先見えぬ暗雲を切り裂く為に
船頭多くして何とやらという様に、同程度の権力を持つ優秀なトップが複数いる状態は余り望ましい状況とは言えない。
特に、それが我が強い集団だと尚の事。
そして、バッカニアは今その傾向にあると言えた。
実質上の権利者で多くの権限を握っているマリアベルは、はっきり言って後先の事は何も考えていない。
作りたい物を作っているというのが根本にあり、それで助けられているというのは二の次である。
それは単なる我儘というだけでなく、その方が良い物を早く沢山作れるという事に加え、ヴィラや誰かがうまく活用してくれるという無言の信頼から来る我儘だった。
とは言え我儘である事は事実であり、そんな性格だから本来はトップにいたらいけない立場の魔物である。
むしろ、ある程度指示や予算制限を受ける方がマリアベルの性格上向いているだろう。
だけど、既に状況がそれを許さない。
彼女が起こしてきた奇跡を、功績を多くの魔物が目にしている。
理想郷の様な生活が出来る拠点を、王城城下町何かよりもよほど凄い国を、彼らは経験した。
クロス達がいない間ここに移住してきた魔物にとって彼女こそが救世主であり、恵みの雨であり、そしてこの国のリーダーである。
だから、彼女もトップの一つとなってしまう。
そして、悲しい事に、彼女が特別我が強いという事もなく、上にいる大体の奴は我が強い。
更に、トップに立つ奴の傍に仕える奴らの我は尚強い。
具体的に言えばロキとかエリーとかパルスピカの街の奴らとか。
そんな状態で、関係者全員を呼んでの作戦会議など開いたら大変な事になる事はわかっている。
だから、この会議は本当に最低限の、トップと呼ばれる資格がありながら同時に会議に参加する意義のある者だけが参加を許されていた。
人魔統一王クロス。
先代魔王アウラフィール。
事実上バッカニア王マリアベル……とその解説とツッコミ役のヴィラ。
統一王の息子でありアーク建国王でもあるパルスピカ。
元人類統一王ラグナ。
王と呼ばれる者、呼ばれた者がこれだけ集まるというのもなかなかに壮観な話である。
そして実質的な王五体プラスアルファに加えて、例外で三名の者が追加で呼ばれた。
一名はメリー。
これはアウラがどうしてもと推薦……というより懇願した事により選ばれた。
単純に作戦実行能力が高いだけでなく、王となるだけの素質を持ち、そして外れた感性から感情や理性さえも排除した効率的過ぎる策略を生み出せるから。
アドリブもオリジナルも出来て情に絆されないというのは指導者としてかなり優れた資質と言えるだろう。
犠牲を考えなければ、彼女以上に目標達成能力を持つ存在をアウラは知らない。
残り二名は、もっと単純。
彼女達の能力は純粋に驚異的であり、もはや大規模破壊兵器と捉えた方が良いレベル。
作戦を考える段階で、絶対作戦の主軸となる彼女達に意見を伺う位ならこの場に呼んだ方が早いという判断である。
そんな理由で、メルクリウスとレティはこの場にて待機していた。
そうして作戦会議は開かれるものの……誰も口を開かない。
この場で最初に発言するという事は、その者がこれから取り仕切るという事でもある。
その価値は計り知れない。
だから、皆譲り合っていた。
我が強いからこそ、皆自分がそれを受けたら不味いと理解出来ているが故の現象だった。
助けられ、この場に避難させて貰ったラグナ何かは既に恩しかない。
このような状況で纏め役に回る程恩知らずになれる訳がない。
マリアベルは自分が我儘な事を理解しているし、ヴィラに睨まれているから黙っている。
まあ、口を開いた所で予算頂戴とか情報頂戴とかアレ造りたいから手伝ってとか、そんな事しか言わないが。
メルクリウスは、むしろ口を挟むなんて事する訳がない。
その身は既にクロスの物で、その心はクロスの為だけに存在する。
クロスが口を挟めと命じない限りは、聞かれた事に答えるだけの置物となるつもりだった。
レティは……皆気まずい気持ちで黙っている状況が面白いから黙っている。
