表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第五章 助力
19/50

2

 





「指輪、ですか」


 一見して何も装飾品をつけていないあづさが欲しがるようなものには思えなかったが、それでも欲しいと口にしたものを断るいわれはない。


 王子の言いつけで、すぐにいくつかの品を取り揃えて見せてみたが、あづさはすぐに首を横に振った。

 黄金の台座に深紅の紅玉(ルビー)をはめ込んだもの、白金(プラチナ)青玉(サファイア)をあしらったもの、その他にも翠玉(エメラルド)金緑石(アレキサンドライト)等、全て親指の爪よりも大きく、どこに付けて行ったとしても通用するものなのだが、気に入らないようだ。


「台は何でも良いんだけど、宝石(いし)が大きすぎるの。もう少し、質素な感じのはないの?」

 それを聞いた王子が、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 

「お前、ここをどこだと思っている。王宮だぞ?ここにある物はすべて、一流の素材で一流の細工師が作ったものに決まっているだろう」


 言い方はいただけないが、内容はその通りなのでシスルも頷いた。

「その言い方ですと、嵌まっている石の大きさが小さい物なら構わないのですか?」


 聞けば、指輪は装飾の意味もあるが、決まった相手がいる標にもなっており、結婚の約束を意味するものでもあるために、あまり大きな宝石を使った指輪をしていると、婚約したのだと誤解される可能性があるというのだ。

 前回の懸想してきている相手が予想外にしつこいので、虫よけにするから結婚すると思われるのは困る、という主張になるほどと思ったシスルは、今度は白金にごく小さな乳白色の魔石が嵌まった指輪を見せた。石の脇には木の葉を模した、緑の脇石が二つ付いている。


 攻撃を跳ね返す、防御と回復の魔法が込められた魔道具である。


 先ほど見せたのはただの宝石だったので、石そのものの大きさは小さくとも、価値としては倍以上に跳ね上がる。効果は魔石に魔力が残っている間に限られるが、それでも数回は持つはずだ。


「ムーンストーンみたいに見える。デザインもかわいいし……確か、ムーンストーンはそんなに高い宝石じゃなかったはずだから……。それ貰ってもいい?あ、でもちょっとサイズが大きいかな」

「大丈夫ですよ。嵌めた指の大きさに丁度いいように、自動で変化する魔法がかかっています」

「へー、すごいね、さすが異世界」


 心底感心したような声を上げるあづさは、自分ことをすっかり棚に上げている。あなたの持ってくる物の方がよほど常識外なのですがね、と口に出す前に王子が笑った。


「お前、自分の価値をちゃんと自覚しろ」

「……意味分かんない」

「こちらからすれば、お前の方が埒外(らちがい)生物(せいぶつ)なのだぞ」

「生物言うな」

 ぽんぽんと言い合いを始める二人の間に入って宥めると、指輪を嵌めてみる様に促した。もうあまり時間がない。


 若干大きい指輪を左手の薬指に嵌めると無事にちょうどいい大きさになった様で、手をかざしている仕草を見る限り、本人も気に入ったようだった。

「おお、本当にぴったりになった。……これ貰っていいの?」


「もちろんです。……では、助力の件、よろしくお願いしますね」

 にっこり笑ってそう言うと、ちょうど時間切れになった。

 愕然とした表情をしたあづさの姿が、光を放ちながら空気に溶けて消える。


 少々騙したような形になったかもしれないが、それなりのものを持たせたのだから、多少は大目に見てくれるだろう。




 あづさが元の世界に還ってすぐに、王が王子を呼んでいるとアルド・ラトヴァが伝言を持って帰ってきた。伝令の真似ごとなど魔導師長のすることではなかったが、ついでだと笑っていた。


「支援の件で意見を聞きたいと、陛下がおっしゃられていました」

 今見捨てる様な真似をしたら、王家に対する不信感は直ぐに膨れ上がるだろう。支援することに異論は出なかったが、善後策を詰めるのに少々手間取っているようだった。


「王子の出立の準備も進めねばなりませんので、騎士団をいくつかの分隊に分ける算段をお持ちのようです。その辺りの調整もしたいと仰せでした」

「分かった」


 その足で謁見をしに行く王子を尻目に、シスルはあづさが先ほどまでいたこと、持って来た芋と、その栽培方法も一緒に伝えた。




『一、触って少し熱いと感じるくらいの湯に、四半刻を超す時間、漬けておく。これにより、病気になりにくい丈夫な苗ができる。


 二、その後、暖かいと感じる程度の気温を保つような環境をつくり、更に日の光が当たらないようにして置いておくと、芋から芽が出てくる。


 三、芽の長さが、肘から先ほどになったらその芽だけを摘んで植える。


 日の光を好む品種なので、一日中日が当たり、気温の暖かい砂地のような水はけの良い土地に適している。やせた土地でも育つので、肥料はそんなにやらなくても良い。植えた直後はたっぷりと水をやるが、その後は水をやりすぎると腐るので、やりすぎは厳禁。』

