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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第十二章 準備
49/50

番外編 落とし穴にご注意を 2

お久しぶりです。

本編でなくて申し訳ありません。

 



 今日も今日とて呼び出されて来てみれば、目の前にはお師匠さんのアルド・ラトヴァさん。……と、なんだか随分もっさりしたドレスを着た女の子がいた。更に、その女の子の一歩後ろ辺りに、王子の周りに居る騎士さん達と良く似た格好をした、凛々しい感じの女の人が立っている。片方が小学生高学年くらい。もう一人は二十代前半ってところかな。


 えーっと、またでしょうか。もしかして、この間の続き?

 厄介事の気配を感じて私が思わず一歩引くと、お師匠さんがすかさず一歩前に出てきて頭を下げた。


「またで済まぬが、知恵をお借りしたい」

「やっぱりー?」


 ここにいる二人は、考えなくても王子の婚約者とその護衛だよね。本当に私の提案通りにしたんだ。


 私がしげしげと二人を見詰めていると、あちらも同じように私を見返してくる。……ああ、珍しい生き物観察してる感じかな?

「私は異世界から召喚されて来てはいますが、獣ではありませんので、そこの所をよろしくお願いします」

 こういうのは最初が肝心。いい加減、王子以外たちにも召喚獣扱いは止めてほしいからね。主張しても中々信じて貰えなかったけど、初対面ならまだ通用しやすいだろう。

 二人は私がそう言うと、はっとしたような様子を見せて、慌てて頭を下げてきた。


「ケヴィン・クラヴェル子爵が次女、シャリーと申します。よろしくお願いいたします」

「シャリー様の専属護衛の、ユリア・ミラベルと申します」

 プリンセスドレスって言うんだろうか、ドレスをちょっとだけ持ち上げてちょこんと礼をするシャリーちゃんと、武人らしくきびきびとした動作で胸の辺りで拳を作るユリアさん。敬礼かな?


「あ、ご丁寧に。水野あづさです」

「シャリー殿はライド殿下の婚約者である」

 とお師匠さんが捕捉した。

「婚約したのは王子本人からも、ちょろっと聞きました」


 どっかから私が王子の婚約に関して助言したことがバレたみたいで、この間、婚約する羽目になったことに散々文句を言った後に、

「仕返ししてやるからな!」

 と叫ばれたのだ。お前は子供か、と言いたい。ただでさえお子様味覚なのに、これ以上子供化が進んでどうするんだ。


「……で?」

 婚約出来たのだからもう目的を達成しているでしょう、まだ何かあるの?とばかりにお師匠さんを見ると、思案顔のお師匠さんが、今回呼び出した理由を教えてくれた。


 王子を言い含めて何とか婚約までこぎつけたが、実は王子はシャリーちゃんの顔も見ずに婚約を決めたらしい。

 まだ獅子鷲の人達の結論が出ていないから、王子はあちらに詰めているんだけど、ラスボス倒す前に準備も兼ねて一度王宮に帰ってくる事になっている。……けど、今の所シャリーちゃんに会う予定はおおやけにならあるけど、個人的にはなし。準備が忙しいことを理由に……いや、実際忙しいけど、適当にお茶を濁してそのまま出発する気満々らしい。

 要は建前が建前でなく、婚約すれば今後も自由にできるつもりでいるライド王子と、命令されて仕方なく(かもしれない)婚約したシャリーちゃんの認識の差が問題なんだって。


「無理を押して婚約者になっていただいたのに、このままでは王子に見向きもされなかった女性の烙印を押されてしまうのだ」

 今はまだ婚約してから日が浅いので周囲には漏れていないけれど、時間の問題だと思われていて、早急に対処をしたいのだとお師匠さんは私に言う。いや、言う相手間違っているでしょう。

 本人を目の前にして言っているってことは、シャリーちゃんも……ひいてはクラヴェル子爵だっけ?シャリーちゃんの実家側の方も困っているからって事なんだろうけどさ。


「それは王子に言えばいいでしょ?忙しいのは本当だから、中々会えないのは非常時ってことで大目に見てもらうとして……婚約者に贈り物の一つや二つ、贈るくらいの甲斐性はあるだろうから、一つ二つばかりじゃなくて五つ六つくらい名前を借りてでも贈っておくとかくらいしか思いつかないけど」

 そうすれば、少なくとも王子がシャリーちゃんに気を配っているって証拠になるでしょう。実際はともかく、そうやってシャリーちゃんの為にお金が動いているとか、人が動いているのが分かればとりあえずは大丈夫なはず。


「もしや、婚約者に贈り物もしていないとかじゃないよね、いくら脳筋でも、そんなことはないよね?」

「一応、ドレスを送って下さったのだが……」

 最早、脳筋を否定せずに、お師匠さんがシャリーちゃんの方を振り返った。

「……贈られてきた物があれなのだ」

「あれって、もしかしてシャリーちゃんが着ているドレス?」

 あ、ちゃんづけで呼んじゃったけど、ごめんねー?

