表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

292/880

ふわふわもちもち系守護精霊


 アースラ族が住まう村付近には広い範囲で結界が張られている。

 結界と言っても内部と外部を隔離する本来の結界とは用途が違い、どちらかと言えば内部の法則が異なる世界、所謂異界と考える方が近い。


 内容は魔力を限定的な用途に変換するという物。

 自身の魔力を自身で自動的に吸収し、近接戦闘能力を強化する。

 結界内部はそういう影響を及ぼしていた。

 故に、アースラの結界内では魔法の威力は減少しており、同時に近接強化による視力増強の影響で弓等の遠距離武器の使用者も極端な程少ない。


 どうしてこんな結界が張られているかと言えば、理由は二つある。

 一つは、魔力を減少させてアースラが魔に溺れにくくする為に。

 もう一つは、魔力による戦闘強化で己の魔に慣れさせる為に。

 アースラ族の村は、アースラ達が阿修羅になりにくい様にという願いから、精霊が結界を常時張り巡らせてくれていた。


 その、己の全ての力をアースラ達を護る為だけに使う慈悲深く偉大なる精霊が今、クロス達の前にいるのだが……。

 クロスとエリーは、不思議な生き物を前にして何とも言えない気持ちとなっていた。




 馬車を降りて、クロス達は案内されながら村に入った。

 田舎の農村の様な雰囲気でありながら同時に蓬莱の様などこかシックで馴染み安い雰囲気のある街並み。

 立派な建物は村の中にいくつも見える鍛冶場付きの家位だろう。


 村の至る場所から、剣戟の音と金槌の音が鳴り響き続ける。

 そんな村の中を進み、丁度中央にあるモニュメント……村の雰囲気に全くそぐわない噴水の前に、依頼者のゴは案内した。


 本当の依頼関係者との待ち合わせの場であり、このアースラを護る守護者、精霊のいる場所に。


 大理石を使った大きく洒落た噴水。

 この村唯一見える無骨さがなく洗練されたデザインの建造物。

 その噴水の湧き出る水の上に……謎の、良くわからない生物なまものがいた。


「……こちらが、我らを守護してくださる精霊様です」

 そう言って、依頼者はその生物にぺこりと頭を下げた。


 その後、クロスとエリーもぺこりと頭を下げる。

 元人間のクロスにとって精霊とは土地神様であり、偉大なる神の使徒である為強い敬意を持っている。

 エリーにとっては、土地と契約した精霊とは目上の存在にあたる。

 故に敬意を払うのだが……見れば見る程そんな立派なものには見えなかった。


 噴水の上にぷかぷか浮かぶその姿。

 その外見が最も近いのは、鯨だろう。

 横に長く、尾びれがあって。

 それは、どの角度から見てもまごう事なき鯨だった。


 ただ、全長二メートル位と鯨にしては非常に小さいが……。

 同時に、その鯨は全身真っ白だった。


 どこかのほほんとした空気で、噴水から吹き出る水に乗りぷかぷか浮かぶ不思議な鯨。

 無意味な程ファンシーで、謎の間抜けさに溢れていた。

 そんな風に茫然と見ているその瞬間……。


「僕ははんぺん。白いからそんな名前なの」

 唐突に、不可思議生物がしゃべりだした。

「しゃ、しゃべった!?」

 クロスは目を丸くし驚いた。


 いや、精霊なら会話出来るのは当然である。

 そもそも従者エリーだって精霊なのだから。

 だが、エリーとこの鯨が同じ種族とはとても思えない。

 というかそのぬいぐるみか置物にしか見えないのだから話せるなんて想像さえしていなかった。


「僕ははんぺん。お水が好き」

 話を聞いているのか聞いていないのか。

 ただ、独特の間というか、空気を持っている事だけは理解出来た。

「……まあ、鯨だしな」

「僕ははんぺん。でも水の中で息出来ないの」

「鯨なのに」

「僕ははんぺん。白くてぷにっとしてるの」

 クロスは噴水に手を伸ばして、精霊に触る。

 確かに白くてぷにっとしてほどよく冷たかった。


「僕ははんぺん。時折子供の抱き枕になるの」

「……そうか。苦労してるんだな」

「僕ははんぺん。おでんは苦手なの」

「じゃあ好きなのは?」

「僕ははんぺん。好きなのは生クリームのお菓子なの」

「そか。んじゃ今度作って来るよ」

「僕ははんぺん。ちゃんとお礼が言える子。ありがとう」

 クロスは微笑み、はんぺんを撫でる様にぽんぽん触る。


 どうして会話が成立しているのか、そしてこの会話にどういう意味があるのか。

 エリーや依頼者は全く理解出来なかった。




 それからしばらく時間が経ってから、依頼者はぽつりと呟いた。

「遅いな。……すいません。理由もなしに遅刻する様な子ではないのですが……」

 少し困った顔で依頼者はそう言葉にした。

「僕ははんぺん。謝れる子。ごめんね」

