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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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拝啓、檻の中より(後編)


「さて、大分抽象的になるのだがそれは許して欲しい。色々複雑な事情があり、尚且つ私の中にある心底面倒臭い心情もあるから相当曖昧にぼかす。その中で伝えるとすれば……私は相当良い生まれであり、色々と恵まれていた()()()()()()()であったと言えるだろう」

 クロスは、自らを素晴らしいと評するが、それがまるで馬鹿にしている様な口ぶりだった事が少し気掛かりだった。




 リベルは恵まれた家に生まれ、恵まれた容姿、恵まれた才能を持ち、その家では何不自由ない暮らしをしていた。


 神々しい金髪に真っ白く輝かしい肌。

 リベルは生まれた時からどこか作り物の様な美しさがあり、まるでドールの様だった。

 歳を重ねる事に美しさは磨きがかかり、どこか神々しさすら醸し出す程に美しく、まさに絶世の美女となっていた。

 ドレス姿であったのならリベルは姫と呼ばれる程度には気品に溢れていた。


 リベルが優れているのは外見だけではなかった。

 勉学、文学、戦闘訓練……。 

 ありとあらゆる物をリベルは飲み込んでいった。

 幼少時、普通ならどっちつかずとなる程に広く手を伸ばしても、リベルは特に苦を感じず、軽々とその全てをやってのけていた。

 

