第4話 仲間はずれな僕とこの村に足りないもの
この世界に来てから半年の月日が流れた。
視界はクリアになり、音も普通に聞こえるようになった。
言葉は話すことはできないが、聞き取ることくらいはできるようになった。
おかげで、これまでにわからなかったこともいくつかわかった。
まずは、うちは貧乏だ。
他の家を知っているわけではないが、いつ折れてもおかしくないくらい細い柱と梁。
所々穴の開いた端材のような板を打ち付けただけの屋根からは光が差し込み、雨が降ると雨漏りと呼ぶのは申し訳ないくらいの雨が漏る。
壁は板張りだが、外から粘土で固めてあるようで、隙間風が入り込むことは無かったが、窓と呼べるようなものは無く、いつも薄暗かった。
布団やベッドは無く、代わりに積まれたわら束の上に、シーツのような布が被せてあるだった。
チクチクと肌を刺し、安眠には程遠いが地面に直接寝るよりはましだった。
このわら束ベッドは、火を起こす際などに使用することがあり、ボリュームが少しずつ減っていく。
食事は何かの粉を練ったものに火を加えただけの粘土のような何かと、豆のようなものが入っただけのスープだけという日がほとんどだった。
たまに上機嫌な父が鳥を持って帰って来る日のみ、おかずが増えるようだ。
どう考えても栄養が足りていない。
自分の食事も薄くて水っぽいことが多かった。
どうにかして食糧事情を改善して欲しいものだ。
次は家族構成だ。
我が家は父、母、兄、姉、兄、自分の6人家族だ。
父はジョナサン。
40歳前後だと思う。
がたいは良いが筋肉質とは言いがたく、こんな食生活でありながら、なぜか恰幅だけよくなっている。
禿げ上がっていないが白髪交じりのごま塩頭。
黒髪を短く刈っているが、伸ばしっぱなしの無精ひげのおかげで清潔感はなかった。
ラテン系の顔は整っているように思うが、その双眸は見ているだけで、まったく似ていないのに、なんとなく昔の同僚や同郷の名士の息子を思い出してしまう。
母はジョセフ。
20後半から30前半くらいだろう。
手入れをしてないためか赤茶けた髪はくすみ、頬は少し痩けている。
決して美人とはいえないが、可愛らしい人で人好きする感じだ。
体は細すぎる気もするが、胸だけは大きかった。
長男はジョルノ。
10歳くらいで、父にそっくりだった。
両親のいないところではいつも兄弟に威張り散らし、両親が現れると猫を被る嫌なやつだ。
長女はジョリーン。
8歳くらいで髪は黒髪。両親の良いところを集めたような人形のような人だった。
将来はきっと美人になることだろう。
いつもニコニコと笑っていて、母がいないときに面倒を見てくれるのはいつも姉さんだった。
次男はジョニィ。
4歳くらいで、母譲りの赤茶けた癖毛。
やんちゃ坊主を絵にしたような子で、何かと自分に悪戯を仕掛けてきた。
そして自分はジョ…ではなくニール。
………………………なして?
