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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第十一章 未定
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遅くなりました。すみません。

 


 獅子鷲の意見が纏まるまで何日かかるか不明だったが、茫然している余裕はなかった。

  アルド・ラトヴァに終極の魔物に関して新たに判明した事の報告をし、魔物本体の現在の動向を教えてもらい、獅子鷲にも情報を提供する。

  善後策を検討するにしても、一族の協力が得られるか否かで方針が大きく変わるからで、意見の早期統一を促す為でもあった。

 さらにダリアから、転移魔法の目印となる座標特定用の魔法陣を設置する許可を貰った。これで王都と獅子鷲の里の行き来が簡単に出来るようになる。ダリアには、事前に連絡がない場合は敵意ありとみなして攻撃する旨の警告を受けたが、王都と各主要都市を結ぶ魔法陣も似たような運営方法をとっている為、否やはない。


 協力する、しないにかかわらず獅子鷲との(えにし)はできた。王都が襲われるまでに何とか討伐したいが、少なくとも一時小人数──王族の方々を避難させる事が出来る。


 それだけでも、上出来だった。


 獅子鷲の住処のすぐ近くなのでさしたる危機はないが、その分狩れる獲物もいない。何時まで待つにしても、食糧の確保と周辺地形の確認は急務で、王子と騎士の半分が従事しており、残り半分がこれから設置する魔法陣を保護する為、小屋のようなものを建てることになった。


 戦はないが、魔物の襲撃に備えて防壁を築く事がある為、騎士と言えども土木工事は慣れたものだ。

 特に獅子鷲の棲む山は殆どが岩山であり、岩を切り出す労力が必要だったが、建材としては十分すぎるほどで、シスルは魔道具を必要としていた頃に比べれば馬鹿みたい嵩上げされた魔力を惜しみなく使って、小屋と呼ぶには少々立派な建物の作成を指揮していた。


 人足仕事は騎士に任せて、シスル自身はひたすら岩を削る。なにせ設置する場所も岩の上の為、人力のみでの建築は難しく、いやでも魔法に頼らざるを得ない。


 水が入らないように設置する予定の場所を一段高くし、周りは少し掘り下げる。さらに四角く掘った溝に沿って、四角く削り出した岩の柱を立てて溝を砂礫で埋め戻し、魔法で硬化させる。


 嵌めこみが可能な様に岩を削るのは少々難儀であったが、魔力が足りないのではなく、精密な操作が必要な作業に時折魔力を込め過ぎてしまうのだ。壊れた岩は数知れず。だが、魔力の制御の鍛錬になるし、材料に困る訳でもない。魔力も潤沢にある。作業は淡々と作業を進めて行った。


 凡そ建て終えた辺りで、騎士の半分を従えてライド王子が戻ってきた。

 見る限り、獲物は皮袋一つだけのようだ。何が入っているにせよ、辛うじて一食分。ないよりはあった方がいいが、根本的な改善にはならないだろう。


 ライドは完成間近な建物を見やって、感心したような声を上げた。

「なかなかどうして良い出来だな」

「ありがとうございます。階段を作って、建物はほぼ完成です」

 

 獅子鷲の一族がいたずらをする事はないだろうが、他の何かの要因で建物が壊されないように結界を張ってから、魔法陣を設置する。そこまでやって、ようやく完成だ。

 

「殿下は獲物が見つからなかったようですね」

「ここは獅子鷲と長虫共の縄張りだからな。鼠のような小動物はいたが、あれらを捕まえるには罠でもないと無理だ」


 成果は蛇一匹のみだと、皮袋を指す。魔法で仕留めると、威力が強すぎてひき肉になってしまうので、動きの遅い獲物に限られたようだ。弓があればまだ良かったのだったが、荷物を極限まで削ったために用意はなく、罠を作成するにもこの辺りには灌木も見当たらない。純粋に身体能力のみを使っての狩りだったのだろうから、獲物を狩ってきただけ上等だった。


「魔法陣が設置出来れば食糧確保に一度戻っても構わないだろうし、設置に時間がかかるなら、あづさを呼び出せばいい」

「……そう軽々に呼び出さなくとも、先に魔法陣の設置が終わります」

 シスルがそう告げると、ライドは驚いた様子でこちらを振り返る。


「どうした?まだ、獣扱いをした事を気にしているのか」

 あづさが許してくれたとしても気になるものは気になるし、王子のように簡単に割り切れるものではない。


 そんな苛立ちが顔に出ていたのか、王子が淡く笑った。

「前に比べれば、格段に人らしくなったな。人形のようだと揶揄されても顔色一つ変えなかったお前が、今は苛立ちを隠せないように見える」


 終極の魔物が現れるまで、ライド王子とシスルは殆ど接点がなかった。王子は平生、身分ゆえの仕事と近衛騎士団長として采配を揮っており、アルド・ラトヴァの補佐をするシスルとは事務的な関係に終始して、個人的な会話を交わしたことは一度もない。当初は王族の方に対する態度で相対していたが、あづさの気安いと言えば聞こえがいい、無礼ともいえる態度にすっかり感化されてしまったようだ。

