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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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後始末1


 クロスの目的は、これで達成された。

 パルスピカを助ける。

 クロスは最初から最後まで、ただそれだけが目的であったのだから。


 それが終わった以上クロスがここにいる意味はなく、出来るだけ速やかに王都に帰らなければならない。

 特に、己の体に起きた異常を調べなければならないという急を要する用があるのだから。


 直接魔力を感じ操作出来る精霊のエリーでさえ、解呪どころかどうなっているのかさえわからない呪い。

 魔力を扱えなくなるなんて一部の魔物にとって死よりも重たい呪縛。

 こんな物、はっきり言ってあり得ない。

 だから急いで調べないといけないのだが……まだ、戻る訳にはいかなくなあった。

 やり残した事が出来てしまった。


 クロスにとっては、もう事態は収束したと言っていい。

 だが、クロス以外からしてみれば事態は何一つ改善されておらず、むしろこれからが本番であると言って良かった。

 なにせ獣人集落群での争いは終わっていないのだから。

 いや、大組織の影響力が一気に下がった事により群雄割拠が加速し、混沌と化して泥沼化さえしている。

 その後始末事こそ、事態の収束の中心点であると言っても良かった。

 と言っても、この集落を安定させる事が目的で、それをする義務を持つのはモーゼであり、それをクロスは手伝うつもりなんてサラサラなく、アマリリス集落の安全さえ守れていればクロスはもうどうでも良い事でしかなかった。


