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二話同時更新しています。最新話から来た方は、プロローグからどうぞ。(ものすごく短いですが)
「──では、被害状況を報告させていただきます」
ラヴァーン国謁見の間にて、第二騎士団団長のグレンがエストラーダ国王、アルカ王太子、第二王子ライドの前で一礼した。
魔物が辺境の地より溢れて、街まで襲って来るようになったのが数年前。
共食いをしながら成長進化する魔物が、住処に生きる同族を全て喰い尽くし、餌を求めて彷徨い出る「終極化」という現象が数百年に一度起きることが分かっているが、今回の魔物の襲撃はその先触れではないかと思われていた。
通常、魔物はよほどエサがなくならない限り住処から出ないが、終極化の魔物はその巨体を維持するために次々と同族を喰らう。そのままそこに住み続ければ待っているのは死だけに、集団で逃げ出した魔物が押し出されて波状に押し寄せるのである。
初めは弱い物が、次第に強い物が。
弱くとも数が多ければ、脅威となる。
今回は住処を放棄したと思しき恐ろしい数の魔物が押し寄せ……結果、西のはずれにあった村が一つ、魔物の群れに食われ滅びた。
「此度の魔物は、個体そのものはさほど攻撃力も高くなく弱い部類に入りますが、空を飛び、機動性が高いためになかなか動きが捕らえられません。当たれば女子供でも農機具を使って叩き落とせますが、数が多く取り囲まれると身動きが取れずに食われます」
村のわずかな生き残りが王都寄りの町まで避難してきたが、その群れがもうじきその町──アルージャに到達しようとしている。アルージャは有数の穀倉地帯でもある。
もうじき刈り入れの時期で、魔物の襲来をここで抑えなければ、国民は遠からず飢えて死ぬことになるのだ。
「現在、副長に団を任せてアルージャに向かわせておりますが、住民の避難が間に合いません。至急増援の派遣をお願いいたします」
「お待ちください」
国王が口を開く前に、筆頭魔導師アルド・ラトヴァが一歩前に出た。
「先日王立図書館の奥深くより魔法書が発見され、いくつかの強力な古代魔法の復元に成功したことはご報告した通りでございます。もう少しはっきりしたことが解ってからご報告させていただくつもりでした故、内密に研究して参りましたが、現在、あの魔法書が書かれた時代に襲って来た、終極化の主を最終的に滅ぼしたと思われる魔法の解析をしております」
「なんと」
「解析状況はいかほどだ?」
椅子を蹴立てて立ち上がった王太子と第二王子に、アルド・ラトヴァは二人に向かって一礼してから言った。
「完全とは申せません。ですが、試験をするにも何分大がかりな魔法です。規模がどの程度のものかも予測が付きにくいために、研究塔では実施ができません。この魔法は召喚魔法の類のようですので。ですが、ぜひ一度使用してみてその効果などを検証致したく」
「……あい分かった。第一騎士団のほか、魔導師団一個隊を派遣するが、まずはその召喚魔法の威力を確認し、不備や討ち漏らしが出るようだったら、速やかに魔物を排除するように」
「では、我が弟子シスルを派遣いたします。私は何かあった時の為にこちらに残り、術の解析を続けますので。その際、王にもご覧いただけるように遠見魔法を使用いたします」
シスルが転移魔法で先行して召喚魔法を行い、時間を稼ぐ。魔導師団一個隊は一緒に行ってその補助に当たり、第一騎士団が到着するまでの時間を稼ぐという作戦を告げると、王は重々しく頷いた。
危急の時である。考えている時間はあまりなかった。
「民の避難が第一であることを忘れぬように」
「肝に銘じます」
グレンが退出するために一礼したところで、ライドが王に向き直った。
「陛下。第二王子としてではなく、近衛騎士団団長として申し上げます。どうか私をアルージャへ派遣していただけないでしょうか。もとよりこの身は国を守る剣であり、盾であります。王族としてその義務を果たしたく思っております」
ライドは国王が退位して王太子が即位した後、公爵として国を支えることになっているが、騎士団長としての地位は実力で勝ち取ったものであった。
誰が見ても国一番の騎士と言えば、ライドであると言うだろう。近衛騎士団長としては王族を守るのが第一ではあったが、存亡の危機に身動きが取れないのはどうにも性分が合わなかった。
「……あくまでそなたは補助をするのを念頭に、決して兵を率いて討伐したりせぬと約束するならば許そう」
今後のこともあるしな、と苦い顔をする国王に、
「ありがたき幸せ」
ライドは一礼すると、戦装束を整えるために謁見の間を出たのだった。