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4話のあとがきを3話に書いていたのを修正しました。
召喚魔法の実験を行ってから一週間。
騎士団、魔導師団総出で事後処理に追われていた。召喚魔法により想定以上の成果で魔物が死滅したが、同時に仕事が増えたせいである。
「では、あの召喚獣は戦闘が得意ではない、と言うことか」
国王の問いにライドは頷いた。
「陛下もご覧になっていらっしゃった通り、あの召喚獣がもたらした結果は莫大なものでした」
予定通り、魔法で王と王太子他重鎮が見守る中行われた魔法実験だったが、準備からして大がかりなものだった。
召喚魔法がどの程度のものか予測が付かなかったため、あの付近一帯を魔導師団一個隊が作った結界で覆い、万が一制御が効かずに暴走したとき、素早い対応が取れるのは筆頭魔導師アルド・ラトヴァの直弟子であるシスルの方だったので、予定を変更し、召喚魔法を唱えるのはライドになった。
魔力がそこまで強くないライドが魔法を唱えた方が、規模が小さくて済む。更に二人の周りを強固な結界で覆って万が一に備えた。
幸いにしてその召喚魔法そのものはさほど難しいものではなかったので、いつでも剣を抜けるように構えてから魔法を唱えたが、呼び出されて来たものは可愛らしい容姿の黒髪に黒い瞳の少女だった。
人に見えるが、内包する魔力は莫大なものが感じ取れる。着ているものも見たことがなければ、持っている物も見たことがない。幸いにしてこちらを見ても暴れ出す事はなかったが、言葉が上手く通じていないような様子に少し慌てた。
意思の疎通ができなければ、命令を伝えることができないからだ。
ライドはシスルから召喚魔法を教えてもらった時に、こう言われていた。
「呼び出しに応じた段階で、ある程度の主従の関係は出来上がっていますが、魔法の制御が甘くなった段階で、制御を振り払う恐れがあります。毅然とした態度で、簡潔に命令することが第一です」
そしてもう一つ。
「どことも知らぬ異界より呼び出した召喚獣ですが、魔法が切れれば元の世界に自動で戻っていきます。召喚獣が暴走するようでしたら、私が魔法を解除しますが、召喚獣が『帰りたい』と言った時、それが一つの目安となります。言う事を聞く気がない、という事ですから」
そして出てきた召喚獣は、見た目はそこそこだったが命令は聞かない、暴言は吐く、命の危険を感じたら流石に反撃を始めたが、その時の動きは戦闘職にあるものではなかった。はっきり言って鈍いの一言である。
だが、攻撃に使っていた道具は恐ろしく高性能だった。
一つはほとんど魔力を使わないで噴き出す、毒薬のようなものをまき散らす筒状の道具。
もう一つは、火をつけることを呼び水にして、同じく魔物を殺す毒を広範囲にもたらす薬。
特に後者は劇的な効果であった。もともと召喚魔法は試験的な使用であり、あくまでも騎士団到着までの時間稼ぎが主たる目的だったのだが、結局は道具を使って一人で殆どすべてを倒してしまった。
「魔物に効くが、人には無害などいう毒など聞いたことがありません」
召喚魔法で得られたものは、魔法が切れた段階で失われるのが普通だ。それなのに、召喚獣が消えても二つともちゃんと残っている。火をつけて燃やす薬に至っては、一週間たってもまだ燃え続けている。少しずつ短くなってきているが、呆れた効力だった。
そして、召喚獣が漏らした知識も看過できなかった。
薬の製造方法の一部。
魔物の習性。
退治方法。
あの魔物が水中で成長するなど、誰も知らなかったことだ。騎士団総出で池や小さな水場を探索してみれば、多くはないが魔物の幼虫と思しきものがいたので簡単に排除できたし、指摘された通りに魔物の卵らしき物が一つや二つではない数が発見され、孵化する前に処分することができた。これが孵っていたら、さらに被害が拡大していただろう。
「おそらくは、戦闘能力が低い代わりに、強力な道具と知識で相手を駆逐する性質の召喚獣ではないかと推察します」
「では、一人で戦場に追いやっても単独で終極の魔物を排除せよと命令しても、無駄だと言う事か」
「無駄ではないと思いますが、あくまでも道具の力を頼みにして、と言う事ではないかと。これだけの道具を作れるのですから、もちろん相当の力を有しているとは思います。当然力づくで従えようとすれば、その道具を使って反撃してくると思われるので論外、制御に関しては、召喚獣の方が魔法陣の不備を指摘していましたので、もう少し改善余地はあるかと」
道具を精査してみれば、国内の最高の職人をもってしても、同じものを作るには技術的な力量の差で無理だと言ったらしい。
殆ど魔力を使わなくても良い、誰でも使える道具。
道具の性能。
この二つは反比例するものと思っていたが、並び立つものが現れたのである。
「薬を噴き出す魔道具は、下手をすると道具自体を破壊しそうで仕組みを探るのは不可能との報告が上がってきました。もう一つの単純に見える薬の入れ物も、蓋の文様の複雑さもさることながら、引っ張れば取れる、押せば閉まる。それだけで密閉される。毛の一すじも通らない入れ物と蓋の緻密に計算された大きさといい、真円の形状といい、こちらも再現は不可能だそうです。中身の薬はある程度製造方法を口にしておりましたので、近いものはできた様ですが、効能は本物に遠く及びません。それにあの渦巻き状の形状は、長時間燃えるようにそうなっているようですが、完璧に二つ重なってきっちり入れ物に入る大きさに作られています。これもまた、再現は不可能です」
おまけに、魔物の死骸をどうやって片付けるか思案していたが、アルド・ラトヴァの提言により、思わぬ使用方法が見つかったのだ。
「毒薬で死んだのならば、まだ中に毒が残っているのでしょう。これを魔物に食わせれば全くの無事とは言えぬのではありませんか」
魔物は魔力を好む生き物だ。死んでいるとはいえ、まだ体の中にはいくばくかの魔力が残っているはず。死骸をいくつか持って、ごくごく弱い魔物に食べさせてみると、がつがつと死体を食べ始め、時をおかずに痙攣してぱたりと倒れ、もう二度と動かなくなった。
死してなお、毒は体の中に濃く残っていたのである。
騎士団は第二騎士団長グレンの指揮の元、アルージャの周りを警戒しながら魔物の死骸を西の方角へと捨てに行った。
弱い魔物で試したため、強力な魔物にどの程度通用するかは不明だが、死骸を食べさせる案は試してみる価値があると判断されたのだった。
うまくすれば、今後の魔物の到達を遅らせることができるかもしれない。
ライドの報告を国王、王太子と共に聞いていたアルド・ラトヴァが一歩進み出た。
「思わぬ時間稼ぎができたようですが、猶予がさほどあるとは思えませぬ。制御を完璧にするためにも、今しばらく時間をいただいて、召喚魔法の解読を進めます。また、魔法薬の成分を分析は並行して進めておりますので」
「どちらもなるべく早急にな」
「御意」
一礼して謁見の間を出ようとしたアルド・ラトヴァを目で引き止め、ライドは国王の目をまっすぐに見て言った。
「──陛下。私に終極化の魔物討伐の任をご命令下さい」
海苔の空缶クラスの入れ物は、場所によってだと思うんですけど、海外では作られないそうです。
開けたら二度と蓋ができなくなるか、ゆるゆるですぐ中身が湿気るレベルだそうな。
ジュースのプルトップ部分の指が引っ掛かりやすくなっている窪みなんていうのも、海外の商品にはなくて、そういう意味では日本は変に職人だなあって思いました。