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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第三章 災難
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2

この作品はフィクションです。

多少大げさに書いたりすることもありますし、事実をわかっていてもあえて曲げて書いている部分もあります。

こんな会社の方針あるの?と思う点があるかもしれませんが、フィクションですし、ファンタジーであり、コメディーですので、大目に見ていただけるとありがたいです。

納得できない方は、ブラウザを閉じてください。


よろしくお願いします。



 





 部屋を出ようとした時に、FAXにエラーのランプがついているのに気が付いた。用紙切れだった。


 FAXというか、複合機なのでコピー機でもあり、ネットワークプリンターでもあるんだけど、海外からの送金確認をFAXしてもらったりするので、見つけたらすぐに復帰させておく事が不文律となっている。

 お昼の時間になったので、見て見ぬふりをした人がいたんだな……と思いながら、A4の紙をストックしてある棚を開けると、そもそもストック自体がなかった。


 最後の一束に手を付けたら補充依頼するってことになってるのに、だーれーだー犯人は!


 仕方がないので、課長に歯磨きついでに総務部までコピー用紙を取に行ってくると告げると、行って来いとでもいうように手を振られたので、まずは歯を磨いてから総務部へと足を向けた。


 お願いすると持って来てくれるんだけど、まだお昼休みだし、緊急だから取りに行った方が早い。



 顔を出すと案の定、総務部も閑散としている。あちらも電話番があるので、声をかけて倉庫代わりに使っている部屋の鍵を貰った。


 文房具とかの消耗品が保管してある部屋は、以前は誰でも入れるように鍵が開けっぱなしになっていたのだけど、これだけ沢山あるのだから、多少余分に持って行ってもかまわないだろうと思う人がいたらしい。

 

 本当に多少(・・)の事だったら、減るのがちょっと早いかもしれないと思われる程度だったのだが、その人は明らかに異常な数を私的に持ち出していたようだ。

 LED電球とかの比較的高額の物はネットオークションにかけたり、文房具などは商品を売った時のおまけにしたりしていた上に、コーヒーやお茶の葉、砂糖なんかもごっそり自分の懐に入れていたので、情状酌量の余地なし、最終的には窃盗事件として訴えられるのと、懲戒解雇されるのとどっちがいいですか?ということになったようだ。


 鍵を掛けるようになったのはそれからで、在庫管理を兼ねていくつ何を持って行ったのかを総務の人が管理している。


 一般社員がここまで知っているのは、見せしめの意味もあるけど、同じことやったらどうなるか分かってるね?と会社側から言われているようなものだから、管理が厳しくなるのは当たり前のこと。流石にデパート勤務の人達みたく、私物の持ち込みは透明ビニールのポーチに入れてくださいね、までは行かなかったけど、馬鹿な考えを起こす人はいなくなったと思われる。

 


 少し埃っぽい部屋の中に入って、部屋の隅に立てかけてあった台車を組み立てておいてから、立ち並ぶ大きな棚からA4のコピー用紙を取り出している時、唐突に部屋の扉が開いた音がして、誰かが入ってきた。その後すぐに鍵を掛けるパチンという音が続く。


 ──え? 何でわざわざ鍵なんか?