彼女の面白いという感性は、少々ズレていた。
そうして誰もが言葉を発せず沈黙だけが流れる中……ついに我慢しきれず、最初の声が上がった。
「現状は時間との勝負……と、思って良いんじゃない?」
そう、メリーは口を開くと皆の視点が集中する。
「ん、まあ……悪くないかしら。時間が解決してくれる問題ね。……まあ、現状のままならだけど」
そう、アリスは呟いた。
彼らとは異なりたった独りでの作戦会議。
それでも、出た答えはバッカニア首脳陣営での会議と同じ物であった。
アリスサイドは時間が進む事に有利。
クロスサイドは時間が進む事に不利。
そう、互いに解釈している。
アリスサイド……というか天使陣営からすれば、処分しなければならない相手が大勢、安全地帯に逃げ込んだ。
対処出来なくなった。
そう考えたら、確かに不味い状況に見える。
だが、それはあくまで現状に過ぎない。
機甲天使が本気になればあの程度の拠点は一瞬で塵芥と化す。
どうしてそうなっていないかと言えば機甲天使があちらを舐め腐っているから。
舐めて返り討ちにあって反省しないそのド低能な頭脳回路による間抜けな結果が今の現状だ。
それでも、彼女達は少しずつ送り込む戦力を増強している。
こちらの戦力上限はあちらと比べる事さえも出来ない。
だから、時間の問題なのだ。
確かに、あのバッカニアとかいう訳わからん劣化機人集落はアリスでさえ作れない驚異的な防衛拠点と言えるだろう。
見るだけではそのスペックを予測する事さえ出来ず、把握出来る能力だけでも超一流。
収容から食料生産、あらゆる意味で完璧で、シェルターとして見れば間違いなく世界一だ。
誰もいないならアリスが住みたいと思う程度にはその性能は高い。
だけど、それだけの物を用意した所で彼らに与えられたのは、時間のみ。
わすか数週間の猶予だけがその拠点が彼らにもたらす物であった。
とは言え、それは現状誰も何もしなければだが。
「だから、あいつらの動きは想像しやすい」
そう、アリスは呟き、嗤った。
「だから、護っていたら私達は負ける。この限られた時間内に対処方法を見つけなければいけないわ」
そう、メリーは彼らに説明した。
マリアベルが作り出したこの防衛国家により与えられた猶予時間は金に換える事が出来ない程貴重な物である。
その間に、機甲天使の攻略方を見出さないといけない。
つまり……。
「防衛と探索……いや、攻略の二つに分けないといけませんね」
アウラはメリーの考えを理解した上でそう答えた。
より時間を作るのと同時に、落とされたら終わるこの拠点の防衛班。
そして防衛班が作る時間の内に、現状を何とかする方法を見つけ処理する攻略班。
それが、現状考えられる唯一の作戦。
作戦と呼ぶ程深い物ではないが、今ある情報ではこれが精一杯の方針決めであった。
「という事は俺達は必然的に防衛側だな」
ヴィラはマリアベルを見ながらそう言葉にする。
「当然ね」
マリアベルも頷き同意を見せる。
「ぶっちゃけ大半が防衛側よ。役立たずが今外に出た所で何も出来ないもの」
メリーはあけすけにそんな事を口にする。
とは言え、それを否定する事は出来ない程外は不味い事になっているが。
「……ふむ……。ぶっちゃけて聞くけど、これを何とかする方法思いつく奴いるか?」
クロスはついそう尋ねてみる。
正直クロスは何も思い浮かばなかった。
現状最強に等しい力を手にしたものの、それはあくまで局地的な物。
もっと広い視野で見た時、その力は正直それ程意味を為さない。
戦争は独りで行う物ではない。
だから、物量に物を言わせる機甲天使の戦いは正しい意味で戦争であった。
その戦争の規模に単独で対抗出来るメルクリウスとレティがこの場に呼ばれた訳だが。
彼女達は個としての最強ではないものの、超広範囲攻撃が可能な彼女達は規模という意味では正しく最高であった。
「……ぶっちゃけ、一つ思いつく物があったりする」
そう言葉にしたのは、珍しい事にマリアベルだった。
「どうしたお前、発明以外に興味持つなんて」
