上陸
「到着したな」
「そうだね、お兄さん」
俺と妹はとある島にたどり着いた。
俺の名前はポール。遥か今年で十八になる。小柄な体格をしているが、これでも運動神経はいいと自負している。髪は金髪だがこれは地毛である。今日は暑いため、俺は黄色の半袖と半ズボンを着た。
二年前から妹のスミスと一緒に航海を始めた。妹は今年で十七になる。年よもやや大人びた顔立ちをしている。悔しいことにスミスは俺よりも身長が高い。さらに運動神経も俺よりも良い。ちなみに赤色の髪をしているが、これは本人が染めてこんな色にしている。スミスはピンク色のノースリーブとショートパンツを着ていた。
航海を始めたばかりのころはいろいろ苦労もしたきたが、今はこうして無事に航海を続けている。
俺は船の錨を下ろし、早速上陸した。妹も俺に続いた。
「いやぁー、久々の島は気持ちいいね! お兄さん」
「そうだな」
はしゃぐ妹を見ていると微笑ましい気分になってくる。
だがこの島に来たのは観光ではない。とあるお宝を探すためである。
前に上陸した島で俺たちは宝の地図を入手し、はるばるこの無人島までやってきた。
本によればこの島は大昔、とても栄えていた島だったらしい。
「スミス。早速だけど、宝探しに出かけるぞ」
そう言うと、スミスは露骨に嫌そうな顔をした。
「えー、そんな急がなくて良いじゃん。今日は適当に島を見て、明日宝を探そう」
「そ、それもそうだな」
俺はスミスの意見を聞き入れる事にした。正直、スミスの機嫌が悪くなるとめんどくさい。喧嘩をしてもいつも俺は負けるしな。ここはご機嫌を取るのが吉である。
そういうわけで俺とスミスは観光がてら島の中を探索することにした。向かった先は森の中。
森には色んな植物が存在している。植物の中には食べることができる物もある。
「ねぇ、お兄さん。この赤い実、食べれるのかな?」
スミスは立ち止まり、眼の前の木に生えている幾つも生えている大小様々なサイズの赤い実を指差した。
「あれはダメだ。前の島に上陸した時、図書館で読んだ事がある。あれはディスミレという実らしくな。食べると笑いが止まらなくなるらしい。しかも、超まずいらしい」
「そうか。残念だな」
心底、スミスは残念そうな顔をした。スミスは細い身体に似合わず、中々食欲旺盛であり。食べれる物はできるだけ食べておきたいという考えである。
歩き続けることおよそ三十分、森を抜け石でできた巨大な遺跡のような場所に到着した。
「すごい、なんだろこれ?」
遺跡はピラミッド型に様々な大きさと形の岩で作られており、少し歪な形をしているものの、どことなく神々しいな雰囲気を醸し出していた。
俺は前の島で手に入れた地図を取り出した。地図には遺跡の絵とその上に宝箱のマークが記されている。
「おそらくはここに宝が隠されているんだろう。地図を見た感じ、ここが記してある宝が隠されてある遺跡なんだと思う。一応、ここに発信機をつけておくか」
俺はポケットから小さい小型の機械を置いておいた。これを置いておく事で腕につけている機械と連動させることができ、発信機を置いた場所を常時、把握することができる。
「遺跡の中は明日見に行こう。それよりも私、お腹すいた」
俺とスミスは朝から何も食べていない。そろそろ、夕暮れ時、お腹が空くのも無理はない。
「何か食料を探しにいくか」
「うん!」
俺たちは再び森に入った。森で木の実などを幾つか採った。
「うわー! お兄さん、私の肩に虫がついてる。払って!」
スミスの方を振り向くと、肩に大きい蜘蛛のような生き物がスミスの方に乗っていた。
こいつ、強いくせに虫には弱いんだよな。俺はバシッと虫を払った。
「はぁ、怖かった……ありがとう。お兄さん」
「い、いや気にするな」
眩しい笑顔でお礼を言ってきたのであまり悪い気はしない。
再び前を向くと、大きい猪のような生き物が前にいた。
「ブォォォォ!」
けたたましい雄叫びを猪のような生き物がした。
「うわ!」
俺は思わず、後ろに下がった。
「何? お兄さん。こんなのが怖いの?」
バカにしたようにスミスが言ってきた。スミスはゆっくりと猪のような生き物に近づいていった。
「おい、スミス! 危ないぞ!」
「ブォォォォォォォ!」
猪のような生き物はスミスに向かって体当たりをしようとした。
するとスミスは、
「オラァ!」
猪のような生き物の脳天に強烈なパンチをお見舞いした。スミスにパンチを打たれたその生き物は白目になった。死んだのか? それとも気絶したのか?
