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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第十一章 未定
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3

 



 広田の事件が報道された辺りで、心配した家族から連絡が来たので、事の次第を簡単に説明しておいた。

 事情を知らせない方が心配をかけないけど、後から知られた場合、心を折られるくらいに叱られるので、黙っている事はできなかった。

 守秘義務もあったけど、報道された段階である程度は緩和された。勿論、報道各社に内部の人間しか知らない事を漏らしたらダメだけど、事情が事情だけに、身内に連絡は許可された。当たり前だけど、身内がさらに外へ漏らすのは不可だ。


『大変だったねぇ』

『それにしても、会社側の対応は酷くない?』

『なんて言うか、札束で顔叩いて口封じって、どこのヤの付く人よって感じ』

 等、同僚では漏らせなかった愚痴を聞いた母が私以上に憤慨してくれたので、それで慰められたような気がした。

 共感。それが今自分に必要なものだったみたいで、最後の方では逆に私が母を宥めたくらい。


『信頼関係っていうのは、お互い相愛であって成り立つものだからね。ショックだったのは分かるよ』

「まあねー。ブランドを守る為なら一平社員を利用しようとどうって事ないのかもしれないけど、やられた方はたまったもんじゃないし、第三者の変わり身の速さにも唖然とさせられた部分があったしね」

『疲れたんだったら、いつでも戻って来ていいんだからね』

「分かってる。ありがとう」

 そんなことを話した後、もう一つ聞きたかったことがあったのを思い出した。


「あ、そうだ。(あきら)(ゆずる)に聞きたい事があるんだけど、どっちかいる?」

『んー、譲ならいるわよ。ちょっと待ってね』

 上の弟の明は、サッカー部に入って毎日練習に明け暮れている。やっぱり帰って来ていなかったが、下の弟はいるようだ。遠くで文句を言っている声が聞こえた後、

『何?』

  譲のすごく面倒くさそうな声がスマホから漏れた。


「えーっとさ、ちょっと教えてほしいんだ」

『だーかーら、なんだよ』

 そっちが聞いたから電話に出ているんだろーが、とまるきりツンデレな台詞を吐く譲に苦笑しながら相談内容を口にした。


「あんたがさ、もしティラノサウルスみたいなのと戦う事になったとして……」

『なんだそれ。ゲーム?』

「えーっと、一応現実って事で。戦うにしても伝説の剣だの、鎧だのはないから。かといって、軍隊呼べば?じゃあ意味ないの。あくまでもあんたが自力で倒そうとするとして、どうやって戦う?」


『え、無理』

 間髪入れずに返されてしまった。いや、私も現実にやれって言われたら同じ答えを返すけどさ。


「例えば、魔法使いと勇者と、十人くらいの戦士で戦うの。それに現代知識を使って助力したい場合、どうする?って事なんだけど」

『作戦を授けたいって事?』

「そうそう。それと、できれば身近なものを使った武器とかはないかな?」

『……何ソレ、ねーちゃん中二病?年幾つだっけ?』

 いつもだったら気にしない台詞なのに、グサッと来た。


「何でもいいから、教えて」

 若干声に険が出てしまって、語尾がきつくなった。途端に私の機嫌が悪いことを敏感に悟った譲は、大人しく情報を吐き出し始めた。……最初からそうやっていればいいものを。後もうちょっと遅かったら、報復活動に入るところだったよ。


『……まあ、正面から衝突したら被害大だから、理想は罠にかけて動けなくしての遠距離攻撃だよな。さらにバフ──敵に能力ダウン系、味方に能力アップ系の魔法かけるのは基本だろ』