 



 書き留めたその内容を読み、更に芋切干を食してもらった後、試しに一つだけ植えてみて様子を見ることになった。

 あまり環境になじまないようだったら、芋そのものを食べられるように加工した方がいいと判断したのだ。


 シスルの気のせいでなく食べると魔力が体に満ち、体力、気力と共に充実した体感がある。これだけの効果があるのなら、戦場に持って行った方が役に立つ。


「それに、植生が分からぬ物をやたらに植えて、在来種へどんな影響があるかも分からぬ。扱いは慎重にした方が良かろう」


 王宮の敷地内には貴重な薬草や珍しい木の実の他、ある程度の野菜は自給自足で賄えるように栽培されている。厳重に管理されているそこに、見たこともない植物をぽんと植えるのはとても危険だった。


 ……後に、その認識すらまだ甘かったことを痛感するのだが、とにかく書いてある通りに手を入れて熱く感じる程度の湯に漬けた。



 あづさの持って来る品は普通ではないと分かっていたのだが、何も考えないで蓋を開けたシスルが悪かったのか、ただ運が悪かったのか。


 温度が下がらないように入れ物には蓋をして、所定の時間が経ってから蓋を開けたシスルは、開けた瞬間に爆発的に伸びて来た蔓にあっという間に絡め取られ、がんじがらめになっている所を衛兵に剣で蔓を切り払ってもらうという、とてつもなく情けない目に遭ったのだった。





 魔石を使って魔法を増幅させるという手段は以前から取られていたが、魔力そのものを回復させる手段はなかった。

 そこへ持ってきて、食べれば魔力が漲る芋の出現は、救援物資を送る際に大いに役立ったのだった。

 魔力が回復し、甘く、美味い。純粋に魔力が足りなくて大して物資を持てなくても、回数で補えば低位の魔導師でも十分戦力となる。


 そうやって救援物資を送る算段を付け、王子とシスルがユーザ山脈へ出立する準備の傍ら、アルド・ラトヴァの手によって赤い芋は詳細に調べられた。あれほど能動的に動く植物はこちらには存在しないが、あれほど有用性の高い植物もないからだ。


 シスルには反応し、衛兵たちには無反応だった蔓の指向性は、魔力にあるのではと当たりをつけたアルド・ラトヴァは、植木鉢をいくつか用意して、衛兵たちに芋の世話をさせた。

 シスルが魔法で抵抗を試みたが、呪文を唱える、もしくは精神集中をした段階で魔力が漏れ出すのか、息ができなくなるほど体に巻きつかれ、冗談ではなく死にそうになったと報告を受けていたためでもあり、植えた状態でもアルド・ラトヴァを始め、魔法が使える者が近寄るとそちらを目指して蔓が延び、とても近寄れないからでもあった。




 結果、休眠状態にある種芋は魔力がある者が扱っても無反応だが、湯に漬けると活性化する事、周囲に何もなければ自らの中に蓄積された魔力を使って芽を出すが、近くに魔力を持つものがいるとそちらを目指して爆発的勢いで成長する事が分かった。

 逆を言えば、魔力を与えれば短期間で成長して収穫出来るのだ。短期間で成長させたせいか、味は種芋よりも少々劣るが、それでも十分だった。


 十分に距離を取ってから明かりをつける魔法など、長時間発動の無害な魔法を使用したら、半日で面白いくらいに沢山の芋が生った。

 これで一気に食料不足が解消できる。


 芋を植えて対魔物用の罠にする案も一度は詮議されたが、大地に含まれる魔力を吸って成長し、痩せた土地にしてしまうのではないかというおそれと、魔物よりも人への事故が懸念されて取りやめになった。





 後の調査で、日の光を好むというのは光に含まれる魔力を主として吸収して成長する為、土地への影響はほとんどないという事が分かったが、その扱いの難しさから王家直轄で栽培され、庶民の口にはなかなか入らない魔法薬扱いとして知られるようになるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