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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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夜に酔う(前編)


「へい。ヘンリー。真昼間からお姉ちゃんと酒飲む店に行くってどんな気分だい?」

 ふざけた様子のクロスの言葉にヘンリーはニヤリと笑った。

「そりゃ最高に決まってるだろ。お前はどうだいクロス? 真昼間からお姉ちゃんとイチャコラ酒が飲めて楽しくおしゃべりできるお店に、しかも驕りで行く気分はどうだい?」

「そんなの……そんなの……最高に決まってるじゃないかアニキ!」

「いえーい!」

「いえーい!」

 クロスとヘンリーは拳をぶつけ、肘をぶつけ、肩を組んでわいやわいやと騒ぎ道を歩く。

 その様子は既に酔っ払いの様だった。


 その様子をクロードは苦笑しながら見つめる。

 クロスとヘンリーの様に呆れてではない。

 すんなり混じれない自分のつまらなさに、クロードは呆れを覚えていた。




 今のクロスはクロードの知るクロスは全然違う。


 クロードの知っている時のクロスは、勇者の仲間である事を誇りと思いその為に努力を続けて来た姿そのもの。

 例えるなら、飢えを覚えた狂犬。


 強くなれるなら何でもしたし、役に立つ為ならどんな苦痛も厭わなかった。

 馬鹿にされても言い返さず、幾ら恥を掻こうか気にも留めず、必死に、貪欲にあらゆる事を覚え学んでいった。


 全て、勇者達仲間の為に。


 料理が気に入られたから、料理の腕を磨き続けた。

 力が足りないから、あり得ない程の修練を毎日続けクロード達皆に師事を頼んだ。

 パーティーで恥を掻く度に、その技術を必死に身につけて行った。

 社交ダンスから礼儀作法、果てには演奏技術まで。

 どれ一つ、勇者パーティーに勝てる物はない。

 だが、クロスは誰よりも多くの技能を身に着けているのも事実だった。


 決してクロスは天才ではない。

 一を聞いて十を知る事は出来ず、得意分野であっても八を聞いて十を知る位の秀才。

 だからこそ、必死だった。

 必死に、全てを覚えて行った。


 それこそ、自分の素である冗談が好きで女性が好きで気楽な生活が好きだという軽い性根を、全て押し殺す位には。


 そこまで苦しめていた事を理解するからこそ、クロードはクロスに対し罪の意識に苛まれる。

 あの時あの村でクロスを見つけていなければ、きっと平穏な人生で追われたはず。

 だが、見つけてしまった。

 その所為でクロスは自分を押し殺す旅を続けさせ、その果てに守り通した人間に殺された。


 全て、勇者(自分)の所為である。

 それは否定をする事が許されない、明確なる罪。


 だが、それでも……それがわかっていても。

 クロードは度し難い自分の感情に呆れを覚えずにはいられない。


 そこまでクロスが自分達の為に尽くしてくれた事、そこまで大切に思ってくれた事。

 その事実は、クロードの冷え切った心を温めるに十分な熱を今も与え続けててくれていた。


「おいクロード。どうしたよ? やけに静かだけど」

「……いや、何でもないよクロス。行こうか」

「おう」

 そう言って、クロスは上機嫌に街を歩いていく。

 待ちきれないという様子で。


「……何か問題があるなら早めに言ってくれよ」

 こそっと、ヘンリーはそうクロードに呟いた。

「問題とは?」

「魔物にくっつかれるのが嫌とか、性的対象に見れないとか、そもそも女に飽きてるとか」

「……そういうのは大丈夫。ただまあ、あまりくっつかれるのは好ましくないかな」

 元々人嫌いであり、クロードはパーソナルスペースが限りなく広い。

 約一名だけを例外に。

