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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第五章 助力
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 魔物の襲撃を知らせてきた伝令から詳しい事情を聞いて、シスルが部屋に戻ると、ライド王子とあづさがちょうど言い合いをしている所だった。



「いやいやいや、覚悟ってなに。私はせいぜい後方支援しかできないってシスルには言ってあるし、それは承知してるって言ってたよ……て、シスル!この分からず屋に言ってやってよ。私が戦闘能力皆無って分かってるでしょう。たまたま持って来た道具が、状況に嵌まって上手く運んだだけで、どういうシステムでこっちに呼び出されているのかも分からないんだから。出来ないことをやれって言われても、無理なものは無理!」


 出立が早まったということを王子から聞いたのだろう。あづさが抗議して来るが、それは王子とアルド・ラトヴァとシスルの間で話し合いが済んでいたことだ。あづさには、もう少し状況がはっきりしてから説明をして助力を得るつもりであったのに、これではまたこちらの心象が悪くなってしまう。

 今後の為に、一人で呼び出して制御が出来るか確認したいとは言っていたが、何もこの時にしなくても良かろうに。


 とりあえず、戦闘力そのものには期待をしていない事をもう一度伝え、後でちゃんと説明することを約束してから、先に避難してきた民たちの様子や、襲撃してきた魔物の様子などを二人に伝えた。


 村を滅ぼした魔物は魔狼という狼が魔物化したもので、以前あづさに退治を手伝ってもらった蟲型の魔物に比べれば移動速度は遅いが、強力だ。それに移動速度が遅いというのも、あくまで空を飛ぶ魔物に比べればという注釈がつく。人が走る速度よりもずっと早いし、馬と同等の体力もある。


 予想外に功を奏したのは、以前、あづさの魔道具で死んだ魔物をあちこちにばらまいておいた件だ。

 死骸を食べた魔物がいくつか混じっていたらしく、予想よりも数が少なく、かつ足取りが遅かったらしい。毒が廻って死んだ個体の体を、また食べたものでもいたのかもしれない、と実際に対峙した者の報告が上がっていた。


「へー、良かったね」

 当のあづさはそんな気楽な返答を返していたが、それがどれだけ稀有な事なのか、分かっているだろうか。


 魔物退治をしてから既に一カ月以上経っているのだ。魔物とはいえ、魔力が抜ければ(いず)れ腐り落ちる。だが、あの毒の煙に巻かれて死んだ魔物は腐らなかった。魔物を食べて死んだ魔物も腐らなかった。

 理由は分からないが、魔力が残るその体がいつまでも残っていたので、多くの魔物が毒の塊だと思わずに食らい、死んだのだ。


 おかげで避難する時間を稼ぐことが出来たが、騎士団が支援に回っていたとはいえ、後ろから魔物に追い立てられるようにして来た為に、年寄りや子供に具合の悪くなるものが続出したらしい。


「とりあえず、王都寄りのフェンタールに避難させましたが、問題はフェンタールも避難準備を進めていたために、受け入れ態勢が取れておりません。差し迫った問題が食料ですね。現状三日、切りつめても五日ほどで底を付きます。早急に援助をすべきとの奏上を、師が内密に陛下に差し上げているところですが、転移魔法を使える魔導師は騎士団員を各方面に派遣する為に飛び回っていますので、手が足りません」


 村がまた一つ滅んだなどということが市井の者たちに漏れたら、恐慌状態になる。

 備蓄食料を放出する予定は元々あったが、それを運ぶ足がない。下位の魔導師ではさほど大きな荷物を持って転移出来ないし、地道に運べば時間的に間に合わない。


 また、先のことを考えれば頭の痛いこともあった。

 王都に避難民を受け入れてしまうと、おそらくそう長い時を置かずして食料の備蓄がなくなる。避難時にもちろんなるべく食料を持って来させるだろうが、それでも収穫をしていない作物を放り出して避難させることを考えると、急いで近郊の荒れ地を開墾させ、成長の早い作物を選んで作らせることを考えた方が良いかもしれない。


