気高く、容易く~中編~
「今日は私の娘の誕生パーティーにお集まりいただき、誠に感謝いたします。ささやかではありますが、お楽しみいただければなによりです。」
ヴァイマール伯爵の挨拶が終わると、パチパチと拍手の音がそこかしこからあがる。
「ジークフリート卿!」
あれから数日、殴られた腫れはもう引いたようだ。私に気付いたランスロットがこちらにやってくる。
「やあ。もうすっかり具合はいいみたいだな。」
「おかげさまで。おや、そちらのお嬢さんは?」
「あ、アメリアと申します!よ、よろしくおねがいしまふ!・・・します。」
こういった場には慣れていないのだろう、ミリーは緊張のあまり噛んでしまったようだ。噛んでしまった恥ずかしさからか、顔が真っ赤だ。
「はじめまして、アメリア嬢。私はランスロット、よろしく。」
爽やかな笑顔のランスロット。泥塗れでボロボロになっていた姿が想像できないほど、凛々しく・・・、なんというか、イケメンだ。
「今日は舞踏会と聞いてきたのでね。知り合いの子にパートナーを頼んだんだ。」
「なるほど。しかし、姫様がみたら・・・。」
直接呼ばれた私以外を連れてくるのはまずかったか。しくじったかもしれない。
「あら、ジーク。よく来ましたわね。」
謎の高飛車口調、エリザベートがやってきた。
「今日はこの前のお礼よ。お父様もお前に会ってみたいと・・・、そちらの娘はどなたかしら、ランスロット?」
「はい、姫様。ジークフリート卿の・・・、その・・・。」
歯切れの悪いランスロット。
「あ、アメリアと申します!今日は、ジークさんに連れてきていただいて・・・。」
「なんですって!?」
ミリーの挨拶を遮り、大声をあげるエリザベート。ああ、また周りが注目している。
「どうしたのかね、シシー。」
ヴァイマール伯爵がやってきた。スラッとした体型で、やや筋肉質。ダンディという言葉がぴったり当てはまる。
「お父様!いえ、なんでも・・・。こちらが、わたくしを助けてくれたジークフリート卿ですわ。」
「ジークフリートと申します。この度はお招きいただき、感謝申し上げます。」
「なに、楽にしてくれたまえ。娘を救ってもらい、感謝の言葉もない。あれから、シシーは君の話ばかりうるさくてね。」
「お父様!?」
赤面するエリザベート。
「ああ、すまんすまん。聞けば、当てのない旅をして諸国を巡っているとか。どうかね、よければ我が家で働いてもらえないかと思ってるんだが、どうかね?」
来た。士官話来た。
「はっ、見に余る光栄だと思っております。閣下」
「もちろん、娘を助けてくれたお礼もさせてもらおう。あとで執事のグラハムから詳細は伝えさせよう。私は強い者は好きだ。能力のある者は、出自に関わらず取り立てるつもりだ、期待しているよ。」
そういうと、ヴァイマール伯爵はエリザベートを連れて、他の招待客への挨拶回りへと向かった。
「ではジークフリート卿、私もこれで失礼します。それではまた。」
ようやく落ち着いた。他に見知った人間はいないから、もう気疲れするようなことはないだろう。後は、士官話がおいしい話ならいいんだが。
「すごいです、ジークさん。お貴族様を助けて、お屋敷に招待されるなんて、吟遊詩人さんの詩みたいです!」
ミリーは、屋敷に着いた時から興奮しっぱなしだ。屋敷が大きいとか、調度品が豪華だとか、食べ物がおいしいとか・・・。
「何か飲み物を貰おうか。すまんが、ワインと果実水をいただけるかな。」
せっかくだからと連れてきたが、喜んでいるようでよかった。
しばらく二人でのんびりしていると、やがて楽団が音楽の演奏をはじめた。それぞれがパートナー、あるいは声をかけてダンスを踊る。
「ミリー、私たちも踊ろうか?」
「わ、わたし、ダンスは・・・。」
「大丈夫だよ。練習したじゃないか、さあ。」
ミリーを連れて、ホールの中央に近付く。舞踏会にくるとわかってから、何度か教えたし、なんとか形にはなっているが、やはり人前では恥ずかしいらしい。
「そう、うまいじゃないか。」
「そ、そうですか?えへへ。」
二人で楽しく踊っていると、視線を感じる。・・・エリザベートだ。他の貴族の青年がダンスの誘いに・・・、ダメだ、断られてる。きつい言葉をかけられたのか、がっくり項垂れて去っていく青年、気の毒に。
ホールの端に寄り、飲み物を飲んで休憩する。
「十分だよ、うまいじゃないか。」
「ジークさんが教えてくれたから・・・、楽しいです。誘ってくれて、ありがとうございます!」
とびきりの笑顔だ。本当に、ミリーを連れてきてよかった。
「ジークフリート卿!」
二人で楽しく話していると、エリザベートがやってきた。少し、興奮しているというか、怒っているというか・・・。
「これはエリザベート嬢、どうされました?」
「んん・・・、いや、その・・・。」
エリザベートらしくない。ごにょごにょと何か言ってるが、よく聞き取れない。
「・・・お、お前と、妾がダンスを踊ってあげてもよいぞ!」
今日の主役の誘いを断るわけにもいかないだろう。ミリーに一声かけ、エリザベートと踊ることにする。
「すまないミリー。少し、待っていてくれるかな?」
「は、はい。この辺で、待ってますね。」
少し不安そうだが、ミリーは了承してくれた。さすがに断れないとわかってくれたようだ。
「お待たせいたしました、エリザベート嬢。お相手願えますかな?」
舞踏会も終わり、通された応接室。執事のグラハムから、仕事の中身が説明される。
「つまり、護衛への剣術指南というわけですね?」
「左様でございます。」
グラハムから話された内容は、要約すると二点。エリザベートを救った報酬として金貨十枚。そして、ランスロットらヴァイマール卿の私兵への戦闘訓練。ランスロットは私兵団でも随一の腕前らしく、その彼が私を絶賛したとあって、かなり期待されてるよだ。
「わかりました。その仕事、受けさせていただきます。」
「おお、そうですか。旦那様も喜びます。」
この時は、軽い気持ちで受けた仕事だった。まさか、これが人生が大きく変わるきっかけになるとは、夢にも思わなかった。
「それじゃあ、ヴァイマール伯爵のお家の、剣の先生になるんですか!?」
仕事の内容を説明すると、ミリーは驚いたようだった。
「まあ、そんなところだね。私も、期待外れだと言われないように頑張らないとな。」
「すごい・・・、すごいですね・・・。」
どこか、ミリーの元気がない。
「ミリー?」
「あの!」
意を決したように顔を上げるミリー、大きな瞳が、私を見つめている。
「ジークさん、その・・・。」
真剣な顔。
「偉くなっても、わたしと、今までみたいに仲良くしてくれますか?」
・・・なんだ。告白でもされるのかと思ってドキドキしたじゃないか。
「当たり前じゃないか。そんなに偉くなるとも思えんが、私は変わらないよ。ミリーの方こそ、ずっと仲良くしていてくれるかな?」
「は、はい!もちろんです!」
「それじゃあお休み。またな。」
「お休みなさい!」
宿に戻る私が見えなくなるまで、ミリーは手をふってくれていた。