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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第七章 対決
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4

 




 その日から私の第三会議室通いが始まったんだけど、広田が犯罪を犯した話と一緒に、私がその背任にかかわっているらしいという噂が一気に広まった。


 教えてくれたのは芳賀さんで、後から本人の耳に入るのは辛いだろうから先に話す、と前置きしてから教えてくれたのだ。

「こういう噂の類は最後に本人が知る事が多いけど、私が当事者だったら、ショックだけど心構えが違うから早めに知っておきたいって思うもの。即座に否定をしておいたし、こうして調査を任されているんだから会社側は水野さんを信用しているってこと。胸を張っていればいいのよ」


 芳賀さんはそう言ってくれたけど、食事やトイレ休憩で部屋を出た時、顔も見たことがない社員の人がひそひそとこちらを見て何か話をしているのが聞こえて、正直良い気持ちはしない。

 いっその事、面と向かって言ってくれればこちらも堂々と否定が出来ていいんだけど、私が通り過ぎた後に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで、


「よく会社に来てるね。共犯なんでしょ?」

「泳がせている段階なんじゃないの」

「馬鹿な男に引っかかったもんだな」


 なんて事を言われるので、本当に煩わしい。

 こそこそするとやっぱりやっていたのねと取られ兼ねないので、なるべく流すようにはしていた。ストレスは溜まるけど、時間が経って事件が完全に解明されれば噂も収束するだろう、という予測だけを頼りに仕事をしている。


 会社側が警察に訴えたので、現在広田は警察で取り調べ中。こちらはその証拠固め。罪を軽くしようと嘘をつくかもしれないから、とにかく徹底的な洗い出しをしているのだ。



 調べを進めるうちに広田の手口が段々分かってきた。


 まずは内部告発があった通り、下請けの工賃を引き上げて実際にかかった金額の差額を受け取っていた。

 広田の巧妙なところは、工賃の額が不自然なほど高くはなかったことだ。

 手に入る額が少なくとも、数をこなせば自然と金額は多くなる。そして、工賃を上げない分を仕入れる素材を落とすことで利益の幅を大きくしていた。

 コーヒーフィルター、カップに置く台になる厚紙の品質を勝手に落としていたのだ。個包装のフィルムはそのままというのがまた発覚しにくい理由でもあって、ロットが変わると品質管理部門にサンプル提出をするのだけど、わざわざ品質を落としていない物を渡す念の入り用で、そこから気づくのは無理な話だった。


 そして、これと似た様な事を他の会社でもやらせていて、分かっているだけで三社からリベートを受け取っており、三社の間でうちの製品を直接送った形を取った架空請求をしあっていたことも分かっている。


 毎月数十万のリベートを年単位で受け取っていたので、不当に受け取っていた金額は二千万ほどだが、これで全部だとはとても思えないというのが上層部の判断だった。


 高山課長は、現在同じように犯罪の片棒を担いだ他の会社に行っていて、会議室は芳賀さんと私の二人だけで仕事をしている。




「こっちにかかりきりになっちゃってましたけど、あの取引停止の嵐ってどうなったんでしょうか?」


 同僚とも顔を合わせていないし、というか噂の中心である私にうっかり仲良くしようものならば同類とみなされるからか、こそこそ言われる割には近寄ってくる人はいない。その代わり、芳賀さんの方に話を聞きたがって近寄ってくる人が多いらしい。隔離されてはいても芳賀さんは知っているだろうと思って聞いてみたら、彼女は肩をすくめた。


「半分くらいはそのまま戻ってきたみたいよ。ただ、残りの半分の内の半分、要するに元の四分の一がここぞとばかりに契約を見直すとかで値下げ交渉に入っていて、相見積取られたりしているみたい。残りは交渉難で……下手したらこのまま切られるかも。売上も利益もダウンで、大損害よ」

 大元のオーナーは事情を説明して、誠心誠意謝って許して貰えたそうだが、信用で成り立っていた関係がすぐに元に戻るわけではない。

「どんなに忙しくても、自分が伺いますからって言って許してもらったって言ってたわ」

「良かったですね。……でも、芳賀さん本当に詳しいですね」

 私と同じく隔離状態で、朝一から終電時間まで一緒に仕事をしているのに。それに伝聞調とはいえ、本人から直接聞いたみたいに聞こえる。


 そんな私の表情を見た芳賀さんが「水野さんなら大丈夫か」と笑った。


「私付き合っている人がいるって言ったでしょう?それが林さんなの。広田が新入社員だった時に指導教官をしてたのが林さんでね。その時から色々困らされていたらしくて、広田に対する愚痴を聞かせ合ったのが付き合うようになった切っ掛けだったんだけと、今回の件も他言無用でこっそり事情を聞いていたの。もうじき婚約するし……実は、もう一緒に暮らしているし」