 韋駄天──素早さアップの魔符を作った記憶はあったけど、敵の能力を下げるなんて魔法はあるんだろうか?そもそも、掛からない可能性だってあるよね。


「ダウン系が無効なら?」

『動きが早い敵は阻害系の魔法をかけないと厳しいけど、ボスは魔法がかかんない場合があるか。じゃあ毒とか、痺れ薬とか、酸なんかもいいんじゃね?』

 それすら抵抗(レジスト)される場合は、やっぱ遠距離攻撃かヒットアンドアウェイで行くしかない。

 そんなことを譲は言った。完全にゲームだと思われているなと思ったけど、考えてみればその方が変に突っ込まれなくてよかった。


『アイテム使用可なら、MP(マジックポイント)なくても攻撃の出来るのがあるんだろ?』

「攻撃アイテムも魔力がないと使えない仕様だから、できれば戦士たちにも物理攻撃以上の何かがないかなって事なんだけど」

『今流行りの異世界トリップの要素入りのゲームなのか?』


 そんなの合ったかなー?なんて言う弟に思わず突っ込んだ。

「え?流行りって、よくある話なの?」

小説ライトノベルだとよくある設定だよ。因みにトリップって言うのは今のまま異世界に行く奴で、勇者だったり異世界の知識を期待されて呼び出されたってのが多くて、大体魔王を倒して元の世界に戻るのが命題。もう一個が異世界転生。今の世界で何かの拍子に死んで、その記憶を持ったまま異世界で生まれ育つってやつ。前世の知識を使ってチートするのが二大黄金パターンな』

「へー」

 私の場合はトリップの方か。パターンとしては珍しいのかな?


『まあ、いいや。本人をレベルアップさせるのもそうだけど、伝説の武器はなくても武器のレベルアップと予備を用意しておくのも基本だから』


 そんな事を言われて忘れないようにメモを取りながら、「よくあるゲームの設定の中でのボス戦の戦略」を聞き出した。 同様に武器に使えそうな道具(アイテム)に関しても教えてもらい、材料となる物をメモしておく。


「どうもありがとう。助かった」

 お礼を言って電話を切った。



  比較的簡単に手に入れられるのは、ガソリンとか、カセットコンロ用のボンベだけど、教えてもらった武器……というか、爆弾の元にしても、向こうに持って行くと威力が上がる可能性大だから、もし使うとしたら、一回テストした方がいいよね。


 それにしても。

「あー、なんか痛い所を付かれた」


 中二病と言われてなんだかやたら腹が立ったことは、終極の魔物という敵と対峙する事が、シスルの大怪我で漸く誰かが死ぬかもしれないと自覚が出てきた事と、端から見れば中二病ならまだしも、精神疾患と見られかねないんだなとあらためて自覚した事。

 現実なんだけど、自分の現実逃避に利用していると、どこかで後ろめたく思っていたからかもしれないと思った時、何とも言い難い気持ち悪さを感じたのだ。


 多分、精神的に疲れているんだと思う。

 会社の事とかしばらく考えたくない。思考停止していたって何の解決にならないのは分かっているけど、ただぼーっとしたとしても考えてしまいかねないから、別な事に没頭していたいのだ。

 それは別に本だってゲームだっていい。一時現実を切り離していたいだけ。嫌な事を考えてしまうくらいなら、なるべく会社と関係のない全く別な事の方が、うっかり思い出す事もなくていいから。


 それが人の生き死にに関わる事をゲームのように言われて、でもほかならぬ自分自身が同じ扱いをしていることを自覚したのだ。

 魔物が倒されたら私はもう役立たずだから、呼び出されることもなくなると思ったら、胸が痛くなった。勿論、寂寥感はある。

 命の危険があったと課長に指摘されたけど、自分としてはそんな怖くなかった。人生相談に乗ってもらったし、逆に相談されると言うこともあった。

  振り返って見れば総じて楽しかったのだ。会社で起こったことが大変だったけど、いい気分転換で……そう思った自分を嫌悪してしまう。命がけのことを娯楽の様にとらえていた自分。いや、とらえ続けていた自分に。

 

 異世界に行ったら会社のあれこれなんかから解放されるんだよね、なんて、一度は思ったから。


「……考えるのは後にしよう。とにかく本当の戦いはこれからなんだし、一度思考停止。今考えなくていいことは、後で考える」

 そうしないと動けなくなってしまう。


「多分もうすぐ呼ばれると思うから、持って行くものと足りない物のチェックをしておかないと」


 自分に言い聞かせるように呟いて、私は荷物のチェックをし始めたのだった。




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