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最後の務め

「ルリアーナ様。もう目を開けても大丈夫ですよ。」


「…ここは?」


ルリアーナ様がキョロキョロと辺りを見渡す。目を閉じた一瞬の間に景色が変わっているので戸惑っているのだろう。


「来賓用の控え室です。いきなりホールに転移したら目立ちますから。」


確かに、とルリアーナ様は微笑む。今日のパーティーは学園敷地内にある講堂で行われる。館内にはパーティー用のホール、出席者の為の控え室や休憩室が複数ある。ここはその内の一つで私個人に用意された部屋。


「カリーナ卿。」


先程とは打って変わり、ルリアーナ様が真剣な表情で私を見つめる。


「今回は私の我儘に付き合わせてしまって本当に申し訳ありません。」


「頭を上げて下さい。今日は元々転移でこちらに来る予定でしたから。一人で飛んでも二人で飛んでも同じこと。お気になさらないで。」


頭を下げたルリアーナ様に私は内心慌ててしまう。転移魔法を使って複数名を移動させると、大抵の魔術師ならしばらく立ち上がることも出来ない。普通なら手間のかかることだろう。だが、私は普通の魔術師ではないからこれぐらいのことは難無く出来る。こんなことで公爵令嬢に頭を下げられると申し訳ない。


この国では転移魔法を使える者でも、パーティなどの行事の際は馬車を使用することがマナーとなっている。。しかし、今日のパーティーでは、私はシークレットゲストとして招待されているので、会場入りも人に見られない方が良い。そういう理由で事前に主催者側にも許可を得て転移魔法を使った。それよりも問題は…。


「ルリアーナ様、本当によろしいのですか?」


「ええ。」


「今ならば別のエスコート役も用意出来ますが…。」


「申し訳ないけれど、私は一人で入場するつもりです。」


学園の卒業パーティーでは、卒業生は男女でペアを組み入場するのが慣例となっている。婚約者や仲の良い同級生、在校生などとペアを組み、一人で入場するなんてことは決して無い。まして婚約者のいる公爵令嬢が一人で入場するなんて、あってはならないことなのだ。


「彼の選んだ答えを受け止める。それが私の、彼の婚約者である私の最後の務めですから。婚約者に捨てられた無様な女として堂々と歩きますわ。」


淑女の仮面を被ったルリアーナ様は、いつものように微笑む。彼女にはこのパーティーを欠席するという選択肢もあった。婚約者の事を早々に斬り捨てるという選択肢だってあった。だが、彼女が選んだのは最後の瞬間まで彼を信じて待つ道。その道の意味も、きっと彼女は半分しか気付いていないのだろうけど。


きっと何を言っても、この方は意見を変えない。優しくて芯の強い人だから。自分が傷付くことも厭わない方だと私は知っているから、これ以上は何も言えないし言わない。彼女の付けた赤と紫の花の髪飾りをちらりと見て、私は心の中で溜息を吐いた。

ご拝読ありがとうございました。

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