驚くヴィラにマリアベルは苦笑する。
「そんな目で見てたのね」
「違うのか?」
「ううん、違わない」
「だろうが。んで、何を思いついたんだ?」
「うーん。……出来たら勝てるけど、実行不能な案なんだ。それでも良い?」
「とりあえず言ってみろ。役に立つかどうかは頭の良い誰かが考える」
「あい。機人集落を解放する。それで終わるわ」
あっけらかんと、マリアベルは言い放つとアウラは少し、考え込む仕草を見えた。
「……なるほど。確かに彼らの力はそれほどの物です。ですが、彼らには多くのルールがあります。こんな状況であっても、我々に手を貸してくれる可能性は……」
長年魔王として交流してきたアウラはそうマリアベルに伝える。
だが、マリアベルの思惑はもっと違う物だった。
「え? 戦力として機人を当てにするつもりはないよ? 出来る訳ないじゃん。規則でガッチガチなのに」
「では、一体何を……」
「機人の技術をもう少し教えて貰えば良い。機甲天使に私達が対処する為の技術提供を求めたら良いのよ」
その発想は、発明家であるマリアベルしか持てない物だった。
「そ、そんな事が……いえ、出来るのですか実際」
「出来るわ。むしろ喜ぶ位じゃない? 積極的に手伝えないけど、手伝いたいと思っている機人にとってはね」
「……マリアベル、貴女は技術や知識を貰ったら、それを活用し状況を確実に打破出来るという自信があるのですか? 機人の技術は貴女が思う以上に歴史は深く、深淵は昏い物ですが」
「何を言ってるのよ。私以外の誰が出来るっていうの?」
それは自信ではなく自負。
機人の技術と魔動機文明の知識。
それを応用し発明してきた彼女だからこその物であり、そしてそれ故に、十分な説得力を持っていた。
「だけど……うん。そうなったらって程度の話で覚えておいて。ぶっちゃけ現状では不可能だから」
マリアベルはそう、言葉を続けた。
「何故ですか? 十分あり得る話と思いましたが?」
「簡単な話よ。機人集落にアクセスする手段がない」
「では、その集落を探索すれば……」
「無駄よ」
「無駄というのは一体……」
「もうやったわ。調べたのよ。色々な方法を使って」
そう、マリアベルはその可能性に思い立った時、真っ先に機人集落の探索を実行した。
その為に、ガスターを説得までした。
あの、仕事絶対したくないサボり大好きガスターを魔王の勅命以外で動かしたのだ。
そしてガスターをこれでもかと走らせて、世界の端と言われる場所幾つもに調査端末を設置し、この世界の大半を見通した。
調査端末という点を結んで線とし、地形図を作り機人集落と合致する場所を探った。
わかる範囲総てを調べ、現在世界で最も優れた地図を持っているのが自分だという自負がある位に調べた。
それでも、機人集落は発見できなかった。
今の自分の技術では、彼らの偽装を抜く事は出来なかったとマリアベルは理解する。
実の事を言えば、それ以前の話であるのだが。
機人集落は地上のどこかにあると発想をしている時点で、マリアべルがまだその領域に届いていない事を示唆していると言っても良いだろう。
「んじゃ、見つかるか何か連絡があれば機人集落の情報をマリアベルに届けるとして、他の方針を考えようかね」
クロスはそう言って機人に関しての流れを斬る。
何となくだが、クロスも機人と連絡を取るのは無理だろうと考えていた。
いや、取れるなら向こうがこちらに連絡を取って来る。
人魔統一王というのはそういう地位にいるからだ。
今はそれさえ出来ない位に、あちらも追い詰められている。
そう考えた方が良いだろう。
「クロス様はどうお考えですか?」
ラグナはクロスに尋ねた。
「え? 俺?」
「はい」
「いや、悪いけど何も思いつかんぞ? ただ……」
「ただ?」
「アリスが大人し過ぎるのが不気味だ」
「……クロスさんは、こんな現状でも機甲天使よりアリスの方が危険だと考えてるのですか?」
アウラの言葉にクロスは迷わず頷いた。
「ああ。間違いなくそうだ。最悪の場合……」
「場合?」
