ノア
「お宝だ!」
俺はつい足取りが早くなった。
「そうだね。早く取りに行こう!」
宝箱に近づき、スミスが手をかけようとすると、ストンと何者かが上から降ってきた。そいつはすぐさま宝箱を取り、右腕で宝箱を抱え込んだ。
「な、なんだお前は?」
「最終試練担当のロボットのノアだ。俺に勝ったらこの宝箱をやろう。試練を始める前にお前たちの名前を聞いておこうか」
ノアというロボットは細身で背が高く、鋭い目をしていた。髪はオールバックで、白いワイシャツと黒いズボンという服装をしていた。
「私の名前はスミス」
「俺の名前はポールだ。それで、最終試練は何を?」
俺は早速、試練内容を訊いた。
「簡単だ。お前たちが俺から力づくで宝箱を奪うことができたらおしまい。お前たちの勝ちだ。俺はこの平たい四角のスペースの中しか動かない」
ノアから宝箱を奪うことができれば俺たちの勝ちらしい。随分、簡単そうに思えた。
「随分、俺たちの方が有利な条件だが……二人掛かりでも大丈夫なのか?」
「ああ、かまわない。だが俺も宝箱を奪われないようにお前たちが死なない程度に抵抗はするから気をつけろよ」
宝箱を奪おうものならそれなりにダメージを覚悟しておけということか。このノアというロボット、どれくらいの強さを秘めているのだろうか。今まで幾多もの海賊と戦うことはあってもロボットと戦うことはなかった。
「どうする、やるか? 一応言っておくが、今までこの試練をクリアしたものはいないからな」
「やる!」
答えたのはスミスだった。
「やるよね? お兄さん」
スミスがやる気に満ちた目で俺を見つめてきた。少しやるのを躊躇っていたがスミスのことを見たらなんかやる気が湧いてきた。
「ああ。やってやろおじゃねぇの! ちなみに時間制限は?」
「ない。お前たちの諦めが着くまでやってもいい。さぁどこからでもかかってこい」
相手がロボットならこっちは思いっきりやれる。俺はポケットからパチンコを取り出し、地面にあった石の破片を拾い、パチンコを使ってノアに打った。
牽制のつもりで打ったものの、ノアは一歩も動かず、石はノアにの頬に直撃したが意に介したような素振りはみせない。
「フン……痛くもかゆくもないな」
ロボットゆえに痛みには強いのだろうか。しかし、全く効かないとは思わなかった。
「お兄さん、そんなんじゃ甘いよ! 今度は私が行ってくる」
スミスがノアに向かって殴りかかった。おい、お前のパンチ、最悪ノアをバラバラにするまであるぞ。
「オラァ!」
強烈なパンチを打ったが、なんとノアはこれを片手で受け止めた。スミスの手を掴み、ノアは軽々とスミスを投げ飛ばしてしまった。
スミスは投げ飛ばされ、激しく背中を打った。
「いたた……」
俺は急いでスミスに近づいた。
「スミス! 大丈夫か?」
俺は手を差し出した。俺の手を掴みゆっくりとスミスは立ち上がった。
「うん……それにしてもあいつ超強いね」
確かに強い。スミスのパンチをまともに受け止めた奴なんて初めて見た。
以前、ガタイのいい海賊船長が物品を奪うために乗り込んできた時、スミスはそいつにパンチをし、ダウンさせたことがあるのだが、ノアにはまるで通じていない。
「今度は俺が行く」
俺はノアの後ろに回り込み、宝箱に手をかけた。
しかし、ノアはバク転して、逆に俺の後ろに回りこみ、俺を蹴り上げた。痛みに思わず顔をしかめ、倒れこんだ。
すると、プルプルとスミスが震えていた。
「よくもお兄さんをー!」
スミスはノアに近づき、勢いよく飛び上がり、キックをした。
しかし、ノアはなんとスミスのキックを頭で受け止めてしまった。