 かるーくそう断ると、シャリーちゃんとユリアさんは「シャリーちゃん……」と呟きながらも、こっくりと頷いた。


「そうなのです。僭越を承知で申し上げると……似合っておりませんでしょう?」

 私の目の前で、くるっと回って見せてくれるけど、本人の申告通り、似合っていません。


 もっと大人な女の人なら似合うのかもしれないけど、パフスリーブだったかな?肩の所がふくらんでいる袖で、裾がそこらのテーブルよりも大きく広がったオレンジ色のドレスは、太っている訳じゃないのに全体にもっさりして見えるし、外見も年齢も小学生なシャリーちゃんに、胸の開いたドレスはイカンだろうとも思う。そこだけ開いているせいで、ぺったんこ加減がさらに余計に加速して見えるしね。

 さらに、赤毛なシャリーちゃんに明るいオレンジのドレスっていうのが、微妙に髪色に合ってないせいか非常に暑苦しく見える。


「……私の気のせいじゃなかったんだね」

 いや、ほら世界の差で美的感覚とかが違ってるのかな?って思ったんだよ。日本だって大昔の美女って言ったら、長くてまっすぐな黒髪のお多福だからさ。そんな感じなのかなって思ったけど……やっぱないか。


「これ、王子の見立てってこと?……あ、会っていないから見立ても何もないか。もしかして、流行りのドレスを最高級の素材で作ってくれって適当に指示したとか?」

 脳筋王子の事だ。女性の事には詳しくないと思われる。専門家に任せれば間違いないだろうって簡単に思っていそう。


 で、私の予想は外れてなかった。王子、シャリーちゃんのサイズだけをお店側に連絡して、後は丸投げしたらしい。

 納期は大至急と言われて、お店側も困っただろう。内緒の贈り物だからとも言われて、仮縫いどころかシャリーちゃんに会うこともできず、連絡の取れない王子の依頼だから、そのまま作ってしまったと言うことみたい。


 似合わないドレスでも王子が贈ってくれたドレスだ。シャリーちゃんとしては着ない訳に行かない。でも、誰がどう見ても似合っていないから、王子の趣味を疑われる事にもなるし、自分も恥をかく。


「事情は分かるけど、速やかにもう何着か、王子の名前で依頼を出せば済む話じゃないの?」

「それだともう時間が間に合わないのです」

 そう訴えてきたのは、護衛のユリアさん。

「王子が戻られ次第、舞踏会が開かれます。そこに着て行く衣装なのです」


 なんでも、シャリーちゃんと王子の婚約のお披露目と、終極の魔物討伐への壮行会の様なものをやるんだって。

 こんな時期にと思うかもしれないけど、国民に大々的に広めることで暗い空気を払拭したいって意味合いもあるので、本当に国を挙げてのイベントになる模様。ほとんどの貴族と騎士が出席の予定なので、衣装屋さんも手一杯だから、「大至急」はお金をつぎ込んでも、王族の権威をひけらかしても、もう物理的に無理なんだそうだ。


「そなたの伝手で、何とかならんか?」

「そう言われてもね……」

 言われる内容は予想してたけど、どうしろって言うの。

 シンデレラは舞踏会に行けない事で困っていたけど、私は魔法使いじゃないぞ。魔法の杖の一振りで何とかするのは、そっちじゃないの?


「いつもそなたの世界で手に入れた物を、持ってきているではないか」

「そうだけどさ」

 そもそもこちらの衣装と向こうの衣装とだと、ルールと言うかセオリーが違うんじゃないかなー?って思うんだよ。

 シャリーちゃんの着ているドレスは長い袖付きの、足まで見えないドレス。本格的なお姫様ドレスだ。

 シャリーちゃんが子供じゃなければまだ何とか出来るかもしれないけど、子供サイズで売っているドレスって、大体発表会とか結婚式にお呼ばれした時に着るような物で、腕出し、脚出しのデザインがほとんどだったと思う。

 探せばそういうのも売っているかもしれないけど、似合う・似合わないの問題が解消されていない。本人の好みもあるだろうし……どうしたもんか。

 王子が恥かくのは自業自得だけど、シャリーちゃんは完全に被害者だからね。何とかしてあげたいのは山々だけど。


「大人サイズなら何とかなりそうなのになー」

 私が思い描いたのは、結婚式の花嫁のドレスだ。白ドレスは言うに及ばず、お色直し用の色ドレスも合わせればそれなりの数が出回っているはずだ。


 私の呟きに反応したのはお師匠さんだった。

「大きさか?それなら何とかなる」

「え?」

 なんでも物を大きくしたり小さくしたりする魔法があるそうで、それでサイズ調整すればいいとお師匠さんは言い、私は思わず突っ込んだ。

「それだったら、既製服や誰かのドレスを借りれば済むことなんじゃない?」

 ……けれど。

「とんでもない!」

 と、お師匠さんとユリアさんに即、否定された。


 王子の婚約者に既製品や古着を着せるなど、論外なんだって二人から口々に言われた。その他にも体面とか威信とか体面とか体面とか、延々説明されました。もういいよ。


 誰かが着ていたドレスなんて覚えている人は覚えているし、既製品を秘密裏に手配しても何処かで絶対ばれる。だったら私を頼ろうって事になったみたい。

 私は王子に従っている召喚獣であると知られているし、異世界産の品であれば、多少変でも物珍しさで何とかなるからって。


 ……便利屋扱いの上に、かなり失礼なこと言われてない?王子の暴走を防げなかった辺りで、あなた達、ダメダメだって分かってる?


 これは本気を出して、満足の行くものを探してやらねばなるまい。

 めらめらとやる気の炎を出した私は、こっそり拳を握ったのだった。





書いても書いても終わらなくて、番外編続きます。

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