 そう、どうでも良かったのだが……クロスは、強制的に協力しなければならなくなった。


 パルスピカが、決意をしてしまったからだ。




 がたんごとんと馬車の中。

 後十分程でアマリリス集落に着くというその距離で、クロスはパルスピカに尋ねる。

 もう、何回めかもわからないその言葉を、クロスはまた吐き出した。

「……本気、なんだな?」

「はい」

 パルスピカは、まっすぐそう答えた。

「……お前が思う様な良い物じゃないぞ?」

「はい。覚悟しています」

「間違いなく、辛い事だぞ?」

「それも、覚悟してます」

「……お前の幸せはなくなると思って良い。それでもか?」

 やはり、パルスピカは迷わず頷いた。

「はい。でも、それは僕しか出来ません。だったら――僕は、この獣人集落群を支配し、王になります」

 はっきりと、断言するパルスピカ。

 パルスピカはもう、完全に覚悟を決めてしまっていた。




 前提の話なのだが、もう二度と、元の獣人集落群には戻らない。

 今までの様に文明を捨て野生に生きる獣人の逃げ場となる事などもうあり得ない。

 例えこの騒動をどの様な手段でどうにかしたとしてもだ。


 彼らは、知ってしまったからだ。

 戦争という文明を。


 故に、必ずまた、誰かが同じ事をして、同じ様な騒動になる。

 いや、次は今回の様な五大組織騒動よりも尚酷い物となるだろう。

 次に戦争が始める時は何かを企んでいた黒幕がおらず、誰も彼もが己の欲望の為好き放題動いて制御出来なくなるからだ。

 統率の取れない獣人と文明の悪いところだけを集めドリップした結果、下らない争いが続く様になる事は想像に難しくない。


 故に、誰かがまとめ上げ、統率し、正しく文明を取り入れなければ、もう獣人集落は滅亡しか道はなかった。

 そしてそれが出来るのは、魔王国にそれを認めさせる事が出来るのは、パルスピカ以外に存在しなかった。


 実績があり、能力があり、正しき血統を持つ。

 アウラの盟友クロスと親しいというのも大きなポイントで、何より裏がない。

 誰かの傀儡という事もなく、王となり私欲を満たそうなんて小さな野望さえ持たず、平和の為の礎……いや、犠牲となる覚悟を持っている。


 クロスでさえ、パルスピカ以上に獣人集落を平穏に出来る存在はいないという事はわかっている。

 だが、それがわかっていても納得はまた別の話でしかない。


 何故子供が大勢の為に犠牲にならないといけないのか。

 クロスは当然、モーゼでさえそんな事望んじゃいない。

 むしろ王になるなんて嫌だから助けてくれと言われた方が嬉しいしまだ納得出来る。


 だが、パルスピカ自身は決めてしまった。

 パルスピカは正しく、集落群の母であるアマリリスの背を見て、これ以上ない程立派に育っていた。


「……わかった。せめて王となるまで手を貸す。そこまでは見届けてやるよ」

 クロスの言葉にパルスピカは本当に嬉しそうに、ぱーっと笑った。

「ありがとうございます。心強いです!」

「……おう。見せてやるよ。本物って奴をな。この状況なら温存する理由ないしな」

 別にそれは自分の事ではない。

 クロスは自分を本物であると一度も思った事はなく、精々出来の良い贋作程度だと自己評価を下している。

 クロスの言う本物とは、まだ使っていない、全てを無に帰する事が可能な切り札の事だ。

「あ……あはは……。怖い人じゃないと良いのですが」

「大丈夫。俺の親友だからな。……まあ、人間兵器ではあるが」

「あはは……。ですが……僕には、勇者よりも、クロスさんの方が頼もしく感じますよ」

「その期待に応えられる様頑張らせてもらうさ。……と言っても、俺らは手足に過ぎん。パル、お前も含めてな。頭は頼むぞ腹黒狐」

 モーゼの方をちらっと見て、クロスはそう言葉にした。


「はいはい。……気は進みませんがやりますよ。とは言え……貴方達皆で勘違いをしていらっしゃる様なので、一つだけ訂正させて頂いても宜しいでしょうか?」

 もったいぶった、いつもの腹立たしいモーゼにイラっとしながらクロスは頷いた。

「はよ言え」

「はいはい。まず、作戦についてですが、もうこれ以上ない程大雑把な部分だけ言えば、まずクロス様に最高のご友人をお呼びして殺さない様に蹂躙……いえ、素敵なパーティーを開いていただく。そしてその後パルスピカ・アークトゥルスが獣人集落群と呼ばれる範囲を統治し、閣下に属国として認めて貰う。ここまでは良いですか?」

「ああ。大体そんな感じだろう。んで何を勘違いしてるんだ?」

「パルスピカ・アークトゥルスの統治はそれほど長い時間出来ません。不可能です。精々、半年程度でしょう」

「それはパルの幸せ為にか?」

「いえ、統治させないではなく、物理的に出来ないんです。単純に正当性がなくなりますから」

「もっと分かりやすく言え」

「一言で表すなら、私、議員辞めます」

「……は? 何でそれで正当性がなくなるんだ? そして何で止めるんだ?」

「やれやれ、今日のクロス様は質問が多いですねぇ」

 いかにも疲れますというような大げさなジェスチャーをモーゼはしてみせた。

「いやふざけてないで説明くれ」

「はいはい。まず前者、正当性の有無についてなのですが、正当性の大半は私の血縁があるからとなってます。それは良いですね?」

「ああ」

「まずですが、私の家は私の代で終わらせます。つまりパルスピカを私の後継者にするつもりはありません。こんな腐った家は早々消えるべきだからです。これに関しては私は一歩も譲りません」

「それはどうでも良い。……俺だって本当に触れてほしくない部分に踏み込まない位には分別ついてるさ」

「感謝します。となれば、パルスピカ・アークトゥルスの王たる正当性は『クルスト元老機関の議員モーゼの血縁』という部分が大きくなります。なので、要するに、私が議員を辞めたらその正当性が失われてしまうんです」

「……それはわかった。それで、お前が議員止める理由は?」

「弱点が露見しましたから」

「弱点?」

「ええ、私にとっての弱点が。議員として生きて行く事はもう、残念ながら出来ません。欠点を抱えたまま暮らしていける様な、そんな温い場所ではありませんので」

 クロスは首を傾げる。

 エリーはちょいちょいと袖を引っ張り、そして頭の中に、直接声を送り込んだ。

『アマリリスさんとパル君ですよ。彼らの為に頑張ってるのを隠していたのは見つかったら破滅するからです。そういう場所なんですよ元老機関ってのは』

「……あー。うん、わかった。何か……こう……」

 クロスは家族の為にその役職を捨てざるを得なくなったモーゼに、何と声をかえたら良いかわからなかった。

「はっきり言って下さい。そういう下手な気遣いの方が困ります」

「お前、意外と良い奴だったんだな」

 ぺかーとした笑顔で、そう断言するクロス。

 クロスは言われた事は素直に取るし、深く考えない。

 その単純さがクロスの魅力である。

 そんなクロスに、モーゼは、これでかと嫌そうな顔を向けた。




 クロス達が集落に戻って起きた最初の事件。

 それは……馭者役だった近隣集落の男とアマリリス集落の男との取っ組み合いの喧嘩だった。

 罵詈雑言を吐き出しながらお互いボコスカ殴るその光景をパルスピカやエリーは止めようとする。

 だが、クロスは逆にしっかり喧嘩するべきだと主張した。

 喧嘩の最中でも、殴り合う皆がどこか楽しそうだったからだ。

 

