ソフィア
朝になり、眼を覚ますと顔にとても柔らかな感触が感じらえた。スミスが俺に抱きついていた。思わず思考がフリーズしそうになった。スミスの胸がもろに俺の顔に当たっている。こ、こいつ、結構でか……いや、それどころではない。スミスが目を覚ましたらボコボコにされるかもしれん。
スミスは俺の頭に顎を乗せ、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。寝相が悪くて俺の方まで移動してきたのか。
スミスが眼を覚まさないうちに俺は脱出し、テントから出た。さっきのせいで心臓がばくばくしている。俺は気持を鎮めるために、ストレッチをして体をほぐし、軽く運動をした。
船の冷蔵庫にしまっておいた残りの肉を木の棒に刺し、ガスバーナーで炙り食べた。スミスよりも一足早く朝ごはんにすることにした。
肉を食べ終え、俺はスミスを起こすことにした。テントに戻り、気持よさそうに寝ているスミスに話しかけた。
「おい、起きろスミス。朝だぞ」
「うーん。ダメだよ。そんなたくさん肉を食べたらお兄さんが怪獣みたいに大きくなっちゃう……」
どんな夢を見てやがるんだ。こいつは。
俺は一度、テントから出て、スミスのために焼いたばかりの肉を持ってきた。
美味しそうな匂いで起こす作戦である。
「スミス、朝ごはんだぞ」
すると、スミスはぱちっと目を開け、起き上がった。
「あーお兄さん。おはよう。良かった。お兄さん、怪獣になってなかった」
何を言っているのかよく分からないがとにかく目を覚ました。
スミスもテントから出て、肉を食した。昨日と変わらず、美味しそうに頬張った。
朝食を食べ終え、早速、昨日の遺跡探索へと向かうことにした。腕の機械を頼りに発信機を設置した場所に向かった。
十五分後、昨日の遺跡にたどり着いた。
中に入ると、薄暗く一方通行の道で俺とスミスはまっすぐに奥へと進んでいった。
ある程度奥へ進むと、広いところに出た。奥には三つの穴が空いていた。この三つの中から選んで入れということか。
「どれを選んだらいいんだろう?」
スミスがそう言い、俺は考えた。三つの穴には全てどこかに繋がっているのだろうか。それともそれぞれ別の部屋に繋がっているのだろうか。部屋を見渡しても岩壁ばかりで特に手がかりのようなものはない。
「真ん中の穴に入ろう」
「何か手がかりでもあったの?」
首を傾げてスミスが訊いてきた。
「特にはない。とりあえず真ん中を進んでみようかと思ってな」
「ええー、大丈夫かなぁ……」
真ん中の穴に入り、奥に進んでいった。通路は狭く、すれ違うのが困難な狭さだった。
通路を抜けると新しい部屋に出た。
先ほどの素朴な岩でできた部屋とは打って変わってこの部屋はちゃんとした作りになっていた。
岩でできている部屋はしっかりと壁が平たく削られ装飾されており、何やら記号のようなものが彫ってあった。
ところどころ、ランプが吊るされており、奥には扉があった。
さらに、信じられないことに扉の近くにはメイド服を着ているスミスと同じくらいの身長の長の長い碧髪の若い女性がいた。
「お兄さん、あれ人だよね……」
「ああ、そのようだな。何だってこんなところに」
おそるおそる俺とスミスはその女性に近づくと女性と俺の眼があった。女性は大きな碧眼をしている。
「ようこそ知恵のテストへ」
「知恵のテスト?」
俺は鸚鵡返しで聞き返した。
「はい。申し遅れました。知恵のテストの番人のソフィアと言います。この扉に入るには知恵のテストに挑んでもらいます。あのお名前を伺ってもよろしいですか?」
丁寧に俺たちの名前を訊いてきた。
「スミスでーす」
先にスミスの方が名前を述べた。
「ポールです。この部屋に入る前、他の二つの穴もあったけど、他にも何かテストがあるのか?」
「はい。他には体力のテスト、料理のテストがございます」
それを聞き、スミスは驚いたような顔をした。
「へー。それにしてもこの島にこんな若い人が住んでたんだね。無人島じゃなかったんだ」
「いえ、私は人間ではありません。この遺跡を作り上げたご主人様の召使いロボットでした」
「ロボット? どうみても人間にしか見えないな」
