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紙切れの重さ

シーンと静まり返る謁見の間。


「それは…私がいなければルリアーナは王妃になれないから…自分の為に必死になっていただけでしょう。」


ルリアーナ様を嘲る殿下の言葉に、場の空気は更に重くなる。


「お前は本当に何も分かっていないのだな。いや、知ろうとしなかったのか。無知なる者に罰を与えても意味は成さんな。」


国王陛下の声からは呆れどころか哀れみすら感じられる。


「何故クラウダス家と王家が婚約することになったか、それぐらいは分かっておるよな?」


「…同じ年齢で一番身分が高かったのがルリアーナだからでしょう?」


「クラウダス公爵家の直系の血筋を王家に取り込む為だ。そして、この婚約は何百年前から王家が望んでいたものだ。」


国王陛下は公爵家の成り立ちから殿下に説明される。根本から話さないと理解しないと判断したのだろう。


クラウダス公爵家は建国当時からある古い家。当時から交渉事が得意で、互いにとって長期的に利益を得る方法を模索・提案することで有名な家だった。個人の利益のみを優先する者からはお人好しや馬鹿呼ばわりされていたらしい。クラウダス家が何故そのようなことにこだわったのか。それは争いの抑止力となるようにという願いからだ。長期に渡り利益を出せば、相手も簡単にはその契約を切り捨てることは出来ない。長期的な繋がりは互いへの信頼に変わっていく。クラウダス家の者は利益を出すギリギリのラインを見極める力、変化を見極める力に長けていた。だからこそ可能であったことだ。その姿勢は国内の者が相手であっても、国外の者が相手であっても変わらない。ちなみにクラウダス家の交渉に応じなかった国は見極めを誤り、自然と破滅していったそうだ。


そうした信頼の積み重ねによってクラウダス家は実力のみで公爵位を賜ったのだ。王家は他国からも信頼の厚い公爵家の者を王族の伴侶として、王妃として迎え入れたかった。王妃として迎え入れることで諸外国に王家は公爵家を重要視していること、公爵家が王家に忠誠を捧げていることを見せつけたかった。だがそれは叶わなかった。王家と公爵家、双方に子供が生まれると何故かいつも同性なのだ。分家や親戚筋であれば異性もいたが、王家が婚約を打診する前に病で亡くなる者ばかりであった。


ある時、王家と公爵家の間で特殊な魔法契約が成された。魔法公爵立ち会いの下、国王となった者が一度だけ使える契約魔法。それはとても強力な契約魔法で使用した者は指の数にも満たないと言う。使用した者が少ないのは、その魔法を使う際は魔法公爵全員の許可を取る必要があるからだ。これが中々厳しいらしい。そんな中、当時の国王が願ったこと。それは王家に男児、公爵家に女児が生まれ二人が同じ年頃であった場合、その二人を婚約させたいというものだった。


・王家に男児、公爵家に女児が生まれ二人が同じ年頃であった場合。その二人を婚約させること。


・公爵令嬢と婚約した王子を次期国王とすること


・婚約した二人はこの魔法契約によって守護されること


・この契約から百年経った場合や情勢が変化した場合。王子ならびに令嬢が次期国王、次期王妃に相応しくないと判断された場合。この契約は魔法公爵の立ち会いの下、破棄出来る。


簡単にまとめるとこんな内容だったらしい。当時の国王夫妻、公爵家当主夫妻の四人がその書類に連名でサインし、騎士団長、宮廷魔術師団長、宰相、魔法公爵の代表者の四人が立会人としてサインした。そして三百年後。王家に男児が、公爵家に女児が生まれた。


契約に則れば、二人はそのまま婚約する筈だった。しかし百年以上経ち、契約解除の条件を満たしたので、王家と公爵家の間で密かに会談が開かれた。王家としてはやっと巡ってきた機会だったので公爵令嬢を次期王妃として迎え入れたかったようだ。公爵家も今代の王を信頼しており、娘を未来の王妃として嫁がせることに異論はなかった。国王陛下もこの婚約の為に一度きりの契約魔法を使おうとした。それを使うことで王家の誠意と覚悟を伝えたかったからだ。だがそれはクラウダス公爵によって止められた。その強力な魔法を使うタイミングは今ではない、国王の誠意は十分伝わっていると判断した為だ。


「そして余と公爵は魔法公爵立ち会いの下、古い契約魔法を破棄し、婚約に関する新しい契約を結んだ。それには一切魔法は使っておらん。その契約は余と公爵の双方の信頼を表したものだからだ。」


婚約はたった数枚の書類で締結される。その紙切れは見た目とは裏腹に、とても重い。特に今回の二人に関しては。ルリアーナ様はこの重さに気付いていたでしょうね。公爵家から王族に嫁いだ者がいないか調べるぐらいはするだろうし、王妃教育の中には歴史の授業もあっただろう。それを受けていればすぐに気付くはず。それに、他の高位貴族がこの婚約に一切邪魔をしてこなかったことにも違和感を覚えていたと思う。他の高位貴族家当主は、長年に渡り王家がクラウダス家との婚姻を望んでいたことを知っていた筈だ。王家に望まれ大切にされる令嬢。もし彼女が何らかの理由で婚約者の地位を退いた場合。例えば彼女が死亡した場合だ。自分の娘を嫁がせたとしてもその家の者が関与しているのではと疑われる可能性が非常に高い。その疑念が身の破滅を招いたら元も子もない。そんな危ない橋を渡るなら次代の王妃はクラウダス家に譲って、王の意を汲むその潔さで家の評価を高める方が得策だろう。


「次期国王となれる者はお前だけではない。だがルリアーナ・クラウダスの代わりになれる者はいない。ルリアーナ嬢がどれほど王家にとって重要な存在であるか、もう分かったな?昨日、お前はルリアーナ嬢のエスコートを放棄することを選んだ。その報告が来た時点でお前とルリアーナ嬢の婚約は即刻破棄した。…はぁ、最初からこうしていれば良かったのだろうな。」


なんとも滑稽な話ね。婚約破棄を突き付けたのに、自分の知らないところで既に婚約者破棄されているなんて。

ご拝読ありがとうございました。

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