バンディード・キングス2
受付に向かい手続きを済ませると、クロス達は地図を渡されルールの詳細を聞いた。
基本的には、範囲内から出ずに黄金を探す。
タイムアップ時に黄金を重量的に最も多く集めた者が勝者となる。
略奪を含め多くの悪事が正当化されるが防具や食料など命に関わる物は奪わない。
イカサマ等の不正防止や調査、ギブアップの受付等々雑事の為に多数のスタッフが配置されており彼らに手を出す事は厳禁。
ルール説明はただそれだけ。
想像以上に短い物だった。
というか、参加者の平均知能を考えたらにこれ以上複雑な説明は出来ないといった方が正しいだろう。
たったこれだけでさえ、既に理解出来ず困っている蛮族もいるのだから。
ルール説明を受けた後、近くのゴロツキに睨まれるのを無視しながらクロス達は開始時間まで暇を潰していた。
睨んで来る理由の半数は彼らの生態から。
クロス達を嫌悪しているのではなく、全方位に悪意を飛ばす。
彼らロクデナシゴロツキーズは周囲の人間を威嚇し自分を大きく見せる特性を持っていた。
それが意味のあるかどうかはおいておいて、そういう生態だから仕方がない。
故に対処する必要はなく、無視で良い。
実際にちょっかいかけて来たらまた話は違うが。
もう半数は嫉妬の炎。
明らかにレベルの違い女性に囲まれたクロスとヴィラに嫉妬するというのはある種当然の事と言えるだろう。
だがそれよりも強いのは、女性達からステラへの嫉妬の方だった。
ゴロツキの中には当然女性もいるのだが、彼女達は生きる為、強くなる為、己が欲の為自らの容姿は二の次としている。
わかりやすく言えば、彼女達にはお洒落なんてする余裕がなかった。
そんな中にこれでもかと洒落た姿に綺麗な肌で来られたら、そりゃ怒りも増すに決まっている。
「と言っても、本当に理不尽なのはエリーなんだけどな」
そう言ってクロスは頬をぽりっと掻く。
ステラ達は正しく、美しくあろうと努力をしている。
メリーやメディール、ソフィアは元々化粧をしており……いやクロスの前では化粧をしていると呼ぶ方が正しいが、とりあえず身なりを整えている。
ステラも最低限だが最近は化粧を覚えた。
理由は言うまでもない。
アナスタシアの場合はどうかクロスは知らないが、きっと努力はしているだろう。
対してエリーなのだが、彼女は化粧なんて全くしない。
理由は単純で、邪魔だから。
エリーがおめかしをする時は貴族的な行事がある時位だろう。
戦闘を含む日常……というか食事の時に不便となる化粧をエリーは好まず、どうしてもという時だけ化粧をしている。
元々はそんな事なかったのだがクロスの影響でどんどん化粧方面に手を抜き出し、最近では基礎化粧品さえ使わず顔を洗うのでさえ備え付けの石鹸で済ませる様になってしまった。
それでも何とかなっているのは、精神面が本体という精霊の特性を最大限に利用しているからである。
「おや、私がどうかしました?」
エリーの言葉にクロスは誤魔化す様に首を振った。
「いや何でもないさ。所で感情がきつくないか? 少し離れる?」
精霊は魔力で感情を読み取れる。
つまり、普通では見えない分の感情まで全部見えているという事。
それでこれだけの悪意に晒されるのは辛いだろうとクロスは考えた。
まあ、エリーはそんなに弱くないのだが。
「私は問題ないですけどアナスタシアさんが辛いかもしれませんね」
「わかった」
それだけ答え、クロスは撤退のハンドサインを出す。
すぐ皆はそれに合わせ、受付付近から距離を取り出した。
それを見て、クロス達が怯えて逃げたと感じたらしく周囲の魔物達は「ざまあみろ」や「なっさけないねぇ」等々口汚く罵りだす。
そんな言葉も無視し、クロス達は少しでも落ち着ける様悪意の少ない場所まで移動した。
流石に誰もいない場所はないものの、比較的静かな場所を見かけたのでクロス達はそこに移動した。
周囲に他のチームがいない訳ではない。
ただ、周囲のチームは彼らは誰もクロス達の方を見ていなかった。
仲間内でひそひそと話していたり、砥石を出してニヤニヤしながら武器を磨いたり、ぶつぶつと木に話しかけていたり。
どうしてこの辺りが静かなのか、それを見たらすぐに理解出来る。
あまりにも不気味過ぎて真っ当なロクデナシはこの辺りによって来ようとしないからだ。
寄ってくるのは同類の何かヤバいの位だろう。
とは言え、クロス達にとっては悪意を向けられるよりは無関心でいられる方が遥かに楽なのは確かだった。
ヴィラは遥か昔から、この企画バンディード・キングスの事を知っていた。