 こんな風に嫌いあって喧嘩するのが、ボコボコに殴った後パンパンに張れながら、不満そうな顔で酒を飲み交わすのが、彼らの本来のかかわり方だったのだから。


 だから殴り合いを始めた馬鹿共を放置して……、入り口でずっと待っているメディールに手を挙げ挨拶した。

「ただいま、メディ」

「……お帰り」

「ああ。ありがとうな、ここを護ってくれて。お前がいなかったらやばかったわ」

「別に良いのよ。……少しは恩返しになったかしらね」

「何を言ってるんだ? 俺を返さないといけないのは俺の方だろ? だからまあ、ゆっくりとだが頑張って返していくさ」

「ええ。期待しないで待ってるわ。それで……」

「ああ。こっちが今回のお姫様役だったパル坊。パルスピカだ。パル。俺の友人で勇者の仲間の一人、メディールだ」

 パルスピカは小さな体をひょこりとだし、礼儀正しく頭を下げた。


「初めまして。僕の母を、集落を護って下さりありがとうございます」

 その子供とは思えない程丁寧な挨拶に、メディールは反応しない。

 いや、出来なかった。


 頭を下げ返す事さえせず、ただただ茫然とした様子でパルスピカを方を見つめ続け、そしていきなり、パルスピカに顔を寄せる。

 メディールはキスでもするのかと思う程のゼロ距離でパルスピカを睨みだした。

「あ、あの……メ、メディール様?」

 おろおろとするパルスピカ。

 その後メディールは何度もクロスとパルスピカの顔を見比べた。


「……あ、やっべ。忘れてた」

 エリーはぽつりと、そんな言葉を漏らした。


 普通の人ならば、いや魔物でも誰もその類似点に気づかないだろう。

 外見は当然、性格も全然違うのだから。


 だが、もしも、もしも運命を変える程深くクロスを愛した者であれば、クロスの魂を世界が捻じ曲がる程強く愛した者であれば、それに気が付かない訳がない。

 クロスと、パルスピカの関係性に。


「すいません。ちょっと大切なお話がありますので私はこの辺で……」

 エリーは早口でそう言葉にし、腕を組み難しい顔でクロスとパルスピカを見つめるメディールをずるずる引っ張りその場を離れた。




 集落に戻ってから数日の間、色々な事が起こった。

 王になんてさせたくないアマリリスと、皆の為に王になりたいパルスピカのおそらく初めてであろう親子喧嘩。

 とは言え、自らの心を犠牲にしてまで集落群の平穏を作ったアマリリスにそれを否定する事は難しい。

 なにせやっている事は見事な程同じ事なのだから。

 また半年という期間限定な事もあってか、アマリリスはそれを認めざるを得なかった。

 同時にこの事態に合わせパルスピカにばかり苦労を掛ける訳にはいかないとアマリリスは気を強く持ち、消え行く様な儚げな気配はほんの少しだけだが薄れ、心に活力を取り戻した。


 その時モーゼは……修羅場を通り越し、地獄さえも生ぬるい書類仕事に苛まれていた。

 まず、パルスピカを王にする為魔王国に対しての根回しや書類の用意。

 それに加えて集落を飲み込み正式に隷属させる書類に、近い未来王が行うべき書類仕事。

 流石に、パルスピカが優秀だからと言って王としての仕事を全てこなせる訳がない。

 つまり、子供として出来ない部分全てがモーゼの負担となっていた。


 そして最後に、即位半年後どうするか。

 パルスピカが辞めなければならないという事は、また王位が空席となるという事。

 その空席状態でどう国を運用するか、どう魔王国に対し飴を与え続け守ってもらうか。

 そんな王としての仕事と裏方の仕事と議員として本来の仕事と議員として延命する為の裏工作と議員を辞める準備等々……。

 とにかく、仕事の種類も量もとんでもなく多い。

 本来ならば百名超えの組織が行うべき仕事だろう。

 それをモーゼはたった一体で、心が死にかけながら文字通り死にもの狂いで仕事を処理し続ける。


 まあ、彼ら親子に対しての贖罪と考えたら微塵も辛くなかったが。


 一方クロスやエリーはモーゼと異なり、あんまりする事がない。

 本格的な襲撃は人間兵器が訪れてからになる為、むしろ暇なくらいだった。

 そのモーゼが狂おしい程求める暇な時間をクロスとエリーは襲撃にきた他集落の獣人をボコボコにしたり、料理をしたり、獣人達に戦い方を教えたり、可愛い女性獣人と楽し気に話したりと役に立ちながらも日々をそこそこエンジョイしていた。


