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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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最後の希望9


 クロスも、レンフィールドも、最初からここにいた。

 なにせここは精神の世界、誰もが持っている心の中なのだから。

 本来ならば、自分だけで完結する世界。

 そこに二者がいるという矛盾。

 だが、お互いそこにいると気づけなかった。

 世界を己で完結している為、相手がいると知覚出来なかった。

 その、存在が違い過ぎて。


 クロスという存在は、矮小過ぎた。

 例えるなら、虫。

 レンフィールドに全てを奪われ、その存在は虫程に堕ちていた。

 対してレンフィールドは、星そのもの。

 元々強大であったのに、クロスという存在を喰らい尽くた為それだけの影響力を持っていた。

 お互いを認識出来なかったのは、その規模が違い過ぎて。

 虫が惑星を認識出来る訳がなく、逆もまた然り。


 そのはずだった。

 クロスがパルスピカの希望に焼かれて目を覚まし、レイアに優しく背を押されて立ち上がり、そしてその領域まで届いた。


 虫から、人程度までは成長し惑星を認識する事が出来た。

 それでもまだ、その差は絶望的なまでに大きいが。


「そこにいたんだな」

 レンフィールドは、クロスに向かいそう言葉にする。

 クロスは気づいていないだろうが、クロスの姿は生前の頃、それもクロード達と冒険をしていた若かりし頃の人の姿となっていた。

「ああ、そっちもな」

「ああ。……さて、何から話そうか」

 レンフィールドはそう呟き、少し考える。

「さあ、どうしようかね」

 クロスも少し困った顔でそう呟く。


 何しろ、この状態になった以上会話をする必要などほとんどない。

 ここは、心の世界。

 お互いの事を誤魔化す事も出来なければ隠し事をする事も出来ない。

 レンフィールドは当然、クロスも今日までレンフィールドが自分の体を使い何をしたか全てを見てきた。

 それも、当事者視点で。


「……一つずつ、言葉を投げ合うというのはどうだろうか?」

 お互いの事をわかっていても、相互理解には至らない。

 故に、歩み寄る。

 同じ、対等な魔物として。

 レンフィールドはそう考え提案した。

「別に良いぜ。そっちからどうぞ」

「ありがとう。じゃあ、クロス、君の願いを教えてくれ。心の底からの願いを」

「……言わなくてもわかるだろう。似た様な物なんだから」

「…………そう…………だね。俺達は、似た願いを持った。俺は魔王として、君は人間として」

「ああ。親を失う子供を見たくない」

「子供を失い親が嘆くなんて社会を作りたくない」

「飢えて苦しむ子供をみたくない」

「飢えた末に地獄となる街を作りたくない」

「誰もが――」

「笑って過ごせる未来を作りたい」

 聞くまでもない。

 わかり切っている。


 力も資格もないクロスが勇者の旅を続け苦しみ続けたのも、どれだけ蔑まれ貶されても助ける事を諦めなかったのも、全てその為。

 最も力を持つ存在、魔王としてレンフィールドは平和を願い、一歩でも子供達が笑顔になる為に努力し、その末に絶望し邪道に手を染めて出ても未来を諦めなかったのは、それが理由。


 彼らの願いは、いつだって尊き未来を夢見た。

 だからこそ、彼らのデザイアは混ざり合い、彼らは二つで一つへと成った。

 単純な転生ではなく、魂という単位で彼らはお互いを共存しあうなんて奇跡を重ね合わせた様な事象を起こして。


「そう、だね。だから、後はクロス、君がデザイアを正しく認識すれば、君は願いを叶える事が出来る。俺だけじゃあ足りない平和を、より完璧に出来るんだ。……さあ、次は君の番だ。俺に何を聞きたい」

