居るんですけど?
「タクシ殿、起きるでござるよ。タクシ殿。」
隣に座っているタクシ殿を揺り動かす。
「うーん…」
起きないでござる。
「おい!起きろって!」
ボコっと鈍い音がした。
例の暴力女、小雪殿はもうとっくに起きていたようでござる。
「うーん…ここ…どこでござるか?」
「知るかよ!」
「みんな、無事かな!?隣の人も起こしてあげて!」
ミコ殿が大きな声で声をかける。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
後方で悲鳴が聞こえる。
「し…死んでる…!!」
「えっ?」
「うおおおおおお!!ジュンタぁぁぁぁぁ!!」
「起きてよ!!起きてよおおお…」
悲鳴と鳴き声が徐々に拡大していく。
このバスはどうなってしまったのでござろうか。
「おい!黙れ!!先ずは隣のヤツの確認だ!」
小雪殿が声をはりあげる。
その言葉にハッとして恐る恐るバスの中を見回すと…一言で言うならば大惨事でござった。
ぐったりとしている者、血塗れの者、ガラスを突き破っている者。
悲鳴とうめき声が混ざり合い、そこはまさにカオスでござった。
「タクシ殿、ヤバいでござる…。」
「運転手さん!どうなってるの!?ここは!?」
いち早く異変に気付いたミコ殿が運転手のところに駆け寄るが…
「だめ、多分死んでる。」
「とにかく生きてるやつはバスの外に出るぞ。割れた窓からでもいい。前のドアからでもいい。とにかく外集合だ。動けないやつは大声出せ。何とかみんなで連れていこう。」
生徒会長の大野殿が指示を出す。
流石、生徒会長。こんな時でも冷静でござる。
その声に従って、動ける者達は何とかバスのドアの方に集まっていく。
「先生は!?」
「この状態で何も言わねぇんだ!死んでんだろ!グダグダ言うなよ!」
「よし!何とかドア開いたぞ!みんな、早く!」
小雪殿はこんな時でも怖いでござるな。
とはいえ、こんな死体だらけのところにいるのは拙者もちょっと嫌でござるからな。
早くタクシ殿と一緒に外に出るでござる。
「タクシ殿、早くここを出るでござるよ。」
声をかけるが、タクシ殿は必死で何かを探している様子で、拙者の声など聞こえていないようでござる。
「おい、キモタク!こんな時になに探してんだよ!オタクグッズか?んなもんこの際どうでもいいだろうが!」
「違うでござる!!!」
タクシ殿が珍しく声を荒らげる。
その顔は、何故か涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて…
「トシオ殿が…トシオ殿がどこにもいないでござる!!!」
えええええええええ!?
拙者、ここに居るでござるけどおおおおお!?
「は?」
「トシオ殿がどこにもいないでござる!小雪殿も一緒に探してほしいでござる!!!」
「居ねぇって…そりゃ影薄いだけだろが!」
「トシオ殿は拙者の隣にいたでござる!なのに…姿も形もないでござるううううう!!!拙者の友達なのでござる!!せめて!せめて!!」
「一体お前は何を言って…おい!この豚引っ張り出すの誰か手伝ってくれ!」
「嫌でござる!トシオ殿が見つかるまで動かないでござるよ!!!」
「先に外に出たんだろ!?とにかく立てよ!!」
「ちょ…拙者、ここに居るでござるが?」
「あーもう!!見てやるからとにかくそこどけ!!」
「痛いでござる!!」
小雪殿の蹴り、通称こゆキックを受けてタクシ殿が席を退くと…
「なんだこれ…」
そこには、ぐっしょりと濡れたシートが…。
「お前なぁ…小便漏らしたからってこんな時に紛らわしいことすんじゃねぇよ!はよ出ろ!豚!!」
「違うでござる!違うでござる!」
「あーもう!いいから出ろ!!」
タクシ殿は小雪殿に押し出されるようにドアから外に出ていった。
しかし…拙者、めっちゃ隣にいるんですけどおおおおおお!?
ここに居るはずなのに、いない?
一体どういうことなのか…