「機甲天使みたいどっから出てきたのかわからん集団がもう一つ位出て来るかもな」
そんなクロスの冗談と思いたい最悪の発言により、皆がその危機感を共有する。
どうしてアリスを危険視しているかを、その一言は恐ろしい程に物語っていた。
「戦況はまあまあ。向こうが有利だけど時間の問題。向こうは押し込まれていると言っても良い。その上……」
アリスはにやりと笑う。
普段なら、クロス陣営が有利な事は憎たらしいと思う事はあれ歓迎する事はない。
だが、今は違う。
クロス陣営が有利という事は即ち……。
「同盟者よ。少々相談があるのだが」
ノックもせずにずかずか入り込み、上から目線で機甲天使その一がほざきに来る。
だが、今だけは気分が良かった。
ド低能マウント天使の困った表情をしている今だけは。
そうして天使はあれだけ嫌がった背に乗せて、アリスが連れてこられた場所は遺跡の中。
いや、表面は遺跡だがその深層部は遺跡と呼ぶよりも機械神殿と呼ぶ方が近いだろう。
その機械神殿の奥の部屋に向かい、中央にあるホログラムにアリスは目を向ける。
そこに映像として映し出された等身大の少女は、人間だったら十二、三歳位の少女で、似つかわない白一色の地味な服装に身を通し、アリスが見た誰よりも大きな翼を背負っていた。
「それで、あんたが私を呼んだの?」
「はい。肯定です我らが同盟者アリス」
少しだけ、ほんの少しだけアリスはホログラムに対し感心を覚える。
ちゃんと名前を呼ぶ程度の知能はあるんだなと。
「それで、用事は?」
「まず、自己紹介をさせて頂いても宜しいですか?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます。私は人類救済機構サポートプログラム。機甲天使補助機能の『バラクィエル』です。呼び辛いと思いますのでどうか『クィエル』とお呼びください」
「そう、わかったわクィエル。それで、私を呼びだした理由は?」
聞いておいて何だが、アリスは理解している。
あの低能天使共の考えなんてわからない訳がない。
あの程度の雑魚なら私でも倒せるなんて行って飛び出してバッカニアに襲撃して、何匹も返り討ちにあった。
今度は思ったよりやるじゃんなんて考えてちょびっと戦力増強して返り討ちにあった。
そしてまたまた思ったよりやるじゃんって考えて、ちょびっと戦力増強して以下ループ。
しかもその度に相手は天使の死骸を確保して情報を抜き出し、技術を調べ、鉄として資源を再利用する。
人型の知的生命体相手と考えたら少々以上に外道な戦法だが、かなり効率的な作戦である事も確かだ。
少なくとも、アリスが『やるじゃん』と褒める程度には非道な作戦であった。
そして全く勝てない事にようやく気付かされるも……あれ? 何で? と考えたところで人を見下す天使に答えなど見つけられる訳もなく、その結果としてアリスが招集される。
幾らバックアップがあって死なないからといってもその被害は決して軽くない。
なにしろ下級機甲天使の武器は数である。
その数を無駄に使ってしまったら最大の取柄を捨てる事と同意味となるだろう。
「……その……申し訳ありません。同盟者アリス。どうか何か意見を頂けないでしょうか? あの融通の利かない天使達の代わりに……」
そう言葉にするクィエルは、情けなさと申し訳なさから涙を流していた。
ホログラムである為それが本当かどうかはわからないが。
「あら驚いた。天使様の事あんたは理解してるのね」
「はい。ですから、貴女が侮辱された事も、貴女のアドバイスを無駄にした事も予想出来ます。そして、おそらく私のアドバイスも機甲天使はマトモに取り合って下さらないでしょう」
「え? 貴女天使達の親玉じゃないの?」
「表現は正しいかもしれませんが、命令権はありません。私はあくまでサポートですから。むしろ命じられたら断れない立場で……うぅ……ごめんなさい。迷惑をかけますが、何卒何かアドバイスを……。出来るだけ頑張って誘導して、役立てますので……」