ここを優勝する事で秘奥の地に近づける事も含めて。
だけど、参加はしなかった。
単純に勝てないと諦めていたからだ。
ヴィラは自分の実力が低いとは思っていない。
確かに特別という程強くなく、このパーティー内でも自分の実力は下から数えた方が多い。
手札の多さとか隠し技の問題とか強い役割とかそういう事まで考えたら一番役立たずな可能性もある。
それでも、粘り強さという天才にはない武器を持ち、また凡夫ならではの立ち回りも得意としている。
魔剣という武器を多く所持している。
そう、実力だけなら問題はない。
この企画に参加して蹂躙出来る位にヴィラは強いという自負を持っていた。
問題なのは、この企画に参加を諦めた理由はそこでなく、もっと根本的な問題。
この企画の参加は、チーム単位である。
つまり、ヴィラだけではどうにもならないという事だ。
一応だが、ヴィラは組織に所属している。
魔剣収集を主とする組織であり、そこの実働部隊。
だが組織の繋がりはそれほど強くなく、そして例え繋がりがあったとしてもこんな頭が悪い見世物に参加したいと思う者はいなかった。
だから、諦めていたのだ。
ここを攻略すれば秘奥の地が近づくと知りながらも、毎年冷笑気味に。
だが、今は違う。
周囲の荒くれ者共とは桁が違う実力を持ち、同時に高い探知能力と応用性を持った仲間がいる。
というか先代魔王をぶっ殺したなんてヤバい奴らが揃っている。
はっきり言って負けはないだろう。
運悪く負ける事はあるかもしれないが、逆に言えば運要素以外で負けはない位安定している。
そう楽観できる位には彼らは頼りになるとヴィラは思っていた。
そんな時だった。
独りの男が近づいて来たのは。
初見での感想は『やたらと雰囲気がある』だった。
そこらへんの有象無象とは違い、彼の周りは空気が重いと感じる程の重圧がある。
金属鎧を身に付けず、全身の大半が黒一色。
そして頭部から口元まで多い隠すその服装はどこか暗殺者を彷彿とさせる。
そんな男は、音もなく、だがかなりの速度でこちらに近づいて、そしてじっと、クロスの方を見つめて来た。
「貴様が白夜か?」
それは、低くそれでいて刃の様に鋭い声だった。
その声を聞き、クロスはニヤっと笑う。
威嚇する様に、そして遊ぶ様に。
「おう。白夜クロスだ。俺に何か用かい?」
「そうか……ここで会ったが百年目という奴だ。貴様には俺の望みを叶えて貰おう」
そう言葉にし、男は無音のまま短刀を取り出した。
その動作には一切の邪気はなく、殺意も感じない。
完全なる無味。
男の存在がそこにおらず虚無とさえ感じる程。
だからこそ、危険であると判断出来る。
本当の暗殺者はそのギリギリまで殺意を感じさせないのだから。
クロスを庇おうとソフィアとステラが動こうとする。
それをクロスは止めた。
「そんで、あんたの望みってのは何だい? 悪いがデートならお断りだ。そういう相手なら他を探してくれ」
ピリピリする肌の空気を感じながら、クロスは不敵な笑みを浮かべ答える。
恐ろしいからこそ虚勢を張る。
だがそれでも、大した事のないゴロツキの敵意なんて温い空気よりはまだ心地よかった。
「知れた事。貴様の名を刻んでもらう。ただそれだけだ」
そう言葉にし、男は短刀を持ちクロスに一歩ずつ、近づいて来た。
そんな様子を遠目に、エリーとアナスタシアは仲良く揃って首を傾げた。
空気は、明らかに冷え切っている。
戦う前の一瞬即発に近い。
男の放ち続ける重圧は並ではなく、強者であると認識出来る。
これは、クロスに襲い掛かる凶刃である。
そう認識出来るのだが……男の魔力からは、全く別の感情がずっと滲み出ていた。
それは精霊であるエリーとアナスタシアにしか認識出来ない。
だからこそ、彼女達は揃って仲良く可愛らしく首を傾げていた。
「んー?」
「あれー?」
何度首を傾げても、答えは変わらない。
男の魔力から戦意は一切感じず、そこにあるのは純粋な好意のみ。
当然、LOVEではなくLIKEの方。
つまり……。
男はクロスの前により、そしてその短刀を――クロスに差し出した。
「これに名を刻んでもらおうか。これより羽ばたくであろう、貴様の名をな!」
男の短刀は鞘に収まったままで、しかも向けているのは持ち手の方。
ついでとばかりに短刀と一緒にペンまで持っていた。
ここでようやく、クロスも何か変な事に気づきだした。
「……はい?」
「あークロスさんクロスさん」
エリーは静かに、困った顔でクロスに声をかけた。
「あー。何だいエリーさんや」
「どうもこの方、ただのファンみたいです」
「……まじで?」
