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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第十二章 準備
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2

連載を長期中断します。詳しくは活動報告をご覧ください。

 


 マタタビ酒を水割りにするにしても、私が作ってきた魔符を使うのは後からにして貰った。だって、丁度良いからこの場で使ってみようなんて、失敗する可能性もある物をお披露目されるようで、恥ずかしいでしょ。


 フィルム包装していてもコーヒーの匂いが分かって反応していたダリアさんだったけど、匂いの強さの違いのせいか、それともガラス瓶と薄いフィルムの差のせいか、瓶を目の前にしても今のところ前みたいな反応は出ていない。

 匂いの段階で反応しない場合は、効果がない可能性があるなと思いつつ、まずは瓶の蓋を緩めてみた。


 その途端、ダリアさんが少し潤んだ目を私に向けて、

「あづさ、そのままでは蓋を開けないでくれ。匂いが……」

 って言い出したので、シスルが素早く風の魔法で匂いがそれ以上漏れないように覆った……んだけど。


「効果が有りそうなのはめでたいが、開けた瞬間でこの有り様では、効き目が有り過ぎて逆に使えないのではないか?」

 王子から鋭い突っ込みが飛んだ。……言われてみればそうだよね。指摘されるまで気が付かなかったけど、どうしよう。

 蓋を開けて直接匂いを嗅いじゃったら、まともでいられる人がいなくなる可能性大なんだから、うっかりすると一族郎党総酔っ払いと化して、そのまま正気に戻らずに餓死するとか、笑い話にしか聞こえない現実がやって来そうな予感なんですけど。

 匂いが漏れていなければダリアさんもゼルさんも、うるうるは今以上は酷くはならないみたいだけど、どうしたらいいんだろう。


「いや、我々は空を飛ぶ種として、風の魔法に親和性がある。匂いを閉じ込める程度だったら、一族の者は大概が使えるからその辺りは心配無用だ」

 ゼルさんが扱いに関しては太鼓判を押してくれたので、ひとまずは安堵の吐息をついた。


「良かった、そうなんですか。……でも、ダリアさん達が匂いでこれなら、飲むのは止めた方が良さそうですよね」

 お酒そのものの酔いもあるのだから、飲んだ後の効果はこちらの想像もつかない。

「一つ確認しますが、お酒そのものは飲んだ事があるんですか?」


 効き目優先でマタタビ酒にしちゃったけど、お酒プラスマタタビのコンボは強力だろう。

 マタタビもお酒も体質的なものがものを言うだろうけど、例えば病人の近くに少しだけマタタビ酒を入れた器を置いておいたとして、匂いで酔っぱらっちゃった人が理性を無くして飲んでしまわないとも限らない訳で……匂いの元を求めて殺到する、なんてことも普通にありそうで怖い。

 これって最悪、一か八かで誰かに実験動物になってもらうしか、本当の効能が分からないんじゃなかろうか。


「木の実やらなんやらを岩のくぼみに詰めておくと、そこが酒になっていることがあるから、酒そのものは免疫があるし、一族の者は全員そこそこ強いぞ」

 へー、ちょっとそのお酒、話のタネに飲んでみたいかも。美味しいお酒を造る目的でつくっている物じゃないんだろうから、味は普段飲んでいる物よりもずっと落ちるんだろうけど、興味あるなー。


「強いお酒なんですか?」

「そこそこだな。何かあると飲んでいるが、後を引かない酒だから次の日まで持ち越すようなことはない」

 ゼルさんの答えに、シスルが私の方を見た。


「あづさ殿、滋養強壮の効能は、人にも効くのでしょう?」

「勿論だよ。昔から飲まれてきたものだから、はっきりと効くと分かっているのはそっちの方。あくまでも、私の世界の人間はって事だけど」

 マタタビ酒って一口に言っても、値段が全然違ったんだよね。何が一番違うって、漬けているお酒の種類が違うんだと探していて気が付いた。

 果実酒を漬けるにはホワイトリカーを使うのが一般的なんだけど、価格が高いのはいわゆる本格焼酎を使ったものだった。ホワイトリカーは醸造用アルコールだからね。単体で飲めば当然本格焼酎の方が美味しいので、マタタビ酒の味がイマイチらしいと聞いたので、せめて原材料にこだわって高い方にしてみたんだけど、効能はどっちだろうとそんなに変わらないと思う。


「…………では、最初はとにかくすごく薄めて飲んでみましょう。効果がなければ少しずつ濃くしていけばいい」

 何かを考えていたシスルが、水差しやらコップやらを用意する様に騎士に指示を出した。


 空っぽの水差しの上で騎士さんが取り出したのは、水の魔符。私が持ってきた物じゃない、へろへろな字で「水」と書いてあるのが見える。


 水の魔符を前にも使っているのを見たことがあるんだけどね。

 高貴な人には──この場合、王子の事なんだけど、どんな場所に行っても雑事をこなす御側付きの人が付くことになるんだって。側役になるのは騎士見習いなんかの魔力が低い人が多くて、水の魔符は飲み水が確保出来ない時でも、最低限お世話ができるように大量に用意しておく物らしい。


