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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第八章 畢竟
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4

 




 ごろごろしているグリフォン……じゃなくて、獅子鷲のダリアさんは一族の長。元々王子たちが巣の中に黙って足を踏み入れたせいで警戒気味の所へ持ってきて、ダリアさんがあの通りになったので、不信感爆発になったようだった。

 人間には普通に良い香りと思うだけで無害なので、効果が分かっていて持って来たものではないと一応納得してもらったけど、信頼はできないということで、ダリアさんが正気に戻るのをちょっと離れた場所で待っているところだ。

 広い場所の方が匂いがこもらないので、場所は移していないけどこちらを警戒して何匹かの獅子鷲がこちらを見張っていた。


 私も酔っ払いの対処方法なんて水を飲ませるくらいしか知らないので、それを伝えた後は酔った原因だと思われるブラック・アイボリーに厳重に封をして、シスルが風魔法を使って匂いが漏れないようにしている。

 あとはひたすら待機なんだけど、せっかく時間があるんで、本当に未だに召喚獣だと思っていたのかっていうのを改めて聞いてみた。


「お前は、手を抜いていたのではなかったのか」

「は?なにそれ。手を抜くって、できるのにだらけてるって王子は思ってたの?」


 王子は為政者としての教育で、王族は民に傅かれる代わりに民を生かさなければならないと教えられたそうで、平生はともかく有事にあっては、物理的な力とか権力等を総称しての「能力」を使わないでいるのは義務に反すると、己にも周りにも最善を尽くすように課してきた。

 そんな所へひょっこり現れた私がどう見えたかと言えば、

「戦闘力は確かにないかもしれないが、そなたがダダ漏れにしている魔力から類推するに、力を出し惜しみしているように感じたのだ」

 要するに、気配だけはすごく強そうだったから、本当にやれないのだとは思ってもみなかったらしい。

 契約した以上は存分に働いてもらわないと、召喚獣呼びしていたようだ。……あれは立場を自覚しろって意味だったのか。


 シスルはシスルで、獣じゃないって主張しているのは分かっていたけど、話を聞く限り高度な文明を築いている種族であるようだし、獣の姿を隠す習性がある生き物なのか思っていたのだそうだ。

 なぜ私の主張を信じなかったのかと言えば、何回か言われた通り、魔力の強い生き物は姿を変えられるってことと、私ほど魔力の強い人間はいない……というか、私の魔力は人という器の中に入っているのがおかしなくらい強いので、ごくごく普通に人間じゃなくて、何か高位の獣──私の世界でいうところの伝説の生き物に相当する何かだと思っていたんだって。例えるなら、ゲームの中で強力な魔法を使ってくれるお助けキャラ。まさに召喚獣みたいなの。それも序盤で手に入るようなのじゃなくて、後半に出てくる取得するのも大変な、神獣みたいなやつ。


「それ、私と接していれば、違うなって分かるでしょう」

 私はやらないんじゃなくて、できないんだよ。

「ええ……。あづさ殿の住む世界そのものが魔力のあふれている世界だと分かった辺りで、もしかしてと思ったのですが……」


 魔物ではない、魔力を持つ獣は魔獣と言うが、そのどれもが元々の姿に影響された性質というのがある。

 例えばここにいる獅子鷲は、獅子と鷲。どちらも獲物を狩って食らう猛獣と猛禽の組み合わせで、大人しい性質である訳がない。ある程度強気に出て共に並ぶ強さを示す、それとも何かを提供して物で吊る、下手に出て誘導する等、その姿から接し方を模索できるが、私は最初から獣姿ではなくて人と同じ姿だった。

 高位の魔獣だけが可能な姿を変える魔法を、大量の魔力をまき散らしながら苦も無く維持しているようにしか見えなかったのだ。そこいらの魔獣とは格が違うのだと、自然と示しているように。


「体を使わず、魔法も使わず、持ってきた道具で大量の魔物を駆逐する。戦闘は得意ではないが、知恵と工夫で道具を使う性質のある生き物というのは、私の記憶にも師の記憶の中にもありませんでした。歴史上数回現れている終極化の魔物に駆逐された生き物は山のようにありますし、そもそも違う世界から呼び出しているのだから、常識の通じない相手が出てくる可能性は十分にありました。実際、まったく常識が通用しませんでしたし……」

 なんだかひどく苦いものを飲み込んだように、シスルは言った。

 王子も神妙な顔をして、訊いてきた。


「本当に魔力を持っているだけの、ただの婦女子なんだな?」

「まだ言うか。……戦えないし、魔法はシスルに使ったのが初めてだったし、道具に関しては、私の世界の極々普通の人が買えるものを持ってきているだけだからね。私が特別なんじゃなくて、世界の差で効果が出てるだけだと思うよ。未だに魔力を感じられないから、魔力ダダ漏れって言われてもよく分からないし、制御もできないもの」

「そうか……」


 王子とシスルは、私に向かって頭を下げた。

「すまなかった。それは、怖い思いをさせたな」

「まさかただの人間だとは思わず、初めて呼び出したとき酷いことをしてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

「あー、言われてみれば」

 確かに最初のアレは今思い出してもかなり酷い。自分たちは安全な所にいて、高みの見物だったもんね。呼び出したものが暴れたりした時の備えだったと思えば納得はするけど、こっちが危なくなった時も何もしてくれなかったのを覚えている。夢だと思っていたからパニックにはならなかったから良かったようなものの、はっきり現実だと認識して対峙したら、慌て方が違ったと思う。

「今更かもしれませんが、やらせていたことを思うと肝が冷えます」

「それでも伏して頼む。協力をして貰えないだろうか?これ以上に注意を払って危険に巻き込まないようにするが、そなたの力を貸してほしい」

「特に現在、獅子鷲の長殿と対等に話せるのはあづさ殿だけですから、恥を忍んでお願いいたします」

 口々に謝罪をされればそれ以上怒ることもできない、日本人気質丸出しな私。でも、なんで私が対等?


「先ほど、長殿が先に名乗ったでしょう?あれは、あなたの方が格上だから敬意を払って下さったのですよ。因みに、私たちには明かしては下さいませんでした」

「え?そうなの?」

「あづさ殿を最初に召喚したのは王子でしたが、その時も王子が先に名乗ったはずです。名は魔法にも使用できる重要な因子ですから、先に名乗るというのは相手を信頼しているという意味でもあります」

 あー、そうだったかな?印象は全部蚊の大群に持って行かれているから、あんまり細かなところは覚えてない。


「……腹は立つけど、もういいよ。その代わり、私にできることはあくまでも協力であって、矢面には立てないからね」

 私もここまで仲良くなったから、自分の知らないところで国が滅んでいましたなんて事になったら寝覚めが悪い。でも、この国は私の住む世界じゃないから、悪いけど命は賭けられない。そんな覚悟はとてもできない。


「そんなことはしないし、させない」

「勿論です」


 日和見主義な私の言葉に力強く保証してくれた二人だけど、裏切ったら酷いからね?




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