ペパーミントが苦すぎて~後編~
毎日0時更新の予定が、思ったより時間がかかって間に合いませんでした。ブクマ0だから、怒る人もいないはず・・・。あ、言ってて泣けてきた。
「おはよー!」
金獅子の微笑み亭の食堂で朝食をとっていたら、フローラがやってきた。時間は決めていなかったが、こんな朝早くにやってくるとは。
「おはようフローラ、朝食は?」
「いや、まだなんだよねえ。おいしそうだね。」
そういうと、私の皿からソーセージを食べてしまった。
「おいおい、私の朝食なんだが?」
「ケチケチすんなよ・・・、うん、やっぱり美味しいな、ここのご飯。」
値段も安くて味もいいと評判らしいだけあって、食事だけの客も多いらしい。
「おねーさん、ミルクちょーだい。」
フローラは頼んだミルクをぐいっと呷ると、向かいの席に腰かけた。あまり待たせても悪いだろうと、残った朝食を掻き込む。
「すまない、待たせたな。」
「いやいや、酔いつぶれて寝てるのかと思ってたから、安心したよ。」
確かに、あの数日間は、二人とも昼過ぎまで起きてこられなかった。酒が好きなのと、耐性があるのは別なのか、それとも強くてなおただの飲み過ぎか。どちらにしても、誉められたものではない。
「じゃあ、そろそろ出ようか。どこに連れていってもらえるのかな?」
「ふふーん、まあ、期待してなって!」
「ん、これは・・・、なかなか・・・、すまない、同じものをもうひとつ。」
フローラに連れられてきたのは、大通りに面した、パンケーキが有名なカフェだった。朝食を食べたばかりなのに、いくらでも食べられてしまう。
「おいしいでしょー?あたし、甘いものが食べたくなるといっつもここに来ちゃうんだよねえ。」
私はハチミツがかかったパンケーキを、フローラは生クリームとイチゴのパンケーキだ。
「すごくいい店だが、私一人では入りづらいかな。」
店内は若い女性客ばかりで、男性客は私と別のカップルがもう一組だけ。
「だから、連れてきてやったんじゃんか。今後も、いつでも誘ってくれていいんだよ?」
「それは、私の奢りで、という意味だろう?」
「やだなあ、格好つけさせてあげてんじゃん。」
そう言って快活に笑うフローラ。パンケーキももちろんだが、紅茶も素晴らしい味と香りだった。これは、いい場所を教えてもらったものだ。
「あ、すまない、パンケーキのおかわりを。」
「まだ食べんの!?」
大通りを通って、街の広場へとやってきた。広場ではいつもフリーマーケットが行われており、商人ではない普通の人々も、不要品だったり、ガラクタだったり、手製の品、どこかで仕入れた品の転売など、様々な商品を並べている。ぼったくりのガラクタからお値打ち品まで様々で、時にはあっと驚くような品が掘り出されることもあるらしい。
「こっちとこっちなら、どっちが似合う?」
オレンジと水色の髪飾り、女性のアクセサリーには疎いが、何か答えないとまずいだろう。
「そうだな、フローラは性格が明るいから、明るい色の方が似合うんじゃないか?」
「そう?ブルーのも悪くないと思うんだけどなー。」
どっちも似合うと答えればよかったか、こうやって女性と買い物をすることなどなかったので、どうにもうまくいかない。
「あ、これなんかジークに似合うんじゃない?」
そう言ってフローラが手に取ったのは、外套、いわゆるマントだ。
「似合うかな?」
せっかくなんだ、物は試しと羽織ってみる。
「おお、これは思ってたより・・・、どっかの騎士様かと思ったよ、あはは。」
そう言ってフローラは笑ったが、私はうまく笑い返せたかわからない。
結局、フローラがあまりに勧めるのでマントと、プレゼントに水色の髪飾りを購入することにした。もしこの街を離れて旅を続けることになれば、マントは必須だろう。野宿するにしても、ただ地面に寝転がるのとマントを布団がわりに寝るのでは、体温の低下も防げるし、体力の回復具合が全然違うからだ。
「あれ、せっかく買ったのに着ないんだ?」
「今日は暖かいしな、朝方ならちょうどよかったかも知れないが。」
「あたしはつけるよ、せっかくだもんな。・・・どう、似合う?」
