅子を象ったプレートが下げられている。


「はぁー……高そう」


 外壁区画でも何軒か宿屋を見掛けはしたが、やはり古いし狭そうという印象を抱くようなものばかりで出てくる客は案の定、冒険者然として粗暴そうな者が多かった。

 それに比べ金獅子亭は建物も真新しく、清潔感を感じられるほど綺麗だった。元の世界の基準でも一流ホテルと言っても過言ではないと断言出来る。


 しかしそうなってくると不安になるのが宿泊費用のこと。アレクからは五日ほど滞在すると言われていたためその日数で宿泊を申し出るつもりだったが、はたして金貨五枚で足りるだろうか。出来ることなら外出用に一枚くらい残したかったが。


「……まぁ、足りなかったらユグドラシル金貨でも出してみようかな。使えるかわからないけど」


 念の為にユグドラシル金貨を一枚だけポケットに忍ばせながら、薫は金獅子亭の扉を開けた。


 中に入ってまず目に飛び込んできたのは豪華な絨毯だった。そして様々な調度品へと視線は移り、最後にカウンターで姿勢を糺して佇む初老の男性の姿を視界に収める。

 この世界でも一般的なのか眼鏡をかけた初老の男性が薫と視線が合うと柔らかな笑みを浮かべる。


「いらっしゃいませ。 ご宿泊ですか?」

「は、はい。 二人部屋と一人部屋、それに幌馬車と馬二頭でお願いしたいんですが……」

「畏まりました。ご宿泊は何日ほどで?」

「五日でお願いします」

「当店は先払いのため宿泊費と馬の飼料代を含め金貨三枚となります」


 提示された金額に薫は内心でガッツポーズをとる。

 胸元から金貨を入れていた小さめの皮袋を取り出し、中から三枚だけをカウンターへ出す。


 それから薫は簡単な手続きとして宿泊者名簿を記載──字は書けないので代筆してもらった──し、一人部屋の方はアレクに使って貰おうとしたため、二人部屋の方の鍵を受け取る。

 ちなみに金獅子亭は四階建てで、泊まる部屋は二階の右奥とその手前の部屋だったりする。


「それではごゆっくりと」

「ありがとうございました」


 お互い短く会話を済ませると、薫はカウンターの脇を通り過ぎ、階段を上っていく。そして目当ての部屋の扉を開け、再び感嘆の声を漏らす。


「うへぇ……すっごい豪華」


 部屋の広さもさることながら置かれている家具が全て高級品ばかりが取り揃えられており、薫はおっかなびっくりで部屋の中を進む。


「うわ、うわ、うわぁっ‼︎」


 部屋の中にある扉を開けた瞬間、薫は無意識に気分が高揚してしまう。其処には元の世界で見慣れたバスタブが備えられており、脱衣所と思われる場所には純白のバスローブが置かれている。

 ユーグ村や道中では水を含ませた布で拭くことでしか身体を清めることが出来なかっただけに風呂に入れることに薫は目を輝かせながら感動する。


「お風呂に入りたいけど替えの服は馬車の中だし……」


 一応『L・F』の装備品は取り出すことは可能だがやはり装備品という名の通り下着類は殆どなく、あったとしてもネタ装備のバニースーツとかいう破廉恥な物しかない。さすがにそれらを身に付ける勇気はない。

 

「仕方ない……お風呂はアレク達と合流してからの楽しみに取っておこう。 でも、お風呂……」


 諦めきれず何度も浴槽を振り返りながらも薫は風呂場への扉を閉める。ベッドの上に横になってみたい衝動に駆られるも、横になればまず間違いなく眠りに落ちることが予想できたため、泣く泣くそちらも我慢して部屋を後にする。




 鍵を受付に預け、金獅子亭を出る。


 キョロキョロと辺りを見渡してみてもまだアレク達の姿は見えない。きっとまだ検問所で足止めされているのだろう。アレクの話では夕暮れまでかかるとのことなので、時間はまだまだたっぷりある。


「──よし!」


 目指すは美味しい食べ物! 珍しい物! ファンタジーっぽい物!


 小さく意気込みながら薫は自身の好奇心に身を任せて歩き出す。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ありがとうございましたぁ」


 気の抜けた店員の声を背に受け、薫は目を輝かせながら手に持つ串へと視線を走らせる。


 それは元の世界の祭りの出店とかでよく見かける肉の串焼き。ただ出店と違うのはその肉が森鹿の肉であること。

 牛や豚よりも脂身の少ない肉を一口齧れば、程よく柔らかい肉のジューシーな肉汁と絡ませたソースの香ばしい匂いが鼻を抜けていく。


「うん、美味しい! 帰りに二人の分も買おっと」


 金貨の入っていた皮袋の口を開け、中身を確認する。そこに金貨の姿はなく、代わりに先程まで入ってなかった大量の銀貨や銅貨が擦れ合い、チャリチャリと音を鳴らしていた。


 街の中を散策するということで、金獅子亭の受付で金貨一枚を銀貨に両替してもらっていたのだが、その時に金貨一枚に対し銀貨五十枚が手渡された。

 ちなみに残り一枚の金貨は無駄遣いしないように部屋の金庫に置いてきてある。


 そしてさっき買った串焼きは一本銅貨一枚ということで銀貨一枚で支払ったところ、面倒臭そうな表情を浮かべた店員から銅貨が二十四枚と銅貨よりも二回りくらい大きい銅貨一枚を返された。店員に大きい銅貨について聞いてみれば、やはり面倒臭そうにではあるが丁寧に貨幣について説明してくれた。そして店員が言うにはそれは大銅貨といい、銅貨二十五枚と等価の貨幣とのことだった。


「つまり銅貨五十枚で銀貨一枚、銀貨五十枚で金貨一枚ってことかな? 五十枚で繰り上げってのは分かりやすくていいけど、嵩張るなぁ……」


 最初は金貨五枚しか入っておらずスカスカだった皮袋もさすがに銀貨と銅貨が数十枚も入っていればパンパンに膨れてしまい、正直邪魔だった。


「これストレージに仕舞えないかな……おっ?」


 試しに銀貨をストレージ内に保管するイメージを浮かべたところ、手に持つ皮袋が明らかに軽くなる。皮袋を開いて中を確認してみれば、中には大銅貨と銅貨しかない。

 そしてストレージを確認してみれば、『ユグランド銀貨×49』と表示されていた。


「この世界の物も入れられるなんて、便利な機能……」


 未だ使いこなせていない自分の能力に感心しながら、薫は肉を口いっぱいに頬張って散策を続けていく。




「やってしまった……」


 建物の陰で暗くなった店先で、小さく薫が呟く。

 あの後も様々な露店・商店を巡り歩いては気になる物を片っ端に見て回っていた薫は、最後に訪れた商店に心を奪われていた。


 武具を取り扱うその店は冒険者風の出で立ちの者が多く出入りしている、いかにもファンタジー感溢れる佇まいの店だった。剣や槍、斧やナイフなどの多種多様な武器が置かれていて、ゲーマーである薫の心を鷲掴みにするには十分過ぎるものだった。

 その結果、薫が満足いくまで鑑賞し、ついでに冷やかしにならないようにと小さめのナイフを一つ買って店を出た頃には完全に日が暮れており、辺りは薄暗くなっていた。


「どうしよう……急いで帰らないと」


 慌てて金獅子亭に戻ろうと一歩踏み出し、そしてすぐに立ち止まる。


「……あれ、道どっちだっけ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