 何故か精霊も謝りだした。


「いや。構わないよ。トラブルとかじゃないんだろ?」

「のはずです。あっちにも護衛がおりますので」

 何故かはんぺんがドヤっとした態度を取っていた。


「……ま、まあ、そんな訳で関係者が来るまでに少し事件のあらましを話しておきましょう」

 そう言って依頼者はその経緯を説明しだした。


 今回、阿修羅となった男の名前はジョド。

 事件発生時期はおよそ半年程前。

 それまでジョドは好戦的なアースラらしくない程穏やかな性格だった。

 その戦闘技量は若者らしくない程高く、実戦よりも訓練を主にしているからか丁寧で技巧的な動きが魅力であった。

 その反面、力任せの強引さが足りない為模擬戦勝率は技量の割には高くなかったらしいが。


 性格も悪くなく、常識もあり、むやみやたらに他種族に挑まない。

 そういう性格であった為村の外に出て交流する事を期待されていたのだが、ジョドは村の外に出る事を拒否していた。

 今考えたら、魔に溺れかけていた自覚があったのだろう。

 誰にも相談せず、一切変化を見せずニコニコしていた様だが、内心では怯えていたのかもしれない。


 そしてある日、唐突に彼は変わり果ててしまった。

 その最初の一歩として、彼は唯一の肉親である妹に、二度と消えない傷を与えた。


「と、話はここまで。俺は失礼します。後は……」

 そう言って、依頼者は向こう側から現れる本当の依頼者、二体の女性の方に目を向けた。




 横に並ぶ二体の女性が、噴水傍のこちらに近寄って来る。

 どちらも外見は若く見目麗しい女性。


 片方は赤いショートカットの女性でどこか気弱そうな印象。

 アースラらしい質素な服装で剣を二本腰に携えていた。


 もう片方は青く長い髪で、もう一目で見てわかる程強気そうな印象。

 こちらはドレス風の薄青いワンピースを身に纏っている。


 色合いや外見からの印象は対比しているが、その組み合わせはどこかちぐはぐで不思議な印象があった。


 だが、一番気になるのはそこではない。

 一番気になる事は、彼女達は、クロスから見たら何も違和感がない姿をしている事だった。

 二体共、腕が二本しかなく外見は人間と差異がなかった。


 青い髪の方の女性はクロスとエリーをじろじろと見つめた。

「……ふーん。随分待たせてどんなのが来るかと思えば、エレオノール様じゃない」

 様付けであるが、敬意は一切感じない。

 どちらかと言えば侮蔑の方に近いだろう。

 更に言えば、クロスに対しては完全に見下した目を向けていた。


 その言葉に、エリーは何の反応も示さなかった。

「……何よ? 騎士様は庶民には何も話す気ないって。裏切りの騎士様は随分目線が高いのねぇ」

 エリーは、きょとんと首を傾げた。

「……えと、私の事です?」

「…………はぁ? あんた以外に誰がいるのよ」

 しばらく、エリーは沈黙し、再度首を傾げた。


「エリー。昔の自分の名前」

 そうクロスに言われ、ようやくエリーは思い出し手鼓をぽんと打った。

「ああ! そいえば私そんな名前でしたね」

 赤い髪の女性は目を丸くし、心の底から驚いて見せた。


「あ、それと今の私の名前はエリーで、魔王様の騎士でもありません。今はこちらのクロスさんの騎士です」

 そう、満面の笑みで自慢げにエリーは言った。




「えっと、すいません遅れましたが、私はナミと申します。一応、今回の正規の依頼主となります。村から出る許可を得られていないのでゴさんにお願いしましたが」

 そう言って、赤い髪の女性は苦笑しながら言葉にし、ぺこりと頭を下げた。


「それと、こっちはアナスタシア。念の為私の護衛をしてもらっています」

 そう言ってナミはさっきまでエリーにつっかかっていて、今はつーんとそっぽを向いている青い髪の女性を紹介した。


「よろしく。俺はクロス。こっちはさっきも言ったがエリーだ」

 クロスの言葉を聞き、アナスタシアはぴくりと眉を動かした。

「……あんた、そのちぐはぐな魔力とその名前……。もしかして元人間?」

「ん? ああ」

「……なんで、そんな奴に精霊が媚びを売ってるのよ」

 そう、アナスタシアはエリーに吐き捨てる様に言葉にして――。


「エリー。ステイ、ステイだ」

 クロスがまるで犬でも扱うかのようにエリーの動きを止めた。

 クロスは少々ふざけた態度ではあるのだが、止めなければ、きっと血の雨が降っていただろう。

「……でもクロスさん。私は大切な主を貶されて平然として――」

「エリー。最初俺達の出会いどんな感じだった?」

 エリーは誤魔化す様な笑みを浮かべながらそっと目を反らした。

「すまんな。話の続きどうぞ」

「えっと……その、良い……でしょうか?」

 おずおずと申し訳なさそうにナミはそう尋ねた。