いまだ0歳のこの体。
スペックは前の体より高いはずなのに、体がうまく動かず未だにハイハイもできない体たらく。
暇を持て余して読書に励もうと思ったのだが5分もたず眠りに落ちてしまう。
なんとこの体、1日に8時間も活動できない。
前は3時間起きていれば良い方だった頃からおもうと自分成長したなあ、なんて思ってしまう。
体が動かなくてもできることを探した結果、神の指南書の中の初級魔導書が目に付いた。
魔法といわれても、自分の知識の中には幼い頃に保育園の先生がやってくれた「チチンプイプイ痛いの痛いの飛んでいけ」というフレーズしかない。
何日もかけ、やっとで序章を読み終えた。
魔導書によると、自然界にはエーテルと呼ばれる魔素が溢れているらしい。
雨や風、火山の噴火に地震など全ての自然現象にはこれが関わっているという。
そこでエーテルを操ることができたら、人の身であっても人知を超えた力が使えるのではないか。
という思想の元、研究されてきたのが魔法と呼ばれるものらしい。
しかし、実際にはエーテルを操ることはできなかった。
そんな時、人間の体の中にもマナと呼ばれる魔力があることがわかった。
そして、魔法と呼ばれる奇跡の力がこの世に生まれた。
マナは元々体内にあるため比較的操りやすかった。
それでも、才能というべきか、自由に操れる者は少なかった。
また、人の体という小さな器では大きな力は生み出せなかった。
そこに現れたのが、かの有名なマージナルなんちゃらかんちゃら。
彼は言った。
「本来なら操ることができないエーテルも、一度体内に取り込みマナと練り合わせることで、魔法足りえる」
彼の出現によって魔法の歴史が変わった。とか何とか。
結果、今できること。
①体の中に循環するマナを意識し操ることで魔法の制御や調節技術を鍛える訓練。
②体内にエーテルを取り込む訓練
③体内でマナとエーテルを練り合わせる訓練
副作用として、②③を行うと、キャパが強引に広げられ、保有できる魔力量が増える。また、体内のマナを限界まで使うと危機感を覚えた体がキャパを広げ、これも保有できる魔力量が増える。
なんとなくがんばってみた結果、①は座禅(座れないけど)②③は呼吸法に似ていた。
剣道の練習の一環として半世紀以上続けてきた練習に酷似した訓練は、難なくこなすことができた。
…のだが、ここで一つ問題が起きた。
エーテル自体は長時間体内に留めておく事は出来ず、練り合わせたマナも同様に留めておくことは出来ないのだ。
初めはそのまま放出していたのだが、しばらくして異変が起きた。
初めは、虫が多くなってきた。
元々ハエが多いとは思っていたが、次男の頭の上に黒い煙に見えるくらい群がっていることがあった。
頭、洗おうよ。
次に、我が家の土壁には何かの幼虫蠢くようになった。
気持ち悪くて泣きそうになったが、皆がそのカブトムシの幼虫のような何かを嬉嬉として貪る姿の方がトラウマになりそうだった。
そして、食卓に更なる変化があらわれた。
粘土か豆か虫しか無かった食卓に小動物の肉が現れることが増えたのだ。
どうやら、普段なら村の周辺にはいないような動物が現れるようになったらしい。
最後に、夜な夜な何かの遠吠えのようなものが聞こえることがあった。
嫌な予感はしてたんだー。
次の日、放牧してた隣の集落の家畜全滅したんだってさ。
なんとなく危険な気がして調べてみました。
検索結果は
基本的に人の集落が魔物に襲われることは少ない。
しかし、それは人のいるところに来ないのではなく、魔物が来ないから町ができたということだ。
魔物は魔素の多いところを縄張りとする。
したがって、魔素が少ないところに町があるということだ。
過去には、地震によってできた断層から魔素が染み出し、一月もたず国が滅びることもあった。
しかし、例外は存在する。
例えば鉱山都市。希少な鉱石を産出する鉱山は魔素が濃いことが多い。そのため、多くの冒険者や傭兵を雇って魔物に備えている。
例えば迷宮都市。突発的に出現するダンジョンを囲い込み、強力な魔物の素材や魔石を目的として集まった冒険者によって守られている。
………ごめんなさい。僕のせいでした。
仕方ないよね、知らなかったんだもん。
そこで、無害な魔法は何かを真剣に10分ほど考え、誰もいない時に魔法で風を呼び起こしたら屋根が飛んでいった。
その日は風が強かったようで、元々があばら家だったこともあり、あまり気にする人もいなかったのは幸いだった。
改めて反省し、無害な魔法を調べた。
それ以降、ひたすらに座禅(座っていないが)と呼吸法った。
練り合わせた魔力は物理的な変化を起こさない探索魔法と探知魔法にして飛ばし続けた。
ちなみに、探索魔法は指定した何かを探す魔法。
探知魔法はレーダーのような魔法だった。
最近自分自身でも箍が外れている気がします。
これは少し気を引き締めなければいけません。
最近また気になっていたことが一つ解決しました。
この家、臭いです。
というより、この村が臭い、というのが正しいのかもしれない。
いつも誰かが扉を開けるたびに嫌な臭い家の中に流れ込んできていたのは気がついていました。
なんていったって、この世界に来て初めて身につけた魔法が消臭魔法だったんですから。
この魔法は本来、尾行時や逃走時ににおいでばれないようにするのが用途らしい。
それを臭いで鼻がいかれないよう常に展開し、今では寝ていても常時展開ができるまでの消臭魔法上級者です。
収穫のシーズンを終えると、大分薄くなっていた藁のベッドも厚みを取り戻し、母の手も少し空いたようです。
農繁期は食事の時か寝る時にしか相手にしてもらえず、いつも一人で魔法の訓練をして時間を潰していました。
一人ぼっちの寂しい子?
