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気高く、容易く~前編~

雨が降ると、通りから人がいなくなる。雨天に好きこのんで外出する者はいないし、やみそうになければ、商店も店仕舞いしてしまうからだ。

だから、犯罪の大半は雨の日に起こる。


「くそっ!」


街からかなり遠くまで来ていたため、戻るのに時間がかかる。それというのも、ワーカーギルドで見つけた毛皮買い取りの仕事のせいだ。


衣料用の狼の毛皮が欲しいらしく、今なら高値で買い取りしてくれるとあって、一攫千金目指して狩猟に出掛けたのだ。奮発して買った装備の代金は、今のところ取り返せる予定にない。本日の成果はゼロ、雨に濡れただけだからだ。


全身びしょ濡れ、宿の主人はいい顔しないだろうな、そう思いながら、街道を駆ける。街まであと二、三キロまで来たところで、一台の馬車が目についた。


幾人の死体と、馬車を取り囲む男たち。馬車を背に庇うように立つ二人の男。


護衛の二人の服装、状況を見るに、貴族の馬車とその護衛、街道で盗賊に襲われる、といったところか。


関わるべきか、否か。もちろん後者だ。ここから、取り囲む男たちを弓で射抜いてもいいが、万が一馬車側が悪者だったらと思うと、迂闊に手は出せない。


このままやり過ごそうか、そう考えているうちに、また一人護衛がやられた。馬車から、乗っていた貴族が引き出されてくる。

炎のような真っ赤な髪の、ドレス姿の女性が雨の中に引き出される。


「離せ!離さぬか、無礼者!妾を誰だと思っておる!」

「うひょー!これは上玉じゃねえか、お頭!お頭の次、売り払っちまう前に、俺らも遊ばせてくださいよ!」

「姫様!貴様ら、姫様から手を離せ!」


うん、悪者だな、彼らは。間違いない。唯一生き残った護衛、上等そうな鎧に身を包んだ青年が声をあげる。


「おうおうおう、その大事な姫様は、これから俺とお楽しみだからよう!」


お頭と呼ばれた男は、下品な笑い声を上げながら青年を挑発する。


「貴様ぁ!」


青年が斬りかかるが、お頭と呼ばれた男は懐からナイフを抜き出すと、青年に向けて投擲した。ナイフは足に突き刺さり、青年は転倒する。起き上がろうとした青年の手から剣を蹴り飛ばすと、青年の頭をつかみ顔面を何度も地面に叩きつける。


「ランスロット!」


女性の悲痛な叫びが聞こえる。


「はいざんねーん!!お前ら、こいつを押さえろ。楽しい楽しいショータイムを見せつけてやらんとな。」

「「了解!」」

「やめろ・・・、放せ!姫様ぁ!」


女性を押さえる一人、お頭と呼ばれる男、青年を押さえる男が二人、笑いながら見ている男が周囲に七人。


お頭と呼ばれた男が、ズボンを下げる。私は弓を引き絞ると、男の胸に照準を合わせる。


「では、早速お楽しみターイぶあっ!!」


私が放った矢は、男の胸に突き刺さった。もう一本、矢を放つ。また一人、別の男が倒れ伏す。


「な、なんだ!?」

「射たれてる!射たれてるぞ!」

「あいつだ!」


気付かれたが関係ない。さらにもう一本、もう一本・・・。


盾も鎧もなく、障害物もない街道では、弓矢に対してどうすることもできない。一人、また一人と地面に倒れる。


「馬車の影だ!馬車の影に隠れろ!」


少しは頭をつかえるのがいたらしい。まあ、隠れたところで事態は好転しないだろうが、そこまで考えてはいないだろう。


私は倒れた護衛の剣を一本拾い上げ、残り五人になった男たちに近付く。


「て、てめえ!ただじゃすまないぞ!」


男が怒声をあげるが、声が震えている。


「ランスロット!」


女性は倒れた青年に駆け寄る。ランスロットはフラフラと立ち上がり、私に問いかける。


「あ、あなたは・・・?」

「安心してほしい。私は敵じゃない。少し待っていてくれ、こいつらを片付けるから。」


私は次々と盗賊の男たちを斬り捨てる。四人まで斬ったところで、最後の一人が逃げ出してしまう。


「助けて・・・、助けてくれぇ!」


誰に助けを求めているのか、私は弓を引き絞ると、逃げる男の背に矢を放った。一本、倒れない、もう一本。二本の矢を受けると、男は倒れ、二度と起き上がることはなかった。


「あ、あなたは・・・。」


護衛の青年、ランスロットが再度尋ねてくる。


「ただの通りすがりの者ですよ。お怪我はありませんか、お嬢さん。」


私は最高の笑顔を決めて、女性に手を差し出す。これでイチコロだな・・・、そう思った時代が、私にもありました。


「馴れ馴れしくするな、無礼者!」


女性は私の手を、窮地を救ったヒーローの手を払いのけて言う。


「妾はエリザベート・ヴァイマール。ヴァイマール伯爵は妾の父上じゃぞ。」


フフンと偉そうに名乗るエリザベート。しかし、ヴァイマール伯爵?誰だそれは?

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