 そんな何でもこなす天才にしか見えない少女を周りが見れば、期待をしてもしょうがないだろう。

 育ててくれた両親は当然として、リベルの周囲にいた者は皆リベルに多大なる期待を持っていた。

 そんな普通なら潰れる程の大きな期待を背負った幼いリベルだが、それを苦に思った事はなかった。

 何故ならば、自分が特別という自負がありその期待に応える事が絶対に出来ると確信していたからだ。


『私はこんなに特別なのだから、私はきっと凄い事が出来るはずだ』

 そんな根拠のない思い上がりを少女は持ってしまっていた。

 それは若者特有の病気の一種、ただの思い込みに過ぎない。

 つまり……他者と同様に彼女は幼かったのだ。


 とは言え、天才と称された彼女の精神が幼いなどとは誰も思わなかった。

 自分達と違う彼女が『自分は特別』と言うならそうなのだろうと思い、本来なら止めるべき者達もまた、増長する彼女の意思を尊重してしまった。


 そんな彼女の一番の不幸は……その増長された自意識を叶えるだけの能力を持ってしまっていた事に尽きる。

 一般的に言えば、そういう自分は特別なんだと思い込みを持った若者はどこかで壁にぶつかり、そしてその果てに自分を見直す事となる。

 だが、彼女はそんな立ちふさがる壁を軽々と壊す能力を持ってしまっていた。


 だからこそ、彼女は本当の越えられない壁に、本物の悪意に出会うまで幼子の心のまま成長する事が出来ず、ただ自意識を増長させ続けていた。


 成熟したリベルはそのまま先代魔王の残党軍に参加した。

 当時先代が敗れた後魔王は空席であり、多くの力ある陣営が魔王になろうとする群雄割拠の世であった為、選択肢は非常に多かった。

 力の強い陣営、女性だけの陣営、人類を憎む陣営。

 だが、当時のリベルは特に深く考えもせず一番近かった残党軍を選んだ。

 理由は単純、自分ならどこでも上手くやれるし、何なら自分が所属する陣営が勝つなんて根拠のない自信すら持っていた。

 自分のいる場所が勝つなんて考えなのだから、どこに入るのかなんて選ぶ訳がなかった。


 ただ、いくら先代が滅んだ後の残党軍とは言え、力で支配をしていた先代魔王の陣営である。

 弱い訳がなかった。

 才能こそあれど若造でしかないリベルがいきなり上に立つという事はなく、リベルはここで多くの負けを経験もした。

 だが彼女は落ち込まなかった。


 自分では敵わない魔物達、自分よりも上にいる魔物達であっても、努力を重ねれば何時かは手が届くと信じていたからだ。

 実際彼女の才覚で言えばいつか追い抜くというのは十分にあり得た事であり、また残党軍内でもそんな彼女に大いに期待していた。

 僅か数年で最年少幹部になる程度にはリベルは才能があり、同時に期待されていた。


 幹部の仕事は非常に多く、千人単位の部下を率いて隊列を組み、内政外交軍事とその全てを行いつつ社交界等の付き合いもこなさなければならない。

 とは言え、それはリベルにとっては嬉しい誤算でもあった。

 自分より強い魔物も、自分より内政が上手い魔物も、部隊を上手く率いて指示を出す魔物も社交界の交流が得意な魔物もいた。

 だが、その彼らではなくリベルが幹部に選ばれた。


 どれか一つが非常に優れた魔物は多くいたが、リベルはその全てが優れていたからだ。


 幹部となり、あと上にある階級は二つのみ。

 大幹部と、長官。

 たった二つであり、自分がその座に付く事は可能だ。

 そして、ゆくゆくは長官ではなく、魔物達の頂点、魔王となる。

 今代ではないとしても、次代かその次代には自分が魔王になる事は可能だ。

 それだけの才覚はあるという自信をリベルは持っていた。


 そして、そんな時出会ってしまった。

 本物の悪意、絶望の象徴、禍つ風。

 所謂、本物の天才に……リベルが絶対に越えられない壁に遂に巡り合わせてしまった。


 彼女の名前はアウラフィール。

 アウラフィールはリベルの知る中で、最も強大で恐ろしい魔物……いや、化物だった。


 リベルは戦闘で部隊を率いる際、自分が最前列に立ち指示を出すという形を取っていた。

 自分が指示を出せない時には後ろに配置した副官を頼り、それ以外の時には自分が一番槍でかつ部隊の盾となって部下を手足の様に動かす。

 そのように彼女の長所は臨機応変に動ける対応力の高さにあった。


 強い相手の時は自分が囮となり部下達に背後を強襲させる。

 格上過ぎて勝てない相手の時には自分が殿となって退き、他部隊と連携を取る。

 相手が戦略で上位に来るなら時間を使い、相手の戦略が生きない真っ向勝負に持ち込む。

 相手の強みを一早く読み取ってから相手の苦手な分野で勝負するというのが何でも出来るリベルの戦い方であり、実際部隊損傷率も低く格上と思わしき相手も食い破って来た。

 そういった引っ張るタイプのリーダーであったリベルの部隊はいつも士気が高かった。


 高い士気に臨機応変に行動出来、即席で合わせられる優れた部隊。

 だが、そんなものはアウラフィールにとって何の関係もなかった。


 ある日、リベルの部隊は接敵しとある部隊と戦った。

 相手は、昨日までの残党軍の仲間だった。


 味方の離反。 

