ショウタイム! 1
ピュアブラッドからの連絡が来て、クロスとあれこれ決めてから一週間ほどが経過する。
今現在、クロスは魔王城の自室にてひきこもる様な生活を送っていた。
理由は誰にもわからない。
というよりも、クロスとピュアブラッドの知能指数低すぎる子供染みた会話はアウラやエリーという謀略や策略を主にする彼女達には到底理解する事が出来る内容ではなかった。
「それでクロス。まだ行かなくても良いの?」
ベッドの上で、幼い容姿の女性は足をばたつかせ、安住しながらクロスにそう尋ねる。
女性の名前はメリー。
メリー・ネピ・アドル。
こんな外見をしているが、サイレントキラーと魔物達に恐れられた勇者の仲間の一人であり、世界最高の盗賊である。
「メリー。俺はさ、リアリティが必要だと思うんだ」
「はぁ。りありてぃと……」
「そう。何もしてないのに正義の味方が動くか?」
「動くんじゃない? 予防こそが大切だし」
「いやいや。そりゃ現実はそうだけど……恰好良くないだろそれじゃあ」
「はぁ……」
「おいおい大丈夫かその調子で。パートナー別の誰かに変わるか?」
「ううんそれは嫌。せっかくの機会なんだし」
「そうだな。せっかくはしゃげる機会なんだし楽しまないとな」
「うん。そうだね」
そう言って、メリーはねばつくような目をクロスに向ける。
その目は、捕食者のそれと大差なかった。
今回、クロスが行う事は正義の味方となる事。
しかも、それはただの正義の味方ではない。
悪役が『こいつになら倒されても本望だ』と思える様な非常に恰好良い正義の味方とならなければならない。
そして、メリーはその補佐……所謂正義の味方のお供として選ばれた。
本当の事を言えば、パートナーも男である方が望ましかった。
なにせこれはごっこ遊び。
性別による差別をするつもりはないが、それの楽しさをわかるのはやはり男が多い。
適役で言えばステラだったのだが……残念ながらステラには体力がない。
エリーはやりたがっていたのだが、魔法ではなく純粋な魔力で様々な事が為せる上に、ピュアブラッドの体調診断が出来るエリーは必然的に裏方に回る事となった。
では残りは、メリー、メディール、ソフィアとなるのだが、メディールはこの時点で省かれる。
今回は王道のストーリーである為、外見が魔女以上に魔女らしいメディールは正義の味方側に付く事が憚られたからだ。
後、恥ずかしがり屋のメディールは一歩踏み出す勇気が出なかった。
そして二人の選択肢となり、クロスは非常に悩んだ。
聖女ソフィアというのは吸血鬼相手にとってこれ以上ない程王道と言えるだろう。
ソフィア自身も女性にしては何故かモチベーション高く、参加の意欲を見せていた。
だが、選ばれたのはメリーである。
その理由は、実益による物。
具体的に言えば、細かな段取りや調整、トラブルの処理を臨機応変に対応できる能力。
今回は初回であり、どんなトラブルがあるかわからない為、あらゆる事態に対処出来るメリーをクロスはパートナーとしてチョイスした。
トラブル処理だけでなくその他裏方作業を並列して行える能力があり、アウラ直属の部下。
実益という意味でなら、彼女を選ばない理由はなかった。
「んじゃ、もう少し私はゴロゴロして良いんだね?」
「おう。何ならここで待機してなくても自分の部屋に戻っても良いんだぞ?」
「やー。私クロスのパートナーだもーん。ベッドを占領するしここでお菓子を食べちゃう」
「はは、構わん構わん。好きに寛いでくれ。俺も今の内に英気を養いながら恰好良い言葉を考えとくから」
「ははははは。本当クロスはクロスだなぁ」
「それ、褒めてるのか?」
「半分は」
「半分かよ。このこの」
そう言ってクロスはメリーの背中に肘を当てぐりぐりとした。
「あーそこそこー。書類仕事増えて凝っちゃってねー」
そんな外見らしくない事を口にするメリー。
だが、実際メリーの腰は恐ろしい程ガチガチに凝り固まっていた。
「……大変だなぁ」
「そうなのよねぇ。胸なくても肩こるって理不尽」
「そこはノーコメントで」
「ヘタレ―」
「紳士と呼べ」
「ヘタレ紳士ー」
「否定は出来んな」
そう言いながら、クロスはメリーの背中を揉む。
メリーはこの状況を楽しみながら、手元にある書類に目を向けページをめくった。
今回の騒動……いや、一大プロジェクトの大まかなプロット。
タイトルは…………『ショウタイム』。
クロス命名ごっこ遊び『ショウタイム』。
内容自体はシンプルであり、悪役が悪さをして正義の味方がそれを討伐するなんて、そんな物語らしくどうあがいても正義の味方が勝つという筋書きを演じるという物。
ただし、それまでの過程は全てアドリブ。
重要なのはその大筋や内容ではなく、その過程。
過程で、いかに満足できるか。
いかに恰好良くなれるか。
いかに相手を恰好つけるのにサポート出来るか。
そこに脇役や主役による違いはなく、皆が己の役を全力で完遂し、一緒に満足出来るか。
ただそれだけに焦点となっていた。
「クロスー」
「なんだー。別の場所を揉んで欲しいのかー?」
「うん。胸とか」
「その冗談はきつい」
