オリヴィエの独り言
ルリアーナ様に付き添っていたら、本当に陽が沈んでしまった。溜め込んでいたものを出したからか、彼女の表情は随分とスッキリしたものになったわ。それは良かった。それは良かったのだけど……長時間泣いたせいで彼女の目元は酷く腫れてしまった。あの顔では明日は外に出られないでしょうね。ずっと忙しくされていたのだから、一日ぐらい部屋でゆっくり休んでも何も言われないでしょう。公爵やアルバート殿下が私に文句を言ってくる可能性はあるけれど、その時は無視するわ。彼女の中の蟠りを少しも解くことが出来なかった人間に文句を言われる筋合いは無いもの。それに………次期王妃が使い物にならなくなるような事態は避けられたのだ。こちらとしては感謝して欲しいぐらい。
ハァーっと大きく溜息を吐く。
「本当に性格の悪い女ね、私は。」
もしもルリアーナ様が今回の件に口を出さなかったら…………レイナード殿下はまだ貴族でいられたのかしら。そんなことをふと考えてしまう。彼を早々に切り捨てる道を選んでいたらまた違った未来があったのかもと。そんなことを考えてしまう私は、本当に性格が悪くて意地悪で嘘吐き。
まぁ…嘘を吐いたのはルリアーナ様もだけど。正確に言うと少し違うか。嘘を吐いた自覚がそもそも彼女には無い。だから彼女にとっては、吐き出した言葉は全て本物なのだろう。けれど、一つだけ。彼女が気付いていないことがある。いや、気付こうとしていないことがある。
……ねぇ、ルリアーナ様。あのパーティーの日、あなたが付けていた花の髪飾り。あの花のモチーフがアネモネだっていうことに、あなたはまだ気付いていないのかしら?あなたほどの人がその花言葉を知らないなんてこと無い筈よ。アネモネは、その色によって意味が異なる。彼女が付けていたのは赤と紫の二色だった。紫のアネモネには『あなたを信じて待つ』という意味がある。あの日の彼女にピッタリの花。そして赤いアネモネは……
『君を愛す』
側から見れば何もおかしい所は無い。でも彼女は言った。『恋愛感情は持っていない』『友愛だ』と。そう思っていたのならば、赤いアネモネなんて選ばないんじゃないかしら?無意識で選んだその花は、あなたが見て見ぬ振りした気持ちを代弁しているかのよう。どうしてあなたが婚約者に対する愛情を抑えているのかは分からない。けれど、これだけは言えるわ。自分の感情から目を逸らすための都合の良い友愛では、盲目的な愛には勝てないのよ。
でも、私はそれを告げなかった。どうしても言えなかった。
「本当に馬鹿よね。」
レイナード殿下も、マリアも、ルリアーナ様も。……そして私も。
どうしようもないくらい…馬鹿だわ。
小説の構成に悩み過ぎて、いっそ全部書き直そうかと考えていました。が、やはり自分の一番書きたいところまではこのまま何とか書こうと思います。拙い文章ですがご容赦ください。今回もご拝読ありがとうございました。