 デザイアに目覚めた者として、平和を目指し進んだ者として、その背を見せようとレンフィールドはクロスにそう尋ねる。

 クロスは少し考え、そして決めた。

 ずっと頭を過ぎっていたその気持ち、感情が、我慢出来なかった。


 クロスは一歩ずつ、レンフィールドに近づいて行く。

 精神である為、距離や時間の概念はない。

 つまり、これはただの演出で、もっと言えば気分。

 クロスがレンフィールドの傍によりたいという意思の表れだった。

 近づいて、そして――クロスは、その横っ面を思いっきり殴った。


 強い衝撃音が響くも――砕けたのは、クロスの拳。

 外観のサイズは同じでも、精神のサイズはまるで異なる為、クロスがレンフィールドにダメージを与える事は、絶対に出来ない。

 人間が、星に勝てる訳がないのと同様に。


「……どういうつもりか、聞いても?」

 レンフィールドの質問に対し、再度砕けた拳を握り直し構える。

「あん? シンプルだよ。――てめぇが気に食わねぇ」

「俺は、君だよ?」

「そうだな。お前は俺だよ。だとしてもだ!」

 そう言って、クロスはレンフィールドに再度殴りかかる。


 絶対に勝てないのを理解し、しかも相手は自分そのものであるにもかかわらず。

 レンフィールドには、意味がわからなかった。




 ぱちりと、現実世界でレンフィールドは目を覚ます。

 そして、クロード達に向かい、呟いた。

「クロスという男は、馬鹿なのかい?」

 全く理解出来ず茫然としたままそう呟くレンフィールド。

 それに彼らは顔を見合わせ、そして、全員で頷いた。


 彼らは、クロスが馬鹿をやっているのだと理解していた。


「はい。馬鹿ですね」

 アウラはにこやかな顔で答えた。


 クロスは、馬鹿な男である。

 馬鹿正直で、まっすぐで。

 だからこそ、皆が、クロスを信用した。

 皆が、クロスの元に集まった。


 レンフィールドは苦笑した後、アラヤユイの方に目を向けた。

「残念ながら、時間が間に合いそうにない。君の暗躍のおかげだろうが、クロスという意識は目覚めた。だけど、目覚めたのに力を取り戻そうとするどころか、何故か私に殴りかかって来ている。まるで意味がわからない」

「それは、クロスさんですから」

「……君までそういうのかい……。まあ、それはもうどうでも良い。ただ、このままだと目覚めさせた意味が何もない。私と同等か、せめて半分位まで力を付けてくれないと願望機の出力向上に繋がらない。何かないのかい?」

「ありますよ。貴方の望みとは少々違うかもしれませんが……」

「やってくれ。思いつく事は全て。君達の憂いがない様にね」

 アラヤユイはレンフィールドに対し胡散臭い態度で仰々しく頭を垂れてから、アウラの方を見た。

「一つ目の鍵は、クロスさんを目覚めさせました。圧倒的な存在の前で、消えゆくだけであったクロスさんを呼び起こしました。二つ目の鍵は、血を分けた家族という存在として、クロスという男をこの世界により深く刻み、レンフィールドと戦う土台まで引き上げました。そして三つ目の鍵は……」