 内側から鍵を開けられるようになっているのは、外から鍵がかけられてしまった時の保険の様なものだ。それをなぜ……。


「水野さん、いるんでしょ」


 その声を聴いた瞬間、私は一気に血の気が引いた。総務の人が、様子を見に来たのかと思ったけど違ったから。


 この声は、忘れもしない、広田さんの物だった。



  ──人気のない密室で、二人きり。



  凍りついたように動けなかったけど、我に返って息をひそめていたら、

  「何、かくれんぼ?」

 クスクス笑い声が聞こえて、すごくゆっくり歩く足音が、だんだん近づいて来た。


 なんで?とかどうしてここに?とか思ったけど、入り口は広田さんの後ろ、手に持っているのはA4のコピー用紙のみ。

 昼休みだから、叫び声をあげても外に聞こえるかどうか分からない。


 どうしよう、と思っているうちにどんどん足音は近づいてくる。


 気の強い方だと思う。電車に乗ってる時の痴漢遭遇は容赦なく反撃に出られるし、怖くて声が出ないなんてことはない。でも、今はどうしたらいいか分からない。


 ぐるぐると考えていたのは多分そんなに長い時間ではなかったと思うけど、酩酊感にも似ためまいがした後、私は見覚えのない部屋に座り込んでいて。


 若干心配げな表情をした青年の顔を見た途端、私は安堵のあまり抱きついたのだった。






 私が落ち着くのを待って、シスルは暖かい飲み物を入れてくれた。


 その頃になってようやくシスルの他に人がいるって気が付いたんだけど、見知った人に思わず縋り付いて他は見えなくなってたって、どんだけ余裕がなかったんだろう。


 同じような魔導師ローブを着たおじいちゃんで、シスルのお師匠、アルド・ラトヴァさん。この国一番の魔導師だって。一見好々爺だけど、全然しゃべんないで緑色の目でじーっと私を見ている。いかにも珍しい物を観察してますよって感じで居心地が悪い。


 今まで屋外だったけど、今回は初めて部屋の中だ。あちこちにくるくる巻いた巻物とか、百科事典よりも大きな本とかが雑然と積み上げてあって、なんとなく埃っぽい。それなりの広さがあるけど、部屋の中に窓がないのでなんとなく圧迫感を感じる。別に閉所恐怖症でもないんだけどね、息苦しい感じ。

 机の上にもなんだか紙が一杯広げてあったので、多分仕事中だったんだと思う。


 私の足元の回転している光の方が明るかったんで、今まで気が付かなかったんだけど、光源がないのに、部屋が明るいのはなんでなんだろう。



「それで、何があったんですか?」


 夏なのに私はぷるぷる震えていたらしい。黙って抱きしめてくれたのは大変ありがたかったです。


 震えも止まってしゃべれるようになったので、仕事の内容はあんまり理解できなかったとは思うけど、解説を入れつつ先ほどの出来事を語って聞かせた。

 仕事で在庫を取に行ったら、前回話した変な男と密室に二人きりになってしまったことを。


「倉庫みたいなものだから隠れるところなんてないし、ただで済まない予感がひしひしとして……。ああいう時って、頭が真っ白になっちゃって咄嗟にどうしたらいいか分かんなくなっちゃってさ」

「それは……怖かったでしょう」


 まあ、今ならスマホの防犯ベル鳴らすとか、誰かのケータイにメールして助けを求めるとか考えられるけど、咄嗟の行動って、ある程度シュミレーションしておかないと無理なんだね。イメージトレーニングって大事だって心の底から思ったよ。

 痴漢も、電車の中で遭遇するのと、夜の帰り道後ろから追いかけられるのとは恐怖感が違うし、使うかどうかは別として、痴漢撃退用のグッズを持っているかいないかで、大分心の余裕も違うんだなと思った。



「そうだ。あっちとこっちの時間の観念って、どうなってるの?」


 今までの経験上、こちらで過ごした時間に比べて、帰った時さほど時間が経ってないみたいだったけど、逃げたつもりが、戻ってみれば同じ所からやり直しだったら意味がない。

 理想的なタイミングは、広田さんが中に私がいないと分かって、部屋から出て行った直後くらいがいいな。外に出てしまえば人目があるので何もできないだろう。

 あんまり遅くなったらなったで、電話番してくれてる課長に何言われるか分からないから、できれば昼休みが終わる前に帰りたいんだけど。


「どうやら一定ではなさそうだが、よく分からないというのが一般的です。なぜなら、確かめようがありませんから」

「あー」

  そりゃあそうか。正確な時間を計ることなんて、こっちでは無理だろうし、向こうは向こうでびっくりしていたから、どれぐらい過ごしていたか時計を確認したわけじゃない。スマホの時刻表示は電波時計と同じで、狂っていたらすぐに修正されるだろうけど、戻ってすぐに確認すれば検証できるかもしれない。


「ちなみに、スライムを倒して帰ってきたところなんですよ」

 およそ半日過ぎたところらしいけど、私の方は丸一日くらい経ってる。


「折角ですから、自分の最も望む時間を思い浮かべてみたらどうでしょうか。うまく行けばよし。次回呼んだ時にでもどうだったか教えて下さい」



 本当はもう呼び出さないでほしいんだけど、今回はとんだ怪我の功名だったので、私はとりあえず曖昧に笑って見せたのだった。





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