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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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冒険者活動再開


『ああそうそう。エリーから伝言なんだけどさー。しばらくお暇を頂きます、だってさ』

 クロスにわざわざ用意させた特別な朝食を食べながら、メリーはご機嫌な様子でそう言葉にした。

『ありゃ? それは別に良いけど、エリーに何かあったっぽい?』

『何かあったっぽいねー。だけどなんか内緒にして動いているから見て見ぬフリしてる』

『そかそか。メリーさんや、エリーが困ってそうなら助けてあげてくれない?』

『そりゃもちろん。メリーさんは可愛いエリーの為ならえんやこらですとも』

 そう言葉にしてメリーが笑うと、その笑顔に釣られクロスも笑う。


 クロスに黙っていて欲しいとエリーに頼まれた秘密を隠しながら、伝えるべき事を伝えメリーはそのまま帰っていった。




 エリーの事は気になるが、それはそれとしてクロスは己の為すべき事を為す為動き出す。

 クロスが今すべき事、冒険者が為すべき事と言えば……決まっている。

 そう、依頼である。


 本当ならば、冒険者の本は冒険である――なんて答えたい所だが……まあ、それはお話に出てくる冒険者位の物。

 本当の冒険者とは冒険をしない物なんてことわざがある位には堅実さを求める物である。


『くつろぐ歌鳥亭』

 冒険者の為の大衆食堂だが、その安定した味と値段の安さにより引退した冒険者も足しげく通い、更には口コミで冒険者外にまで話題が広がり、今では庶民の味方として知る者ぞ知る地元の名店なんて評価となっている。

 早くて安くてそこそこ美味い。

 特別な事はなく、純粋にただそれだけ。

 だがそのそれだけを完璧に成している店がファサールにここ以外であと何店あるだろうか。

 多くの街民が旅行者にこの店をオススメしないのは、旅行者向けの料理ではないという理由だけでは決してない。


 そんな風に、くつろぐ歌鳥亭は安くて美味い庶民の味方であるのは確かである。

 だが当然それだけではなく、冒険者の活動拠点としても優良店であり、無難かつ優秀に纏まっている。

 訓練施設から武具のレンタル、使い方指導と他店を圧倒する程手厚い初心者支援があり、受注出来る依頼も癖が少なく騙し依頼が非常に少ない。

 依頼だけでなく冒険者もまた実力よりも信頼第一。

 店の依頼も冒険者の質も総じて堅実。

 突出した冒険者こそ他二店に負けているが総合力なら間違いなくここが勝っている。

 逆に、無難で無骨で死に辛いという特徴のこの店では冒険者として大成するのは非常に難しいと言わざるを得ないだろう。




 店に入り、クロスがステラと共に依頼を受けるカウンターに向かおうとするその前に、男がクロスに話しかけて来た。

「あんたはあの時の……」

 そう声をかけられ、クロスは男の姿を見る。

 どこかで見た様な気はするのだが、それがどこかわからなかった。

「どっかで会ったっけ?」

「六番外壁地区……じゃわからんよな。あんたら三体がここに入る時に潰した戦場。あそこにいたんだ」

「あーはいはい! いたいた、あの時の冒険者の一体か! あん時は悪かったな仕事奪っちまって」

「いやいやいやいや! 奪ってなんてそんな。あの時ぶっちゃけ死を覚悟してたんだぞ俺。なのにあんたのおかげで生き延びたしおかげ様で出世も出来た。今じゃ冒険者というだけでなく運営側にも足を突っ込んだって訳さ」

 そう言葉にする男の服装は依頼の受付と同じ物となっていた。

「そりゃおめでとう」

「ありがとよ。という訳でその礼って訳じゃないが……あんた、依頼を受けに来たんだろ?」

「うん」

「どういう依頼が受けたいか言ってくれたらこっちで探すぞ? ……こっそり明日張り出す奴からもさ」

 後半は周りに聞こえない様男は小声で囁く様そう言った。

「良いのかい?」

「あんたにゃ命の恩がある。それにさ、その位しても問題ない位に認められてんだよ俺は」

「なるほどねぇ。だったら頼むよ。と言っても俺が頼むのはそう難しい事じゃない。出来るだけ評価が高い依頼か、面白そうな依頼を回してくれ」

「へ?割の良いじゃなくて?」

「報酬はほどほどあれば十分だ」

「えぇ……いや、そうか。あんたの実力的にはそうなるかぁ。とは言え……うーん。俺はあんたらの実力がやべぇって知ってるけど……それとこれとはなぁ……いち実績と信用主義だから……」