クロスは男の姿を見る。
男は首を傾げた。
「最初から、そう言っているではないか」
当たり前の様に答え不思議そうにする男。
それを見て、今度はクロスの方が大きく首を傾げた。
「……流石は白夜クロス。貴様の名はこの我が未来永劫語り継ごうではないか」
男はサインを刻んでもらった短刀をキラキラした瞳で見ながら呟いた。
とは言え、ファンからしたらそれは本当に嬉しい事だろう。
木製の持ち手に名前だけでなく新規の掘り込みを加え、ペンで墨入れしデザインを描き足した世界に一本だけの物。
しかもそのデザインもプロの物程ではないがそういう装飾であると見れる程。
器用な上に何度も練習したからこそのサービスである。
尚クロスとしては女の子用に練習した物である為少々以上に複雑な気持ちとなっていた。
「……まさかマジでただのファンだとは。手遅れになる前で良かったよ。本当に」
そう言ってクロスは後頭部を掻いた。
それが、間一髪であったのは間違いのない事だった。
アナスタシアとエリー以外の誰が暴走し男を排除してもおかしくなかったのだから。
その位、男の実力は高い物であった。
だからこそ、一つ疑問が残る。
それは……。
「聞きたいんだけどさ、あんたの実力は何となく理解出来る。それでどうして俺のファンなんだ?」
実力だけならクロスやヴィラと五分。
隠密や暗殺が専門分野であるとは思うが単純な実力にそう差はないと思われる。
だったら憧れるという理由はないとクロスは考えた。
「……我が姿は世間に晒せぬ。未来永劫な」
重苦しく、男はそう言葉にした。
「それは一体どういう意味だ?」
「……貴様は光だ。我ら闇と異なり世界を照らす。白夜。正しく相応しい名である。我らが闇であえ、貴様という光に溺れるのだから――」
そう言って、ふっと笑う男に首を傾げるクロス。
エリーは必死に考え込み、その言葉を雰囲気とニュアンス、そして魔力から解読した。
「えっと……クロスさんみたいに目立つのが得意じゃない……って感じですか?」
エリーの言葉に男は『だから最初からそう言っているだろう』みたいな雰囲気を醸し出し首を傾げた。
「……ああ。深い意味はなかったのか」
そう呟き、クロスは苦笑した。
「我らは劇を好む。世界には悲しきリアルが溢れ、そして我らはその道から逃れられぬ。故に偽りなき光の劇は我らが耳より我らを癒す。世界とは、美しい物であると――」
「えっと……私達は語られている……詩とか演劇が好きで、そこで主役になった物語を見てからファンです。これからも頑張って下さい……的な感じです?」
エリーの翻訳を肯定する様に、男はドヤ顔をした。
「ああ。そか。ま、憧れられるのは悪い気分じゃない。あんたの名前は?」
男はびくっと反応した。
「わ、我が名は雅印。ただの雅印だ」
「そか。よろしくガイン。知ってると思うがクロス。ただの冒険者だ」
そう言ってクロスは握手を申し込む。
我印はあたふたしながらもその手を握り、嬉しそうな空気を醸し出した。
とは言えそれがわかるのは精霊である二体だけで、残りから見れば相変わらず暗殺者のそれだったが。
ちらっと背後を見た後、我印は呟いた。
「……名残惜しいがそろそろ時間だ。運命はもうすぐだ。用心しろ。始まった瞬間に――」
何かの助言であるという気配を察し、クロスは手を前に出しその発言を遮った。
「おっと。それ以上はなしだ。それ以上は無粋だぜ?」
「――む。失礼した。やはり貴様は光だ。我らにとってのな。……すぐ脱落するようなつまらぬ事はない様、努努用心すると良い――」
そう言い残し、我印はすーっと静かに、その場を後にした。
「最後の言葉は、『すぐ脱落したら寂しいです。一緒に競技を楽しみましょう』ですかねぇ」
そうエリーが呟いた瞬間、大砲の音が耳を襲った。
周囲から同時に何十発もの砲弾が上空に放たれる。
激しい爆音と共に、溢れる様な歓声と叫び声が轟く。
それこそが、開幕の号砲だった。
歓声は即座に怒声へと代わり、そして周囲に氾濫していく。
荒くれ者は、即座に暴動へと変質を遂げた。
あちらでもこちらでも殴り合いの殺し合いが繰り広げられた。
そういう企画ではないのだが……これもある種醍醐味と言えるだろう。
自分の実力も知らない馬鹿共が『開幕で全員のせば俺が優勝』なんて浅はかな考えで暴れ出すのは、悲しい事に毎年の恒例行事であった。
「あーこれの事かぁ……」
呟き苦笑するクロス。
そして当然の様に、容姿的な意味で目立つクロス達は複数のチームに囲まれるなんて状況に陥っていた。
ありがとうございました。




