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魔法公爵と罪人

数千年前のこと。この国は作物が殆ど育たない荒れた地だった。どれだけ肥料を与えても豊かにならない大地。そんな場所を開墾する者はいなかったという。そんな時、どこかの国の民がこの地へ追いやられ必死に生き延びようとしていた。その姿に胸を打たれた夜の女神ヴェルトナは、雨を降らせ乾いた大地を潤した。だが、ヴェルトナは気付く。このまま自分が去って魔力の補給を止めれば再び大地は荒れると。そこで女神は自身が認めた人間に、ある力を授けた。それは特殊な魔力。女神と繋がり、女神に代わりこの大地を潤す守護者の力。


その力を持つ者だけに与えられる称号が『魔法公爵』。略して魔公。これはこの国だけの独特の爵位。一代限りで領地を持たない、特殊な魔力を持つ最高位の魔術師。現在は私を含め六人の魔公がいる。それぞれが得意な属性を持ち、私は無属性の魔法を得意としている。ちなみに魔法公爵と宮廷魔術師は完全に異なる存在だ。扱う魔法のレベルも違う。宮廷魔術師は王に仕え、王の命令に従う。だが魔法公爵は女神に仕える者。魔法公爵達が愚王と判断すれば女神の名の下に国王をも裁く事も出来る。なので国王であっても私達に命令は出来ない。ただし、協力出来ると判断したものに関しては国王に従う。


そして、私達だけに許されたもの。それが星座の模様。この模様は魔法公爵以外は決して使用出来ないと法律で定められている。だから私が着ている、この星座の模様が入ったドレスを見れば、普通は私が誰だか分かるということだ。


「何故、魔法公爵がここに…。」


殿下は本当に驚かれたのね。冷たい水をかけられたようにポカンとしているわ。魔法公爵がパーティーに出席するなんて殆ど無いことだから驚くのも無理はないけれど。ビックリし過ぎて頭も冷めたみたいだし、ちょうど良かったわね。


「学園長先生に頼まれましたの。王太子となられる殿下と王太子妃となられるクラウダス嬢の門出を祝ってほしいと。最初はお断りしていたのですが、何度も頭を下げられましてね。まぁ、クラウダス嬢とは面識もありましたし、今年度は学園に度々訪れていましたから、たまには良いかと思いまして。シークレットゲストとして登場して何か魔法で余興でも…と考えておりましたの。」


「そ、そんな…。」


「ふふふっ。この場にふさわしくない物騒なお話もたくさん出ておりましたね。婚約破棄、虐め、傷害事件に禁止魔法の使用でしたか。まるで小説のようで、なんて斬新な余興だろうと驚きましたわ。」


私の言葉を聞いた殿下が苦々しい顔をする。


「カリーナ卿。わざわざお越し頂いたのに、このようなことに巻き込んでしまい申し訳ありません。」


ルリアーナ様が後ろから私に声をかける。おそらく、この場で冷静なのは彼女だけだろう。私の存在を知っていたのも彼女だけなので仕方ないのかもしれないが。


「構いませんよ、クラウダス嬢。それに謝るのは私の方です。レイナード殿下、申し訳ありません。私が勝手に出てきたせいで折角の余興を中断してしまって。」


「あっ、いや…。」


「ドルトーニ・ランバー君。あなたにも悪いことをしたわね。ずっと姿を隠す魔法を使っていたから、魔法を解く時にあなたの魔法も吹き飛ばしてしまったわ。加減が出来なくてごめんなさいね。」


