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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第九章 灰色
36/50

3

忙しさに体調を崩して、寝込んでおりました。遅くなりすみません。

……そのため引っ越しの件が全く進んでいません。今後も急に間が空くことがあると思います。よろしくお願いします。

 

「ちょっと待ってください。終極の魔物は獅子鷲と姿とか全然違うし、翼もないんでしょう?どうしてそんなことが分かるんですか?」

 唐突過ぎて話に付いていけない私がそう訊くと、ダリアさんはすごく苦いものでも飲み下した様な顔をしながら言った。

 

「目の前で変異するのを見たからだ。肥大していく体に沿って、灰色が全身を覆って行く様を!」

 

 覚醒したばかりだったからか、言った拍子にめまいがしたようでダリアさんは脱力したように顔を伏せ、ゼルさんが慌ててたしなめている。長の代理するくらいなんだから、ゼルさんも獅子鷲の中では相当地位が高いんだろうし、今のダリアさんは人の姿じゃないんだけど、なんか執事とお嬢様みたいな感じに見えた。あ、執事って言うよりは補佐官なのかな?

 

 で、代わりにゼルさんが説明してくれたんだけど、獅子鷲は人と同じように何度も終極の魔物から逃れてきた種族で、それも、人のように標的にされた結果小数が生き延びた訳ではなく、翼を使って、あるいは人に変化出来るくらいに強い魔力で敵から逃れてきたから、伝えられてきた事が多く存在しているんだって。

 

「いくつかの事柄は、病に関してだ」

「病……?」

 相変わらず獅子鷲の人たちは王子やシスルを無視する傾向にあるので、私が相槌打つとダリアさんの金色の目がこちらを向いた。

 

「そなたは、その身に納まっているのが不思議なほどの魔力を有しているが、どこか体調がおかしい所はないか?」

「……いえ、特には」

 最近は睡眠不足とストレスで肌の調子は最悪だから、万全だとはとても良いとは言えないけど、ダリアさんの聞き方はもっとずっと重篤な何かが起こっていないか?って感じだったので、とりあえず否定する。幸いにして胃は丈夫なので、元々コーヒー何杯飲んでも平気だったし、引きこもり状態で仕事をしていても、食欲も落ちずに美味しくご飯を食べてるしね。

 

「そうか。やはり異界の召喚獣だから、(ことわり)が違うか……」

 呟くダリアさんに「召喚獣じゃないから」と、お決まりの台詞を言いたくなったけど、ぐっとこらえた。

 

「その病は、体が石のように灰色に変色して固くなり、次第に全身に症状が進む、石化病と言われている死病だ。石となった箇所の感覚がないが、徐々に固くなる経過で血の中に石が混じり、酷く痛む場合がある。発症の原因は不明だが、魔力が強くて体が弱い子供や、体が弱って来た年寄りが罹る病故(やまいゆえ)に、魔力と体の均衡が崩れた時に発症するのではないかと言われている。……そなたに貰ったこれで、少なくとも痛みは和らげるのではないかと思ったのだ」

 麻薬なんて言ったのは便宜上だったけど、本当にそういった目的だったのね。癌の末期患者に痛み止めとしてモルヒネを使うようなものか。

 ただ、ブラック・アイボリーをマタタビに変更したとしても、本当の麻酔じゃないから期待した効果が出るか分からない。それにさっきの様子から想像するに、興奮状態になるのは間違いないんだよね。病人に使って大丈夫なんだろうか?

 

「心臓に負担が掛かるおそれがあるというのと、嗅いだ時の症状も個人差があるんで、少量から試して下さいね」

「忠告いたみいる」

 一応伝えたら、ゼルさんから時代劇の台詞みたいな答えが返って来た。

 

「……でも、その病は確かに灰色になるんでしょうけど、今回の件とは別ですよね」

 徐々に体が動かなくなって死ぬなんて最悪な病気だけど、ダリアさんのお父さんの症状はまた違う。

 終極の魔物が死ぬのって、餌が確保できないことによる衰弱死というか、餓死みたいだし、同じなのは色くらいだから、お父さんとは違うんじゃないの?

