叶えたい願い
しばらくすると、スミスが船から戻ってきた。着替えたようでピンク色の上下薄着のパジャマを着ていた。
「早く食べよう! お兄さん」
「分かった分かった」
俺は肉の串焼きをスミスに渡した。俺たちは砂浜に座り込んだ。
「いただきます!」
ガブッと、スミスは肉に噛り付いた。
「やばい! 超美味しい! さすがお兄さん。料理上手だねぇ」
満足そうな顔で、スミスは口いっぱいに肉を頬張っている。そんなに美味しいのか。
俺も肉を口に入れた。
肉は思ったよりも柔らかく歯ごたえがあった。味付けも我ながら悪くなかった。
「お兄さん、肉おかわり!」
「はいはい」
残っている肉を適度な大きさに切り、串に刺してやった。
「火に近づけて炙ってくれ。しっかり中まで加熱するまで待てよ」
「分かった」
串に刺さっていた肉を食べきり、俺は先ほどの大きめな木の実を取り出し、ストローを刺した。この木の実の中には甘い汁が入っている。
飲み物としてよく使われると本で読んだことがあった。
さっそく、飲んでみた。ドロドロとした肌触りで思ったより冷たく、ココアに近い味がしてなかなか美味しかった。
俺は木の実をスミスにも渡した。
「ほら。お前の分だ」
「やった! ありがとう!」
スミスは受け取り、木の実の汁を飲んだ。
「美味しいね、これ!」
少し飲んだ後、スミスは再び肉を食べ始め、すぐに串に刺さっていた肉を平らげた。しかし、よく食べるなぁ。
「お兄さん、お代わりしていい?」
「あいよ」
徐々にあたりは暗くなってきた。今日は天気がいいため、星空がよく見えた。
「あー美味しかった」
スミスは砂浜に寝転がった。
「わー星空綺麗。ねぇ、お兄さんも見てみ?」
「え? ああ」
スミスに促されたので、俺も砂浜に寝転び星空を見上げた。
無数とも思える星空が見え、宝石のように様々な色合いと明るさの星々が輝いている。
「流れ星見えたりしないかな?」
「なんだ? 何か叶えたい願いでもあるのか?」
「うーん、まぁ。あると言えばあるかな。ただ、流れ星見えたらラッキー! みたいな?」
「なるほど。ちなみに叶えたい願いってなんだ?」
俺はつい気になりスミスに訊いた。
「えー? 秘密。お兄さんはなんかあるの?」
叶えたい願いか。俺は自分のしたい航海ができて、満足している。
「これからも安全に航海できますように、とかかな?」
「うふふ。もっと大きいことを願えばいいのに」
スミスは俺の方を向き、少しバカにしたかのように微笑んだ。
「いいじゃねぇか。俺の叶えたい願いも言ったんだからお前のも教えろよ」
「やだ。まぁ、いつか気が向いたら教えるよ」
気が向いたらか。いつになるのやら。しかし、スミスの願い事か。美味しいもの一杯食べられますようにとかだろうか?
スミスは起き上がり、俺を見下ろしながらポケットから何かを取り出した。
「じゃーん! これ見て! お兄さん」
暗くてよく見えない。俺も起き上がり近くでスミスが取り出した物をまじまじとみた。
これは……ディスミレじゃないか?
「お、お前どうしてこれを?」
ふふーんと得意気な顔をした。
「いやーちょっと、どんな味がするのか気になって何個か手に入れておいたんだ」
まじか。まさかこいつ、食べる気なのか?
「お前まさかこれ、食べる気か? 辞めた方がいいぞ」
「そうかなぁ。ちなみに毒はないよね?」
少し不安そうな顔でスミスが訊いてきた。
「ま、まぁ確かに毒はないんだが」
本には、食べると笑いが止まらなくなるものの、体に有害な成分は含まれていないと書いてあった。
「ならいける!」
俺の警告も聞き入れず、パクッとスミスはディスミレを口に入れた。すると、
「あっはははは! 何これ、超不味い! うけるんだけど。あはははは!」
突然、スミスが笑い出した。やはり不味いのか。それと食べたら笑いが止まらなくなるっていうのも本当らしい。
「あはははは! やばい! お腹が痛い! どうしようお兄さん!」
笑いながら質問された。どうしようって言われても。どうしたらいいか分からない。これはディレスミスの効果が切れるまで待つしかないだろう。
「だから辞めておいた方がいいって言ったのに……効果が切れるまでおとなしく待つしかないな」
そう言うと、笑った顔をしながら少し不服そうな顔をした。
「えー? あははは! それは困った。あははは! お兄さんも食べてみ? あははは」
何をトチ狂ったか、もう一つ手に持っていたディスミレを俺の口に突っ込んできた。
突然の出来事に思わず面食らい、思わず俺はゴクリと飲み込んでしまった。
口全体に、今まで感じたことのない苦味と渋みが広がった。やはり不味いな。だが、問題は味じゃない。
「あはははは! スミス、お前何してくれとんじゃ! あはははは!」
俺は笑いながらスミスに怒った。こいつ、なんで俺にも食べさせようと思ったんだ。
「あはははは! 私だけこのままじゃあれじゃん? あはははは!」
「あはははは! あれってなんだ? あはははは!」
「やっぱりさ。あはははは! 一緒に。あはははは! 苦しさを感じた方がいいんじゃなかと思って。あはははは!」
こいつ、身勝手すぎるだろう。何だ一緒に苦しさを感じた方がいいって。やつあたりか?
「あはははは! お前、後で覚えておけよ。あはははは!」
「あはははは! お兄さん。あはははは! 喧嘩で私に勝ったことないじゃん。あはははは!」
全くもってその通りだ。
「あはははは!」
「おほほほほ!」
およそ一時間後、ようやく笑いの症状が収まった。
「ハァハァ……疲れたな」
「そ、そうだね。ごめんね。お兄さん。ちょっとおふざけが過ぎたよ」
珍しく素直に謝ってきたので、怒る気が失せてしまった。
「まぁ、分かればいいよ。今日はもう寝よう」
俺とスミスはテントに入り、布団を被った。
「久々に陸地で眠れるなぁ。一週間ぶりくらいか」
「そうだね。ふわぁ……眠い。お兄さんおやすみ」
「おやすみ、スミス」
疲れからか、俺はあっという間に寝落ちした。