一つ言えるのは――俺の妹、めっちゃ強えなぁ。どんだけの怪力なのやら。
「よし! 食材ゲット! やりぃ!」
ガッツポージをした後、スミスは自分の倍近くもある大きさの生き物を担いだ。つーか、それ食べるつもりか。
森を抜け、俺たちは船を停めてある場所から近い砂場へと移動した。船から道具を下ろし、テントを組み立てたりして、キャンプをする準備を行った。
テントを組み終えた時には、太陽が沈みそうになっていた。
太陽はまるで海に沈みそうになっていた。水面に適度な光度の太陽が映りそして輝き、幻想的で華麗な風景を生み出していた。
「すごい、綺麗な夕焼けだね。お兄さん」
適度に吹いてくる潮風がスミスのやや長めの髪をなびかせた。スミスを珍しく風景に感銘を受けているようだ。
こうして夕焼けに感動している様子を見ると、普通の年相応お普通の女の子に見えるな。
俺は初めて一緒にスミスと航海に出た時のことを思い出した。
「そうだな」
すると、スミスは道具箱から何かを取り出した。取り出したのは調理用のナイフだった。
「さーて! こいつを調理するか!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は命の危険を感じた。スミスは料理がド下手なのである。
以前、スミスが作った料理を食べたらまるで時空を超越したかのような衝撃を受けた。もちろん悪い意味である。
「やめろ! 俺が料理する!」
俺は急いでスミスから調理用のナイフを取り上げた。スミスは腑に落ちなそうな顔をした。
「えー! 私が捕まえたのに……」
「お前はゆっくり休んでな。ここは俺がやるからさ」
サムズアップをし、爽やかな笑顔でそうスミスに告げた。絶対にスミスには料理をさせたくはない。
「うーん、分かった! それじゃ私ちょっと、その辺ランニングしてくる」
スミスはそう言い、靴を脱ぎ裸足になり、向こうの方に走って行った。スミスは船の上でもトレーニングを欠かせない。本人曰く、海賊は体力が命なのだそうである。
まぁ、あいつの戦闘力の高さのおかげでなんども危機を脱したことがあるのも事実である。
とりあえず料理を始めるとするか。まずはナイフを器用に使い、肉を食べられるサイズに捌いていった。
鍋に水を入れた後、肉を投入し、ガスバーナーで沸騰し、血を落として行った。
鍋に入っている水が赤くなったら水を捨て、また鍋に水を足していく。この作業をひたすら繰り返した。
血を洗い終わったら、木の串を肉に刺した。前の島で買っておいた塩、胡椒といった香辛料を適量で振りかけた。
集めておいた枝木にマッチを使って火をつけた。ガスバーナーで肉を炙っても良かったのだがまぁ、この方が雰囲気出るだろう。
火に肉を近づけ、肉を焼いていった。ジュウジュウといった音を立てながら油が流れてきていてとても美味しそうである。
するとスミスがものすごい速度でこちらの方に向かってきた。スミスはハァハァと息を切らしていた。顔と程よい肉付きのスラリとした手足からは汗が流れている
「お兄さん! 料理できたの?」
「あ、ああ。それよりもお前、なんで分かったんだ?」
「美味しそうな匂いがして」
すげぇな。犬かよ。言ったら、キレられそうなので黙っておいた。
「あっつ。ちょっとシャワーに入ってくる」
スミスは船のシャワー室に向かった。戻ってくる前に料理の支度を終わらせてくるか。少し大きめな木の実を持ち、ナイフで切り込みを入れた。