「それは、私ではなく彼では……」

 そう言って、アウラはクロードの方に目を向けた。


 アラヤユイは言っていた。

 アウラとクロードが途中でリタイアすれば、クロスは助けられない。

 ならば、自分達がその鍵なのだろう。

 そして鍵とは、クロスと縁が強い存在の事。

 であるならば、自分は相応しくない。

 親しいとは言えるが、クロード達程の絆を持っていない事位アウラも理解していた。


「いいえ。白き王もですが、黒き王も必要なのです。そして、今は黒き王、すなわち魔王である貴女の方が重要なのです」

「私が?」

「ええ。魔王アウラフィール。貴女だけなのですよ」

 そう言って、アラヤユイは微笑んだ後、アウラの耳元でアウラがやるべき事を、伝えた。

 それは、確かにアウラにしか出来ない事だった。

 レンフィールドと強く結びついている、アウラにしか。




 それは、今でこそ出来る事だった。 

 クロスが目覚め、レンフィールドとしての側面が強まった、今だから。


 アウラはレンフィールドと向き合い、そして、言葉を紡ぐ。

「お話しましょう。未来を受け持つ魔王として。先代魔王レンフィールドに、今代魔王アウラフィールとして対話を求めます」

「――ええ、喜んで、受けましょう」

 その意図がわからずとも、レンフィールドはそれに応えない訳にはいかない。

 平和を目指すレンフィールドが、平和を紡ぐであるアウラと話をする事は平和に近づくという事でもある。


 それに、レンフィールドも話をしたかった。

 レンフィールドの知っている時のアウラは、恋に恋するだけの、普通の女の子だった。

 だからこそ、クロスの記憶ではなく自分の目で、アウラを見て見たかった。


「それで、何の話を?」

 脳内で何故か殴りかかって来るクロスに苦笑しながら、レンフィールドはそう尋ねた。

「平和についてを」

「……ふむ」

「レンフィールド、貴方の考えは、壁を作り、物理的な手段で人類と魔物の壁を作る事。その為のエネルギーを魔王国に属さない全てから徴収し、弱体化させ最終的に現魔王国を世界唯一の統一国家とする。人類を滅亡させた上で。これで良いですか?」

「ええ。その通りです。もしもクロスが私と対等になり、願いの出力を上げればまた話は変わりますが、現状ではそれが私の精一杯です」

「……精一杯……ねぇ」

「ええ。精一杯です。時間をかければ、まだ他に手段が見つかるかもしれません。数千年、数万年かければ人類との争いも終わり、魔王国も平穏となり、理想の世界が築けるかもしれません。ですが……」

「ですが?」

「それは、その長い時間の間の犠牲を許容するという事。それは、私には我慢出来ません。一刻も早く、平和を実現したいのです」

「その為に、魔王国以外を犠牲にしてでも?」

「その方が、犠牲が相対的に減るのなら、私はそうしましょう。私は、最初から手段を選んでいません」

 そう、レンフィールドはまっすぐとアウラを見て、答える。

 だからこそ、アウラはわかってしまった。


 ――ああ、彼は、折れてしまったのか……。

 クロスと違う点が一つ見える。

 クロスは、無駄であると思いつつも足掻くのを辞めなかった。

 一歩だけでも、たった一人、一体だけでも助けようともがき続けた。

 どれだけその手の平から零れ落ちようと、現状をより良くする事を諦めなかった。


 一方、レンフィールドは……。

 魔王という地位に着き、あらゆる事に挑戦した。

 平和を目指し、武力を捨てた事もあった。

 結局、武力がないと侵略されるだけだった。


 武力を手にしたら手にしたで、その武力を利用し平和を乱す存在が現れた。


 あらゆる手段を模索し、大勢の同志達と語り合い、明日を夢見て――そして知る。

 平和というのは、幻想であると。


 幻想を、空想を実現させる為には、もはや手段を選んでなどいられない。

 そう、レンフィールドは考えた。

 だが、アウラに言われせば……。


「レンフィールド、貴方は逃げたのですね。責任から」

「……確かに、魔王の責から逃げたと言われても……」

「違う。貴方が逃げたのは、自分の目指した夢の重圧からよ」

「それは違う。私は、その夢だけは手放した事はない。それを諦めた事は、一度もない」


「……話をしましょうと言ったけど、それは嘘。本当は、貴方を否定しに来ました。先代魔王、堕ちた英雄。間違えた貴方を、糾弾します」

 想い、情、憧れ。

 それを抱えたまま、アウラは、レンフィールドにそう告げた。


 それが、三つ目の鍵、黒い王の役割。

 クロスを目覚めさせる為に、強大なる敵、レンフィールドにひずみを与える事。

 それが出来るのは、親愛の情と魔王同士という絆で繋がるアウラただ独りだけだった。


「……聞きましょう」

 レンフィールドは冷静だった。

 異なった意見を受け入れる程度の度量がなければ、平和を導くなど出来る訳がないのだから。

 レンフィールドは、先代魔王は、まごう事なき真の王であった。


「まず、大前提。貴方は安直な方向に逃げた。壁を作る? 魔王国だけを守る? それでどうなるか考えた事ありますか?」

「……ああ。大勢の犠牲が出る。それは分かった上で……」

「いえ、そっちじゃありません。正直な話、魔王国が豊かになり他国が滅ぶのであれば私はその選択を迷わず取ります。為政者として」

「それでは、私と同じ考えではないだろうか?」

「……わかっていた事ですが……貴方は、優秀な魔王ではありますが為政者としてはあまり優秀ではありませんね?」

「……それはどういう意味か聞いても?」

「単純な話です。魔王国は諸外国と交易を行っています。経済的に繋がっているんですよ。わかります? 何を言っているか? 諸外国が弱体化すれば、魔王国の経済が死ぬという事ですよ?」