私はとても申し訳無さそうに二人に謝る。殿下もドルトーニもあたふたしている。そんな彼等を見て私はにっこりと笑う。


「確か呪い返しの途中でしたよね。私に構わず続けて下さいな。」


私は気持ち悪いぐらい優しく声をかけた。


「そうだ、ドルトーニ。もう一度、君の魔法を発動してくれ。」


「えっ、あっ、いやっ、それは…。」


「顔が真っ青だぞ?魔法公爵が立ち会っているから緊張しているのか?だが、お前の実力なら余裕だろう?」


けれど彼は石のように突っ立ったままで、一向に魔法を発動しようとしない。


「ふふっ。呪い返しなんて出来るわけありませんよね。他の者は騙せても、私はあんな小細工で騙されないもの。」


「あっ、あっ、あああぁぁぁぁーっ!」


私のとどめの一言を聞いた彼は、奇声を上げて膝から崩れ落ちた。どうやら観念したらしい。


「ドルトーニ・ランバー。魔法公爵オリヴィエ・カリーナの名の下に、あなたを逮捕します。」


瞬間、紫色の光の紐がドルトーニを縛り付ける。これ以上喚かれると迷惑なので口も塞いでおこう。この魔法は魔力を封じる力も備えているので、捕縛された者は魔法を使って逃げることも出来ない。


「逮捕だと⁉︎私の友人に何をする!魔法公爵と言えど、理由もなくこのようなことをするなんて許されないぞ!」


「罪人を捕縛しただけです。現段階での罪状はクラウダス公爵令嬢への魔法による殺人未遂、及び王族への魔法詐称…というところでしょうか。」


私はドルトーニを睨みつけ低い声でそう告げた。彼は更に青ざめ、ガタガタと震え出す。


「殺人未遂に詐称?ルリアーナがマリアにかけた呪いが人を殺す威力だったということか?だとしたら、自業自得だろう。」


「私も呪い返しの魔法なら止めることはしません。それこそ殿下の仰った通り自業自得・・・・ですからね。しかし、彼が発動しようとした魔法は呪い返しではありませんでした。あれは火の攻撃魔法。もしも私が止めなければ、クラウダス嬢は全身大火傷で死んでいたでしょうね。王族である殿下が呪い返しの許可を下した場で、攻撃魔法を呪い返しと偽り発動するのは王族に対する詐称行為。両方、捕縛する理由としては十分ですわ。」


「なんだと⁉︎」


会場にいる全員が驚いている。私だって驚いたわよ。まさか無抵抗の人間にあんな魔法を発動しようとしていたなんて。彼は本気でルリアーナ様を殺そうとしていた。しかも、攻撃魔法と見破られないように偽装まで施して。後から調査をしても殆どの魔術師は攻撃魔法が使われたことを見抜けず、呪い返しの魔法と断定してこの件を処理していただろう。それぐらい優れた偽装だった。


「にわかには信じられないが…あなたがそこまで言うのなら一時的な捕縛は許可しよう。その代わりに頼みがある。カリーナ魔法公爵、あなたなら呪い返しが出来るのだろう?彼に代わり魔法を発動してくれないか?私はマリアに呪いをかけた人間が許せないんだ。」


「お断りします。」


「何故だ⁉︎」


「必要が無いからですわ。私がたところ、彼が持つ守護の魔道具に呪いの魔法がかけられた痕跡はありません。ありもしない呪いを返す事など出来ません。」


「では、マリアが呪いをかけられたという話は…⁉︎」


「彼の作り話ということになりますね。」


「ドルトーニ君が私達に嘘を吐いていたと言うのですか⁉︎そんなっ、どうして。」


フローレス男爵令嬢が殿下の背中から、少し顔を見せる。その表情からとても困惑していることが分かる。


「さぁ?それは彼を留置所に引き渡した後、尋問官が調べてくれますよ。」


視たところ、あの魔道具には二つの魔法がかけられている。一つは守護の魔法。そしてもう一つ。気付かれないように偽装された盗聴の魔法。監視任務を与えられている訳でもないのに、盗聴用の魔道具を好きな相手に贈るなんて……鳥肌が立ってきたのでこの場では黙っておきましょう。

ご拝読ありがとうございました。


この回でようやく主人公が何者か説明出来ました。ここまで読みにくい点も多々あったと思いますが、根気強く読んでくれた皆様に感謝しております。

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