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すてられるもの

会場が響めき出した。どうやらルリアーナ様が入場されたみたいね。私は入り口の方へ目を向ける。一人での入場にも関わらず動揺を微塵も感じさせないその佇まい。いつもの様に穏やかでありながらも凛とした面持ち。出席者達もそんなルリアーナ様に気圧されて自然と道を開けてしまう。レイナード殿下とフローレス男爵令嬢の姿は既に視界に入っているのでしょうけど、ルリアーナ様の表情は変わらない。


レイナード殿下の方は先程までの甘い顔が嘘のように、とても冷たい表情をされている。全く。王族がそんな素直に感情を表に出しては駄目でしょうに。


「まさか一人で入場してくるとはな。ルリアーナ。」


「一人での入場が私の務めに必要だと判断しましたから。これが殿下の望みなのでしょう?」


「ふっ。まぁいい。ルリアーナ・クラウダス嬢!私は今この時を持って、お前との婚約を破棄し、マリア・フローレス嬢と婚約する!」


殿下の発言に会場がざわつく。


「お言葉ですが殿下。私と殿下の婚約は王家と我がクラウダス公爵家によって交わされた契約。その重さを捨ててまで、男爵家の娘を選ぶ理由をお聞かせ下さい。」


「ルリアーナ、お前には分からないだろうな。彼女の純粋な心に私がどれだけ満たされたことか。どれだけ救われたことか。」


「…。」


殿下は語り続ける。30分以上は惚気てるんじゃないかしら?ざっくり要約すると、男爵令嬢と共に過ごして今までの価値観が良くも悪くも崩れたということね。王族や高位貴族とばかり過ごしてきた殿下にとっては、平民の母を持つ男爵令嬢との時間は新鮮だったのでしょう。眩しかったのかもしれない。何も気にせず素直に笑ったり、泣いたり出来る彼女の姿が。王子様というのは案外自由ではないから。


「マリアと出会い、私は真に人を愛する喜びを知った。私は彼女以外の人間に愛を振りまく気は無い。無論、彼女以外を娶るつもりも無い!」


こんな大勢のいる場所で婚約を破棄されるなど屈辱でしかないだろうに、ルリアーナ様の表情は変わらない。


「…。殿下が望まれるのでしたら、私はそれに従い婚約破棄に同意しましょう。この場にいてはパーティーの邪魔になるだけでしょうから、私はこれで失礼します。」


そう言って、ルリアーナ様は退出の礼をする。王妃教育を十年受けてきた彼女は、この状況でも完璧な淑女を演じることを忘れない。


「待て!話はこれだけではない!お前は私の愛するマリアに嫉妬して嫌がらせをしていただろう!」


フローレス男爵令嬢を抱き寄せるその姿はまるで恋愛小説のよう。婚約破棄宣言からの断罪だなんて、本当にありきたりな展開。小説だと気持ちが高揚してしまう場面も、現実だとあまり楽しめないものなのね。溜息しか出ないわ。


「そうだろう、マリア?」


「はっ、はい。いつの間にか私物が壊されていたり、隠されていたことが何度もありました。」


男爵令嬢は涙目で訴える。そもそも婚約者のいる殿方と恋仲になんてならなければ虐めにも合わなかったんじゃないかしら?この学園は勉学と交流を目的として通うもの。ある程度の自由な交流は認められているけれど、その際のマナーだってちゃんとあるのだ。虐められる覚悟が無いなら、王子と恋仲になんてなるなよと思う。ただ、私物を壊されたことは気の毒だとは思うわ。物に罪は無いのだし。


「私は断じてそのようなことはしておりませんわ。」


「大方、誰かに命じてやらせていたのだろう。お前が自分の手を汚すとも思えないしな。そうやってマリアを不届者に襲わせたのだろう?」


「襲わせる?殿下は一体何を仰っているのですか?」


「とぼけるな!先日、マリアが何者かに襲われたのだ!犯人には逃げられたそうだが、これも君の差し金だろう!」


なんだか危ない話になってきたわね。というか、犯人に逃げられて証拠も無しに公爵令嬢を黒幕に仕立て上げるなんて殿下は何を考えているのかしら?


「マリアが襲われる数日前に、お前が怪しい者と話していたと証言する者もいるのだぞ!」


「私はそんな事件に関わってなどおりません。一体どこのどなたがそんな事を仰ったのですか?」


「証言者ならこの場にいる。」


そういって殿下は、1人の令嬢に目を向けた。


ご拝読ありがとうこざいました。

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