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普通の手に入れ方  作者: 人儚
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戸惑いの中で

「俺さ。ここ。この屋上。気に入ってるんだ。」

 そういって柊くんは下を指さす。

「よく来るの?」

「うん。毎日。」

 そんなやり取りをした。そうなんだと思う。

 なんせあんまり記憶がない。

 問い詰めてみればいろいろ話すことがあったかもしれない。

 どうして屋上のカギを持ってるのかといか・・・。

 でも、そんなことは私にとってなんだかすごくどうでもいいことのように感じた。

 こんな時間が続いてほしいと思うような、なんだかリラックスできる時間がそこには流れていた。

 その静寂を破ったのはそう。柊くんだった。

「杏ちゃんって彼氏とかいるの?」

 そう聞かれたのである。

 当然、そんなものはいない。というよりも私は本来男の子である。

 作ろうと思ったこともなかった。いや、あこがれてはいた。でも自分はそういうものを作ってはいけない存在だと思っていたから。考えたこともなかったのである。

「いないことにはいないけど・・・。」

 そうとしか答えることができなかった。それ以外の答えが見つからなかったからである。

 じゃあ今度さ。と柊くんが言いかけたところで私はその言葉を遮る。

「言わないで。じゃあとかないし・・・。無理。たぶん・・・。その期待には、応えられないと思うから。言わないで。」

 私はそういってまた屋上から走って逃げた。

 柊くんの言葉には想像がついていた。おそらく抜け出す話の延長線上としてどこかに遊びに行こうというものであろう。でも自分はそのような言葉をかけられるほどの人に足りえていないと思った。


 柊くんはもっときゃぴきゃぴした子とそんな話をするべきだし、なんせこーゆー言葉は女の子にかけられる言葉であるべきなのだ。私はそう思った。言うところの完璧に女の子になるつもりで高校に入学したつもりだったのに、思わぬところで躓いていた。いや、本当を言うとわかっていたのかもしれない。このような障害があることは。

 しかし、見ないようにしてきた。その存在自体を。そのツケが早々に回ってきただけの話なのだ。それだけのこと。

 そうは思って見ても自分にとって、言い換えれば龍崎杏という女の子にとっても、いやそれ以上に龍崎翔太という男の子にとっても難しい問題となって降り注いでいるのであった。


 どうするべきなのか、二週間は悩んだ。その間も柊くんは何度か話しかけに来てくれたのだが私はあからさまに避けた。というより、もう一度あの言葉をかけられれば何か返事を返さないといけなくなってしまうからである。

 二週間悩んだ末の答えは、しっかりと断ること。であった。随分と普通の返事をするのに思った以上に手間取ってしまった気がした。


 私は放課後に柊くんを屋上の扉の前に呼び出すことにしたのだった。

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