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03.異世界ではなく、並行世界みたいです。

 私の心の訴えに、超絶美形がまたため息をつきました。


 あまりため息をつくと幸せが逃げていきますよ?


「おまえとまともに会話する方が無駄だと、よくわかった」

 告げられた言葉に、私は目を丸くします。

「……超絶美形さんは私がなぜ、ここにいるのか知っていますか? そもそもここはどこですか?」

 クルクルと頭の中で空回りしていた思考がピタリと止まりました。姿勢を正して膝の上に手を置き、超絶美形の方へと全身で向き直ります。


 聞く体勢は整いました。ぜひとも知っているなら教えてください。

 全身全霊でお願いします。私はどんなことがあっても、死ぬわけにはいかないんです。生きなければいけないんです。


 キッと表情も引き締めて、超絶美形の顔を睨みつけるように気迫を込めて見つめます。ですが――。


「超絶美形は止めろ」


 こちらが真剣に話を聞こうとしているのに、誤魔化されました。

「誤魔化したんじゃなくて、そう言われるのが嫌なだけだ」


 うっとうしそうに訂正されても、私だって困ります。


「あなたの名前を知りません。私は名乗りましたけど、あなたは教えてくれませんでした」

 だから、そう呼ぶのが私にとって一番しっくりするんです。


 少しだけ声質に棘が混ざったのは、あの初対面時にがっつり睨まれたことを思い出したからです。そもそも私は初めから会話をしようと試みていましたよ?


「あれは……。いきなり腹の上に乗られて起こされたんだ。しかも、寝入り端に。誰だって不機嫌になるだろうが。でも、悪かったな。無駄に脅した記憶はある」


 気まずそうな顔で言い訳しつつも謝罪をした超絶美形は、私からふいっと顔をそらしました。

 その耳がうっすらですが紅く染まっているように見えるのは気のせいでしょうか。近寄りがたいほどの美形がそんな風にしていると、なんというか可愛いです。

 頭を撫で撫でしたい可愛さです。


 私の顔はたぶん微笑ましいものを見たとでも言いたげに笑みが浮かんでいるでしょうが、その手は胸の前で指をワキワキと動かしています。表情と行動が合っていないでしょうが、別に構いません。私は正直に生きているだけですから。ということで――。


「頭、撫で撫でして良いですか?」


 率直に問います。もう変態でも良いです。

 これはもう、愛でるべきでしょう。愛でる以外ないです!


「良くない!」


 返事は即否定でした。

 非常に残念です。未練たらたらです。


 じぃっと見つめれば、再びため息。


 本当に幸せが逃げていきますよ?

 ため息を吐くくらいなら深呼吸をしましょう。幸せの空気をお腹いっぱいにどうぞ。

 ほらっ。


「……俺はめいだ。呼びたければそう呼べ」


 私が考えていることはわかっているはずなのに無視されました。ちょっとひどい気もしますが、これでようやく超絶美形の名前がわかりましたよ。明さんですね。ふむふむ。

 他人の顔と名前をすぐに忘れる私ですが、大丈夫です。明さんは覚えました。一度見たら忘れそうにない顔って、こういう人にとってはお得対象です。


「おまえの質問の答えだが、ここが『どこか』という正確な答えは俺も知らん。ただ、ここはおまえがいた世界とは違うことだけはわかる。並行世界、という言葉を聞いたことはあるか?」


 並行世界。

 パラレルワールド。

 根っこをたどれば元は同じ所にたどり着く世界。


 ……要するに、似て非なる世界という。


「おかしいです! 私がいた世界とまったく似ていません!!」


 外の様子は完全に異世界でした。同じ世界の面影なんて微塵もありません。

 必死に訴えましたが、明さんは表情一つ変えません。


「似ていないというのなら、ずいぶんと昔に分岐した世界同士だったんだろう。並行世界は数え切れないほど存在している。だから、おまえのいた世界がどれかなんて俺にはわからん。この世界にいる誰も知らんだろう。俺は興味もない」


 冷たい言い方に聞こえますし、表情は真面目のド迫力ですが、その瞳が口調とは裏腹に困っていました。だから、私はそれ以上反論できずに口を噤みます。

 大人気なくここでこれ以上ごねても、迷惑をかけるだけですからね。


「おまえは並行世界間で起こる衝突に、偶然、巻き込まれでもしたんだろう。分岐した時期が昔なら、稀にしか起きない衝突だ。それに巻き込まれたなんて、運が最悪としか言いようがない。まあ無事に別の並行世界に出たんだから、強運ではあったんだろう。良かったな」


 えぇと。何が良かった、のでしょうか。全然よろしくないですよ。

 今、非常に困っていますから、これでも。


「……無事に、というのは?」


 何か不穏な意味合いを裏に感じました。

 聞きたくない気もしますが、聞いておかないと後悔するような気もするので、怖いもの見たさも手伝って訊きます。


「別の並行世界に五体満足たどり着く生物はあまり多くないってことだ。しかも、滅多に衝突が起きない世界同士の衝突ほど生還率は低い。距離が遠いからな。俺が知っているのだと、五百年前に一人、五体満足でこの世界に現れた奴がいる。まあ、そいつはかなり最近に分岐した並行世界の奴だったな。俺が知る限り、おまえはそれ以来での生還を果たした生物ということになる。ちなみに、衝突は最近分岐した世界同士なら最短十年単位で起こっているから珍しいものでもない」


 詳しい説明をありがとうございます。

 にっこり笑顔は麗しいですが、それに見惚れていられるほどの余裕が今の私にはありません。


 なんですか。その、ものすっごく低い生還率。

 私、しっかり生きていますよね? 魂だけの幽霊ってことは無いですよね?


