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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第五章 助力
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4

すみません、今回ちょっと長いです。

 





「…………えーっと、高山課長って、広田さんのことを知っていたんですね」

「芳賀から広田のことを聞いたんだろう、余計な返答はしなくていい。何時(いつ)か、と聞いている」

 違う質問をして話をごまかす作戦、失敗。どうしよう。


 うろうろと視線を彷徨わせていると、またがしっと顔を挟まれた。首を視線が合う角度に固定される。首がががが!

 座っている私に立っている課長じゃ、元々無理があるんですって、折れる折れる!今、絶対首がぐきっていった!


「いいいい痛いです、課長」

「そうか。これ以上痛い目に遭わせたくない。……何時だ?」


 言わなきゃ首を折るってことだよね?死刑予告だよね?

 殺人のリスクは非常に高いので、オススメしませんよ。一生棒に振るんですよ。そんな価値ありませんって。


 はーなーしーてー。


「えーっとえーっと、今、私たち仕事していません。残業代泥棒なので、仕事をした方がいいと思います」

「そんなことは心配するな。後から一時間でも二時間でも、話し合いにかかった時間だけ引いておく。それに広田のことに限っては、業務の範囲だ」

「……どういう意味ですか」


 職場の環境……人間関係なんかは仕事の効率に関わってくるので、セクハラなんかのトラブル解消は業務の範囲内かもしれないけど、今言ったことはそれじゃないような気がした。

 何か、もっと別の意味がある、そんなニュアンス。


 話しすぎた、と思ったのか、課長がちっと舌打ちした。

「今はお前の話の方が先だ。これで言わなかったら俺は何をするか分からないぞ」

「おお怒らないですか」

「俺が怒っていないようにでも見えるのか。そうか、実力行使をしてほしいんだな?」

 いやいやいや、そんなこと一言も言っていません。


 首を横に振りたいけど固定されていてできないので、半泣きで顔を見上げるとなぜか課長が「うっ」と言った気がする。怒りの気配も一緒に弱まったようなので、ここぞとばかりに一気にたたみかけた。


「タイミングが悪かっただけなんです。芳賀さんが広田さんの同期だっていうのは知っていたので、課長の前に相談してみようと思っている矢先に課長からお話しがあって、その時はそんなに切羽詰まっていなかったので、誤魔化してしまいました。直後に倉庫での一件があって、慌てて芳賀さんに相談しました。課長に相談した方がいいと助言を貰いましたけど、私が黙っていてほしいとお願いしたので、恋人の課長にも黙っていてくれたんだと……」

「ちょっと待て!」


「思います」と言う前に静止がかかったので目を合わせると、なんだか慌てた様に課長は言った。


「誰と、誰が、恋人だって?」

「え?課長と、芳賀さん?」

 首を傾げようとして顔を挟まれたままなのでできなかったけど、返事を聞いた課長ががっくりと机に両手を付いた。

 ようやく自由になった。今のうちにちょっと距離を開けておこう。


 脱力している課長に気付かれないように、静かに立ち上がって二、三歩後ろに下がる。首が限界です。


「俺は別に芳賀と付き合っていない。確かに以前、告白はされたが断った」

「え、そうなんですか?なんてもったいない」


 起き上がって頭痛でも堪えるように頭に手をやる課長。顔色も悪いような気がするのは、気のせいかな。でも、とりあえずお怒りはどこかへ行った模様。よかったよかった。

 私の首──仕事っていう意味じゃなく、本物の方──は、無事守られたようだ。


 それにしても、芳賀さんが付き合っている人って、課長だろうと思ったんだけど違うのか。


「……とにかく、芳賀のことはいい。誤解もしていない。今付き合っているやつも知っているから……それはもういいから、俺はフリーだ」

「はあ」

 なんか脈絡なくなってきてる主張にとりあえず相槌を打つと、また課長の目が吊り上がった。


「その気の抜けた返事は何だ」

「すみません」

 さっきまでとは違う、いつもの課長の怒り方だ。通常モードにシフトしたみたいなので、特に怖くはないが反射的に謝った。


「広田のことも、さっさと相談してくれればこんなことにはならなかったんだぞ」


「こんなこと」ってどんなことよ?と思いながらも、更に「申し訳ありません」と重ねる。必殺とりあえず謝って怒りを抑えてもらおう作戦。


「……で、広田さんが業務の範囲内という意味は、教えていただけないんですか?」

 高山課長は少し考えるような仕種をした。


「お前が俺に打ち明けていれば話しが早かったんだが、隠していたせいで面倒が増えた。……いや、後の事を考えるとこの方が良かったのか」

 後半は自分に向けて呟くようだったけど、こっちはさっぱり理解出来ない。


「意味が分かりません」

「……先ずは正確に、芳賀に相談した日が何日だったか教えろ」

 仕事モードの問いかけだったので、私も教えてくれない事をごねずにちゃんと返答した。

「昨日の昼休みです」

「明日にでも芳賀に確認するが、間違いないな?」


「確認しないといけないような事なんですか?」

 昨日の今日で間違い様がないのに、念押しされて首を傾げた。

「上に報告する」


「やっぱり報告するんじゃないですか」

「違う。コンプライアンス課じゃなくて、とりあえず部長にだ」

「はあ?」


 なんでわざわざ他部署の人間が経理課の人間にセクハラしてる事を報告するの?

