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姉と妹

「なんで、お前が生きてっ‼︎しかも魔法公爵なんて…イブローラン家のごみのくせに、なんでっ‼︎なんでなのよっ‼︎」


「何故と問われてもね。あなたが失敗したからとしか言えないわ。」


卒業前後に子爵家の誰かがが自分に対して何かしらのアクションを起こすとオリヴィエは予想していた。追放か、監禁か、暗殺か。それとも変態親父との縁談を突き付けてくるのか。元々卒業と同時に姿を消す予定だったので追放・監禁・縁談に関しては特に問題は無い。残った可能性は暗殺。一般的に一番気を付けなければならないのは毒殺だろう。だが、彼女は魔法公爵になった時に全ての状態異常への耐性を得ている。そのため毒による暗殺だけは可能性から除外し、暗殺者による襲撃・事故を装った殺人が行われると予想していた。そして毎年墓参りをするあの日、教会に火が付けられた。


「確実に私を殺すために、わざわざ睡眠薬入りの紅茶まで用意させたのでしょう?それなのに失敗するなんて。…ふっ、ふふっ。本当に運が無い子。」


指先で口元を覆いながらオリヴィエは笑いを堪える。人を小馬鹿にするその態度はミーチェの怒りのボルテージを更に上げることになる。


「私を馬鹿にするなぁっ‼︎この死に損ないがぁぁっ‼︎」


檻の柵を何度も何度も叩き付けるミーチェ。彼女の白魚のような手はどんどん赤く腫れていく。だが彼女は怒りで気付かない。


「私を殺し損ねて残念だったわね。こちらは、あなたが指示した暗殺のおかげでオリヴィエ・カリーナとしての人生を謳歌出来て満足しているわ。」


「この私を利用するなんて何様よっ‼︎」


「………魔法公爵様よ、私は。」


ドスの利いた声というのはこういうものを言うのだろう。彼女の本気の凄みに当てられたミーチェは、ヒッと小さく声を上げ尻餅をつく。その情けない姿を間近で見るため、オリヴィエはわざわざ屈んで妹と目線を合わせる。


「あなたには感謝しているわ。教会に火をつけるなんて、そんな恐ろしいこと私には出来ないもの。」


妹は無関係の人間が何人亡くなろうが構わないというスタンスだった。姉はその逆。オリヴィエは自らの死を偽装する予定ではあったが、自分以外の人間も死ぬ可能性がある火事なんて絶対選べなかっただろう。だからこそ利用しがいがあった。ルリアーナがどれだけ遣いを出しても、あの事件を究明出来る訳が無いのだ。加害者だけでなく被害者も本気で隠蔽工作をし、偶然の火事に見せかけていたのだから。


「………の…為に」


「ん?」


「感謝なんて………何の為にそんなこと……お前は…。」


「だって、ヴィオラ・イブローランという存在は私にとって枷でしかないもの。イブローラン家の令嬢が魔公になんてなったら、あなた達は私の名を悪用するでしょう?」


彼女にとって、その体に流れる血も家名も忌まわしいものでしかない。その血を消すことは出来ないが、別人として生きることは出来る。それは彼女にとって、とても重要なことだった。


「…ふっ。…ふっ、…ふふっ。」


オリヴィエの話を聞いたミーチェが小さな声で怪しく笑い出す。


「何がおかしいのかしら?」


「だって魔法公爵が犯罪者の親族なのよ。笑えるじゃない。このことを広めたら、お前はどうなるのでしょうね。」


ニヤリと口元を歪ませるミーチェ。その態度にオリヴィエも一瞬本気で驚く。この状況であっても目上の人間を脅そうとする彼女の胆力は一体どこから生まれるのか?そして姉は、妹にこう言うのだ。


「あなたっ…………もしかして自殺願望でも持っていたの⁉︎」


「ハァっ⁉︎何ふざけたこと言ってんのよ‼︎馬鹿じゃないのっ‼︎」


「………そう。私のことを世間に広めたくて堪らないのなら別に構わないわよ。」


「なっ⁉︎」


彼女が正体を隠していたのは、親族にその名を悪用されないため。だが、親族達は捕縛されている。正体がバレたところで、それはもう彼女の枷にはならないのだ。それに…。


「三つの成し遂げたいことの内、二つは果たせたもの。一つはヴィオラ・イブローランの存在を抹消すること。そしてもう一つは……。」


オリヴィエは冷たく告げる。


もう一つの目的は、イブローラン子爵家とバロック伯爵家を潰すことだと。


◆◇◆


彼女の目的を聞いたミーチェは、怒りに震え姉を睨み付ける。


「お前達は…お前達親子は、また私達から奪う気なのねっ‼︎どれだけ奪えば気が済むのよっ‼︎」


「その言葉、そっくりそのまま返すわ。」


「はぁっ?あの屋敷で暮らすのは私達だった筈でしょうっ⁉︎奪われたものを取り返して何が悪いのよっ‼︎」


妹の考えを聞いたオリヴィエは、大きな溜め息を吐いてしまう。


「無知とは怖ろしいものね…。馬鹿を通り越して愚かだわ。」


「何ですってっ‼︎」


「奪われたものを取り返して良いのなら、私にもその権利があると分からないのかしら?お母様の持ち物も、お母様に仕えていた使用人達も、屋敷も、花壇に植えた花さえも。あなた達は私から奪って行ったじゃない。そして、お母様の命さえも……。」


「はあぁっ?あの女は病死で」


「違うわ。」


 ミーチェの言葉を遮るように鋭く言い放つ。その否定はまるで投げナイフのよう。


「お母様の本当の死因は中毒死。あの愚か者共が殺したのよ。」

今回もご拝読ありがとうございます。外出自粛で暇過ぎて困っている方へ。現在、私のブログでアニメの紹介などをしています。気が向いたら見に来てくれると嬉しいです。ブログの詳細は活動報告に記載しておきます(^ω^)

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