 思わず、自分の足を指先までしっかりと確認します。


 よし。しっかりと足の先まであります。

 ――幽霊は足がないって言うじゃないですか。


 さて。気を取り直して、確認タイム続行です。


「では、私は元の世界には帰れないのですね?」


 今までの言葉から推察できる答えを、駄目押しの確認のために問います。白黒はっきりつくのなら早めの方が良いです。たとえそれが私の望まない答えだとしても――。

 期待は時間が経つほど膨らむものです。それを絶つには、必要な言葉でした。


「無理だろうな」


 ぐっさりと明さんの言葉が私の心に突き刺さります。

「生きている内に、おまえのいた世界と衝突が起こる可能性は限りなく低い。その世界を判別する手段も乏しい」

 どうやらゼロではないようです。けれど、そんな低い可能性に希望を見出せるほど、私はおめでたい性格にはなれません。


「そうですか。その他の方法は――?」

 衝突以外の方法で帰れる手段でもないかと考えたのですが。

「他の並行世界へ故意に干渉することは、世界の理に反する。無理だ」

 これまたばっさりと希望を切り捨てられました。本当に容赦ないです、この方。

 でも、その方が良いこともあります。


「ただ、死んでも良いなら方法がないこともない」


 付け足すようにそう告げられ、私は首を傾げました。


 えっと。死んだら意味がないと思うのは私だけですか? それともこちらの世界は、死者が闊歩するような仕様の世界になっているんでしょうか?

 ホラーは苦手なので、ゾンビが街中を普通に歩いているとか、勘弁して欲しいんですが――。


「さすがにそれはない。死者の魂が行くべき先は黄泉国だ。現し世を彷徨っている死者は、見つけ次第、浄化して黄泉国へと送るようにどの街でも決められている。これはこの世界の共通認識だ」


 黄泉国。それはあの世ってことですね。

 ここは現し世、この世と黄泉国、あの世が存在する、またはそういう認識を持つ世界なんですね。

 なるほど。輪廻転生が信じられている世界なんでしょうね、きっと。

 この話はなんとなく理解できました。でも、理解したくない問題が一つ。


「……ゾンビは存在するのですか?」


 背中を冷たい汗が流れていきます。


「現し世への執着が強いと、たまにゾンビ化する者も現れるからな」


 どうやら私の知っている常識とこの世界の常識はかなり違うようです。私的に認識するなら、ここは並行世界というよりも異世界なんですけどね。

 あまりに違い過ぎます。

 それでも並行世界、と。しかも、帰還不可能な並行世界なんですよね。

 ……凹みます。ですが、完全に凹むのは後です。


「参考までに教えてください。死んでもいいなら戻れるのですか?」

「正確には死体なら、だ」


 ……いっそう意味がわかりません。


「並行世界間の生存率は低い。ただし、物体ならば五体満足に並行世界間を移動する確率が高い。死体は生きていないから物体扱いだ。普通に物体を並行世界間に放り込むと、もとの世界に戻ってくる確率がかなり高い。ここからは推論になるが、その世界で生まれた物は、その世界になんらかの繋がりを持っているんだろう。だから、それに引かれるようにして戻ってくる。なら、おまえの死体を並行世界間に放り込んだら、この世界よりも元の世界の方に繋がりがあるからそっちへ自然に戻るんじゃないか、という話だ」


 納得したような、できないような、したくないような。


 とりあえず一言。

 勝手に私を殺さないでください。たとえ推論だったとしても。


 睨みつければ、楽しそうな笑みが返ってきます。


 うっ。ここで怯んではいけません。負けたら命が危ない気がします。

 なんというか、科学実験の前の期待に胸を膨らませてキラキラと顔を輝かせている少年の表情と、今の明さんの表情がダブって見えるんです。

 この方ならサクッと私を死体にしたとしてもおかしくないです。それに対して罪悪など微塵も感じないような気がします。


 そうして始まった見つめ合いならぬ睨み合いは、辛くも私が勝利しました。なんとか繋いだ自分の命に、とりあえずほっと安堵の息を吐き出します。


「そういえば、なぜ、明さんは私がどこか別の並行世界から来たとわかるんですか?」


 そこで素朴な疑問がわきました。明さんは私よりも私の現状を理解しているんです。


「おまえが異質だからだ」


 異質、ですか。どこか、こちらの方々とは違うような性質を持っているんでしょうか?

 姿は微妙に違っていますよ、明さんを除いて。でも、それが理由になるとは思えません。


「ん? ちょっと違うな。異物が正解か」


 すぐにその考えを読んだ明さんが訂正しました。

 でも――。


 私、物扱いですか? それはひどいです。


「解釈が違う。この世界にとって異質な存在。異なる世界の理を持ったまま、この世界に入り込んだ異質な者という意味合いでの異物だ。かといって、完全に異なるわけでもなく、おまえは部分的にこちらの理にも支配されている。だから、弾かれずに正常なまま、この場に存在することができているんだろう」


 わかったような、わからないような。


 ただ、物扱いではなかった、ということだけは理解しました。あとはもういいです。難しいことを考えられるほど、もう頭が働いていません。


 そろそろ限界みたいです。

 なんだか色々と疲れました。頭はパンパンでいっぱいですが、お腹はペコペコで逆にピークを越えてしまいました。


 今はものすごく眠いです。


 もうこのまま床でも眠れます。固いのは嫌ですけど、このまま夢の世界へ旅立ちましょう。

 現実逃避するなって言われても、そろそろ容量オーバーなんで無理です。


 ということで、お休みなさい。


 ……できれば、ソファでも良いので柔らかい物の上で眠りたいです。


 いっきに傾いた私の身体を受け止める腕があったことは、私の知るところではありません。そのおかげで床との衝突を免れましたが、すべて私の意識外です。

 その腕の持ち主が苦笑していたことも――。




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