「出来る限りで評価上がりそうで変な依頼を頼むよ」

「ん。探してみるけどあまり期待しないでくれよ。評価……評価がなぁ……」

 そう言いながら、男は困った顔で二階に登って行った。


「ちょいと悪い事頼んだかなぁ……」

 クロスは後頭部を掻き、後ろを見る。

 後ろでステラが背の高い男に絡まれ困った顔をしていた。


「ステラ、どうした?」

 クロスが近くによるとステラは安堵の息を漏らし、傍にいた男は若干顔を顰めた。

「ああ……いや、こんな場所で佇んでいたから何か困りごとかと思って……申し訳ない。連れがいるとは……」

 男は言い訳がましい態度で、申し訳なさそうにクロスとステラにそう告げた。

「そうかい、心配させて悪かったな。とは言え、それは少し酷いんじゃないかな? ステラも立派な冒険者だぞ」

「本当に? それだけ可愛いのに……っと、いや失礼。外見は関係なかったね」

「侮る程弱くはないぞ。外見が可愛いのは認めるけどな」

 そうクロスが言うと、ステラは照れ困った様な顔をした。


「……僕の名前はレイオス。ここでは中堅かそれより少し上位の冒険者になるかな。よければ君達の事を教えて貰っても?」

「ああ。俺はクロス、んでこっちがステラ。ここでは依頼回数ゼロだがまあそれなりの腕はあると思うよ」

「そうか。よろしくクロス」

 そう言って、レイオスは手を出して来る。

 クロスはその手を取り握手をする。


 何となく、敵意の様な物を感じたが気にしない事にした。

 どういう感情を彼が持っているか何となくわかり、その上でそれが悪意ではなく、敵意の辺り悪い奴ではないと理解出来るからだ。


「ステラさんも……」

 レイオスはステラに手を伸ばすがステラはその手を取らない。

 いたたまれない空気の中、レイオスは気まずそうにその手を戻した。


「ま、まあ何かあったら手を貸すから。それじゃ。ごめんね邪魔して……」

 レイオスはそのまま、何とも言えない後味悪そうな顔のまますごすごと去っていった。


「……んでステラ。何かあった?」

「ううん。ただ……」

「ただ?」

「……何でもない。本当に大した事じゃないよ。……ちょっとうっとおしかっただけ」

 その言葉にクロスは苦笑する事しか出来なかった。


 ステラは誰からも愛情を注がれず生まれ生きた自分では、男女の付き合いという物を理解出来ない存在であると認識している。

 だから、今までそういう目線を全く気にもしていなかった。


 していなかったから、男からそういった異性的な目で見られたという事に自分が気づけたのは、少しだけ意外な事だった。

 そして同時に、それは思ったよりも不快な事だった。

 クロス以外にそういう目で見らえるのは、明確に嫌だと感じられる位には。


 ――クロスは、私の事を恋愛対象としてみてくれてる?

 そう尋ねる勇気、ステラにはなかった。


「おまたせ! 真っ当な依頼と真っ当でない依頼と派手な依頼を見繕って来たぜ! ……って、何かあった?」

 どこか困った顔をしている様なクロスに男はそう尋ねた。

「いんにゃ別に。んじゃ見せてくれるかい?」

 男はクロスに紙を三枚手渡した。

「あいよ。コピー取ってるからそのまま持ってってくれても構わんぜ。受ける時はその紙持って俺か受付のとこに来てくれ。……ぶっちゃけどれも数に制限ないか人気ないかの依頼だから急がなくても良いぞ」