私が買ってあげた髪飾りをつけて、ニンマリと笑うフローラ。フローラの金髪に、水色の髪飾りがよく似合っている。
「うん、すごく似合っているな。綺麗だよ。」
「そ、そう?やっぱり美人は何をつけても似合うから得だなー!」
フローラはサッと顔をそらしたが、耳が真っ赤になっている。少し気障なセリフかとも思ったが、手応えは悪くない。
「さ、行こ行こ!次はオススメの食堂に連れてったげる、魚料理食べられるよね?」
赤面してるのを隠したいのか、スタスタと歩いていってしまうフローラ。やれやれと頭をかき、私はその後ろをついて歩いた。
「な、なんだこれは!?」
フローラに連れられて行った食堂で出てきたのは、パンに魚やピクルス、玉ねぎを挟んだ料理だった。
「みんな最初はそういう反応するんだよねえ、おいしいから食べてみなって!」
ぐいっと手にしたパンを押し付けてくる。魚は生・・・、いや、漬物にしてあるのか。
「ん・・・、これは・・・、んん!?」
おいしい。魚の漬物とパン、恐ろしい組み合わせのようで、絶妙なマッチ具合である。ピクルスと玉ねぎも、決して主役ではないが、ほどほどに存在を主張して、味に一体感をもたらしている。
「おいしいでしょー?ダメだなー、ジークくん。子供じゃないんだから、食わず嫌いなんて。」
からかうように言ってくるフローラ。悔しいが、何も言い返せない。
「うーむ。悔しいが、うまいじゃないか。今回は負けを認めよう。」
「パンケーキの時も、同じこと行ってなかった?」
そう。朝によったカフェでも、こんなところ恥ずかしくて入れないと抵抗したのだ。
「いや、それは・・・、ええい、今回も負けを認めよう!」
「潔くてよろしい!」
バシンバシンと私の背を叩いて笑うフローラ。知り合って間もないが、彼女と過ごす時間も、空気も、とても好ましいものだと感じていた。
「「乾杯!!」」
昼食後、腕の良い医者だとか、お値打ちな古着屋、まとめて買うと値交渉がうまくいく雑貨屋などを教えてもらい、金獅子の微笑み亭で夕食にする。フローラはまだオススメの食堂があるのだと言っていたが、飲んだらそのまま帰る自信がない、フローラと飲み比べしたら勝てないと言ったら、ご機嫌で了承してくれた。
「どうだった?結構良い街でしょ?」
「そうだな、私もここで何か仕事の口を見つけようと思うよ。」
フローラには、隣国から戦火を逃れて旅をしていると伝えてある。農村の長男で、両親も実家も戦争で失ったと話した。実際は、逃げ出したみっともない騎士なのだが。
「元々は畑と、狩りで暮らしてたんだっけ?体力ありそうだし、良い仕事が見つかると思うよ。」
「そうだな。とりあえずはワーカーギルドに行って、働き口を探すよ。」
「仕事が見つかったら、お祝いしてあげるよ。そうしたら、住むところも考えないとね。」
「それはありがたいな。明日から、気合いを入れて仕事を探すとしよう。」
「んー、それじゃあ、飲みすぎないようにしないとね・・・、おねーさん、エール二つおかわりで!」
「おい!」
なんだかんだ言っても、今日もセーブする気はないらしい。
「フローラ、大丈夫か?」
「んー?んんん・・・、気持ち悪い・・・。」
追加で何杯か飲むと、フローラは限界のようだった。
「ほら、家まで送っていくよ。立てるか?」
「はえ?あ、お金・・・。」
「私が払っておいたよ、ほら、肩を貸すから。」
フローラを立たせると、宿から外に出る。火照った身体に、夜風が心地良い。
足取りはおぼつかなかったが、フローラの案内でなんとか部屋まで送り届けた。
「お休み、フローラ。」
「うん、お休み。ありがとう、ジーク。またね。」
「ああ、また。」
フローラの案内で家まで送ると、私はその足でワーカーギルドへと向かった。ギルドでは、約束どおり執事風の壮年の男性が待っていた。
「あなたたちの言うお嬢様かどうかはわかりませんが、今日一日私といた女性が人相書きに瓜二つと話した女性です。間違いありませんか?」
「いやいや、ご苦労様です。間違いないと思われます。まあ、あまり大事にしたくなかったものでね。助かりますよ。」
