この街の食料事情
何回かデュエルしたので結構疲れたが、収穫はあった。
ウルスのデュエルタクティクスがメキメキと上がって俺とある程度は戦えるようになったのだ。
とはいえ、流石に勝率8割は切らないあたりまだまだロイヤルナイツというデッキタイプが発展途上のデッキなのだろう。
カードプールも狭くこれ以上の助言ができないでいた。
色々と考えているとお腹が空いてきたので彼女に聞いてみる。
「ウルス、居候させて貰ってる身で悪いがそろそろ腹が減ってきたな...」
俺がそういうと、彼女はハッとしたようにカードを片付け始めた。
「ごめんなさい!私ったら夢中になっちゃって...」
慌てて片付ける姿はなんだかんだ微笑ましい。
「いいから落ち着いて片付けろって」
笑いながらその様子を凝視する。
彼女が片付け終わると食事になったのだが。
〜食事室〜
「なんだこれは...」
出されたのは豆だけの簡素な料理とさえ呼べない様な食事だったのだ。
「何って...、カズリ豆だけど...」
平気で食べる彼女に驚く。
本当にこれ食べれるのか?、いや食べれるだろうけど不味いだろ...。
俺は恐る恐る口に入れるが、これは完全に菓子類だ。
ポリポリという食感は楽しいが、正直言って腹に貯まらない。
何より味が微妙なのがマイナスか...。
文句を言わずに食べ続けるが、もうちょいまともな食事がしたいものだ...。
次の日も、そのまた次の日も同じメニューが三食続いたので流石に我慢の限界がきた。
「おい!ここの騎士団は豆しか食べないのか!?」
俺は彼女に向かって怒鳴るが、彼女はきょとんした表情で困惑している。
「何を怒っているの?なんだか遊牙おかしいよ?」
「いいや、おかしいのはお前らだ!俺が今日から食事を作る!」
我慢できなかった俺は厨房に足を踏み入れた。
そこにはカードゲーム内でよく見た人物が食事用の豆を洗っているのが見えた。
「ここは厨房ですよ!関係のない人が入ってきてはいけません!」
赤髪の幼女に注意されるが関係ない。
こんな物を毎日食って発狂しないこいつらの精神がどうかしている。
「代われ!俺が料理をしてやる!材料はどこにある!」
「ここには豆しかないですよ!最近不作続きでこれしか作れないんです!我慢してください!」
「なに!そういうことだったのか...」
俺は冷静になって考えてみる。
MWの世界では戦いが永遠に続いている。
そんな世界の食料事情であればこういう事があってもしかたないのかもしれない。
彼女の頭を触りながらこう呟いた。
「すまなかったなアイラ...、俺が悪かった...」
「えっ!?どうして私の名前を?」
彼女が驚いた様に顔を俺に向けてきた。
良く彼女の体を見ると痩せているのが分かった。
いや、ここのいる兵士達は皆体の細い者が多いと思ってはいたが、こういう事が原因なのであれば仕方がない。
「俺がなんとかしないとな...」
俺は+ボックスの中からカードを選択し始める。
この食事事情を解決してくれる奴を俺は知っている。
MWの背景ストーリーは良く読んでいるので、大体カードの特徴を把握しているのだ。
そして一枚のカードを選択すると召喚する。
「こい!豊かな緑の力を持つ料理人!カラン!」
俺が使い魔を召喚すると、そこに煙が上がりいい匂いが立ち込めてきた。
「あれ?少し火力が強かったか?」
煙が晴れてくると、そこには緑髪の筋肉マッチョの男が1人立っていた。
上半身が裸でエプロンをつけているのでかなりの変態に思えるが大丈夫。
こいつにとってはこれが正装なのだ。
さ〜て、ちょっと前までしっかり使ってたんだが、最近は使ってやれてなかったから怒られなきゃいいけど...。
俺は気楽に話しかけて見る。
「よう!カラン!」
彼は俺の方を見て嬉しそう表情を浮かべた。
「おっ!遊牙じゃね〜か!ははっ久しぶり!」
やっぱり思った通りだ、現世で一回でも使ったことのあるカード達は俺を友だと認識してくれている。
ボーンキマイラなど大会にまで持ち込んだ連中はあり得ないほど懐いているのがいい証拠だ。
つまりこの世界において現世の使用率はそのまま友情に変換されていると言えるのだろう。
彼は一度デッキに入れて戦って見たけれど、あまり活躍しなかった為抜いたカードなのだ。
「カラン...突然ですまねぇんだが、料理を作ってくれないか?俺今腹ペコでよ」
彼は笑って答える。
「いいぞ!他ならぬ遊牙の頼みであれば料理くらい振舞ってやるさ!」
彼は素早い動きで料理を作る。
流石は戦乱の世を料理一つで救おうとした男だ。
気構えが違う。
さっと炒めた野菜サラダを皿に盛り付け、その上にメインディッシュの肉をドンッと厚切りにして載せる。
肉の焼ける音が厨房室中に響き渡る。
「さあ!アツアツのうちに食いねぇ!」
「いただきまーす!」
彼は背景ストーリー上で食事を作るカードなのだ。
一説では彼の作る料理で戦争が止まった地域もあるらしい。
俺が肉を食べる様を見たアイラはよだれを垂らしながら見ている。
その様を見た彼は彼女にも同じ物を作ってやり目の前に出す。
「えっ...いいの?」
彼は笑顔で答えた。
「ああ!俺は腹ペコのやつに食べさすのが好きなんだよ!いいから食いねぇ!」
慣れない手つきでフォークとナイフを使い肉を食べるその姿を見る彼の表情は明るかった。
後にはただ、肉を食べる音だけが厨房に響くのみだった。