 王宮で生活するのに必要だった慇懃な仮面が、ある程度親しくなった相手には被れないでいる。また王子も、元々礼儀作法に構わない方であるため、崩れていく態度に頓着しなかかったようだ。


「……殿下は気にならないのですか?」

 騎士の本文は守るべきものを守り、助ける事。少なくとも、自分よりも弱い相手を盾にしてまで使命を果たしたいとは思っていないだろう。

 それは違う立場ではあるが、魔導師である自分も同じだ。

 だが、やっていた事は酷く浅ましい。許してくれたとしても、自分が自分を許せない。


「戦う力があると勘違いしていたが、元より子供に戦働きさせようとしたことは……」

 ライドの言葉をシスルは途中で遮った。この辺りも本来は不敬もいいところだが、否定しておかねば後であづさに漏れた時に怖い。


「あづさ殿は子供ではありませんよ。……ああ、殿下はご存知なかったのですね。彼女は二十三才、殿下よりも年上です」


 その時の王子の様子はまるきり見物だった。

 目を見開き、口も開けて、こちらを凝視したまま、凍りついたように動かない。驚愕と書いて貼りたいような様子にシスルはさもありなんと思う。

 自分も知った時は取り繕う事もできなかった。二十三才二十三才と内心で繰り返してしまい、異世界というところは恐ろしい所だと心胆寒からしめた。


 きっかけは懸想をされて迷惑を掛けられている相手と密室で二人きりになったとかで、半泣きで自分の胸に飛び込んで来た時だった。

 二十三才では立派な……というか、こちらの常識からすると、少々薹が立ったと言われても仕方がない年齢で、言われてみれば抱きしめた時に感じた抱き心地と言うか、感触は柔らかくそれなりに発達していた。化粧なのか甘い匂いが鼻をくすぐり、いつも着て来る薄物とは違う、身体の線を強調するような服装が、大人なのだとはっきり知らしめていて。思わず凝視してしまったので性的嫌がらせだと責められたのだが、今思えばあれが切っ掛けなのだと思う。


 ──ああ、こんなことを考えても仕方がない。自分はもう、関われないのだから。


 幸いにして、王子が凍りついていたかなり長い間、物思いにふけっていたのだが、王子からの指摘はなかった。



「…………あれが?……あれで年上だと言うのか」

「そうです。本人の自己申告ですが、嘘をついても何の得にもならないので、本当の事かと思われます」

 シスルが断言すると、名状しがたい唸り声を上げながら、片手で髪をかきむしる。

「~~~~嘘だ、と言っても詮無いことだが、まったく信じられないぞ!」

「よく分かります」


 王子はしばらく唸っていたが、今の問題はこれではないと思い至ったようで、顔を上げた。


「横道にそれた。納得できないが、棚上げしておく。──あづさの事だ。会わなければ、罪滅ぼしもできないだろう」

「そう、ですが……」

「お前は難しく考え過ぎだ。本人が気にしないと言っているのだから、態度で応えればいいだろう」

「……」


  王子からそんな台詞を聞くとは思わなかったシスルは、珍しい虫でも見つけたような目をしてしまった。

「……なんだ、その顔は」

「いえ……。とても意外なお言葉だったので」

  「人は日々成長するものだ。ノウキンとは、機微に疎いなどの意味ではないのか?」


「本当に成長されたのですね」

 胸をそらしていかにも自慢げな様子からして、あづさのいう所の野生の勘なのかもしれないし、残念な所は変わっていないようだが、それでも今までにない進歩に少し安堵する。


 あづさにも言っていなかった事だが、王子は終極の魔物との相討ちを狙っているのではないかと師と共に危惧していたのだ。第二王子なのに、あまりに己の身を顧みない。優れた剣士であると誰もが認めるが、その戦い方はどこか危うい。強いのは確かなのに、見ていると焦燥感に苛まれる時がある。


  生きて帰って、英雄に相応しい対応を受けなければ、身を呈して死地に赴いた我々も報われないではないか。


「……それで、どうする?」

「何がですか」

「あづさの事だ」

 真っ直ぐに問い詰められて、返答に窮した。


  会いたいと同じくらいに、会いたくない。

 どうしたらいいか分からない。


 それが正直なところだが、そうも言っていられない。自分の事は二の次三の次でシスルは王子に告げた。

「…………どちらにしても、獅子鷲の方に差し上げると約束していた品物を渡すのに呼び出さないといけませんから、こちらの作業が一段落するか、食料が尽きるかのどちらかで呼び出しましょう」

「そうだな。それまでにどうするのか、覚悟を決めておけよ」


 どう、とは何のことなのか、覚悟とは何なのか。

 心の内を見透かされたような王子の言葉に、シスルはただ黙って動く事ができなかった。






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