 だから、誰かが傍に居続けるというのはクロードにとってストレスだった。


「それなら安心しろ。高い店舐めんな。まあそれに、クロードにとって数少ない隠し事なしでいける店だからな。出来るなら楽しんでもらいたい」

「ん? それはどういう……」

「ま、良いから良いから。ほれ、クロードも行くぞ」

 そう言葉にし、ヘンリーはクロスとクロード両方の肩を手を回し、ゲラゲラと叫ぶ様に笑いながら前を渡り歩く。


 その様子があまりに不審者らしかった為、店に到着するまでに三度酔っ払いに絡まれ、一度駐在する軍に呼び止められ職質を受けた。




 そこは至高とも極楽とも言われている。

 比喩でも何でもなく、実際入店した者は本気でそう思い八割を超える客がリピーターとなる。

 と言っても……それは入店が許された極々限られた一部の魔物にとってはだが……。


 入店する条件はそれほど厳しい物はない。

 あらゆる種族を受け入れ、ドレスコードもなく、学があろうとなかろうと問題がない。

 何なら未成熟の魔物も楽しめるコーナーもあるし赤子さえも楽しませる。


 女性が、客を楽しませる。

 ただし性的なサービスは最低限。

 ちょっとした体の密着程度まで。

 それだけが店の考えであり、逆に言えばそれ以外は何でもしてくれる。

 メインこそお酒を飲んでお話を楽しむという物だが、それ以外でもありとあらゆる方向性からお客様を楽しませる。


 スタッフの中には超一流の芸術家、音楽家、シェフ、パティシエと関係なさそうな職業までほとんどを網羅していると言っても良い。

 もし客が体調不良で緊急事態になっても、ここなら並の治療所以上の治療が受けられる。


 まさしく楽園。

 方向性こそ違えどその拘りは蓬莱の里にある硬玉屋に匹敵する。


 そんな誰でも入れ誰でも楽しめる場だが……たった一点のルールの為に、この店に訪れる魔物の数は限りなく少ない。

 数が少ないからこそ、それだけの高品質なサービスを詰め込める。


 そのたった一つ、唯一の条件は……金。


 ここは、至高とも呼ばれる場所。

 ただし値段も至高であり、楽園なのは支払いの事を考えなければという一言を付け加えなければならない――。


 オウマにある歓楽街通り。 

 昼間という事もあり静まり返っているその通りの奥、メイン通りの道ど真ん中正面にある巨大な建造物。

 巨大なカジノを彷彿とさせる豪華なと優雅さを兼ね備える、周辺の店と比べサイズもかかっているであろう金も桁が違う様に見えるその周辺。

 そこが、ヘンリー行きつけのお店、クラブハウス『夜酔よよ』。


 男にとっては夢の時間を体験を出来る場所である。


「お前ら、準備は良いな?」

 ヘンリーは二人にそう尋ねた。

「……準備って何を……。金もそんな持ち合わせは……」

「馬鹿だなクロス。そんなもんは俺がどうとでもする。……準備ってのは、ここでするもんだ。楽しむ準備をな」

 そう言って、ヘンリーは自分の胸をどんと叩いた。

「あ……アニキ……」

「いくぞ、クロス、クロード。楽園が俺達を待っている……」

 そう背中で語り、威風堂々とヘンリーは両開きの豪勢な扉を開いた――。




 内装は、広い空間にシャンデリア、赤い絨毯に金のキャンドルと限りなく豪勢なクラブハウス。

 席に座るは接待をする女性と、にへらとだらしない顔をする客らしき男性……達とごく少数の女性。

 そして忙しそうに早歩きするも笑顔を崩さず酒を配っていく黒服のガール達。


 一見すればただのキャバクラなのだが……何かが違う。

 その違和感をクロスは過去の経験から……エリーに内緒でキャバクラいった時の経験から理解する。

 これだけ揃っているのに、あるべき物がそこにはない。

 客商売なのに、誰もクロス達を見ていないのだ。


 誰独り、クロス達に『いらっしゃいませ』と呼ぶ歓迎の声を上げない。

 まるで、いない物として扱われているとさえ思える程に。