「ちぇー。いや揉むのはもう良いよ大分楽になったし……これ以上されたらドキドキしちゃいそうだし」
クロスに聞こえない様小声でそうメリーは呟く。
その頬は、少しだけ紅潮していた。
「ん? 何?」
「何でもないよ」
そう言ってベッドから起き上がり、座り直してから、メリーは改めて尋ねた。
「これ、参加者自由要相談ってあるけど、参加者出ると思う?」
「今回は多分出ないな」
「だよね。吸血鬼種の頂点であるピュアブラッドの行事に参加するなんて……」
「いや、皆がシャイだからだけど」
「へ?」
「まあ……そりゃあわかる。良い歳こいてごっこ遊びなんて……。とそんな恥ずかしがりやでシャイな奴らにとって、初回参加は少々以上ハードルが高い。だからこそ……この初回の俺達は重要な役割を担っている。わかるかメリー」
「わかりたくない」
「恥を捨て、思いっきり楽しみ、次からの参加のハードルを下げる。欲を言えばピュアブラッド以外も黒幕として参加出来る位に広げたい。俺はこのショウタイムが、魔王国全土に広がり皆が楽しめる祭りになる事を期待してるんだ……」
そう言って、ぐっと握りこぶしを作るクロス。
そんなクロスをメリーは静かに見つめる。
その目は、馬鹿をやる息子を見る様な……生暖かくも優しい瞳だった。
「……もしかしたら飛び入り参加がいるかもしれん。その時は……出来るだけ優しくリードしてやらないとな。企画協力者であり、発案者として」
そう言って満足げな笑みを浮かべるクロス。
メリーはこの時になって、ようやく理解した。
この二人っきりというチャンスを最大限に使い、甘い展開なりに誘いクロスを貪る(意味深)予定だったメリーだが、今回そんな事どうあがいても不可能だと。
少なくとも今しばらくは……クロスの脳内年齢が十歳ちょいで止まっている状態では、それどころではないとメリーは理解してしまった。
「うん。頑張ろうねクロス」
息子を見つめるおかん目線となるこの状況もこれもそれはそれで満足らしく、メリーの目は、普段とは打って変わってとても穏やかで優しい目をしていた。
ぴりっとした、魔王城に相応しくない空気をクロスとメリーは感じる。
敵意とも殺意とも違うそれ。
例えるとすれば……緊張感。
その感覚の正体が何なのか判明する前に……それが、姿を現した。
ぼやっとした、幻影がクロスの前に突如出現する。
半透明で、空気で歪みぼんやりとしか見えないまるで陽炎の様な幻影。
その幻影は徐々に形を変え、美しき黒髪の少女となった。
『助けて……』
そう、少女は悲痛な面持ちでクロスに伝えた。
「君は一体……」
唐突な事態にも動じずそんな演技をするクロスを横目に、メリーは冷静にそれを分析した。
「姿を映す魔法だね。わざわざぼやかせる意味がわからないけど。んでその子、クロスの知り合いのローザちゃんだよね。今このお屋敷に遊びに来てるピュアブラッドのローザ・ガーデンちゃん」
メリーの言葉をクロスは聞こえなかった事にした。
『助けて……この声が聞ける、貴方だけが頼りなの……』
そう言葉にし、少女はふっと、姿を消した。
「……ああ。任せろ。誰だかわからないが……俺が必ず助けてやる」
そう、決意を決め、クロスは己が相棒であるトレイターを強く握った。
「いや。だからローザちゃんだしたぶん近くにいるよ?」
「行くぞメリー。彼女を救えるのは――俺達しかいない」
「あ、はい」
メリーは雑な対応をし、クロスの後ろにてくてくと付いて歩いた。
クロスは、感嘆と共に畏怖を覚えていた。
あのローザを使った導入の演出。
完璧すぎて見事としか言いようがなかった。
未知をスパイスとして用意しつつ、主役側に対して、少女を助けるという大目的を見せてあげる手法。
こちらにどう動けば良いかを舞台説明のみで端的にわかりやすく伝えてくれた。
それに何より、本来出番のないローザを引っ張り出したという点。
それが大きい。
これにより、女性参加者の敷居は下がるのだから。
女性参加者が極端に少なくなるであろう事が予測されたこの事態において間違いなくダークホース。
その名演技はきっと参加しようか悩んだけど恥ずかしくて参加を辞めた少年少女達に大きな希望を与えたであろう。
「やれやれ……打ち上げは飲み会のつもりだったが……これは予定変更しなければな。子供も気軽に参加出来る様にしておかねば……」
「さいで。それでクロス。どこに行くの? ローザちゃんなら三階の方にいるけど」
「おいおい。迷路屋敷でいきなりスタッフ通路に行く奴がいるか? まずは順路を進まないと。とりあえず今回は……魔王城の外だな。これだけの演出を行う奴だ。きっとそこで……いや、先読みは無粋だな。行くぞメリー」
そう言ってスキップしそうな足取りのクロスの背を、メリーは付き従い歩いた。
正直、全く興味が持てない。
どうしてこんなにクロスが楽しそうなのかまるで理解出来ない。
だが、楽しそうなクロスをずっと見ていられる為興味を持てなくとも役得と思いながらメリーはその背を追いかけた。
走ったら追いつける、その背をゆっくりと。
ありがとうございました。




