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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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感傷と静寂と赤い彼女


 トレーニングルームに相当する密室の中、クロスは新しくなった相棒を振り回していた。

 神造兵器、デイライトトレイター・ルビー。

 忘れがたき娘の遺した大切な物。

 それにクロスは、笑える程振り回されていた。


 あの騒動にてクロスが得た物は多い。

 その得た物の中でも特に二つは、クロスの今後を変える程大きな力を持っていた。


 一つは、トレイターという存在そのもの。


 これは、決して最強の剣と呼ぶ事は出来ない代物である。

 だが、クロスにとっては最高の剣である事だけは間違いない。


 クロスという個体に完璧に適合し成長する剣という要素を残し、今まで持っていたトレイターの性能全てを引き継ぎつつ、あらゆる武具に変形出来るという特性。

 それ以外にも治癒能力や魔力のバッファー等細かい能力を幾つも持っている。

 はっきりいって破格の性能であり、魔剣と比べても並ぶ物はない。

 ここまでの性能を持つ伝説の武具はどこにも存在せず、もしあったとしても寿命かそれに匹敵する強烈なデメリットを内包するだろう。


 神造兵器自体はこの世界に数多く現存し、またトレイターとの同系統であるオルタナティブアタラクシアも秘宝と呼ばれる程の希少価値を持つが、探せば見つからない事はない。

 ないのだが……神造兵器は基本扱いにくい上に我儘である為、なかなか友好を結ぶ事が出来ない。

 故に、ここ数千年神造兵器がその本分を果たせたのは、トレイターただ一振りである。


 そういう意味で言えば、クロスはきっと幸運だったのだろう。

 トレイターの心は、多少我儘ではあったがクロスに尽くす事を第一にしていたのだから。


 そしてもう一つ、クロスは今回の騒動で得た物。

 それは知識である。

 魔力簒奪や変形といったトレイターの能力や扱い方、それだけでも恩恵としては十分だろう。

 だが、それだけじゃあない。

 クロスに与えられた知識はトレイターが集積した知識そのもの。

 即ち、歴史まで。


 ルビーという器が受け継いだそれは、選りすぐり必要な物だけを集めたとは言え、機人よりも古い歴史のある神造兵器の失伝した知識である。

 価値がない訳がなかった。


 そもそも、神造兵器の情報だけでも国一つ動く程の知識と言えるだろう。

 最終段階まで到達した時のすさまじさは今クロスが直に実感している通りなのだから。

 これを持つ兵士を量産出来たら小国であっても大国と渡り歩けるし、大国であるなら魔王国に反抗出来る力を得られ、魔王国が得れば魔物世界統一という夢物語が果たせる。


 とは言え、そんなあっさりと魔剣が最終段階に行く訳ではないが。

 例え知識があったとしても、最終段階まで到達する事はほとんどないという事はクロスが身をもって理解している。


 もしも……もしもこの最終段階による昇華がルビーの意思でなければ、消える事がルビーの願いでなければ、クロスはこの力と知識よりもルビーと共に居る事を選びたかった。

 それだけ、クロスはルビーを愛していた。

 トレイターを気に入っていた。

 だから、その願いは受け入れるしかなかった。

 それこそが、神造兵器の本願であり本望そのものなのだから。


 最終段階の条件は、愛情とも呼べる絆を結ぶ事。

 例え別れが待っているとしても、その過程に愛がなければ決して成立しない。

 その持ち手の愛に武器が答え、全てを捨ててでもという程の強い愛情を武器が持たない限り、最終段階には決して到達しない。


 クロスの知り合いでそれが叶いそうなのは、剣は道具ではなく愛でる物だと考えるヴィラ位だろう。

 一歩間違えれば変質者になったであろう彼ならば、きっと神造兵器の本願を達成してやれる。

 この、トレイターの様に。


「……今度、探してみてプレゼントしようかね」

 そんな事をぽつりと呟くと、それを聞いていた部屋の主が声をかけた。

「良くわかりませんが、貴方のプレゼントを喜ばない方はいないので良いと思いますよ」

「そうかい。照れるねぇ」

「ええ。ところで、私から一つ尋ねても良いでしょうか?」

「ん? 何? プレゼントのリクエストならいつでも聞くよ?」

「いえ、どうしてここにいるのか……と、私は尋ねたいんです」

 そう……彼女、ゴモリー・オリジンは淡々とした表情で尋ねた。


 現在、クロスが居る場所は機人集落の地下深く。

 機人にとっての決戦兵器であるオリジンを収納するスペース……いや、兵器格納庫。

 オリジンはその惑星規模である情報密度により人は……いや、生物は傍に寄る事さえ出来ず距離を詰めるだけで圧倒的質量差による恐怖を覚え近づけない。


 オリジンが皆地下格納庫に収納されているのは彼らが暴走した場合のリスク管理による物という理由もあるが、一番の理由は近寄るだけで人は畏れ苦しむからだ。

 外宇宙に蔓延る邪悪なる存在。

 それらと戦う力を持つオリジンは、それら同様の化物である為、人は彼女達に嫌悪感か恐怖を抱く。


 そんなオリジンの一柱、ゴモリー・オリジンの住処に、クロスは何故か訓練に来ていた。


「どうしてと言われてもさ、ここなら幾らでも訓練出来るだろ?」

「地上にもそういう施設は一杯ありますが?」

「あー、もしかして、邪魔だった?」

「いえ、否定します。単純に、困惑しているだけです」

「邪魔じゃないなら居させてくれ」

「構いませんが、理由の説明をお願いしたいです」