 ちなみにクロードはそういう店に行かず興味もないから違和感なんて物も気づいてさえいない。


「……クロス、前を見ろ」

 そうヘンリーに言われ、クロスは前方に目を向ける。

 横の客席ではなく、前。

 そこにあるのは一際豪勢な、片開の扉だった。


「扉がどうしたんだ? VIP席か何かか?」

「いや違う。そんな物ここにはない。全てがVIP席だ。新規の客は入店後にまずあの扉に向かうのがここのルールなんだよ」

「なるほど。ルールか……」

 それならしょうがない。


 そう思いながらクロスはさっさとその扉を開き、先に進む。

 その後ろをクロードとヘンリーも進んだ。


 そこにある、小さな部屋。

 その奥に座っているのは、オッドアイの若い女性だった。


 特徴的な黒と赤の瞳。

 青みかかった綺麗な黒と、薄ピンクに近い明るく可愛らしい赤。

 藍色に近い色のショートカットで、背中にコウモリ……に、近い黒い翼膜を持つ小さな羽。

 その女性は、優しい笑みを浮かべクロス達を皆。

「お待ちしておりました。クロス様、クロード様。当店のオーナー、ヨルです。それとヘンリー様。いつもご来店ありがとうございます」

 そう言葉にし、ヨルはぺこりと頭を下げた。


「いやいやお店が空いてたらいつでも来ちゃうからー」

 だらけきった顔のヘンリーに微笑みかけた後、ヨルはクロスとクロードの方に目を向けた。

「実は当店ではちょっとしたルールが御座いまして……一見のお客様にはまずこちらでお目通しをして相談をさせて頂いているんです」

「クロス。それって普通の事なのか?」

 クロスはクロードの質問に手を横に振った。

「まさか。初めて聞くよ。と言ってもまあ高級店なんて来た事がないから普通なのかもしれないけど」

「いえ。当店独自のルールですね。まあはっきり言ってしまえば、お客様の選別です。常連であるヘンリー様は当然、クロス様クロード様は問題ないのですが……それでもルールですので」

 そう言葉にし、ヨルは謝罪の意を込め頭を下げた。


「特別扱いは出来ないけど、こっちの受付にわざわざオーナーが直々に来たって辺りでまあ店側の苦労を察してやってくれ」

 ヘンリーの言葉にクロスは頷いた。

「ついでに、ほれ。お前らもここで渡せ」

 ヘンリーの言葉が何なのかピンと来た二人は受付であるヨルの前にあるテーブルにヘンリーから渡された土産をどんと置く。

「んでこれは俺からっと」

 そう言って、ヘンリーも二人の後自分の土産を乗せた。


 土産物は直接渡さず、最初スタッフに渡す。

 これはルールというよりも、常識や暗黙の了解に近いだろう。


 高級店だからこそ嬢を護る為に危険な客を選別して分け、そして直接土産を渡すのはよほどの間柄となってからのみ。

 高い金銭を払うからこそそこに滞在する女性を護り、そしてそれに納得出来る者しかここに通う事は許されなかった。


「ありがとうございます。皆も喜ぶでしょう。これでお目通しは終わりなのですが……クロス様、一つ質問があるのですが……」

「はい。何でしょうか?」

 若干緊張した様子でそう答えるクロスを見て、ヨルはそっと席を立ちあがり、クロスの傍に寄る。

「緊張しないでも大丈夫ですよ。別に何か悪い事を言おうとしている訳ではありません」

 そう言って、そっとクロスによっかかり体を預けるヨル。

 緊張を解す為なのだろう。

 そして、その効果は絶大だった。

 何故ならクロスだから。


 可愛い女の子が、あざとい位に上目遣いをしながら柔らかい体を預けて来る。

 クロスに効果がない訳がなかった。


 だらりと顔を緩め、頷くクロスを見てヨルはくすりと微笑み頷いた。

「クロス様は色々な子をお話したいと私は考えています。もちろん、うちにいる子達もクロス様と沢山話したいと思っていますわ。ですか、時間にも限りはございますしクロス様のお体も一つのみ。ですので、多少の方向性としてどういう子に来て欲しいかご希望があれば伺いたいなと」