「ふぅん。そう。まあ別に良いわ。手伝ってあげる」
「すいません。そして助かります同盟者アリス」
「アリスで良いわ。貴女は話せそうだし」
「あ、ありがとうございます!」
涙を流しながら、それでも嬉しそうにクィエルは笑った。
それは、初めて友達が出来たと言わんばかりの笑みだった。
「それじゃあクィエル。戦況を分析する為に出来るだけ情報を頂戴。機甲天使と、貴女達の情報を」
そう言って、アリスは静かに微笑む。
その内心で、邪悪めいた笑みを浮かべながら。
総て想像通り……いや、想像以上の結果であった。
クロス達が有利な状況で天使共が苦しんで、そしてアドバイスを求めて来る事は予測していた。
そしてその仮定を持って有利な献策を出すと同時に、こっそりと天使の情報を探る。
それが、アリスの考える今のベターな動き方。
天敵であるクロスだけでなく、天使共もアリスにとっては生きる事を邪魔する害悪なのだからその処分を今から考えておく必要があった。
そうして、クィエルはアリスに騙される形で、口を開いて行く。
アリスを、人間を馬鹿にしている訳ではないクィエルだが、人と接するのに彼女は、少々ばかり純粋過ぎた。
クィエルと呼ばれる存在は元々天使であったが競争レースに負け肉体を奪われサポート特化ユニットにされた事。
その結果に恨みはないがもう少し見下していない人間愛を天使達に持って欲しいと思っている事。
だけどクィエルの様な存在は少数派であり、天使の大半は下級機甲天使達と同様上から目線がデフォルト装備であった。
そして、その考えを人類救済機構は肯定する。
彼らの目指す救済とは何かと言えば、ぶっちゃけた話箱庭創造である。
自分達が支配者となり、人を正しい形として導いていく。
間違えない自分達が人を先導し、そして人々は自分達天使、人類救済機構に感謝して日々生きる。
それが彼らの考える正しい形であった。
だから、クロスやアウラといった支配階級になり得る人や、滅亡の手となりかねないアリスやメルクリウスを認めない。
要するに、よわーい人間様を自分達が導いてあげて、それで悦に入るなんて高尚な趣味を使命と恥ずかしくもなく言ってしまうのが、天使というド低能の正体という事である。
少なくとも、アリスにはそう聞こえた。
クィエル含め、人類救済機構なんて大層な名前でおままごと遊びをしたいだけのごっこ遊び集団だと。
まず、メインプログラムとなるのは『人類救済機構』という名前のプログラム。
それが彼らの間にあるネットワークであり、命令を下す装置。
とは言え、最初に人類を救済する様に命じただけで後は放置しているのが現状だが。
実際に動くのは救済なんたらではなく、「機甲天使」と呼ばれる機械生命体の方。
他にも生産ユニットやクィエルの様なサポートなど裏方もいるが、メインとなるのは機甲天使となる。
機甲天使は大きく三つの階級に分かれる。
つまり『下級』『中級』『上級』である。
これは兵士としての階級の区分訳とは異なる。
最も単純な区分け理由を告げるなら、生産にかかる時間や資源コストである。
下級天使は最下級の『エンジェル』、即ち今最も量産されている汎用型に加え、指揮能力に優れ低範囲通信機能を持つ『アルカ』とシールド機能を持ち仲間に付与できる『パリティ』が存在する。
中級天使は戦闘力特化型量産機であり、その特徴として意思を持たない事にある。
つまり、下級か上級天使に指揮されなければ動く事さえままならない。
感情どころか一切の自立機能を持たない、言葉通りのロボットである。
汎用的ながら五龍クラスの戦闘力を持つ『ドミニオン』に武装が高次元シールドのみの防御特化ユニット『バーチェ』、そして最後に広範囲殲滅特化ユニット『エクシア』の三種類。
下級と中級はコストこそ違えど量産されている為、複数形で呼ばれる事もある。
その時は、種族名の後ろにナンバーズと付けられる。
上級は量産されていない為、一種族に一機のみしか存在しない。
そしてその内容は――機密となる。
何体居て、何が出来て、どんな能力があるのか。
