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翼をもがれた鳥

「あのような騒ぎを起こした者を次期国王には出来ん。この騒動が落ち着いたら、お前に代わり第二王子が王太子の地位に就くことになる。」


「お、お待ち下さい!」


ここまで口を噤んでいたレイナード殿下が突如叫ぶ。


「何故エリオットではなく、アルバートなのですか⁉︎いくら王位継承権第二位といっても、あいつは昔から体が弱い。そのことは父上も知っているでしょう!父上はアルバートを殺す気ですか⁉︎」


国王陛下と王妃陛下の間に産まれた子は四人。第一王子のレイナード殿下。第二王子のアルバート殿下。第三王子のエリオット殿下。第一王女のフィオーレ殿下。この順番でそれぞれ王位継承権を持っている。アルバート殿下はレイナード殿下の双子の弟。だが、昔から病弱で離宮でずっと静養しているという。


「殺す気かと…お前がそれを言うのか、レイナードよ。」


その声と共に発せられる厳しい威圧感が場を覆う。そして溜め息を一つ。


「アルバートは昔は病弱であった。だが六年前から徐々に回復し、今では見違えるように元気になっておる。」


「そんな馬鹿な…!何故、教えてくれなかったのですか!父上は私を騙していたのですか!」


「あぁ、そうだ。このことは数人しか知らない。何よりアルバートが望んだことだったからな。」


奇跡的に回復し健康となった第二王子は考えた。自分が元気になったことを公表すれば王位継承争いが起こる可能性があると。自分達にその気が無くても、貴族達の思惑に嵌められ勝手に争いが起こるかもしれない。ならば第一王子が王太子の地位に就くまで、このことを公表せずにこっそりと生きていく方が良い。既に第一王子は権力の強いクラウダス公爵家の令嬢と婚約している。それに第一王子と第三王子では年齢が十歳離れている。自分が表に出なければ無駄な争いが起こる可能性は低い。第二王子はそう考えた。国王陛下もそれを最大限尊重した。国王としてもルリアーナと同じ年の第二王子を第一王子の予備として手元に置いておきたかったのだろう。不測の事態が起きた時に備え、第二王子にも秘密裏に王太子教育を施したという。様々な教育を受けた彼は第一王子を裏から補佐する存在になることを望んだ。そして学園卒業後に王太子となる第一王子の元に子どもが生まれた暁には、王位継承権を放棄して臣籍降下。もしくは自分は死んだことにして別人として人生を歩む計画を立てていたと国王は語る。


「あやつは既に三年前からお前の仕事を裏から補佐している。ここ一年、お前が放棄した公務の穴を埋めたのは誰だと思う?アルバートとルリアーナ嬢だ。……レイナードよ。もう自分が何をしたか、何を捨てたか分かったな。」


「は、い…。」


今までに無いくらいか細い声。やっと自分の仕出かしたことの重さを知ったのだろう。それを知るまで随分かかったものだ。


「では罰を下す。レイナード・アルテスマの王位継承権及び王族の身分は剥奪。また後世にその力を残さぬよう生殖機能と魔力を封印する。」


パチンと国王陛下が指を鳴らす。それを合図に私とアステラは小部屋から出て謁見の間に入場した。と同時にレイナード殿下が気絶して倒れる。きっと老師様が魔法をかけたのだろう。


「アリエス卿。カリーナ卿。フォエニクス卿。頼む。」


「「「畏まりました。」」」


私達三人は殿下を囲み、それぞれ詠唱して魔法を発動する。私達魔公は普段は詠唱なんて遠回りな方法は使わない。だが、今回は特別。詠唱をすることで他の魔術師が解除出来ない最上級の魔法に仕上げているのだ。アステラは火の魔法で彼の生殖機能を封印。私は監視魔法を、老師様は魔封じをかける。レイナード殿下は魔術師ではないが下級〜中級程度の魔法が使えるため、生殖機能だけでなく魔力も封印された。ちなみにアステラのかけた火の封印はとても痛いらしい。生殖機能に熱を与え一気に機能低下させる為、魔法をかけられた直後は激しい痛みに襲われるらしい。それは大男でも悲鳴をあげる痛さと言われている。老師様が殿下を気絶させたのは陛下と私達へと配慮だろう。最後に老師様が三つの魔法を強化する。この最上級魔法を解ける者はきっといない。これで私達の役目は終わり。


「レイナードを連れて行け。」


近衛兵に連れて行かれる直前、気絶した殿下の口が微かに動いた気がした。マリア…と、もう会えない恋人の名を呼んだように見えた。


馬鹿な人。


全てを失っても、あなたはマリア・フローレスを選ぶのね。ルリアーナ様との婚約の重要性は、きっと殿下だって気付いていた筈なのに。王太子教育を受けた人間が気付かない訳がない。それに彼は元々優秀な人だと聞いている。それなのに…彼はいつから目を逸らすようになってしまったのだろう。彼にとってルリアーナ・クラウダスという婚約者は何だったのだろう?政略で決められた婚約者とはいえ、彼女と共に過ごした時間はそんな簡単に捨ててしまえるものだったのだろうか?そんなに価値の無いものだったのだろうか?


答えの出ないモヤモヤした気持ちを抱えながら、私は連れて行かれるレイナード殿下を見つめていた。

前回、誤字脱字報告してくれた方ありがとうございました。実はいつも報告を受ける度ビックリしてます。なかなか自分一人では気付かないものですね。今回もご拝読ありがとうございました。

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