「中々いい蹴りだ。少女よ。だが、相手が悪かったな」
ノアは脚をゆっくりと引き、蹴りをする予備動作をした。
「これが本当の蹴りだ」
「スミス、避けろ!」
俺の声に反応したことでスミスはすんでのところでノアの蹴りを避けた。ビュウと、ものすごい風圧が俺の方まで飛んできた。
「もういいだろ。お前たちは諦めて帰るべきだ」
諭すようにノアが言ってきた。スミスが倒れたいる俺のほうに近づいてきた。
「お兄さん、あいつ強いよぉ……勝てそうにない」
いつになく暗い声でそう言った。顔を見ると、目には涙を浮かべていた。スミスのやつ、そんなに自分より強い奴がいるのが悔しいのか。
「なぁ、スミス。お前、ディスミレってまだ持ってるか?」
「え? うん、あと一つ残ってるけど」
よし。俺はノアを一泡吹かせる作戦を思いついた。俺はスミスの頭に手を置いた。
「お前は弱くなんかない。俺よりもはるかに強い。俺に考えがあるんだ。耳を貸してくれ」
ノアに聞かれないように俺はスミスに自分の作戦を伝えた。
「作戦タイムは終わったか?」
「ああ。行くぞ、スミス!」
「うん!」
スミスがノアに全速力で向かっていった。
「ふん、何度やっても同じだ」
「その無表情、崩してやるよ。伏せろスミス!」
俺の指示通り、地面にスミスは伏せた。突然の行動に驚いたのかノアは、は? という表情になった。
俺はパチンコを使って、ディレスミスをノアの口に向かって打った。
見事にディスミレはノアの口に入っていった。ノアは一瞬、苦しそうな顔をした後、
「グフフフ……なんだこれは。笑いが止まらないグフフフ……」
不気味な笑みをしている。こいつが食べるとこんな笑い方をするのか。こええな。
ソフィアが料理のテストがあるといったことを思い出し、この作戦を思いついた。
試練用のロボットたちには味覚を司る機能があり、ディレスミスの効果もあるのではないかと考えたのだ。まぁ、料理のテスト用のロボットにしか備わってない可能性もあったから割と一か八かの賭けだったが。
「今だ! スミス!」
腹を抱えて笑っている、というよりニヤついている隙だらけのノアから宝箱をスミスが奪った。
「やった! やったよ! お兄さん!」
幼い子供のようにスミスが喜んでいる。
「よくやったな。スミス」
「お兄さんのおかげだよ!」
スミスは地面に宝箱を置き、俺に抱きついてきた。甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。
「お、おう……」
スミスに抱きつかれ、今朝のことを思い出し、恥ずかしさのあまり体温が急上昇しそうになった。俺は冷静になり、スミスを引き離した。
「早速、宝箱の中を見てみようぜ」
「そうだね。いやー一体、どんなお宝が入っているのかなぁ?」
スミスが宝箱を開けようとした。しかし、開かない。よく見ると、宝箱には鍵がついている。
鍵がなきゃ開かないのか。
「おいノア、鍵はどこにあるんだ?」
ノアに訊いた。すると、ノアは相変わらず不気味な笑みを浮かべながら答えた。
「グフフフ……笑いが収まるまで待っててくれ」
「お、おう……」
「えー待つのだるい。よし、私に任せて!」
スミスは自信満々に言い放った。何をする気だろうか。正直、大体想像がついたが。
「待て、お前まさか……」
「オラァ!」
スミスは真上から宝箱に強烈なパンチを叩き込んだ。しかし、宝箱は傷一つつかなかった。
「いたーい! 何これ、超硬いね」
スミスは痛そうに掌をぶらぶらと振った。
「スミス、おとなしく一時間待つぞ」
「しょうがないなぁ」
俺とスミスは雑談したり、二人でちょっとしたゲームをして時間を潰した。