 それは自分達の戦力や作戦が漏れている事を意味する。

 だが決してそれだけでなくかつての仲間と戦わなければならないという事なのだから心情的にも相当なダメージとなる。

 その時元々組織に対して愛着がないと言う事もありリベルは上手に気持ちを切り替えられていたが、部下達はそうはいかない。

 かつての仲間と戦う事に、殺し合いをする事に対し怯え混乱しない訳がなかった。

 それを宥め纏めようとするリベルだが失敗し、リベルは初めて何も行動出来ずにただ惨めに敗走した。


 とは言え、この程度戦乱の世では良くある事。

 リベルは当然部下達もいちいち引きずるという事はなく、酒でも飲んで寝れば気持ちを切り替えられる。

 本当の問題は、本当の恐怖はこれからだった。

 裏切ったのは彼らだけではなかったからだ。


 戦う度にかつての仲間が出てきて、組織に穴が増えていく。

 それによって生まれるのは組織が弱体化する事への恐怖――ではない。

 多少数が減った程度で崩れる程に残党軍は弱くないからだ。


 多数の離反者が出る事での問題……それは組織内に猜疑心が生まれるという事の方だった。


 昨日はあいつらが裏切ったから次はあいつが裏切るかもしれない。

 あいつと仲良かったからあいつも裏切るかもしれない。

 いや、あいつはもう裏切って俺達をほくそ笑んでるに決まっている。


 そんな疑心暗鬼に火が付いた残党軍の士気は見る見るうちに低下し疑心暗鬼に陥る。

 そしてとうとう……組織のトップ、長官が裏切る()()()()()()なんて理由で幹部を処刑した辺りで、それは致命的な歪みと変わった。


 自分達を信じられないのだから勝ち目などある訳がない。

 戦いにすらならない状況に追い込まれ、完膚なきまでの敗北を突き付けられたリベルはその時、本当の恐怖を理解した。


 手の平で転がされ続け、短期間で組織を自壊に陥れた謀略の天才。

 実際裏切った人数はそう多くない。

 だが、多くが裏切ったという印象を植え付けられたのは非常に大きくその効果は絶大なものだった。

 リベルは生まれて初めて越えられない壁を目の当たりにし……そして心がぽっきりと、やすやすと折れた。


 今まで挫折らしい挫折を経験していないリベルにとって初めての挫折はあまりに刺激が強すぎて……彼女の心は折れたまま歪み、固定して戻らなくなってしまった。


 そんな状況で、リベルにも裏切ってこちらに来ないかという使者が現れた。

 しかもその使者はあろうことかリベルの心をへし折り恐怖に陥れたアウラフィール本人だった。


『私は貴女を高く買っています。貴方の求める役職を用意しましょう。どうか私の部下になってくれませんか?』

 恐怖に打ち震える化物からの甘い甘い熱烈なアプローチは、心が折れてすっかり拗ねてしまったリベルには麻薬の様に心に浸透した。

 その甘い罠に逆らえる程リベルの心は強くなく、リベルは迷わずその手を取った。


『私は騎士になりたいです。魔王様の騎士に』

 既にアウラフィール以外に対抗馬がいない状況となっており、アウラフィールが魔王となるのは確実だった。

 だからそんな事を言うリベルにアウラフィールは微笑み、そして頷いた。

「では、貴女の願いを私は全力で叶えましょう。ですから、私に付いてきてください」

 そういって微笑むアウラフィールの姿はあまりにも大きくて、リベルは自分がいかに矮小であったのかと再確認する事となり、心は更に捩れていった。




 リベルはアウラの陣営に入ってからすっかり変わり果ててしまった。

 やさぐれ卑屈屋となった彼女がかつて皆からちやほやされ自信に溢れていた存在と同じだとは誰も思わないだろう。

 アウラの命令に従わない訳ではない。

 むしろ積極的に命令に従っている位だ。

 だが同時に、リベルは陣営内のアウラに対して快く思っていない者を集めた。

『閣下に対し忠誠を従わせる為に』

 そんな名目でアウラと意見が合わない魔物を率いてリベルは魔王陣営内に一つの勢力を作った。

『いつかクーデターを起こすかもしれないぞ?』

 それはリベルがアウラに対してそういう脅しを暗に示していると言っても良い。


 それに対してアウラは何も言わない。

 リベルの考えを全て理解した上で、可愛らしい悪戯と称して放置している。


 アウラはリベルの内心までしっかり見抜いていた。


 反抗しているフリでもしなければ膨れ上がった自我に残された小さなプライドが保てない。

 だが実際にクーデターを起こす勇気なんてある訳がなく、もしもそういう動きとなればリベルは迷わずアウラに報告する。

 犬がお腹を見せるが如く服従しなければ生きられないと同時に、自分は本当は反抗する事が出来るんだぞと主張し……いや、思い込まなければ生きていけない。


 そんな矮小かつ惨めなリベルはアウラから見れば、敵ですらなく従順な犬っころでしかない。

 そしてアウラが自分の事をそう思っているとわかるからこそ、リベルはより一層惨めな気分にさせられた。


「……私の中身はこんなものだ。ちっぽけなプライドの為にクーデターごっこをする惨めな幼子。心が折れた夢の残骸。それが今の存在する価値があるのか甚だ疑問の残る弱い私だ」