 そんな日々、呼び出された彼らが到着した。

 勇者クロード。

 盗賊メリー。

 聖女ソフィア。


 彼らの呼び出しは緊急性のある狼煙ではなく、手紙でだった。

 送り主はエリーで、その要点は二つ。

 一つは、出来るだけ静かに、特に波乱を起こさずこちらに来て欲しいという事。

 そしてもう一つは、クロスに会う前に、少し大切な話があるから寄り道をして欲しいとの事。

 

 その言葉に従い、予め地図に描かれた集落から少しだけ離れたその場所に向かうと、そこにはメディールがいた。

「ありゃ、メディも呼ばれたの?」

 メリーはニコニコしながら手を挙げ挨拶をした。

 とは言え、それは作り物の笑顔だが。

「私も呼び出し側よ。まあ、何と言うかね……正直、本当にあり得ない事よ。奇跡と言っても良い。正直、この奇跡を一人占めしたいって気持ちあるし、逆にこの奇跡自体が妬ましくて呪い殺したくなる気持ちもある。でもまあ……」

「ありゃ。いつものめちゃ重おもめんどくさ乙女モードにはいっちゃってる。という事はクロス絡み?」

「……見ればわかるわ。別にわからなくても良いわよ。その方が私には都合が良いし。クロスへの愛がその程度だったというだけだし」

「は? あんた何を言ってんの?」

 ニコニコした顔のまま、ただし、心は研ぎ澄ませたナイフの様になり殺意を向けるメリー。

 それだけは、この気持ちだけは、誰にも否定させないし出来ない。

 それはこの場にいる全員が同じ事だった。


「殺気消しなさい。……貴女が後悔するから」

「は? 一体……」

「えと……そろそろ良いです?」

 小さく手を挙げ、傍にいたエリーは申し訳なさそうにそう呟いた。

「ああ。すまないエリーさん。この場の主役を後回しにして。それで、どうして俺達を呼んだのか、そしてこの場にクロスがいないのか説明してもらっても?」

 爽やかな笑みを浮かべながらのクロードの言葉に、エリーは頷いた。

「はい。ただまあ、主役は私じゃないんですけどね。パル君。どぞ」

 エリーがそう言うと、木の裏に隠れていたパルスピカが、姿を見せる。


 その瞬間、クロード、メリー、ソフィアはぎょっとした表情となった。

 メディールの表情が、今まで見た事がない程にこやかだったからだ。

 それはまるで母親――いや、母親でさえなく、それは孫を甘やかすお爺ちゃんの様な表情だった。

 子供が好きなのは知っていたが、その表情はあまりにもメディールらしくない。

 何事かと驚く三人だが、その理由を三人はすぐに理解する。

 パルスピカを見て、絶対にありえない事が起きていると気付いて。


 そう、あり得る訳がなかった。

 あり得る訳がないのに……その気配を、愛しいその魂を、少年は色濃く受け継いでいた。


「……えと、初めまして勇者の皆様。僕の名前はパルスピカ・アークトゥルス。皆様の仲間であるクロスさんの……その、一応ですが、弟子に当たります。どうかよろしくお願いします」