 そんなことを伝えたら、「あ、じゃあ、焼け石に水かもしれないけど、これあげるよ」

 とあづさが足元に置いてあった四角い箱を指差した。

 べりべりと音を立てて蓋を開けると、中身は赤い皮の芋で、皮の色のもさることながら、形も見たことのない品種だった。


「こっちにも同じ品種の芋があるかもしれないけど、これは品種改良しているから、すごくおいしいの。成長が早くて簡単に栽培ができるんだよ。このままでも食べられるけど、長期的に見れば栽培して増やせばいいでしょ」


 私の祖母が作った()だし、小さな頃植えるのを手伝ったこともあるから、これは調べなくても増やし方は分かるよ、とにこにこ笑うあづさに、

「では、後程教えて下さい」

 と依頼した。


 あづさの持ってくるものは大概効果が異常すぎて、一般の者に任せられない。師も何かがあれば忙しくとも必ず立ち会うと言っていたので、おそらく最初は二人で芋を植えてみることになるだろう。


 それを裏付けるように、箱の隅に芋切干──切った芋を蒸して干したもの──が入っていたのでその場で少しいただいたが、とても甘くて美味だった。これほど甘い芋は、食べたことがない。腹も膨れるが……なぜか体に魔力が満ちたような気がする。


 これは、ますます他人に任せられなくなりましたね……。

 そう思いながら、とりあえず食糧問題は横に置いた。


 どちらにしろ、自分たちは終極化の魔物に挑むために、王都を離れるのだ。



「あづさ殿に言われた通りに各種探索魔法を使用し、更に索敵の技能に優れた物見ものみを放った結果、いくつかの事が判明しました」


  ここから馬で二月ふたつき半ほどの距離に、終極化の魔物の姿を認めた事。

  魔物の姿は四つ脚の獣だが、毛が生えておらず、硬い鎧のような灰色の皮膚に覆われており、いくつかの小さな魔物を蹴散らしては食らう姿を見たが、歯牙にも掛けない様子だった事。

  残っている記録をさらってみても、類を見ないほどの巨体だった事。


 多少の攻撃では通用しない為、遠距離からの攻撃が好ましいが最大の問題は、足だ。


「途中の村までは転移魔法で何とかなるのですが、近寄るまでには徒歩(かち)では心もとなく、更に終極化の魔物に挑むには無謀すぎます。かといって、馬は元来臆病な生き物ですから、そのような巨体の魔物に向かって走れと命令しても怖気づいてしまうでしょう。ですので、先に『足』を手に入れに参る所存なのです。その出立が十日以内、なるべく早く支度が出来次第となります。方角は南、ユーザ山脈の中腹を目指します」


 『足』とはその山脈を住処とする獅子鷲のことを指す。魔物ではなく魔獣に属する彼らは高度な知識を持ち、空を飛ぶために、終極化の魔物からの直接被害を受けない唯一の種と言われている。

 もちろん、人の他、彼らが餌としている動物も絶滅寸前となるので、終極化の魔物が死んだその後は個体数を減らす傾向にあるから、交渉の余地はあるとこちらは考えていた。


「道中の難所と彼らとの交渉時に、あづさ殿を呼ぶかもしれませんが、その際はよろしくお願いいたします」


 行ったこともない場所、見たこともない種族との交渉なぞ無理!とか何とか言っていたが、笑顔で押しとどめた。王子があづさを呼んだのは予定外だったが、逆に良かったかもしれない。予告は出来たし、王子の魔力だとおそらくもう少しで時間切れになる。


「それは後回しにして、とりあえず先に栽培方法を伺ってもよろしいでしょうか」


 そう言えば、根が素直なあづさは「ああ、そうだっだよね」と、栽培方法を丁寧に教えてくれた。

 それでもまだ時間が余る様だったので、

「譲っていただいた品に対する返礼は、何がいいですか?」

 と聞いてみた。


 最初に金貨を百枚渡した以外は、以前に飲んだお茶が気に入ったようで、色とりどりの紙の束とぼーるぺんの返礼にはその茶葉が欲しいと言って持って帰っていたが、とても釣り合う品ではない上に、スライムを退治した毒や、煙を吐く魔道具の製法の他、植物から作る紙の製法の返礼は、欲しいものを考えると言われていたのでしていない。

 この芋がごく普通のものであったとしても……おそらくは違うだろうが、今後の関係を円滑に進めるために、それなりの品を用意するつもりであった。


 あづさはしばらく考えていたが、思い出したように手を打った。



「あ、そうだ。指輪が欲しい」




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