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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第四章 転機
16/50

3

 





「芳賀さん、ひとつ突っ込んでもいいですか?」

 話を聞きながら気になったことがあったので、つい好奇心に駆られて問いを口にした。


「広田さんの名前を出した時のイイ笑顔の理由が、それだけだと弱いような気がするんですが……」


 他に何かあったんじゃないですか? って続けようとした私は、首だけをこちらに向けてきた芳賀さんに声が出せなかった。……芳賀さんの目つきが、完全に据わっていたから。


「……聞きたい?」


「えーっと、できれば……」

 お手柔らかにはしていただきたいですが……止めておけばよかったかな?


「最初の手当たり次第に声をかけてきた時に、私だけちょっとしつこくされたんで、散々苦労してようやく視界に入らなくなったのに、あの時の一件であいつ、私に何て言ったと思う?」

「ものすごく腹立たしいことを言ったのは分かります」

 芳賀さんの背後に炎が見える。


「『今更復縁しようと思ったって、遅いから』だって。お前とは一回もつきあっとらんわー! おまけに、『今まで邪険にしていたのはツンデレか?』なんて言われて、血管ブチ切れるかと思ったわよ。デレがどこにあったのよ!嫌い嫌いは大嫌いに決まってるでしょ!」


 私はどうも、決して触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。

「大丈夫です。万が一そんな噂が流れた人がいたとしても、誰も信じませんから」

 では慰めにはならないか。私だってそんなこと言われたら暴れたくなるだろうし、そもそもの理由が、かけらもそんなこと思っていない人から、上から目線でお呼びじゃない的な事を言われたのが、暴れたいくらいに腹立たしかったからだもんね。


「嫌い嫌いは大嫌い」は全くその通りなので、「大変だったんですね……」と大変同情的な目をして言ってあげたんだけど、芳賀さんのテンションは、それぐらいでは下がらなかった。

 考えてみれば、助言した山野さんに仲を疑われた事自体がやるせないよね。

 当時は一応人様の彼氏だから、あまり悪し様に言えなかっただろうけど、嫌いな相手を好きだって疑われただけでも大分ダメージがある。事情が事情だけに、周りに愚痴も言えなかったんだろう。広田本人を知っているか否か、同性か否かで共感の仕方も慰め方法も違うし、芳賀さん、当時は吐きだすことが出来なかったんで、今ここでストレス解消しているんだろうなー。


「大体、私は他に好きな人がいるし、お前なんぞ眼中に入った事なんてなかったって言うのに『やっぱり付き合うのは年下に限るよ。同い年以上の女なんて、年増だもんな』ですってぇぇ!こっちから願い下げ! 当時はいなかったけど、付き合っている人もいるし!」


 あ、やっぱりそうなんだ。


 芳賀さん、美人さんで仕事も出来るので、前から会社のいろんな人から声をかけられてた。

 皆で飲みに行かない?パターンだったら予定が空いていれば参加してるけど、二人っきりのお誘いは全部お断りしてるみたいだった。

 それでちょくちょく芳賀さんには好きな人がいる、もしくは隠れて付き合っている人がいるって噂があって、その相手が高山課長だって話だった。 真偽の程は分からなかったけど、お付き合いしているのね。まあ、相手は高山課長じゃないかもしれないけど、あれだけ噂があったんだもの、可能性は高いだろう。



 そんなことを考えていたら、ようやく我に返ったらしい芳賀さんが恥ずかしそうな顔をしていたので、何か言われる前に笑って見せた。

「大丈夫です。これもお口チャックです。話しませんから。私も、もう少しはっきりするまで、上に報告するのを待ってほしいですし」


 相談に乗ってもらっておいて秘密を漏らすって、どんだけ性格が悪いんでしょうって感じだもんね。


「うーん。課長には上に伝えないでほしいって言えば通じそうな気もするけどね。水野さんがそれでよければ、当人の問題だから黙っているけど……それと、ありがとう、吐き出してちょっとすっきりした」

「いえいえ、こちらも貴重な情報をいただきまして、ありがとうございました」


「気に入ったら口説かずにはいられない単なる馬鹿者の可能性大だけど、事情を知る私と松田さんと山野さんがいるのに、わざわざ食指を伸ばしてくるのも何かおかしい気もするから、気をつけて。何かあったら協力するから」

 というありがたい言葉を貰ったので「愚痴くらいだったら、いくらでも聞きますからね」と返しておいた。


「彼氏のノロケだったら勘弁してほしいですけど」

 独り身なので。


「彼氏……がいたら先にそっちに相談してるか。水野さんは気になっている人はいないの?男手があるのとないのだと、心構えが違うよ」

 えーっと、芳賀さん。今更突っ込みはしませんけど、家に襲撃でもされたのかしら?「男手」って、守ってくれる人って意味で言ってるよね。


「今のところはないです」

 学生時代に付き合ってた人はいたけど、社会人になったら自然消滅した。こちらも未練も余裕もなかったんで丁度良かったけど、忙しくて定期的に連絡が取れなくなるのを、当たり前と思ってくれる人じゃないと続かない。

 妄想野郎は何を考えるが分からないから、こちらの予想の斜め上を行くかもしれない。「何か」がない事を祈るけど、自衛はしておいた方がいいってことだよね。


 痴漢に遭った時は安全ピンで撃退ってよく言うけど、撃退グッズを用意した方がいいかなあ?

 幸いにして、臨時収入(金貨売却代)で懐は暖かい。防犯ブザーの機能はスマホに付いているので、簡単に操作できるように確認しておこう。後は、安いのでいいから指輪を買って左手薬指にはめる。周囲は煩くなるかもしれないけど、これは仕方がない。今住んでいる所は一人暮らしだから、最初から安全第一で家賃が多少高くても、オートロックの部屋にしてある。後は……。


「私は、打ち身なんかに効く消炎スプレーを持ち歩いていたわ。痴漢撃退スプレーの代わりにね」

「ああ、それはいいかもしれないですね」

 あれが目の中に入ったら、涙が止まらなくなるよね。塗り薬の方だったら、仕事中の目覚ましに目の周りに塗るっていう人がいて、使わせてもらったことがある。目の周りって言っても、離して塗れば涙が止まらなくなるようなことはなかったから、眠気覚ましとしては中々効果的だったし。


 もうじきお昼休みが終わるので、そんなことを二人で話しながらオフィスに帰ると、入り口で社員食堂にでも行って来たと思しき高山課長と鉢合わせした。



「珍しい組み合わせだな」

 芳賀さんと私を見ながら、課長が首を傾げる。


 私はお昼休みに仕事から離れてリフレッシュしたいタイプなので、みんなと一緒に食べることもあれば、違う事もある事を知っていたのだろう。

 あ、違うか。この二人が付き合ってるんだったら、恋人の動向ぐらい把握してるだろう。仕事できる二人組で、外見上も釣り合いが取れている。中々お似合いなんじゃないですかー?……(ひが)んでいないデスヨ、ほんとに。


「たまたま一緒になったんです」

「そうか?」

「そうです」

 うんうんと私も頷いてごまかしつつ、午後の仕事に取り掛かったのだった。



 最後の方に余計な仕事を課長に押し付けられて、今日は指輪を買いに行けなかった。許すまじ!





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