いえ、あれはきっと自分にとって必要なことだったんです。
そんなこんなで、やっとで初外出の日がやってきました。
母に抱かれ外に出ると、我が家とそこまで変わらないあばら家が、ざっと10軒ほど井戸を取り囲むようにして建っていました。
集落を囲むように広がる麦畑の8割がすでに刈り取りを終えていたが、残りの畑ではまだ黄金色に実った小麦の収穫作業を行っている人がいます。
我が家の収穫作業は終ったらしいが、長兄や姉は麻袋を持って落穂ひろいをしているようでした。
視線を感じたのか、姉が頭を上げてキョロキョロと辺りを見回します。
「おかーさーん」
こちらに気がついた姉が手を振り、母が手を振り返す光景をほのぼのとした気分で眺めていました。
ちなみに、長男は一瞬だけチラッと見ると妹に何かを言って作業にもどっていました。
姉も作業にもどると母は集落の方へ引き返しました。
母と自分の触れあっている場所が蒸れて、何もしていないのにじんわりと汗ばんできました。
母も暑いのかシャツの裾をつまんでパタパタとしています。
同じこと考えているな。なんて考えていたらふと目が合いました。
「暑いねー。ニールは大丈夫?」
返事をしようとした時、一陣の風が吹き抜けていきました。
まだまだ気温は高く熱いですが、草原を駆けてくる風はとてもさわやかで、きっと草や花の臭いがするのだでしょう。
消臭魔法のせいで何も匂いませんが。
母を見上げると、顔をしかめていました。
どうやら、そうでもないようです。
我があばら家が近づき、集落のプチ探検が終ろうとしていた時、どこからとも無くうめき声が聞こえてきました。
なんとなく聞いたことのある声でした。
母は見当がついているのか、特に気にかけることも無く通り過ぎました。
しかし、どうしても気になってキョロキョロしてしまいます。
そして、我が家の物陰に人がもたれかかっているのを見つけました。
一瞬目が合ってしまいましたが、気がつかない振りをするのが大人のマナーです。
全てを理解しました。
この村にはトイレがありません。
よく見たら、村のあちこちにウ○チが落ちていました。
流石に井戸の周りには落ちていませんでしたが、公衆衛生上、否、精神衛生上よくありません。
この時、一つの野望を抱きました。
自力では動けない身の上では何もできませんが、動き回れるようになった際には必ず肥溜めを作り、あの忌々しい糞尿を有効利用して、必ずや立派な作物を作ってみせます。
なんていったって、念願のスローライフがはじまるんですから。
家族の名前はあの有名な漫画からです。
苦情が来たら書き換えますが、以降は全て父、母、長男、姉、次男になっていますので、ご容赦を。
どうしても言い回しや表現方法が一定になってしまいます。
自分自身に引き出しが少ないのはわかっているのですが、なかなかマネをしようと思ってもできるものではありませんね。