 そう言葉にするリベルはいつもの自虐的な表情を浮かべていた。


「……そか。すまんな。才能なんて持った事がないからどう辛いかわからんし、慰める様な器用な事も出来ん」

 クロスはそう言葉にした。

「……罵ってくれても構わないぞ? いや、むしろそれを望んでいるのかもしれないな」

「……苦しんでいる女性をいたぶるなんて悪趣味な事をする程落ちぶれていないぞ」

「そうかい」

「でもさ、一つ良いか?」

「なんだい?」

「……話に俺、出てきてなくね? 俺が嫉妬される理由あるか?」

「だから最初から言っているだろう。ただの逆恨みだって」

 そう言って、リベルはクロスが妬ましくて仕方がない理由を話し出した。




 恵まれた状況、優れた才能。

 それを持った上で何も為せず、より優れた者に打ち倒され、ただ心が折れるだけとなり自虐的と成り果てたリベル。


 そんなリベルはクロスが転生した事を知り、心の底から怒りに震えた。

 何故ならば、クロスは自分と逆だからだ。


 ごく一般的な生まれであり、大して優れた才能を持たない上に文化的劣等種である人間。

 そんなクロスが魔王を討伐する一人となり最上位の称号の一つ、『賢者』の称号を人間という敵対勢力でありながら認定された。


 自分よりも愚かで惨めな存在が、自分が絶対に手に入らない名誉と称号を持っている。

 それはリベルにとってどうしても我慢の出来ない部分、したくない部分だった。


 これが自分より優れた者、アウラやグリュールなら全然納得出来る。

 彼らは自分なんかが追い付ける存在ではなく、天高くに位置する偉大なる御方々だからだ。

 だがただの人間であり、またただ勇者についてきただけのクロスがそう称される事が許せる訳がない。


 もし生まれが違えば、自分がその位置にいたはずだ。

 いや本当は自分がその称号と名誉を受け取るのにふさわしいんだ。


 そんなありもしない可能性を考え浅ましく醜い感情に塗りつぶされる。

 そんな自分が、リベルは大嫌いだった。


 これが死人であるならまだ良かった。

 死人であるなら嫉妬する理由はない。

 だが、クロスは生き返った。

 しかもこちら側の魔物として。

 その事に対し、リベルが納得出来る訳がなかった。


 結論で言えば、自分より劣ったクロスがちやほやされるのが嫌で気に入らない。

 だからクロスが嫌い。

 ついでに言えば、そのちやほやされるのは自分だったはずだ。

 そう考える自分が死ぬ程嫌い。

 つまり簡潔にまとめると……ただの嫉妬で醜い八つ当たりである。


 三角座りをして俯きながらリベルは呟いた。

「……どうだ醜いだろう? 君はただの八つ当たりで私に馬鹿にされ続けたんだ。憎いだろ?」

 そんな言葉にクロスは平然と微笑み、首を横に振った。

「いや別に」

「……どうしてだい? 君が博愛主義者だからか?」

「いや。可愛くて綺麗な子に構って貰えるのは嬉しいなーって。まあ辛そうではあったから何か罪悪感はあったけど」

「罪悪感?」

「俺の所為で嫌な思いをさせるのは嫌だなーって。せっかくこんな綺麗なんだから笑っていて欲しいじゃん」

「……それを本気で言っているんだから……変な奴だよな」

「よく言われるよ。俺としてはかわいこちゃんに笑って欲しいってのは当たり前な事なんだけどな」

「……褒められるのは容姿だけかって気持ちになる」

「それ以外も何でも出来るじゃん。褒めまくろうか?」

「お世辞言われるのは趣味じゃない。……確かに何でも出来る気はするが……それは気のせいだ。私はもう羽ばたけない。地に落ちた虫でしかいられないんだ」

「上に行きたいなら手を貸そうか?」

「……余計惨めになるから止めてくれ」

「そか。……ごめんな、何も出来ないで」

 そう言ってクロスはリベルと同じ格好をして、天井を見つめた。


「実はな、俺がリベルが何をしても嫌いになれなかった理由があるんだわ」

「……それは一体?」

「自虐になるからあまり言いたくないんだけどさ……誰とも話せない事に比べたら、例え嫌がられても誰かと話せた方が幸せを感じるんだ。……一人は辛いからさ」

 クロスらしからぬ言葉。

 だからこそ、それはクロスの心の奥にある本心だった。


「……そうか。君はずっと……」

 それ以上リベルは言葉を紡げなかった。


 リベルも魔王討伐後のクロスの生涯は知っている。