総て秘匿されていた。
上級機甲天使に関してはかなり厳しい情報統制があるらしく、クィエルはその詳しい内容をアリスには伝えられず必死に何度も謝罪を繰り返した。
その他、天使達の色々話を聞いて、アリスが最も印象的だったのは彼ら天使から見た機人についての情報である。
印象的というよりは、『こいつらやっぱ低能だな』と再確認したという方が正しいが。
現在、機甲天使部隊は完璧に機人集落を封鎖している。
人類救済機構は人に対してはこれでもかと舐め腐っているが、機人に対しては別。
機人の戦力が自分達より遥か上だと正しく理解して、その上で、機人が自分達に課した制約を利用し封鎖している。
例えば、天使が集落内に入り暴れ回ったとしよう。
その場合は、自衛という名目が成り立ち機人は制約の大半を無視し天使に攻撃が出来る。
だが逆に集落付近でうろちょろしていたらどうか。
外部の制約に、弱い存在に対しての攻撃の制約。
無数の制約に縛られた機人に出来る事は、ほとんどない。
そう……彼ら機人は集落外に出る時は兵装に大きな制限が課せられる。
その情報が漏れて人がそれを悪用し、その果てに滅びない為に、かつての過ちを繰り返させない為に。
だから、外に出て来る機人は天使程度で十分処理出来る範囲の戦力しか保持出来なかった。
機人は本当に、多くの制約により縛られている。
自分達が人の世界を壊さない為に、人の害と成らない為に。
その制約により、今機人は天使達に閉じ込められていたとしても、それでも彼らは方針を変えない。
それを変える事が出来ない程に、彼らは人類を愛しているからだ。
何故ここまで人類救済機構は機人について詳しい情報を持っているか。
その答えは簡単で……それが、彼らのアイデンティティの根本にあるからだ。
要するに、人類救済機構は機人を憎んでいた。
愚かにも人の守護者を気取り、そのあげくに何もせず何度も人を見殺しにしてきた。
失敗した挙句責任放棄した。
我々人類救済機構はそんな事をしない。
失敗作である機人に代わり、我々こそが人類を救いだし恒久の平和を作り出す。
我々にはその能力がある。
失敗作で愚かな機人と違って――。
――全くもって、下らない考えね。
アリスは吐き捨てたくなるのをぐっと抑え込んだ。
機人の優秀さと天使の低能さを知るアリスとしてはそう言いたくならない訳がなかった。
というか、どうでも良いけど天使共が言っている事を全て守ったら人が家畜になるだけで、それを平和と呼ぶのは暴力的過ぎる。
そして人という生物は飼われるだけで満足する様な欲薄い種族でもない。
その果てに待つのは反逆で、そして天使と人の最終戦争。
正しく世界の終わりである。
自分以外の奴が滅ぶのはどうでも良いが、それに巻き込まれるのだけは御免だ。
そうならない様にこいつらは皆殺しにするべきで、そしてそれが無理だった時用に別世界に避難出来る様にしておこう。
そう、アリスは心に誓った。
「それでアリス。伝えられる情報は大体この通りですが……何かアドバイスはあるでしょうか? いえ、言う事を聞かないエンジェル達なので大変かもしれませんがこう……上手くやって……」
「大丈夫よ。安心して頂戴。天使様も話を聞いてくれるような、そんな作戦を提示するから」
「本当ですか!? そんな事が……」
「ええ、まあおべっか使ってゴマすって、自尊心煽って何とかしてあげるわ」
「あ、ありがとうございますアリス! 貴女が同盟者となってくれて本当に良かったです」
心からの笑みを浮かべるクィエルの姿に、疑いの心は一切見えない。
アリスは、クィエルがホログラム通りの精神と感情をしていると理解した。
即ち……カモであると。
「ええ、もちろん。任せて頂戴。なるべく多くを殲滅出来る様な策を出してあげるわ」
ただし、敵も味方もだけど。
アリスはそっと、内心でそう付け足す。
アリスの笑みが嗜虐的であるという事に気付けない程度には、クィエルは人に対して無知であった。
ありがとうございました。