彼いわく、フローラは双子で、幼少の頃に行方不明となったらしい。あの人相書きは、双子の姉の顔をかいたものだそうだ。
「大事?しかし、彼女は今の生活も気に入ってると思うんです。事情を説明して、もしも彼女が家に帰りたくないと話した場合は?」
「まずは、約束の報酬、金貨二十枚です。」
手渡された袋を開くと、約束どおり金貨が入っている。
「それと、今後のことはあなたには関係ありません。今回のことは他言しないように。」
「それはどういう・・・?」
酔いのせいなのか、話が掴めない。男は話を一方的に打ち切ると、ギルドから出ていった。なんだか嫌な予感がする。
慌てて男を追って外に出たが、見当たらない。嫌な予感が収まらず、フローラの部屋へと走る。何か、致命的な失敗をしたような気がする。
フローラの部屋の前までたどり着くと、フローラの部屋から、先程の壮年の男と、他に三人、腰に剣を下げた男たちが出てきた。壮年の男の服は、返り血に染まって見える。
「おい、あんたたち・・・。」
「おや、ついてきてしまったのですか?やれやれ・・・、おい、消せ。」
壮年の男がそう指示すると、他の三人は斬りかかってきた。
先頭の男の初太刀をかわし、そのまま腕を捻りあげ、他の二人への盾にしながら剣を奪う。
相手は素人ではなかったが、剣を奪えば大した相手でもなく、次々に斬り伏せる。
「おい、どういうことだ。」
私の問いかけには答えず、壮年の男は剣を引き抜くと、斬りかかってきた。
他の三人よりは腕がたつようで、何合か斬り合うが、元々本職で剣を振るってきた自分の相手ではない。
剣を払い、腕を斬りつける。剣を取り落とした男に剣を突きつけて問いかける。
「おい、お前は貴族の執事で、主人の娘を探してるんじゃなかったのか、どういうことだ。」
「ま、まて!話す!聞きたいことは何でも話す!殺さないでくれ!」
今までの尊大な態度から一転、男は話した。彼女は貴族の娘でなく、とある小国の王族であること。国王の正室の娘ではなく、側室の娘であること。正室は彼女も彼女の母のこともよく思っておらず、十五年前、当時の国王が亡くなったとき、命の危険を感じた彼女の母が彼女を国外に逃がしたこと。また、今その国は荒れており、彼女を探しだして御輿に担ぎたい勢力と、それを阻止したい勢力があること。
「それで、それで・・・。」
そこまで話を聞くと、私は彼の首に刃を走らせた。血を吹き出し、口をパクパクさせると、地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
部屋の戸を開けると、むせかえるような血の臭いの中、床に倒れるフローラがいた。
「フローラ・・・。」
酔い潰れたはずなのに、彼女は起きていたのだろうか。その小さな腕には抵抗したのか、いくつもの傷がある。
「フローラ・・・。」
ちょっとした儲け話のつもり、あわよくば良い思いができるのではないかと飛び付いた。話をよく吟味せず、男の作り話を信じ、その結果がこれだ。
「こんなはずじゃ・・・、こんなつもりじゃなかったんだ・・・、フローラ・・・。」
酔い潰れたのでなければ、今日のフローラはどうしてあんな素振りを見せたのか。私の言動を試したのだろうか。答えは、問いかけても返ってはこないが。
閑散とした部屋の中、今日買ってあげた髪飾りが、テーブルの上に置かれていた。
「朝か・・・。」
あれから宿に戻ると、そのまま布団に潜り込んだ。部屋の前で四人もの男が死んでいるのだ。すぐに通報され、衛兵が飛んできたことだろう。きっと、フローラは彼らが埋葬してくれる。
食堂に向かうと、ウエイトレスが声をかけてきた。
「おはようございます!朝食と、ジークさんはミルクでしたっけ?」
「あ、いや・・・。」
ふと、彼女のことを思い出して。
「いや、朝食はいいんだ。ミルクじゃなくて、ミントティーはあるかな。」
後悔と自己嫌悪。目に焼き付いて離れないフローラの笑顔と、血溜まりに横たわる彼女。出されたミントティーからは、ペパーミントの香りがした。