「どうぞどうぞ」

 クロスの言葉にナミは頷いた。

「はい。本来なら、冥府魔道に堕ちた同胞は家族が始末する決まりなのですが……」

 そう言って、ナミは唐突に服を脱ぎだした。

「ちょ――あんた何を!?」

 慌ててその様子を止めようとするアナスタシアと、急いでクロスの目を隠すエリー。

 その時に、エリーはそれを見て――息を飲んだ。


「それは……」

「大丈夫ですエリー様。肝心な場所は隠していますから。まあ、今の私の体を見たがる殿方なんていないと思いますが」

 そんな自虐めいたナミの言葉を聞き、悩みながらもエリーはクロスの目を隠していた手を退ける。


 そして、クロスもそれを見た。

 背中の上の方、肩の付け根当たり。

 本来ならば一対の腕があるその辺りから背中の半ばにかけて、焼けただれ傷塗れとなっているのを。


「兄に……いえ、ジョドに腕を引きちぎられ、その後切り刻まれ焼かれました。もう二度と生えて来る事もありません」

 微笑みながら、当たり前の様にそう言葉にする。

 だが、それがやけっぱちなだけである事は誰の目から見ても明らかだった。


「……止めなよナミ。こんな野獣みたいな男に肌晒すの。襲い掛かられたらどうするのよ?」

「大丈夫よアナ。私なんかをそんな目で――」

「いや。めっちゃ見てますし刺激的過ぎるから隠した方が良いと思うよ。こう……もう少しで見えそうなのが逆にそそる?」

 そんなクロスの言葉を聞き、ナミは顔を赤くして胸元を隠した。


「おしとやかだけど芯がありそうで可愛いと本気で思ってるよ。一区切りついたら口説こうかなって思う位に」

 そんなクロスの慰めと空気を換える為の一言に反応したのはアナスタシアだった。

「あら。あんた女の趣味は良いわね。そうそう。この子一歩引くタイプなのに負けず嫌いでさ、それが可愛いのよ」

「ほほー。決めた事なら一直線って?」

「ええ。だからよく失敗するけどそれもまた愛嬌?」

「チャレンジ精神旺盛なんだな」

「そそ。頼りになるのも良いし頼りにされるのも良い。男受けも良いしとなかなかの優良物件よ」

「そりゃ良いね。断然口説きたくなる。ところでアナスタシアちゃん。君の方は?」

「は?」

「君も綺麗だし可愛いしじゃん」

「前言撤回。あんた女を見る目ないね。後ちゃん付けもいらないわ。寒気がする」

「あいよアナスタシア。俺の事もクロスで良いよ」

「はいはい。んでナミ。服着た?」

「あ、は、はい。ところで……クロス様と仲直りしたんです? 何か……突然仲良さそうに……」

「いや別に。軽薄な男を相手にするコツは適当に返す事よ」

 そう、クロスを小馬鹿にする様な表情で口にする。

 クロスは、うんうんと頷いた。

「間違ってない」

「……変な男」

 そんなちょっと困惑するアナスタシアの態度を見て、ナミはくすりと笑った。


「すいません。話を戻します。こんな体ですので、悔しいですが今の私ではジョドを止められません。なので外部の協力を申し込みました」

「なるほどね。遅くなってごめんな」

「いえ! そんな! 強そうな方々が来ていただいて嬉しいです!」

「そう言って貰えると助かるよ。んでさ、一つ……いや、二つ程質問があるんだけど」

「あ、はい。何でも聞いて下さい」

「いや、ナミちゃんじゃなくてアナスタシアに」

「私に? 変な質問したらぶん殴るからね」

「んじゃ今回は真面目な質問にしとくよ。エリーの知り合いなの?」

「いいえ。ただ遠目にちらっと見た事があるだけ。知ってるのは優秀な精霊様って事位。まあ、元人間なんかと契約してるんだからちょっと期待し過ぎただけみたいだけどね」

「ま、それは良いか。んじゃもう一個。アナスタシアはアースラじゃないの? それともナミちゃんみたいに事情あり?」


「それは――」

 アナスタシアがそれを答える前に、沈黙していた生物が口を開いた。

「僕ははんぺん。実は子持ちなの」

「子持ち鯨さんなんですか?」

 エリーはそう尋ね首を傾げた。

「僕ははんぺん。そうなのです。アナは僕の娘だったのです」

「……え?」

 クロスとエリーは同時に間抜けな声を出し、自称はんぺんとアナスタシアを交互に見比べる。

「え……えええええええええええええええええぇぇぇ!?」

 どこまでも青空に響く様な絶叫の中、アナスタシアは非常に複雑そうな困惑の表情を見せ、生物系精霊はどこか満足そうにきりっとした顔をしていた。






ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] はんぺんなのかぱんぺんなのかどっちやねん!!
[一言] やはり確信犯だったかw 怒ると手が生えてくるんですよねわかります
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