「どういう子って?」

「もちろん、色々な子がクロス様の席に向かいます。ですがせっかく楽しむのでしたらお好みの子が混じった方が嬉しいかと思うのがオーナー心という物です」

「おおう。立派なお気持ちですね。ただ……何で俺だけ? クロードは?」

 少し、ほんの少しだけ冷めた気持ちでクロスはそう尋ねる。

 これが自分だけ特別扱いだとしたら、言ったら悪いががっかりである。


 だが、ヨルは微笑み首を横に振った。

「ヘンリー様は常連ですから好みを把握しております。クロード様にもどうしたら良いか事前に決めておりますので」

「例えば?」

「少数で、静かに。それでいて多少の距離感があり性的な物をあまり出さないタイプ。会話が少なく無言でも不快にならずに済み、パーソナルスペースを尊重し、それでいて若干趣味が合う。そんな風変りな子をあてがおうと」

 そう、満面の笑みでヨルは言葉にする。


 ちらっと、クロスはクロードの方を見た。

「本当にそんな感じで好みあってたりする?」

 クロードはクロスの質問に少し考え、そして頷く。

「そうだね。あまり女性と騒ぐのは好きじゃないから、物静かで不快にならない子なら嬉しいと思うよ」

「当然、あちらも男性と接触を好むタイプでは御座いませんのでおさわりなどされたら困りますが……その方が都合が宜しいですよね?」

 ヨルの質問に、クロードは頷いた。

「そうだね」

「という事でヘンリー様、クロード様は事前に準備が終わっているのですが……クロス様は……その……はっきりおっしゃって良いですか?」

「うん。良いよ」

「女性の好みがあまりに広すぎて誰を呼べば良いか推測すら付かず困っておりまして……。無論、クロス様の希望通り色々な性格、趣味、嗜好の子を選びますがそれでも出来れば来てほしい傾向でも教えてくれればなーと……」

 そう、ヨルが言葉にする。


 それを見てクロスは理解する。

 演技とかではなく、本当に困っているのだと。


「あー……うん、可愛ければ誰でも……って言うと困るんだよね?」

「はい。ありていに言えば」

「少しわかる。ご飯何が良いって聞いて何でもって言われた時本当に困るんだよね」

 そう言って、クロスはニヤニヤしながらちらっとクロードの方を見た。

「あはは……クロス今でも根に持っているんだね」

 そんなクロードの困った顔を見て、クロスは楽しそうに笑った。


「オッケ。んじゃちょっと変わった子呼んでくれる?」

 予想外の返事にヨルは首を傾げた。

「……変わった子、ですか?」

「そ。無礼とかそういうの一切気にしないからさ、だって沢山色々な子とお話出来るんでしょ?」

「ええ、まあ、その予定ですが……」

「どうせ皆可愛い子なら広く浅くお話したいじゃん? んで普段あまり会わないタイプならちょっとお得感ない? だからちょっと変わってる可愛い子を宜しく」

「――わかりました。少々風変りですが、皆良い子ですのでご安心を」

「うん。楽しみにしてる。それで、この後はどうしたら良いかな?」

「こちらでやるべき事、聞くべき事はこれで終わりです。……どうか元の、表の受付にお戻りくださいお客様。――お客様の貴重なお時間を頂いてしまい真にもうしわけありません。残りの時間は……時間の許す限り……お楽しみ下さいませ」

 お客様接待モードでの愛想笑い。

 若干の距離感を感じるヨルの態度を見て、クロスは頷き先程入って来た扉を開け、元の場所に戻る。


「いらっしゃいませ!」

 さきほどとは異なり、黒服達が笑顔でずらっと並び、店の表裏奥あらゆる場所から、揃った女性の声が響く。

 お客様として認められた、店に、皆に歓迎されている。

 そう感じる期待と興奮が入り交じる瞬間。

「そうそう、これこれ! これだよ。この楽園に来たって感じるこれ!」

 そう、ようやく客になれたと思ったクロスは感動に打ち震える。

 横で腕を組み、頷いているヘンリーと異なり、クロードは苦笑いを浮かべ頬を軽く掻いた。




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