 まあね。魔法を使用しないで飲み水を確保しようとすると、かなり難しいのは分かる。

 例えば今、見える範囲に川なんかは見当たらない。通ってきた道……例のミミズもどきがいたところまで行けば水はあるけど、あれを王子に飲ませられるかって言えば、かなり抵抗がある。それこそ、見た目は綺麗だけど何が入っているか分からないので、下手をすればお腹を壊すどころじゃ済まないかもしれない。体を拭いたりする水を現地調達するくらいで、飲み水はほとんど魔符に頼っているんだって。


 まあ、今回は騎士しかいないので、用意しているのは一番年が若くて経験の浅い人なんだけど、因みに、この間コーヒーを飲んだ時に準備してくれたのも、さっきホットケーキを調理させられていたのも、今、水の魔符を持っているこの騎士さん。確かに、他の人に比べればちょっと若いかな?他の人は、明らかに王子よりも年上に見える人もいるしね。調理当番は持ち回りらしいけど、今回は突発的だから、お側役の人が活躍中。……お疲れ様です。


 魔力量の低い人でも発動できるようになっているので、問題なく水差しの中に水が満たされた。


「準備する前に伺いますが、この間あづさ殿から頂いたコーヒーと言う飲み物は、まだありますか?」

「コーヒーは、気に入った人が多かったみたいだから、お土産で持って来たよ。……って、そうか。あれで正気付いたんだったら、コーヒーも一応用意しておいた方が無難かな」

 ブラックアイボリーでひっくり返ったダリアさんが、比較的早く元に戻ったのは、コーヒーのおかげだった。今回はお酒だし、あまり効きすぎるようだったら飲ませればいいか。


「……そう言えば、お前の持って来たこーひーとか言う飲み物を飲んだら、寝られなくなったぞ」

「覚醒の効果があるって言ったよね?っていうか、ダリアさん達に飲ませているの、見たでしょ」

 思い出した様に私を見ながら言う王子に、逆に非難をしてやれば、王子はそうじゃない、と首を横に振った。

「飲んだのは一度だけ、お前が来た時に一口だけだ。だが、その後、丸一日以上眠れなかったのだ。交替で不寝番をする者がいたのだが、あの時は飲んだ全員眠れなかったからな」


 その後、効果が切れたのか眠くなったが、その時もまた全員が一斉に、だったので、仕方なく半数がまたコーヒーを一口だけ飲んで睡魔を吹き飛ばして見張りにあたったのだと説明された。

「あー」

  こちらで何回かお茶は飲んだので、成分が違うんじゃなければ、カフェインに相当する物はこちらにもあると思うんだけど、どっちにしろ、こっちに持って来た段階で効果がアップしているんだろう。

「飲みたければ、起き抜けに口に含む程度にした方がいいだろうね。段々体が慣れて来るだろうけど、個人差があるから」

 一応、今回の荷物の中に王子用にコーヒーミルクも持って来たけど、口当たりが変わるだけでカフェインの量が変わる訳じゃないからね。


 酩酊してしまった時用のコーヒーを準備して、ようやくお酒の蓋を開けた。ふわっとお酒の匂いと一緒に独特の香りが漂う。いい匂いと言うよりは、薬っぽい匂いだ。とりあえず完全に覆っているので今のところダリアさん達には無害だけど、人でも嫌いな人は嫌いかもしれない。

 ちょっとだけお酒を器に注いで見たら、ビールの色よりも濃い琥珀色の透明なお酒だった。水割りを作る時と同じ要領で水で薄めて、ほんの一口分を均等にコップに分けた。


「とりあえず飲んでみる……?」

「そうですね」

 返事をするシスルも、頷く騎士さん達も、今一乗り気ではないのは気のせいではなくて、見た目はともかく匂いがひたすら美味しくなさそうな予感をさせていたと思われる。


 持ってきた責任を取って、私が飲んでやろうじゃないのとばかりに、一息に呷ってみた。

 ……苦い。水で割ってもひたすら苦い。そして、飲みこむ時に鼻の中を薬臭が突き抜けて行く。効きそうな味と言われればそうかもしれない。人に寄るかもしれないけど、蜂蜜とか氷砂糖とかを入れて甘くした方が、飲みやすいような気がする。


「苦いから、好みでこれを入れた方がいいかも」

 王子が飲むんだったら、絶対入れていた方がいいと思う、とお側役の騎士さんに砂糖を手渡した。



 その後、ダリアさん達には限りなく水に近く薄めたものを舐めてもらうとか?と検討しているうちに私の方が時間切れになってしまい、とにかく渡す物は渡したし、と否が応もなく戻ることになったのは仕方がない。


 シスルの顔色が悪かったのだけは気になったけど、それこそマタタビ酒で今度会う時は元気になっていると良いな、と思った。




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