「だが、その程度の痛みがなければ……」

「その程度? 諸外国の疲弊、消滅速度次第では魔王国滅びますよ? 経済舐めてませんか? わかります? 貴方の行動がどれだけ怪しい事をしたか」

 ゴゴゴと、怒りのオーラを纏い圧を発する魔王アウラフィール。

 それはどことなく、おかん属性が付与されている様でもあった。


「そ、その為に、君がいる。君になら後を任せられるから」

「それが間違いです。下振れの流れがついた経済という物は魔王一代でどうにか出来る様なそんな簡単な物ではありません。そりゃ、一時しのぎは出来ますよ? 資産を集中させ、末端を切り捨て、数値だけを良く見せて時間稼ぎを行う事は。ですが、それは衰退を誤魔化しているにすぎません。ブルード曰く『金は血液、止めれば四肢から死に、最期は心臓が腐る』わかります? 私が言っている意味が」

「……その……えっと……」

「わかりますよね? 私、怒ってるんです! せめてもう少し考えてから行動してください! 同じ方法でも他にまだあったでしょう!?」

「いやその……経済に詳しい配下はいたけど、否定しなかったから……」

「そりゃあなたの配下イエスマンしかいないんですから否定しないでしょう!? というか主が命を捨てて行う事を否定出来る訳ないでしょう」

 レンフィールドは、何も言えなかった。


 見えている世界が違い過ぎる――いや、そうではない。

 単純に、未来にとらわれ過ぎてレンフィールドの視野が狭くなっているだけだった。


「もう一つ、良いかしら?」

「……どうぞ」

「人間と魔物の世界に壁を作る。それについてよ」

「何か、間違いが? 最低でも人魔大戦は起きなくなると思いますが……」

「貴方は、クロスさんの記憶が見えているでしょう?」

「ええ、もちろん。私はクロスでもありますから」

「だったら、もうわかっているでしょうに」

「……えと、何がでしょうか?」

 アウラは小さく、溜息を吐いた。


「確かに、願望機から生まれる壁は、私達魔物では打ち破れない強大な壁となるでしょう。ドラゴンさえも防ぎ、ピュアブラッドさえも突破出来ない、境界断絶の壁。ですが、、私達が破れない壁を、彼ら人類が打ち破れないと本気で思ってます?」

 人類と魔物の世界を区切る、境界の壁。

 壁が存在する限り、無限に力を吸い続ける人類滅亡の壁。


 そんな物が生み出されたら、人類にだってケツに火が付く。

 内輪もめさえも止め、本気を出すに決まっている。

 有史以来内輪もめを繰り返し、一度たりとも本気を出した事のない、人類が。


「身内争いをやめ、ターゲットを集中させ、我々が恐れる殺意を本気でぶつける。壁が壊れないという保証は、どこにありますか?」

 そんな保証は、どこにもない。

 クロスとクロードが生き延びていたら、今でさえも壁を打ち破れる可能性があるのだから、レンフィールドは否定出来る訳がない。

 未来に彼らよりも強大な勇者が生み出されないという保証はどこにもないのだから。


 つまるところ、アウラフィールの主張はこういう事だ。

『無駄な事して私達の足を引っ張るな』

 少なくとも、レンフィールドはそう受け取った。


「……本当に、君で良かったよ。未来を託すのが君で」

 レンフィールドは一枚の書類をアウラに手渡した。

「これは?」

「待機命令を出している戦闘力を持たない私の部下だよ。私なき後魔王国を少しでも良いものにしろと命じているが、君の元に置いた方が役に立つだろう。その書類を見せれば、君の命令に従ってくれる様になるはずだ」

