表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第十二章 準備
47/50

1

 



「あ、そうだ。シスルにお願いがあるんだ。王子の所に荷物を置いて来てあるんだけど、その中に武器になりそうなものを用意してきたから、後でテスト……試験使用をしてほしい。王子には話を通してあるから」

「武器になりそうなもの、ですか」

 もし本当に終極の魔物がダリアさんのお父さんだとしたら、理性もなく獲物を狩るだけの手負いの獣と同じって感じなんだろう。手負いの獣は凶暴なのは当然で、心情的にはなるべく苦しまないで倒したいけれど、そうも言っていられない。こちらも命がけなのだから、使えるものはなんでも使う方針で行くんだと思う。


 終極の魔物をどう討伐するかは分からないけど、最初になるべく体力を削る意味でも、遠距離から高火力で攻撃するのがいいのではないか?と言う事を弟に聞いたとは言わないで説明したら、簡単に納得してくれた。

 王子になぜこの話をしなかったかって?そりゃあ、やっぱり脳筋だし、どうせシスルが参謀の立場なんでしょうから、最初から話が分かる人に話した方が早いでしょう。


「獅子鷲の方たちが参加するか否かで戦術は大分変りますが、どれだけの長丁場になるか分かりませんから、体力、魔力共になるべく温存しておきたいのは確かです」

「そうだよね」


 終極の魔物が空を飛べないとして、更に獅子鷲の人が魔法を使える誰かを乗せて飛んでくれれば、空から空爆なんて手も使えると思うんだけど。


「まだ協力してくれるかどうかわからないんだね」

 直接手を下してほしいとまでは言わないけど、協力してくれればこれ以上ない戦力になると思う。ただ、獅子鷲の人にとっては、かなり複雑な心境であることは間違いがないだろう。放っておけば一族郎党全て殺されるかもしれない。それが嫌だったら、かつての長を殺さなければならない。

 どちらを選ぶにしても、そう簡単に答えが出ない事だけは分かる。


「そうそう、獅子鷲の人に私が持って来た薬になるかもしれないもの……お酒なんだけど、それ渡すから、シスルを呼んで来てって言われたんだ」

「分かりました。すぐに参りましょう」


 周りで作業中の騎士さん達に中断の合図を出して、皆で王子の所へ戻る途中で、

「あと、これちょっと使ってみてくれない?」

  と、ぺらっと一枚の紙をシスルに渡した。


「これは……魔符ですね。水を得る魔法ですか」

「ああ、それくらいは読めるんだね。……で、使う前から魔符って分かったって事は、それ、使えそう?」


 前に魔符を作ってほしいと頼まれた時は、せっかく持って来た材料無駄にしちゃいかんと思って、あくまでも監修と間違いの指摘だけだったんだけど、シスルの腕を直した時に、私が書き加えた文言も一緒にちゃんと発動したから、もしかして魔符そのものも書けるかもって思ったんだよね。

 で、今渡したのは発動実験用の「水」と書いた魔符。これで上手く働かなかったら、他にも作ったのは全く無駄になるし、恥ずかしいから。管理しやすいように、大きめの付箋に書いたんだけど、そのせいか結構な量になっちゃったんだよね。


「……触っただけで魔力を感じますので、おそらくは。ただ、やはり一度使ったみた方がよさそうです」


 教えて貰ったところによると、魔符に込められた魔力が多いほど発動時に必要な魔力が少なくて済むんだって。 ただし、シスルの腕を治した時そうだったように、威力の強い魔法は発動時の魔力が沢山必要になるので、暴発したり、あるいは足りない部分を術者本人から持って行ったりするので、簡単に唱えられるからと言って良いことばかりじゃないそうだ。

 分不相応に大きな魔法が込められた魔符を発動しようとして命を縮める以前に、そんなに大きな魔法が使える魔符と言うのは、作るのに莫大な魔力が必要なのでそうはないらしいのだけど、私が適当に書いた落書きモドキが使用に耐えるなら、大した労力でもないからいくらでも作るからね。


 渡したのは単純な、本当に誰でもが発動できるような飲み水を得る魔法で、ちゃんと効果があるって分かったら、書いておいた他の魔符を渡す予定。

 それこそ中二病全開で、「風神招来」「雷神招来」「水神招来」「炎神招来」と書いたものと、さらには「濁流」「烈風」「竜巻」と言った自然災害を書いたもの。調子にのって「臨兵闘者皆陣裂在前」なんてものも書いてみたけれど、本命はこっちの、「剛力」「全身強化」「毒付与」「鈍足」「重力五倍」といった、魔符作成を手伝った時に見た覚えがなく、効果のありそうな単語を書いたものだ。

 前に呼び出された時はそれらしい文言が思い浮かばなかったので、改めて辞書で調べたりしたものを抜き出して書いたものだけど、相手の能力を下げるのは利かないかもしれないけど、こちらの能力を上げるのは発動さえすれば有効だもんね。


 皆で王子の所へ戻ると、既に辺りにホットケーキの焼ける甘い匂いが漂っていた。

 獅子鷲の人は、まだ来ていなかったけど、こんなゆるゆるでいいんだろうか? まだ生焼けなのに王子が手を出そうとして、調理していた騎士さんに止められている。……子供かっ。


