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Fragment-異世界への扉-  作者: 悠木おみ
第1章 異世界の彷徨者
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第1話 はじまりの日

「……夢……だよね、今の」

 夢で目に焼きついた、禍々しいまでの赤い光景。

 それは、それ以外に無いというほど幸福な表情で、同年代の少年少女たちを手に掛けていたという、おぞましい光景だった。

 顔といい腕といい、全てを血に染めて微笑んでいた自分。



 その表情はまるで――



「……」

 その光景をまざまざと思い出してしまったのか、未来は両腕を精一杯の力で締め付けるかのように握っていた。

 未来の全身は、腕といわず顔といわず、寝巻きの上からでもわかるほどに汗で湿っていた。

「……血、かな」

 ポツリ、とどこか自嘲するような笑みを浮かべると、未来は深く息を吐いてそれまでの思考を 振り払うかのように首を横に振って立ち上がった。

 頬にかかる、肩まで付くことのない長さの髪を緩慢なしぐさで払うと、未来はカーテンに手を掛けて勢いよく引いた。









 朝が、始まる。一日の始まり。

 学校の制服である真っ白のプリーツスカートに詰襟の学生服を着て身支度を整えた未来は、一つ息を吐くと玄関から部屋の中を見つめた。

 簡易キッチンとバストイレ、小さなロフトの付いている六畳一間のその部屋は、学校で経営されている学生寮の一室だった。



「……行ってきます」



 見つめていた視線を無理に外した未来は、口の中で呟くようにして部屋を後にした。





 何気ない日常、変わらない朝。

 いつもと変わらない行動をとる未来は、その平凡な日常の繰り返しに一抹の寂しさと幸福を感じていた。


 人は失ってから気づく、その全てに。

 「変わらないもの」がどれほど大切で、愛おしいものだと。

 良くも悪くも、そういう風に出来ている。


 未来も、そうやって後から気づいた人間だった。

 いまさら自分がどれほど恵まれていたかを知っても、残るのは悔いだけだった。



「はぁ」



 詰めていた息を意識して吐き出した未来は、手をかざして空を見上げた。


 見上げた空は一面の青空。

 雲もほとんど無く、どこからか風が梅の香りを運んできていた。

 もうすぐ、春が来る。





 今朝の夢のせいでいつもより若干早く家を出てきていた未来は、誰も通っていない学校前の並木道を歩きながら困ったように微笑んだ。

「もうすぐ……後二ヶ月で三年、か」

 溜息交じりに零れた声は今にも掻き消えてしまいそうなくらい儚かった。



『――』



 オルゴールの静かな音色と共に、鞄に入っていた携帯電話が振動したことに気が付いた未来は、空から視線を外して携帯を取り出すと、ディスプレイを覗き込んだ。

 届いたメールは未来には覚えの無い当選通知。普段なら目も通さずに削除してしまうようなメールだった。






>>


From Kronos Eden

Sud 「当選のお知らせ」



此度は当社、Kronos Edenの携帯電話専用ゲーム「Fragment」テスト版への応募、ありがとうございます。

貴方様は第二期のテストプレイヤーに当選いたしました。


ユーザーID ******

パスワード ******


なお、このユーザーIDとパスワードは当社が貴方様を判別するとても大切なものとなっております。

紛失、消去した場合の再発行は出来なくなっておりますので、決して忘れることのなきようお願いいたします。


「Fragment」 テスト版管理主任


<<






「……何? これ……」



 株式会社 Kronos Eden



 日本にある最大手のおもちゃ会社として有名なその会社は、そういうことに疎い未来も社名くらいは聞いたことがあった。

「テストプレイヤー?」

 学業とバイトで精一杯な未来がゲームをするどころか、テストプレイヤーに応募する時間も無い。

 いくら携帯で出来るとはいえ、自分で応募した記憶の無い当選通知に、未来は困惑していた。


 メールの内容に思わず足を止めていた未来は、首を傾げながら歩き出そうとしたところで目も眩むほどの光に襲われた。


「やっ……何!?」


 それは痛いほどの白い光。

 その光の刃が、この地上を覆いつくすかのようにこの世界に突き立てられた瞬間だった。




 この時、頭の中に響いた声は何だったのか。

 選ばれた者たちは突然の光に混乱していたためにはっきりとその声に意識を傾けていたものはいない。

 ただ、響いた声はどこか哀しみと慈愛が込められていたような気がした。





―刻の龍が選んでしまった……この世界の欠片を。


―酷なことをする。そんなことをしても運命は決して変わることは無いというのに。





「まぶしっ」

「えっ? きゃっ!!」

セイちゃん!?」

「な!?」

「っ!!」

「ユキっ!!」





―鍵は、選ばれてしまった。

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