「……これだけ否定しても、間違いであると糾弾しても、後悔も、折れもしないんですね」

 レンフィールドの心を折るつもりで、わざわざ回りくどい形で責め立てた割にあっさりとしている態度にアウラは少し焦りを覚えた。

「うん。だって、私は最初から折れてるし、後悔しかしていないから。……だから、だから私は新世界に生きてはいけないんだ」

 レンフィールドはそう、しみじみと呟く。

 それでも、自分の選択に間違いはないとレンフィールドは思っていた。




「諦めさせる事は出来なかったか……」

「そうだね。最初から諦めている様な物だし」

「まあ、悩ませたという事で、成功と思っておきましょう。あ、もう一つ、伝えたい事があるのですが良いですか?」

「耳が痛い言葉がもう一つか……。苦しいね。……伺いましょう」

「大丈夫ですよ。伝えたいのはクロスさんに対してですから。あ、クロスさんに聞かせる事は出来ますか?」

「ええもちろん。私はクロスでもありますから、私が聞く全ての声を感じているはずです」

「ですかですか。では……」

 そう言って後、アウラはちょいちょいと、クロードとエリーを手元に呼んだ。


「なんですかアウラ様?」

「尋ねたい事があるのですが……少し、待って下さいね」

 アウラは、今度はレンフィールドの方に目を向けた。

「レンフィールド、貴方の願いは、未来世界の平和。それで合ってますね?」

「はい」

「そして、それはクロスさんも同じ願いである。で、合ってます?」

「もちろんです。そうでないと私はここに戻って来れませんでした」

「では、クロスさんの願いと合致していると考えているという事ですね?」

「ええもちろん。……繰り返し同じ事を聞いて、一体どうしました?」

「いえ。こちらの話です」

 くるっと振り向き、アウラはクロードとエリーの方を向いた。

「今度は、お二方に尋ねます。レンフィールドの語る願いと、クロスさんの願い、一致していると思いますか?」

 クロードとエリーは、お互いの顔を見合う。


 クロードは人間世界での唯一の男友達である。

 今昔含め、最も距離の近い男と言っても良いだろう。

 エリーは、魔物世界で最もクロスと共にいた。

 男女関係こそないものの、いやないからこそクロスを最も理解していると言っても良い。

 そんな両者は、そろって、首を横に振った。


「そんな訳ないけれど、私が転生を果たせたのは、この体を奪えたのは願いの一致が……」

「レンフィールド。貴方は、結果さえ残れば過程なんてどうでも良いと考えている。だから、気づけないのですね。クロード様、エリーさん。クロスさんに、伝えて下さい。忘れてしまっている事を」

 クロード、エリーは頷いた。


「クロス、君の願いはもっとシンプルだったはずだ。確かに、君は自己犠牲が過ぎる。いつだって、見ていて心が痛んだ。だけど……君は、一度だって自分を犠牲にしたいと願った事はないじゃないか」

 クロードはそう言葉にする。

 そこは、大きな違いと言えるだろう。

 結果は同じ、自己犠牲でも、しょうがなくそれを選んだクロスと最初から自己犠牲で生きているレンフィールドでは大きな差があった。


「私の方はもっとシンプルですよー」

 エリーはニコニコと微笑んだ。

「クロスさんクロスさん。貴方そんな聖人じゃないでしょうに。賢者という称号だって嫌がってた位なんですから。私は知ってますよー。なにせ貴方の従者、騎士として誰よりも強く繋がってますから。クロスさん。貴方――そんな聞き分けが良い素直な性格じゃなくて、もっと()()()()()()()()じゃないですか」

 そう、エリーは、唯一クロスの本性を正しく知るエリーは答えた。


 クロスという男の性根、最も根本となる部分。

 それは――我儘で、自己中心的で、強欲な事。

 誰も知り得ない、その感情こそが、クロスの本性。

 それが、今クロスが忘れてしまっている事だった。


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