4話〜王国騎士団長と聖女と不憫な老師〜
今回はそこそこ長めです〜(自分の中では)
〜王宮・謁見の回廊〜
シュンという音と共に謁見の回廊に四人が現れる。
『本当に一瞬だな、アルス。流石は宮廷魔術師長だな。』
『褒められてもケーキと紅茶くらいしか出ないぜ〜』
アルスは嬉しそうにニコニコしながらティーセットと皿に乗せたケーキをどこからともなく取り出す。
…結構コイツ…チョロいな。
『凄いです!これなら遅刻で博士に怒られる事も…』
『なにアホな事考えてるんだ…アルス殿はタクシーでは無い!』
『いや、博士はチョロそうだから、ケーキと紅茶で誤魔化せ…って痛い!痛いです!』
『誰がチョロいだ!』
ホテプはランカの足をグリグリ踏みつけて黙らせる。
そして、そこに魔導師のローブを着込んだ老人と白いローブを着た女性が転移してきた。
『あっ…ヤベッ…』
『…おや、そちらの方はもしやアルス君かね?』
魔導師の老人が彼の方を向く。
アルスは顔をさっと背け、ブツブツ何かを唱えだした。
『私は空気私は空気私は空気私は空気私は空気私は空気私は…』
『ええい、鬱陶しいわい!アルス!また儂に仕事押し付けたじゃろ⁉︎』
…どうやら彼は仕事をサボって私たちとお茶をしていたらしい。
『副師長ハ師長ノ補佐ガ仕事ダロ?』
アルスは顔を背けたまま棒読み口調で答える。
『やかましいわ!部下に仕事を丸投げしよって…補佐どころか代行までしとるわ!もうちょい老体を労れ!』
…何という屑っぷり…魔王討伐よりアルス討伐をした方が世界は平和になるんじゃないのか…?
『いや〜ほら、アレだよアレ、あー仕事をする事で健康になれるって本に書いてあったからさ〜』
『健康どころかストレスと過労で死んでしまうわ!第一、そんな本ある訳ないじゃろ!』
…私はつくづくアルスが上司じゃなくて良かったと本心から思った。
すると、アルスは思い出した!と言わんばかりに頭ををパチンと叩き、
『あ、そうそう!そういえば今日までのレポートまだやってなかったわ〜。ジイさん、手伝って〜』
『な、なんじゃとぉぉぉぉ⁉︎』
老人の悲痛な叫びが回廊に響き渡る…。
…老師、御愁傷様です。
私は心の中で合掌をする。
ーー『コホン。取り乱して申し訳ない。』
ゼェゼェいいながら副魔術師長は謝罪した。
『大丈夫?紅茶飲む?ケーキもあるよ?』
煽ってるんだか本気で心配して言ってるんだかわからない表情でアルスは言う。
『いや、結構だ。』
『まあまあ、そう言わずに…』
『いや、本当に要らな…ゲホッ‼︎ゲホッ‼︎』
アルスは紅茶のカップを口に突きつけ飲ませようとする。
『やめんか!儂を溺死させる気か、お主は!』
…この爺さん、凄い剣幕で怒ってるのに全く怖くない…寧ろ滑稽だ…。
『疲れた時は紅茶が1番だって本に…』
『時と場合を考えろ‼︎あと、本に書いてあったって言うの好きだな‼︎お主‼︎』
また、二人の掛け合い漫才が始まる…
すると、見かねた白ローブの人が、
『あのーロイズ爺様?私の紹介が…』
『おお!そうじゃっ…ゴフッ‼︎もうやめんか!アル…ゴホッ!ゴホッ!』
『今、爺さんは喋れないから俺が紹介するぞ。ナルメア、今回スキルの鑑定して戴く聖女メシア様だ。…聖女様、宮廷魔導師団長アルス・イールと申します。以後、お見知り置きを…』
さっきの様子とは一転し、表情が引き締まり、宮廷魔術師長という肩書きに相応しい様子で彼女を紹介する。
…正直この変わり様はいつ見ても驚いてしまう。
『儂の台詞…』
…初登場にして不憫過ぎる爺さんである。
『…ホテプ!ランカさん!聖女様がサインくれるってさ!』
アルスは表情を一瞬で笑顔に切り替え、考古学者ズを呼ぶ。…老師をスルーし、聖女様に無茶振りをかましながら…。
『何⁉︎』
『本当ですか⁉︎』
考古学者ズは漫才を中断して嬉しそうにこちらに走りにやってくる。
…もし彼女らに尻尾があるならばブンブン振りまくっていただろう。
『アルス様。誠に申し訳ありませんが…ペンを持っておりませんの…』
少し困った表情で、申し訳なさそうに告げる聖女様。
『わ、儂もサイン…ゲホッ!欲しい…ですじゃ…』
まだ紅茶の所為で、苦しそうな老師。
『はい、ペンです!あ、3人分書いたらペン自体が消滅するので!』
例の如く、どこからともなくペンを取り出すアルス。
…アルスが本格的にどこぞの青狸に見えてきたな…そのうち身体が小さくなるライトや、時間軸を遡れる機械なんか出てきそうだが…
『…アルスや…ありg』
『あ、ナルメア!あんたもいるか?』
またもやアルスが遮る。
『是非、頂きたい。』
…あの狸は見た目は青くても腹が真っ黒だったようだ。
…そしてロイズ老師、お許し下さい…全てはあの狸のせいです!
『(絶句)』
まるでこの世の終わりを見た様な顔をするロイズ老師。
『あ、あの…後でサインでしたら差し上げます故…お気を落とさずに…』
彼女は老師を気遣ってサインの約束をする。
『お気遣いどうも…聖女様。はぁ…悔しい事にこの扱いに慣れてきてしまっている自分がいる…』
全く嘆かわしい…と言わんばかりの表情の老師が溜息をつく。
そこに空気を読まない…いや、敢えて無視する二人組が聖女様に迫る。
『『サイン下さい‼︎』』と、色紙を添えて…
更に、風の噂を聞きつけ現れた、私直属の部下の二人…アルゲイツとプリシラが聖女様にサインをねだり、その噂が更に副団長、魔道士団員達を呼び…いつの間にか謁見の間が聖女様のサイン会場へと変貌していた。
…アルトリア国王陛下、並びに来賓の方々が御到着なされるまでそれは続いていたそうだ。
ーー因みに、アルスのペンは三人以上に対して使われていたが消えること無く使用出来たという…。
というわけで…今回はロイズ氏と聖女の話です。
正直、ロイズ氏をいじめ過ぎた感はありますね…(⌒-⌒; )