「え、そうなんですか。おめでとうございます」

 死ぬほど忙しくても、とりあえず顔が見れる。それは心強いだろう。


「営業部の事情を知っていたのは、身内同然だったからってことで情報漏えいの罪は見逃してもらいたいわ。今回のことで、式の日取りを延期せざるを得なくなったのよ。後始末にものすごい時間がかかりそうだからって。だぶついた在庫を何とかしないといけないでしょ?本人殴ってやりたいくらいなんだけど、今更無理だし」

 ぱしん、と握り拳を手のひらに打ちつける芳賀さん。おお、グーで行きますか。どんだけ迷惑かけられたかを思えば、それぐらいしたいよね。



 食品業界における、三分の一ルールというのを知っているだろうか?


 例えば消費期限が三カ月の商品を製造して売る場合、製造してから小売店に売る納品期限は製造日から一カ月まで、小売店から消費者に売る販売期限も製造から二カ月目まで。どこも悪くなっていなくても、消費期限内であっても、その商品は処分されるという慣習だ。

 これは、消費者が新しい製品を好むというニーズに応えるためのルールだけど、消費者の口に入らないで賞味期限内の商品を処分する量が膨大なため、最近では見直しが検討されている。


 法律で決まられているわけではないけど無視はできないので、うちの会社でもルールに従って消費期限が三分の一を超えたものは一般の客に渡らないように販売ルートから外している。社員販売で売ったり、社内で消費する分に回したりして、それでも残る場合は廃棄処分行き。


 処分品が出るのは勿体ない上に処分するのにもお金がかかるから、営業部は販売計画を立ててそれに基づいて豆を輸入しているのだけど、降って湧いた今回の出来事でキロ単位じゃなくてトン単位の売り先が無くなったコーヒー豆が発生することになる。コーヒーの消費期限って三か月じゃないけど、そんなに沢山の量が捌けるほど長くはない。


 営業部の人たちは通常業務をこなしながら売り先を模索しているんだろうけど、得意先でも消費期限イコール納品期限ではないことを知っている人はいるだろうから、結構足元を見られてると推察する。

 新規プロジェクトにかかりきりになる筈の林さんも、周りのフォローがあまり望めない有様になっただろう。


「それを聞いたら咎められないでしょう。私は何も聞いてません」


 私はそうとしか言えなかった。





 分からないことがある。

 私が広田と共謀しているという噂の出所だ。


 部長に呼ばれたのは広田の犯罪が発覚した後なので、対外的には通常業務を外れて調査に回ってもらう事の指示を受けるためとなっている。

 じゃあ、誰が共謀説を流したのか?

 多分、私を陥れようとした人なんだろう。


 証言自体が怪しいとは言っていたけど、課長が私に悩みはないかなんて聞いてきたのは多分その証言のせいだよね。広田と付き合っているかもしれないって思っていた課長だもの。

 部下が共謀して犯罪に手を染めているかもしれないから、腹が立った?夜会いに行って指輪を広田から貰ったと勘違いしていた時は、そう確信したからあんなに怒った?

 だとしたら、ショックだ。


 今は忙しくて課長とゆっくり話す時間もない。三社に調査の範囲が広がったせいで課長はあちこち飛び回っていて、主に指示は電話で受けている。


 私を外に出さないのは、好奇の目に晒されないように気を使ってくれているのは分かる。


 じゃあ、事実無根のこの噂を放置しているのはどうして?という思いがどうしても浮かんでしまう。上の指示からかもしれないし、それこそ何か他にもやらかすかも知れなくて泳がせているのかもしれないけど。



 告白してきたのも、その調査の一環だったりしてという考えが一瞬頭をよぎり、その考えは私の頭の中に深く根を張っていくのだった。






色々と突っ込みどころはあるかもしれませんが、明らかにおかしい箇所以外は見逃していただけるとありがたいです。

罪が露見してからすぐ警察に拘留されるのか?とかは実際にはどうなんでしょうか?



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