  かまどで焼いているから火加減が難しいし、やたら強火で焼いても中まで焼ける前に表面が焦げるって言ってあるから、騎士さんは慎重だ。あんまり意識した事ないけど、「王子」に食べて貰うものだからかね。非常時ならばともかく、生焼けの物も黒こげのものも、そりゃあ食べさせられないよね。


「焼くのに時間が掛かって仕方がないが、目の前で焼かれると辛抱するのも辛いぞ」

 私に言われたって、と言うようなことを訴えられて困った。お腹が空いている時の美味しそうな匂いは、確かにつらいだろうけど、王子って「王子」なんだから、もう少し落ち着こうよ。


「生焼けのホットケーキはまずいよ。まずくても良ければ食べれば?」

 逆にこう言ったら、ものすごく面白くなさそうな顔をして大人しくなった。


 そうこうしているうちに、ダリアさんがゼルさんともう二人ばかりを引き連れてやって来たのだけど、呆れた様な表情を浮かべられてしまった。


「匂いの元はお前たちだろうと思っていたが、一体何を焼いているんだ」

 甘い匂いが獅子鷲の住処にまで風で流れて行ってしまい、嫌いな匂いではないが、逆に言うとそれしか感じないので少々困っているそうだ。まあ、普通に考えてこれ以上ここでは焼いてくれるなって事だよね。


「そろそろ食料がなくなって来たからあづさを呼んだら、これを持って来たのだ」

 と、王子が思い切り自分の事を棚に上げた発言をする。


「えーっと、すみません。お知らせした通りに薬になるかもしれない品の他に、役に立ちそうな品を色々持って来たんです。焼いていたのはその一つで、おいしい食事というのはやる気を起こさせる一つの方法ですから。私の国では腹が減っては戦は出来ぬって言うんですよ」

「……ああ、そなたはそういう性質(たち)の召喚獣だったな」

  その認識は違うんだけどと思いながらも訂正はできず、日本人らしい曖昧な笑みを浮かべてごまかして、とりあえずもう焼けたらしいので火を消してもらった。


「それで?」

  焼き上がったホットケーキを頬張って目を丸くしている王子を尻目に、私はマタタビ酒の瓶を取り出した。

「これは凄く美味いな!」

「気に入ってくれて良かったけど、ちょっと黙っていてね」

 内心で再び子供かっ!と突っ込みを入れつつもそう言うと、王子は再び大人しくなった。もきゅもきゅとホットケーキを食べているが、多分、口の中の水分を持って行かれたから、大人しくなったんだろうな。一度にがっつくからそうなるんだよ。


 気を取り直してダリアさんの方に瓶を差し出した。

「マタタビという実をお酒に漬けたものです」

 マタタビ酒にするマタタビは、虫こぶって、実の中に虫が入って変形している物を使うのが良いらしくて、見た目は黒いぼつぼつがあってグロい形をしている。虫?多分そのまま入っているんじゃないかな。確認なんてしないし出来ないから、そのまま差し出す。まあ、効きそうに見える事は確かだ。


「はっきり言っておくと、お酒としては美味しい訳じゃないらしいので、味について保証はできません。あくまでもこれは薬と思ってください」

「らしいという事は、そなたも飲んだ事はないのか?」

「そうなんです。滋養強壮効果があるそうなんですけど、この中の実が、ダリアさん達の種族に酔ったような効能があるんじゃないのかと思われるので、食べない用に特に気をつけて下さいね。効果があった場合、沢山取り過ぎると、心臓に負担がかかるそうです」


 猫にマタタビを与えた場合の事らしいけど、多量に連続して与えるのはやっちゃダメなんだって。特に今回は病人向けだし、体が弱っている人に多用するのは下手すると毒になる。


「保存方法は、このまま涼しくて暗い場所に置いて下さい。きついお酒を使っているので、それだけで何年も保存出来ます。因みにこれは、半年程漬けてあった物みたいです。敢えて手を出さないでずっと漬けておけば、更に実の成分がお酒に出て美味しくなるそうですよ」

 私の曾祖母に当たる人が亡くなった後に、曾祖母が生前漬けたと思われる梅酒を母が見つけたんだけど、日付からすると三十年物だったらしい。梅の実はもう溶けてドロドロだったけど、味そのものは濃厚でものすごく美味しかったんだって。それは本当に飲みたかったけど、あっという間に飲みつくしちゃったらしい。

マタタビの場合はどうなのかよく分からないけど、基本的に熟成させたお酒はおいしくなる筈だ。


 ホットケーキにかぶりついていた王子が、ようやく食べ終わったようで、

「試しに飲んでみたい」

 と言い出した。うん、王子はそう言うと思っていたよ。


「いえ、飲むのなら、先に私がいただきます。王子に毒見のような事をさせられません」

 毒見というのは、ダリアさん達が飲む前に、という事だろうか?……そうか、本当は王子も、王宮にいれば毒見をされた料理が出て来る立場の人なんだよね。


「飲むんだったら、きついお酒だからちょっとだけね。もし何だったら、水で割った方がいいかもしれない」

 と言ったら、逆に全員が試しに飲んでみたいと言う雰囲気だったので、皆で飲めば毒見もいらないよね、と言う事になった。





仕事が忙しく、腱鞘炎が悪化しました。すみません、ちょっとまた投稿が遅くなるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