 

 だけど、私の問いにダリアさんは重苦しい溜息をついた。ゼルさんも端正な顔を歪めている。

「そう思っていたよ。終極の魔物が現れたと知ったのは、そこの王子とやらが持ってきた情報だが、単なる偶然だと思いたかった。……だが、それが灰色をしている四足の獣の姿であるというのなら、最早間違いはないだろう」

 

 残された書簡は、基本的にある程度の年齢と地位になったら誰でも見れるものなんだけど、その中に長とその後継者候補達にのみに口伝される内容があるらしい。

 

「石化に肥大が重なった時こそ終極。直ぐに殺害せよ。そう伝えられている」

 部外者なんだけどいいのかな?と思ったら、思っていることが分かっちゃったみたいで、ゼルさんがほんの少し口の端を吊り上げた。

 

「私はもう一人の長候補として幼いころから内容を知っていたし、一族の者に関しては今更だ」

「ああ。父の変容は一族の眼前だったからな」

「それは本当に大変だったんですね」

「ああ。それはもう大騒ぎになった」

 

 ダリアさんのお父さんは自分の体の変調を分かっていたらしく、まだ引退するような年齢じゃないのに、長の座をダリアさんにやや強引とも思える態度で譲り渡した。変化したのは、その直後の事だったらしい。

 

「安心して気が抜けたからかもしれない。手や翼といった、体の先端から色が変わって行って、変わって行った先から風船のように膨れ上がった。外見はごつごつと硬くひび割れたようになって、柔らかかった毛や羽は剥げ落ちた」

 

 驚いて近寄ろうとしたら、その近寄った相手に襲いかかってきた。──錯乱したように。

 だが、本当は違った。そのまま一番近くに居た若い獅子鷲の喉笛に喰らい付き、首を振る……その仕草は、大きな獲物の喉を切り裂く時のやり方で。

 

「まるきり飢えて血走った様な眼をしてこちらを見やり、自分が銜えたものが餌ではなくて、守るべき同胞と認識する理性が残っていたのか、とどめを刺すことなくすぐに身を翻して飛んで行ったが、全員が茫然としていたので逃げた方向は分からない」

 どちらにしろ、そう遠くまでは飛べなかっただろうと思われた。……抜けて行った羽は大量で、あれだけ抜けたら、もう飛べない。

 

「じゃあ、羽がないのは……」

「おそらく役に立たなくなったから、途中で捨てたのか……それとも、喰ったか。どこまで正気を保っていたか、分からんのだ」

 もし、自分だったら。一族を傷つけないように、なるべく遠くまで全力で距離を開ける。とダリアさんは言った。

「石化病と関連付けて伝えられていることから、おそらくは全てが石化病の症状の一つなのだろう、というのが我らの推論であった。……まさか父が、という思いもあったし、探しに行こうかとも思ったのだが……」

 

 ……多分、ダリアさん達はきっとずっと悩んでいたんだろう。

 探しに行くべきか?探しに行って見つけたとしても、正気じゃない相手にどうやって対処したらいいのか?連れ帰る所か、こちらを襲う様子を見せたのだから、探し当ててもこちらを認識しないかもしれない。餌と認識して襲ってきたのなら、反撃するのか、どうなのか。

「私は口伝の言葉の意味が、長い間分からなかった。石化病に罹った者は大抵痛みに耐えられずに死を望み、あるいは病が心臓に達して死ぬ。終極というのが、文字通りの終わりではなく、終わりの始まりなのだとは……」

 

「……正気に戻る事はないんですか?」

 終極の魔物が現れる原因そのものが分からなかったんだから、対処のとっかかりと言えるだろうけど、そもそも目を覚まさせることが出来れば、それで終わりじゃないだろうか?

 

「おそらくは無理だ。……理由もある。終極の魔物が、どこからどうやって現れるのかは人には伝わっておらぬのだろう?」

 ここだけは王子に視線をやるダリアさんに、王子は「──そうだ」と重々しく頷いた。

「その周辺の魔物が、共食いをした結果ではないかと思っていたのだ」

「……そうではない。終極の魔物に関して残された記録に、代々の長や識者が少しずつ書き留めておいた書簡があるのだが、それによると、あれ・・が現れる度に、強大な力を持っていた魔獣の一族が滅んでいることが分かった」

 餌や縄張りが重ならなければ、お互いに無用の争いを避けることは難しくない。特にどちらも力が強く、戦ったら無傷ではいられない相手であれば、尚更その傾向が強かった。つまり実力が拮抗しており、終極の魔物に対しても戦わずしてもそれなりに逃げる手段もあったにもかかわらず、完全に滅ぼされている。それは、なぜか?

 

「終極の魔物と呼ばれる生き物は、全てその滅ぼされた一族出身と思われる。──あれが父ならば、目指している場所はここだろうな」

 

 

 


シリアスになった途端に、書くスピードが落ちました。メンタルが疲労しているときのシリアスは、ダメですね。かといって、テンション高いときにシリアスなのを書くと、取らなくてもいい笑いを取りたくなるのでやっぱり難しいですw

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