 人間達にはめられ、たった一人山の上で暮らし、最後まで誰とも話す事なく一人でこの世を去った。

 その事に対してクロスは一切恨み言を言っていない。

 だから気にしてないかと思っていたが……そんな事ある訳がなかった。

 誰かを恨まないクロスであるからこそ、その苦しみは孤独への恐怖という形でクロスの心に残ってしまっていた。


 いい加減、リベルも気づいている。

 クロスの人生は妬む様な物ではなく、むしろ誰よりも恵まれていないものだったと。


 むしろその恵まれていない人生、誰にも認めて貰えていないにも関わらず人類の平和の為に行動をし続けた。

 魔王を倒した後の非道な行いについても不満を言わず受け入れ、最後まで静かに不運なまま生涯を終えた。

 その高潔さをも魔物達が評価したからこそ、最上位の称号『賢者』と彼を呼んだ。

 クロスが好きであった勇者達を、色の違う個性的な面々を纏めあげた功績により『虹』という文字を付け加えて。


 いい加減リベルもわかっている。

 自分が妬み怨む様な相手ではないという事を。


「……一つ、君に頼みたい事が出来た」

 そうリベルが言うと、クロスは目を輝かせた。

「何だ? 何でも言ってくれ」

「……僕は君が苦手だ」

 クロスは眉をハの字に変えしょんぼりした。

「そか……」

「だからさ……君に慣れる様に、嫉妬しないでいられる様に時々話しかけてくれないか?」

「……良いのか? 嫌だろ?」

「……慣れて来たのかな。そこまで嫌じゃない。それに……君と仲良くした方が僕も得だしな。……ああ。仲良くってのは情勢とかそういう意味であり、決して恋愛的な意味ではないよ?」

「ありゃ残念。まあそれでも、綺麗な子に話しかけてくれって言われるのは嬉しいもんがあるね。そのお願い喜んで受けましょう」

 そう言った後立ち上がり、仰々しく頭を下げるクロスが何だか面白くて、リベルはくすりと笑って見せた。


「ああもう一つ。君に尋ねたい事があるんだけど」

「ん? 何だ?」

「君は魔法が使えなかったはずだろう?」

「ああ。無色の魔力は生み出せる様になったけど有色はまだだし、そもそも魔法とか習った事がない」

「その割には、私に魔力を送る時やけによどみなく右腕に魔力を集中出来ていた。あれはどうして?」

「ああ。魔法は使えないけど生前ちょっとした小技として――」

 リベルは慌ててクロスの口を手で遮った。

「まずい。ホワイトリリィさんの感情に恐怖が宿った」

「……どういう意味だ?」

「私の魔力感知は感情が読み取れるけど状況が見える訳じゃない。だが……まあ彼女に危機が迫っていると思えば間違いないだろう。動けるか?」

 クロスは頷いた。

「おかげ様で絶好調だ」

「なら良かった。牢を壊してすぐに彼女の元に向かう」

 クロスは再度頷いた。


「せっかくだし景気付けに派手に行こう。ばーんと派手に壊してくれないか?」

 クロスの言葉にリベルは苦笑いを浮かべた。

「……ま、どうせ壊せばすぐ見つかるし良いだろう。オーダー了承した」

 そう言ってリベルはそっと鉄格子に触れる。

 ぱきんと、薄いガラスが割れる様な音が響く。

 だが、鉄格子には何の変化もない。

 数秒後、ぱきんと再度同じ音が響いた。


 ぱきん、ぱきんと感覚が短くなりながら何度も何度もその音が響き……その音が十を超えた辺りで、きゅぃいいんと何かが溜まる様な音に変わり鉄格子が白く輝いた。

「少し離れてくれ」

 リベルの言葉に従いクロスは鉄格子から距離を取る。

 その数秒後に、鉄格子はまるでそのものが爆弾であるかのように爆発した。

 周囲に眩い白き光を放ち、轟音を響かせる。

 光りが落ち着きクロスがその状況を見た時には、鉄格子は全て消滅し跡形すら残っていなかった。


「わあお。何したんだい?」

「障壁を暴走させて崩壊させた。破裂するような形で。その障壁が強固であればあるほど破裂の勢いは増す。まあ相応に強い障壁だったみたいだ。……急ごう、こっちだ」

 そう言って走り出すリベルの背をクロスは追い掛けた。


ありがとうございました。

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本当のリベル僕っ子かい?
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