「おう。悪いね贔屓してもらって。んじゃステラ、飲み物でも飲みながら一緒に見てみようぜ」

 そのクロスの言葉にステラは頷き、飲み物を注文にクロスと共に席に着く。


 オレンジジュースなんてわざわざ頼んで、ちょっと女の子らしく見られたいなんて思う自分が、ステラには少しだけ気持ち悪く感じた。




 渡された依頼は三つ。

 一つ目は、すぐに出来るけど準備を整えた方が楽で報酬が増える物。

 報酬は現物支給のみでかつ明らかに塩漬けされていた厄介事らしき依頼。


 二つ目は、開始時間が決まっていてしばらくは準備さえ出来ないどうしようもない物。

 冒険者の依頼らしくなく、しかも主役がステラの依頼。


 そして……今すぐ出来るけどとにかく胡散臭く感じる物。


 この三つ。

 全部受ける事を前提として、前者二つは今はどうしようもないから後回しにして最後の胡散臭い依頼についてをクロスは考える事にした。


 依頼名は――『聖剣の守護』。


 小さな村、アグラズの村長による依頼。

 村に護るとされる伝説の聖剣が何者かに狙われているらしい。

 とりあえず期間は三日位、その間聖剣を守護しつつ余力があるなら調査。

 延長は状況次第でだが報酬の上増しはほとんどない。


 依頼書に書かれた情報はこの四行だけだった。

「まあ……何と言うか冒険者らしい仕事だから受けるけど……怪しい所多いなぁ本当」

 そう呟きクロスは苦笑する。

 

「具体的にはどの辺り?」

 ステラの質問にクロスは悩む仕草を見せた。

「どの辺りと言われても……全部?」

「例えば?」

「そうだな……まず、俺達に依頼が回っていきてる部分かな」

「どういう事?」

「俺達って一度もここでは依頼を受けていないから信用なんて欠片もない。その俺達にこういう大切な物を守る依頼が来るってかなり変だぞ」

「ああ……失敗した時とか、裏切った時とかの事考えたらそうだよね」

「そう。出来る出来ない以前に、土壇場で裏切ったり、そもそも泥棒かもしれないなんて新入りにこんな依頼普通任せない。だから通常こういう依頼は中堅とか実力はなくとも信用される冒険者に回される……んだけど、何故かたった二体で新入りの俺達に回って来ている。明らかになーんかあるだろ」

「ふむふむ。他には?」

「報酬が露骨に安い、これでもかと安い。貧乏だからとかではなく明らかにケチってる。その繋がりか、村の方から村の大切な物を狙われているなんて真剣みを一切感じない。何と言うか……しょうがなく依頼を出してる感さえある」

「ふーん。変な依頼だね」

「極めつけは聖剣だぜ? 聖剣」

 そう、魔剣ではなく、聖剣。

 人間が使う武器である聖剣を敬っているのだから、怪しくない訳がなかった。


 実のところ、こういう風に伝説の武具を持つ村というのは決して珍しい物ではない。

 クロスだってそういう村十や二十見て来ている。

 例え、それら全てが偽物だったとしても。


 ぶっちゃけてた話だが、こういう村に伝わる伝説の武具というのはある種ポピュラーな話と言える。

 そういう、村おこしの道具としての。

 そこそこの剣を用意し、岩とか台座に抜けない様突き刺して、抜いた者だけが使える伝説の剣にするなんてのは魔物世界どころか人間世界でさえ使い古された村おこしの手法だ。


 だから、そういう偽伝説の武具を持つ村は決して珍しくはない。

 あくまで、聖剣でなければだが――。


 そう、それはあり得ない事である。

 聖剣を飾る村。

 人間が使うとさせる伝説の武具、勇者の剣と言い換えても良い。

 そんな魔物にとって悍ましき物が村おこしになる訳がなく、場合によっては人類撲滅派の魔物にあらぬ疑いさえかけ狙われる可能性さえも出てくる。


「聖剣ってさ、ようは人間の村で魔王の遺産を堂々とひけらかす様な物だぜ? めっちゃおかしいだろ?」

「そうだね。でも、そんな怪しさ満点の依頼をクロスは受けるんだよね?」

 ステラの質問に、クロスは頷いた。

「うん」

「なんで?」

「だって、怪しいじゃん」

「うん。だから何で怪しい依頼を受けるの?」

「気になるじゃん」

 ステラはクロスの言葉の意味が良くわからず、少しの間沈黙した。


「……これ、私がおかしいの? クロスがおかしいの?」

「大丈夫。ちゃんと俺がおかしいだけだから」

 そう言ってクロスは楽しそうに笑った。


「あ、もしかしてステラ付き合うのが嫌だった? だったら止めるけど?」

 ステラは首を横に振り微笑む。

 クロスと一緒なら、例え絶望の果てであっても、嫌な訳がなかった。



ありがとうございました。

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