 そう言葉にし、緊張した様子でぺこりとパルスピカは頭を下げる。

「パル君が今回主役になるから色々なお礼とお願いも兼ねて挨拶したいって。まあ、見ての通り別の意図もあるけど」

 そう、エリーはぽつりと呟く。


 だが、彼らは挨拶とかエリーの説明とか、もうそれどころではなかった。

 困惑、戸惑い、驚愕。

 絶対にあり得ないという言葉が、何度も頭の中をリフレインする。

 それでも、そのあり得ない者がそこに存在してしまっている。

 必死に頭を動かし、九割方フリーズしながらも、その一言を、メリーは何とか紡いだ。


「パルスピカ君。えと」

「パルで良いですよメリー様」

「じゃ、じゃあパル君。貴方のお父さんって……」

「すいません。僕も知らないし会った事がないんです。母が言うには……その……初対面の女性に言うのもあれですが、寝込みを襲ったと……」

「は、はぁ……。ごめんね聞き辛い事聞いて」

「いえ。大丈夫です」

 その会話の後、メリーはメディールとエリーの方をちらっと見た。


 メディールはふふんと何故か自慢げとなり、エリーは苦笑し、一言呟いた。

「私も詳しくは知りませんが、まあ、感じた事は正しいと」

 そのエリーの言葉とメディールの態度は、どんな真実よりもその真実を証明していた。


 だからこそ、彼らはそれを、少年が本当の意味でクロスを継いでいるという事実を、受け入れ納得した。


 そこからはもう、早かった。

 クロス以外総てが敵である彼ら勇者パーティーの方針で考えても、パルスピカは文句なしに身内判定となるのだから。


「パル君ってクロスに教わってるの?」

 メリーは心からニコニコとしながらそう尋ねた。

「は、はい! 僕なんかが弟子ってのもあれですが……一応正式に弟子と認めて貰いました。どうも僕が言うと断り辛いみたいですが……こう……」

「こう?」

「……やっぱり、憧れの方に教わりたいって気持ちが、強いので」

 そういって照れ臭そうに笑うパルスピカ。

 メリーはあまりに可愛すぎて胸にぎゅーっとした痛みを感じ、胸を抑えた。


「やっばいなぁこれ……。本当……。そゆ事ならパル君は私の孫弟子になるのかな? クロスは仲間でもあるけど弟子でもあるし。おばあちゃんって呼べる?」

「そ、そんなの無理ですよ。メリー様にそんな……」

「様なんて良いからさ。じゃ、じゃあお姉ちゃんってのは?」

「それなら。えと……メリー、お姉ちゃん?」

 ぱたりと、メリーは倒れた。

 その顔はだらけきっており、涎を垂れ流しにするという乙女的にNG過ぎる顔で。


 ちなみにだが、同じ様な事を既にメディールはやっており、そして既に同じ様な表情で倒れている。


「……そうか。君は……うん。まあ良いか。俺はクロード。クロスの親友で、ついでに勇者やってる。よろしくなパルスピカ。あ、俺もパルって呼んで良いか?」

 にこやかに、さわやかにクロードはそう声をかける。

 そこだけ見れば、まさしく理想の勇者であろう。

 ただし、特定の相手に対してだけの勇者だが。


「は、はい。よろしくお願いします。……勇者よりも、クロスさんの親友だと名乗る方が先なんですね」

「それよりも大切な事ないからな。俺も様付けはいらんからな。……一つだけ、一つだけ、君に伝えても良いかな?」

「は、はい。何でしょうか?」

 クロードは静かに、そっとパルスピカを抱きしめた。

「……生きていてくれて、ありがとう」

 そう言葉にすると、自分の言葉に感極まり、クロードは静かに涙を流す。

 それは、本当にあり得ない事。

 だからこそ、クロードは初めて、神に感謝を覚えた。

 その残滓を、その証を、その奇跡をここに残してくれた事に対し、全てに感謝を覚えた。


 パルスピカにはその意味がわからない。

 だが、心の底からそう望まれている事だけはわかった。


「……やっぱり、仲間なんですね」

 クロードに抱かれながら、パルスピカはぽつりと呟いた。

「何の話だ?」

「……全く同じ事を、メディールさんに言って頂いたので」

「残念、二番目だったか」

「いえ……もっと沢山の方に言ってもらえてます。幸いな事に……」

 母に、集落の皆に、クロスに。

 皆に望まれてここにいる事を、パルスピカは知っていた。

 だからこそ、パルスピカは守る為に、その決意をしたのだから。




 ぱたぱたと子犬の尻尾の様に手を振り去っていくパルスピカに対し、皆ぶんぶんと全力で手を降る。

 メリーに至っては十分程後にまた再会出来るのに滝の様な汗を流し手を降っていた。

 そんな、意味があるのかないのかわからない見送りの後、クロードは小さな声で尋ねた。

「ソフィア。どうして大人しくしてたんだ?」

「はい? 何の事でしょうか?」

「パルに対してさ。自己紹介さえしなかったのはちょっとらしくないじゃないか」

 ソフィアは困り顔混じりの苦笑を浮かべた。

「いえ、私って、ほら、アレじゃないですか。なのであの清らかな少年の成長に、あまりよろしくないかなと思いまして……」

「……お前、自覚あったんだな……」

「お恥ずかしながらそれも含めて羞恥プレイとして受けてました。ですので……せめてこの集落にいる間位は自重しておきます」

 そんな下らない会話の後、クロード達はエリーから事情を色々と聞いた。


 パルスピカの父親の事、母親の事、今の集落の状況。

 そして、皆を幸せにする為に王という名の犠牲となる覚悟をパルスピカが決めている事。

 その姿は、考え方は、形は……己を犠牲とし皆を幸せにしようとした誰かの姿にあまりにも似すぎていて、彼らの心に酷く突き刺さる。

 助ける事が出来なかった過去が追想される。


 だからこそ彼らはそのかつての仲間の為に、かつての仲間の様に――本気となってしまった。



ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] この一話で不明瞭だったことがけっこう明確になりましたねー。 ソフィアがらしくないってやつが伏線だったりすると嬉しいかな
[気になる点] まじか。クロスが父親だったのか……。 あ、アマリリスの過去話で父親の話の所にクロスって見つけてしまった。
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