 いや、関係あるって言えば関係あるけど、まだ「疑い」で決定じゃない案件で、なぜ部長が出てくるんだろう?


 訳わからん、という表情をしていた私に、課長は命令を下した。


「今はとにかく広田になるべく関わるな。昼間は一人でオフィスから出歩かないで、なるべく大勢と行動しろ。その指輪は……仕方ない、虫除けになるなら嵌めるのを許可する」


  何様のつもりだろうと思っていたら、

「誰かと付き合っているのかと聞かれたら、俺の名前を出せ。そうすれば大人しく引き下がるだろう」

  と言われたので、ああ、贈り主として名前を使っていいって事かと納得した。


  だけど、そこまでする必要はないでしょう。他の誰かがいるかもしれないところでそんな事言ったら、絶対噂になる。迷惑だよね、お互いに。

 

 そう言う前に、左手を課長に取られた。

「仕事が落ち着いたら指輪を買ってやるから、それに替えればいい」

「なんで──」


 そんなもん課長に買ってもらわないといけないの。いらんわ、と言おうとした。……取られた左手の甲をぺろんと舐められるまでは。


「ひぃやっ!」


「色気のない声」

 笑いを含んだ色気ダダ漏れの声でそんなことを言われ、左手を取り返そうとしたんだけど逆に体を引き寄せられて、更には顔を今度は片手でつかんで仰のかされて、視線を交わす羽目になった。


 見たこともないとろけるような優しい眼差しをしていて、背中がかゆくなりそうです。おまけに顔!近い!


「受け取ってくれるだろう?」


「い、要りません。だって、もうあるし!お金もったいないし!」


「お金の問題じゃない、俺が嫌なんだ。……お前、分かっていてはぐらかしているだろう。好きな女に、別の男が買った指輪が嵌まっていると思った時の心境は、どうだったと思う?それがろくでなしの広田だと来たもんだ。腹が煮えくり返るとはこの事かと、分かりたくもないことを理解したんだぞ」


 他の男云々(うんぬん)の辺りであれ?とは思ったけど、課長そんな素振りなかったし、芳賀さんと私で私を選ぶのっておかしくない?

 好みの問題って言えばそうかもしれないけど、十人中八人くらいは向こうを選ぶと思う状況で、この人私に気があるのかもなんてうぬぼれるほど心臓強くないし、そもそも好きも嫌いもない相手だったので(範疇外ともいう)一ミリも考えたことなかったんだよ。

 大体普通にもてるから、選り取り見取りでしょう、課長は。そこでなんで私?


 範疇外のあたりをごまかして伝えると、距離を開けたかったのに放して貰えずに、甘々な空気のまま言われた。


「俺は元々お前の口の減らないところが気に入ってたんだよ。つついて反応しない相手だとつまらないだろう」

 それ、玩具として傍に置くには楽しいって言ってるのと同じだよね。


「それに、アプローチはしていたぞ。ただの部下に高い鰻食わせる約束すると思うか?」

 太っ腹かつ高給取りだと思われる課長なら、あるんじゃないかと思っていました。


「他の男に贈られた指輪じゃなければ、周りに当たる必要もないわけだしな」


 ぐるぐると問いが空回りしている時に、そんなことを言われて体が反応してしまった。自分で買ってない、貰った指輪だったから。


 今もって何の関係もない赤の他人なんだから、本当に何の謂れのない事なのに、課長の気配がまた物騒なものになって来る。

 なんでそんなに勘がいいんだろう。



「そう言えば、さっきの質問に答えていなかったよな。恋人はいるのか?」

 嘘を付いたらどうなるか分っているんだろうな。


 副音声つきで聞こえるのは、気のせいと思いたい。


「い……いません」

「その指輪は、お前が買ったものか?」

「えーっと、えーっと、知り合いに貰いました」

「男か、女か」

「ち、知人です。普通の関係です。困っていた所にそんな話をしたら、快く譲ってくれたんです」

「男か、女かと聞いている」



 なんでこう、燃料投下な事ばかり聞いてくるんだろう?




 デジャヴュな状況に、冷たい汗が背中を流れるのを感じていた。






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