「んー。ゴモリーが綺麗だからって理由もあるけれど……」

 ゴモリーの電子回路に小さな刺激が走る。


 デバイスと異なり機人は対人用コミュニケーションツールが一切積まれていない。

 当然、擬似感情プログラムも。


 だがそれは感情がないという訳ではない。

 機人もまた、人と同様心を持っている。

 ただ、それが微弱なだけ。

 微弱だからこそ、ゴモリーは自分で自分に驚いていた。


 羞恥と驚き、そして喜びが混じるなんて高等で複雑な感情が、一瞬でも自分に宿った事が……。


「女泣かせというのは、きっとクロス様の為にある言葉なんでしょうね」

「え!? 一体何の話!?」

「こちらの話です。それで、クロス様がこちらにいらっしゃった理由を尋ねても宜しいでしょうか?」

「あー……その、な。本音を言うと、ちょっと居づらいんだよ。誰かがいる場所が。こう……どうやっても気を使われる事になるから……」


 今クロス達と縁がある女性は皆、クロスの事を大切に想っている。

 それこそ、一目見ればクロスが傷付いているとわかる程に。

 擬似感情プログラムを持つ機人達も同様である。

 傷心といった精神不安のステータスを一目で認識する為の物が擬似感情プログラムの必要性であるのだから。


 そして心配されるが故に、クロスは逆に辛く感じていた。

 つまり、同情されるのが嫌だから、クロスはここに逃げて来た。

 クロス以外誰も来れない、このゴモリー・オリジンの格納庫に。


「その感情の理解は、私には難しいです。ですが、外にいる私のデバイスからその方がクロス様の為になると聞きました。であれば、何も言う事はありません。……私としても、嬉しくない訳がないので」

「おっ。珍しいね。オリジンちゃんがデレてくれるのか」

「オリジンちゃんって……」

「いや、普段のゴモリーちゃんは割かしデレてくれるからさ」

「何をしているのでしょうかね、普段の私は。……いえ、データとしては全て共有しているのでアレも私ではあるのですが……」

「ま、そんな訳で悪いんだけどもう少し訓練させて貰うよ。ついでに何かアドバイスとかあれば嬉しいかな」

 そう言って、クロスはトレイターをゴモリーに見せた。

「……それは、少々難しいですね。ノウハウが通用しない場合機人は限りなく無力ですので。ですが……幾つか疑問はあります。どうにも、そのトレイターと呼ばれる武器は少々以上に物理法則を無視している様ですので」

「まあ、巨大化したりしてるもんな」

「いえ、質量の変化程度なら別に誤差です。私も情報密度の圧縮という方法で本来以上の質量がありますので」

「んじゃ、何が気になるんだ?」

「一つは個体の分裂。もう一つは存在証明です」

「えっと、詳しく……いや、わかりやすく」

「えっと、一つ目はどういう原理で分裂しているのかという事と、分裂出来るならどの位まで分裂出来るのかという疑問ですね」

「ああ……確かに言われたらおかしいわな」

「もう一つは、一体何がトレイターたらしめる要素なのかという疑問ですね。分裂した場合どちらが本体? 折れたりした場合は? そもそもトレイターの本体とは一体何なのか? そういう疑問です」

「んー……難しいな。もらった情報の中にはそれの答えになりそうな物ないし。……んじゃ、試してみるか。ゴモリー、手伝ってくれる?」

「了解です」

 そう答え、クロスとゴモリーはトレイターの性能チェックを始めた。





 それは同情や気を使ったとも言える。

 だけど、一番の理由ではない。

 彼女達がそれを行った一番の理由は……それをクロスに触れさせたくなかったからだ。


 だから、傷心や疲労を建前にしてクロスとついでにエリーを休ませ、自分達がそれを受け持つと決めた。

 相手が本物の精神異常者で尚且つ人でなしの外道だったからこそ、メリーは自分が最も相応しいのだと考えた。


 クロスが見つけて来た怪しき組織の情報。

 その情報を精査した結果……その組織がクロスが追っていたギィの敵とは異なると判明する。

 だが、まるっきり無関係という訳ではなかった。


 その組織は、行っている事は全く違うものの同系統の技術を持ち、そして元々追っていた組織よりもはるかに巨大で大きな資金力を持っている。

 つまり……スポンサー側。

 元々追っていた組織に資金や技術を提供し、ノウハウを集めていた組織。

 その組織の名前は、『愛しき花嫁サラザール』。

 世間一般の観点で言えば、元々追っていた組織なんて目でもない程の最低最悪な集団である。


 当然の事ながらその組織は悪と断言出来る為、非常に気持ち良く潰せる。

 そしてスポンサーである以上追っている組織の情報もほぼ確実に手に入る。

 始まりの一歩として見れば最高の展開と言えるだろう。


 ただ一点、大きな問題があった。

 その組織が思ったよりも大分……相当……いや、別次元で性質が悪かったという問題が。


 具体的に言えば、クロス過保護隊であるメリー、メディール、ソフィアが揃ってクロスに情報を隠す様決めた位。

 ただでさえ心に傷を負ったクロスには、とても見せられない。

 ただでさえクロスが最も嫌う事をしているというのに、その上であまりにも内容が冒涜的であり、猟奇的。

 そんな情報が盛り沢山と出て来てしまって……だからメリーは、自分達でケリを付けると決めざるを得なかった。


 傷心中のクロスを慰めるついでにあわよくば……なんて暗躍しようとメリーは考えていたのだが……クロスの為、泣く泣く我慢した。

 そのままメディールとソフィアの二人を連れ、その組織を潰しに向かった。

 外道の相手は外道で良い。

 そんな理由で、メリーはお供の二人を彼女達にした。



ありがとうございました。

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