すると、ソフィアは腕を突き出した。瞬く間に腕は剣のような形に変形した。続いてハンマーのような形に変形した。その光景を見て、危うく頭がついていけなそうになった。
「信じてもらえましたか?」
「え…….」「ああ……」
俺とスミスは同時に返答した。
「それでソフィアさん。この扉の奥にお宝があるのか?」
「そうですね。私には中身が何かは分かりませんがご主人様はとてもすごいお宝だと言っておりました。この部屋をクリアしたらもう一つ試練を受けていただいて、それもクリアしたらお宝を手に入れることができます」
これをクリアしたとしてももう一つ試練を受けなくちゃいけないのか。いけるだろうか。
「それで、知恵の試験ってのは何をしたらいいの?」
早くやりたいとばかりにスミスが訊いた。
「簡単です。クイズに挑んでもらいます。三問連続で正解したらこ部屋に入れます。一問でも不正解だったらこの部屋から出て行ってもらいます。一問ごとの制限時間は三十秒なのでご注意ください」
不正解だったらこの部屋から出て行ってもらう、ということは無理やり追い出す手段を持っているということだろうか。
「準備ができたら私に伝えてください」
スミスが俺のほうを向いた。
「クイズだって。なんか体力テストの方が簡単そうだったね」
「まぁ、お前はそっちの方が良さそうだな」
料理のテストはどんな感じなのだろうか。まさかプロレベルの腕を要求されるのだろうか。というか試練の番人がロボットとなると、味はどうやって判断するのだろうか。それにしてもロボットなのに食事ができたりするのか? まぁ、今はそんなことどうでもいいか。
「ソフィアさん。こっちは準備万端だ。早速、試練を始めてくれ」
「かしこまりました。それでは第一問。太陽の直径はアメーダマーチの何倍あるでしょうか」
天体に関する問題を出してきた。アメーダマーチとは俺たちが住んでいる星のことである。
「お兄さん、私全然分からない。お兄さんは分かる?」
「ああ」
以前、とある大きな島に着陸した際、図書館に行き、本を読んだ。天体に関する本も例外ではない。
「およそ百九倍だ」
「正解でございます」
「すごい! お兄さん!」
スミスが褒めてくれた。といってもこのくらいの知識、学校でも習うと思うのだが。まぁ、スミスは勉強嫌いだしな。覚えてなくても無理はないか。
「そうでもないさ」
「それでは第二問です。小惑星のうち、自分の重さで球体になるくらい重いものはなんというでしょう」
間髪入れず、ソフィアさんが次の問題を出した。
「お兄さん、小惑星って小さい星のことじゃないの?」
まんまだな、おい。俺は心の中でスミスに突っ込んだ。
「違うぞ、スミス。後で教えてやるからな。ソフィアさん、答えは準惑星だ」
「正解です。それではラスト、第三問。ものすごく壮大で素晴らしい場所にも関わらず侮蔑の意味が込められている場所はどこでしょう?」
今までとは毛並みの違う問題が出てきた。おそらくこれはクイズみたいな問題なのだろうか。
「えー、全然分からない。お兄さん分かる?」
「すまないがさっぱりだ」
俺は頑張って考えた。侮蔑、侮蔑かぁ……
「二十秒前」
今までは星に関する問題が出てきた。ということは今までの問題に何かヒントが?
「十、九、八、七、六」
ふいに俺はギリギリのところで一つの答えを思いついた。
「答えはテンプレラだ」
「おめでとうございます。全問正解でございます」
すると、スミスはキョトンとした顔をした。
「ねぇねぇ、お兄さん。テンプレラって何?」
「テンプレラってのは、アメーダマーチから二十光年離れている惑星のことだ。テンプレラってのは別の大陸の言語で侮辱という意味があるらしい」
「へーそうなんだ。よくそんなこと覚えてたねぇ」
「ああ。つくづく本を読んでいて良かった」
「では、お二人とも奥の部屋におすすみください」
ソフィアがゆっくりと扉を開けてくれた。俺たちは扉の中へと進んだ。
扉に入ると長いトンネルが続いており、トンネルを抜けると、大きい部屋になっていた。部屋にはとても大きな階段があった。俺とスミスは一緒に階段を登り始めた。
階段を登り終えると、平たい正方形の形の場所にたどり着いた。四つの角には、金色の巨大な柱がそびえ立っていた。さらに中央には立派な宝箱が置いていた。あっさりとお宝を見つけることができた。